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「……ちょっとだけ話しねぇ?」


 意を決して言った。このままでは、さすがに仕事に支障が出る。

 あくまでビジネスライクに、二階は頷いた。


「ああ。とりあえず、この学校は色々とおかしい」


 声がいつもと同じだ。

 ふう、と俺は内心安堵する。仕事の話はしてくれるようだ。

 たしかに、二階の言う通り、この学校は色々とおかしい。


「っていうか……この学校で、正常なことが起きたためしがないよな」


「それもそうなんだが……俺はそれなりに、安全だと踏んで倉庫に入ったんだ」


「ああ――そうだったな」


「昨日は一日学校を回っていたのになにも起きなかった。

 朝だって、護符を投げればすぐ消えた。

 今さっきだって、別に条件が特別悪かったわけじゃない。

 太陽も出ていたし、遠くから倉庫を見た感じも特に嫌な気はしなかった。

 それでも――一体この短時間で、なにが変わったんだろう?」


「ただの霊なら、昼に力が強まることはない。

 ……なら、霊じゃないものの仕業、とか?」


「あり得る。そこで俺は呪いなんじゃないかと思ったんだ」


「――呪い?」


「そう。呪いをかけるには、名前、性別、満年齢なんかが必要だ――

 どこかで聞いたような項目だろう?」


「血液型がねぇな」


「モダンなものだと、日本人の血液型占い好きに合わせて、バリエーションをもたせてあることもある。ただ、今回は諦めざるを得なかっただろうな。

 プロフィール表はほぼ履歴書のコピーだから……

 フルネームと生年月日はあっても、血液型は書いてないはずだ」


「はあ、なるほどねぇ……」


 名前。性別。満年齢。

 ……まあ、言うまでもなく、一番重要なのは名前なんだろう。

 性別や満年齢は、あくまでも更に個人を特定するためのキーでしかないはずだ。


「俺たちのプロフィール情報を知っている女の子を、探さなければならない。

 生きた人間なのか、幽霊なのか、化物なのか、まったく分からないが、

 とにかく怪しげな術を使える子だ。

 職員の方の記憶があやふやになっていたのもそうだし、

 体育館の霊がとつぜん強くなったのもおそらく無関係じゃない」


 で。と、二階はあまり気の入っていない目で俺を見た。


「……心あたりはあるか?」


 ある、と言ってやりたかった。

 べらべら元気に喋っているが、奴は明らかにこの現象に怯えている。

 俺が目に見えない霊を気持ち悪く思うのと同じで、二階は実態のない呪いを恐ろしく思っている。しかし嘘をついても仕方がない。


「ま、ないな」

「……だよな」


 とりあえず闇雲に探してみることは出来るだろう。望み薄ではあるが……。

 もしくは二階の知識に頼るか、だ。やつは呪術系にも造詣が深い。


 俺が呪いの掛け手の女の子を探して呪いの内容を聞き出す、二階が呪いの内容のほうから逆算して掛け手を探す。おそらくこのあたりが最善手だろう。俺はとにかく、俺たちのプロフィールを知っている女の子をどうにかして探す、それしかない。


 ……プロフィール表、かあ。


 俺の履歴書、何書いてあったっけなぁ。

 そういえば俺は二階のプロフィール表を見たことがない。

 お前って俺のプロフィール見たことあるの? と二階に聞こうとして、やっぱり止めた。


 俺が二階について知っていること。


 同い年であること、道教の修行を七年していたこと、霊が近くに来ると体調を悪くすること、食後は必ずコーヒーを飲む習慣、車に乗るときはできるだけ運転手でいたがる、血液型はたしかB型。


 それが俺の知っている全てだ。


「――じゃ、俺は女の子を探す。お前は呪いのほう調べられるか?」


 二階は、ああ、と大きく頷いた。どうやら同じことを考えていたようだ。


「いくつかあたってみる。

 ただ、女の子を探すのも、ノーヒントじゃ厳しいだろう」


「なんかヒント出てくんの?」


「そうだな……まずはパターン分けして考えよう。

 たとえば、相手が人間の場合。これは結構どうしようもない」


 ふむ。たしかに、そうだ。


 人間の女の子が、人間の情報を、人間に聞きに来た。

 このとき、『女の子』は誰か?


 この謎を解くのは呪術師や霊能力者の仕事じゃない。

 シャーロック・ホームズ、エラリー・クイーン、ミス・マープルの領域だ。


「しかし相手が霊の場合なら……探す方法はないが、特定する方法はある。

 霊を見つけて一人ずつ聞いていくんだ。

『君は俺たちのプロフィールを知っているか?』

『君は俺たちに呪いをかけたか?』」


「……そう聞いたところでなにが分かるんだ?」


「幽霊は、嘘がつけない」


「……そうなのか?」


「ああ。ほら、幽体離脱とか、催眠術とか、そういうの見たことないか?

 魂魄だけになると嘘がつけなくて、本当のことを言ってしまう……とかいうやつ」


「あー、あるかも」


 とある人の生霊を呼び出して、隠している秘密を聞いてみましょう、とかいう心霊番組を見たことがある。たしかにあれは、『霊体は嘘をつかない』という法則を前提としたものだ。


「いや待て。でも、俺って霊が見えないぞ?」


「そう。だからどちらかというと今のパターンで絞るのは俺のほうの仕事かな。

 お前は第三のパターン――幽霊に取り憑かれている人間が犯人だった場合、というのを調べてみてほしい」


「なるほど。それなら俺の目にも見えるし、質問の答えで洗い出せるってわけか」


「そう。それに、この線はそんなに筋違いともいえない。

 さっきの事務員さんも、知っている女の子なのに、どうしても顔が思い出せない……という感じだっただろ。

 相手を知っている。だから、生きている人間である可能性が高い。

 幽霊だとしても、死んだのはそう昔ではないんじゃないかな……まあ、推測だが」


「ふうん……」


 よく分からないが、しかし判定方法が分かっただけでも幾分かマシだ。


 その後、俺と二階は手分けしてそれぞれ学内を見回った。


 俺は目のついた女の子に『俺って何歳だと思う?』クイズを出した。出し続けた。


 不毛だ、幽霊しか相手にしなくていい二階と違って、俺は人間の女の子一人ひとりにきゃっきゃされたり気持ち悪がられたり痛がられたりしなきゃいけないわけで、下校の鐘が鳴り本日分の仕事が終わったときには心底ほっとした。


 職員室の前で二階と合流し、互いに成果ナシの報告をしあう。

 二階はまたいくつか怪異を見つけたようで、すでに真っ黒の学内地図の更新版を見せてくれた。


 ていうか今いるココにも×印あるじゃん。明日も朝練の登校時間に合わせて校門前集合。ひえー、お早いことで。


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