002. Sクラスでは自己紹介が始まったそうです
リリィ・アッシュベルは幻影の魔女と呼ばれる魔術師である。
その本領は幻覚や錯覚。つまり、人の感覚を騙すことに特化した魔術だ。
(初見で僕が魔術を使ったと気づいたのは……四人かな? シリウスくんと、影属性の双子ちゃんたちと、一応レイくんも何かが起こったのには気づいたみたいだね。でも驚いてくれてよかったよ。さすがにこの時点で教えることが無いのは困っちゃうからね)
笑顔の裏で、そう生徒たちを値踏みする。
「それじゃあ、まずは一番前の席のシリウスくんからでいいかな。あ、あと言い忘れてたけど席順は入試の成績順だよ」
リリィがさらり言うと、何となく予想していたようで、納得したような反応が返ってくる。
しかしそれと同時に、直接戦っていないのに順位付けされていたことへの不満も。
(いやー、やっぱりSクラスはプライドが高い子が多いね。当然のように自分が一番強いと思ってる)
この後の授業が楽しみだ。リリィはそんなことを思いながら自己紹介を眺める。
◆
「知っている奴もいるかもしれんが、改めて言おう、俺はシリウス。シリウス・フォン・ウェスターリングだ。雷属性の希少属性保有者で、いずれこの学園で頂点に立つ予定だ。よろしく頼む」
金髪の教師、リリィに促された通り、簡単な自己紹介をする。
そう言えば、あの声に聞き覚えがあると思っていたが、恐らく魔力計測の時のフードを被った魔術師だと思い出した。
あの時は顔が見えなかったが、よく見れば背格好が同じくらいだ。
「ぱちぱちぱちー。ずいぶんと大きく出たね。ちなみに頂点に立つっていうのは僕ら教師も含めてかい?」
そう冷やかすようにリリィが反応する。
「そうだな、もし教師たちがこの俺の邪魔をするのなら、超えるしかないだろう」
暗に、現時点では楯突くつもりはないのだと主張する。
シリウスの目的は魔術の研鑽だ。理由がなければ指導者である教師と争う必要はない。
「ふーん。それならきっと心配いらないね。僕たちはみんな生徒思いだから。……いや、サイモンとかはちょっかいかけそうかも。でも基本的に君たちの成長を一番に考えてるから大丈夫だと思うよ」
じゃあ次、とリリィがシリウスの後ろの席を指す。
立ち上がったのは銀髪の生徒、セシリアだ。
「ボクはセシリア。セシリア・シルヴェルトだ。属性は水で、席順から分かると思うが学年次席らしい。まあ、納得はしていないけどね。これからよろしく」
そう言ってシリウスの方に視線をやると、優雅に一礼をして席につく。
「ありがとー。ちなみに彼女は筆記試験ではほとんど満点で一位だったよ。って、あんまり話していると時間が無くなっちゃいそうだから、どんどん行こうか、次の子」
立ち上がったのは先ほどシリウスに戦意を向けていた少女、セツナだ。
「うむ。拙者はセツナ。属性はたしか鉄属性? のはずでござる。特技は剣術。異国出身であるがよろしく頼む!」
そして次に立ち上がったのは勝ち気な瞳に赤い髪をなびかせた少女、ユラだ。
「アタシはユラ。ユララフィル・クロワよ。炎属性を使えるわ。今の目標はアイツ––––シリウスにリベンジすることよ。よろしくね」
最後にシリウスの方を睨むように見ると、リリィが「モテモテだねぇ」と冷やかしを入れた。
次に立ち上がったのは、爽やかな金髪の青年だった。列が変わって、シリウスの隣の席だった。
これまで顔見知り同士の流れができていたためか、少し気まずそうな表情をしている。
「……どうやらもう因縁ができているみたいで少し出遅れた気分だよ。僕はアーサー。アーサー・セルシウスだ。属性は光と土の二重属性保持者だけど、光の方が得意だね。これからよろしく頼むよ」
そして次は茶色の髪の荒々しい雰囲気を纏った男子生徒だ。
「俺はヴェイン。風と炎の二重属性保持者だ。まさか俺以外にも複数の属性持ちがいたとはな。ま、ぼちぼちやっていこうぜ」
次に立ち上がったのは、小柄な少女だ。
「え、えっと……わたし、ピノです。属性は土、で、お人形を作るのが得意です。よろしくお願いします……」
緊張した様子の少女––––ピノが自己紹介を終えると、その後ろに座っていた黒髪の少年、レイが立ち上がる。
「あー、僕はレイ。まだ属性には覚醒してないから、まさかSクラスになるなんて思っても無かった、です。一応みんなに置いてかれないよう頑張るつもりだから、仲良くしてくれると嬉しいです」
緊張のため敬語が漏れるレイを見て、隣の席のユラがジトっとした視線を向ける。
言い終えて席につくと、ユラが顔を近づけて声をかけてきた。
「(ちょっと、敬語は使わないって言ったじゃない!)」
「(仕方ないだろ……さすがにこんなに初対面の人が多かったら緊張もするって)」
「(はぁ、小心者ねぇ。シリウスほどとは言わないけど、もう少し堂々としなさいよ。弱く見えるわよ)」
「(それは……これから頑張るよ)」
そんなことを話していると、隣の列で次の生徒が立ち上がる。濃い紫色の髪と瞳の少女だ。
彼女は後ろの席に座る少女に目を向ける。その少女もよく似た容姿をしており、恐らく姉妹だろうと予想できた。
少女は何かを了解したように頷くと、口を開けた。
「妹は喋るのが苦手だから、私が二人分紹介する。私がメアで、妹がナナ。二人とも影属性の希少属性保有者。よろしく」
「……(ペコリ)」
姉の端的な自己紹介に追従するように、妹––––ナナの方も座りながら礼をする。
リリィはそれを見て、「うん。じゃあ次はナナちゃんの後ろの君で行こうか」と次の生徒を指名した。
指名されたのはよく手入れのされたプラチナブロンドの髪を伸ばした少女だった。
彼女は立ち上がると丁寧に礼をして、自己紹介を始める。
「わたくしはシア。ただのシアです。属性は光ですが、回復魔法以外には使えません。皆様よろしくお願いいたします」
それを聞いて、教室の一部がざわつく。
シアもそれを予期していたのか、少し気まずそうだ。
「謙遜はよしなよ、聖女イステシア様。必要以上に実力を隠すのは良くないよ」
そう初めに声を上げたのはセシリアだった。
「いえ、隠すつもりなどはありませんよ。ただここでは身分と関係なく交流をして欲しいというだけです。どうか、聖女イステシアとしてではなく、ただのシアとして関わってほしいのですよ」
「どうだかね。護衛を何人も入学させといて『ただの』なんてよく言えたもんだな」
そして、そう追従したのはヴェインだ。
「……正当な手続きを取って入学していますし、彼女らともここではただの学友として過ごしていくつもりですよ」
ヴェインとシアの間に緊張が走る。
と、そこで教壇に立ったリリィから注意が浴びせられた。
「ちょっと三人とも~、まだ全員分自己紹介が終わってないから個人的なお話はあとにしてくれるかなー?」
気まずそうに目を逸らすセシリアとヴェイン。
それに対し、シアは毅然とした態度で謝った。
「いえ、こちらこそお騒がせしてしまいすみません。では、次の方お願いしますね」
そしてそんな気まずい空気の中、シアに指名された最後尾の薄い水色の髪の生徒が立ち上がる。
「……あ、え、ここでわたしの番? あー、はい。わたしはスイ、水属性使いです。えっと、全然魔術とか初めてなのでお手柔らかにお願いしたいです。(……ていうか絶対不合格だと思ったのにSクラスってなんの冗談? 受かったのは嬉しいけど前の席が聖女様じゃ恐れ多くて心臓が保たないよぉ〜)」
本人は不合格だと思っていただけに、できる限り気配を殺そうと思っていた矢先にこれである。
しかも前の席は聖教会でも重要人物である聖女様。
せっかく教会から逃げたと思ったのに、忘れることは許さないようだ。
ちなみに、彼女こそが今年一番のイレギュラーであり、教師たちの頭を悩ませる原因となった生徒であった。
その膨大な魔力量に対して魔術や魔法に対する知識はほとんどゼロ。本来であれば筆記試験や実技試験の時点で落第だったのだが、彼女の適性や将来性から考え、特例的にSクラスへの所属が認められたという経緯がある。
Sクラスというにはただ優秀な者の集まりではなく、規格外なものを収容するためのクラスでもあった。
キャラが増えたので一言ずつ説明を……
シリウス:本作の主人公。雷属性を使う。傲慢
セシリア:顔のいい銀髪女子。水属性を使う。一人称がボク
セツナ:戦闘狂系侍少女。鉄属性を使う。ござる
ユラ:シリウスに負けた高飛車少女。炎属性を使う。シリウスが首席でなんだか嬉しい
アーサー:爽やかな金髪。光と土を使う。前四人が知り合いになってて気まずい
ヴェイン:茶髪。炎と風を使う。荒っぽい言葉遣い
ピノ:小柄な少女。土属性を使う。自信なさげ
レイ:黒髪の少年。属性には覚醒してない。隣の席がユラでちょっと安心してる
メア:双子の姉。影属性を使う。端的にしゃべる
ナナ:双子の妹。影属性を使う。しゃべらない
シア:聖女イステシア。光属性を使う。回復魔法しか使えないらしい
スイ:めっちゃ魔力あって、スライム飼ってる(前章参照)。水属性を使う。前の席が聖女で気まずい
って感じです。
……そろそろキャラ詳細ほしいかな……?




