序
人によっては嫌悪を催す概念、後半部分に直接的じゃないんですが流血部分を含む表現が含まれます。
ご注意ください。
人は忘れる生き物である
先達の言葉は正しい
いくら悲しもうといくらあがこうと
いくら留めようといくら縋ろうと
残酷なまでに 否 いっそ優しいと思えるほどに正しいのである
幼い頃の記憶があったとする
それはいつでも取り出せるし、いつでも寸分の違いもなく再現できるほどに鮮明である
だが大人になってそれを周囲の大人――たとえば親――に確認してみると愕然とするほど事実と異なっていたりする
語る者本人の中の、一個人の歴史ですらそうなのだ
その目で見たこと、その肌で感じたことをその口で語る者が失われた物語は、日々、歪み失われ崩壊しては、それを補うべく、強引に付加され再構築されていく――
――そうして今尚残る伝説はしかし原形を留めてはいない
ここに一つの物語がある
これが正しいのかどうか、それは誰にもわからない
語り手である私にもだ
なぜならこれも既に失われた物語だからであり、その破片をたまたま私が拾っただけに過ぎないからだ
それでも私はこの物語を語りたいと思う
この物語は一般に広く語られるものとは多分に異なっているし、おそらくはその物語と同じくらいに元の事実からかけ離れているのだろう
もしくは実際にあったことなのかすらわからない
これはそういう物語である――――
ジャンルを決めにくいことこの上ありません。




