表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

005


 しばらく四宮さんと二階はあーだこーだと作戦会議を続けていたが、これだという結論は出なかった。

 うーん、そろそろ言ってもいいかなあと、俺はおそるおそる口を開く。


「二階」

「……なんだ?」

「俺、トイレ行きたいんだけど」


 実は、この離れにはお手洗いがない。一軒家側に行けば、玄関のすぐ横に目的の戸はあるのだが。

 二階はすごい目をして俺を睨んでいた。


「どっかコンビニ行ってこい」

「最寄り遠くなかった? ていうかさ、俺なら大丈夫じゃね? 居間まで行かなきゃOKだったりしない? さっき、天井に水紋みたいなのが出てたのも居間だけだったし」

「天井の水紋? なんだそれは」


 二階が顔を顰める。


「なんか、天井が揺れて池みたいに見えてたんだよ。揺れてなかった?」

「そんな感じはしなかった。樹は?」

「しなかったね。天井が池か……使った仕掛けは反転かな。あるいは、天井板そのものが沼に所縁あるものを使ったのかも」

「どうだろう。単純に、河童か何かを上に閉じ込めていたんじゃないか?」

「そんな雑なことなら、家に入った瞬間にさすがに僕も進も分かるはずだよ」

「たしかに、そうだな……」


 今日は俺よりはるかに優秀な壁打ちがいるためか、二階の推理は順調に進んでいるようだ。


「で、トイレ行っていいの? どう?」

「……ほんとに行きたいのか?」


 行きたくないのに大の男がこんなお願いしないだろ。と思いつつ、俺は黙って頷き二階の許可を待つ。まあ、心霊スポットで二階の許可なくフラフラ出歩くのはさすがにNGだ。


「でも、居間まで行かなきゃ大丈夫、って話は一理あるよ。そもそも藤田さんは半日あの家で作業してくれていて、無事だったわけだし」


 そーそー、そうなんですよ。と内心俺は四宮さんを応援する。


「進と二人や、僕と三人で行くよりは、藤田さんが一人で行ったほうがいっそ安全なんじゃないかな? 特に、霊障じゃないことは明らかになっているんだからね」


 四宮さんの言葉に、二階も納得せざるを得なかったらしい。しばらくぶつぶつ言っていたが、最終的には認めてくれた。


「気を付けて行ってくれ。あと、何か変わったものを見つけたら、深追いせず帰ってきてから俺たちに教えて欲しい」

「はいボス。じゃ、トイレ行ってくる」


 どんな心臓してるんだ、と二階は戸を閉める瞬間までぶつくさ言っていた。二階の気が変わらないうちに、俺は離れからとっとと飛び出した。



  *



 さっきの騒動が嘘のように、家の中は静かだった。

 なんの問題もなく用事を済ませ、無事に家を出れる。なーんだ、と肩透かしのような気持ちさえあった。

 玄関の戸を閉めて、借りた鍵をかける。そして離れに戻ろうとしたところで、視界の端にとあるものを見つけた。俺は二階の言葉を思い出す。

 ――何か変わったものを見つけたら、深追いせず帰ってきてから俺達に教えて欲しい。


「とはいえ、これは対象外だよな……?」


 半透明の白いそれをピックアップして、後ろポッケに入れていたビニール袋の中に回収する。ま、これはオカルトじゃなくてお片付けの方のお仕事の範疇だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます!( ´ ▽ ` ) またしても見えない藤田さんが切っ掛けでヒントを得ていましたね。四宮さんから見た二階さんのイメージ…親戚と同僚では印象が全然違って面白いです。 一旦完結とな…
ブロマンスものを探していてこちらの作品に巡り会いました。 祓う力はあるけど万能ではない二階と見えないなりに役に立つ藤田のコンビが読み進めるうちにしっくりくるように。互いの足りない部分をちょうど補える関…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ