89.フィアレアラの三年生一学期 3
学校から帰り、魔法の授業の時に、さっそく私がクララ王女様の魔法の先生になると提案してみる。全然OKだった。その日から私とクノハ先生の二人でクララ王女様の魔法指導をすることになった。
そして、剣術の稽古もフィオナに体を任せることなく自分で頑張る。今の自分自身に満足することなく、常に向上心を持つ。私の初等学校三年生一年間の目標は、初等学校三年生時代のフィオナに負けないこと。悔しいが、私の魔力はフィオナよりもエリザベートよりも下だ。だけど、大人になったら同じくらいになるように増やしたい。ならば、子どものうちから努力しなくては。フィオナもエリザベートもめちゃくちゃ努力していた。二人よりも最初から少ない上に努力もしないならば、私は全然ダメだ。前世と前々世の自分にずっと負けたままの一生なんて嫌だ。
『【頑張りなさい。フィアレアラ。『どうでもいい、面倒くさい』なんて初等学校の子どもの言うセリフではないわ。だんだん私達らしくなってきたじゃない。自分の思い通りにするのは自分が誰よりも努力してきたから出来る結果よ。】』
『エリザベートの言う通りよ。ワガママを貫くためにはね、誰も文句言えないくらい常に努力することが必要よ。』
冷めた子どもだったことは認める。だって仕方ないではないか。私は皇族五星なのだから。努力なんてしなくていい、目立ってはいけないと教えられたのだから。
『漸くスタート台に立った、これからは自分で頑張るってことね。フィアレアラが体を貸してくれるのは子どもに戻った気分になって嬉しかったわ。それがなくなるのは少し残念で寂しく思ってしまうけれど、仕方ないわね。子どもが私の手から離れて独立してしまう気分よ。』
『【子どもがたくさんいたくせに忙しくて面倒をみなかったくせに。アリアに丸投げしていたくせに何言ってるのかしら、フィオナは。】』
『そうとも言うわね。アリアをもっと可愛がれば良かったわ。まぁ、アリアだけでないわね。子どもたちみんなね。あっという間に大きくなるから幼少期にもっと遊んであげたら良かったわ。』
フィオナ親玉ネズミは繁殖し過ぎて子どもたちを可愛がる余裕がなく、妃達と長女に丸投げして一人二役しながら餌集め(仕事)に集中していた。
私はフィオナ親玉ネズミのようにはならないようにしよう。私の相手は一人でいいわ。エリザベートにも複数の恋人がいたらしいし。私の前世も前々世も何故複数の相手を欲するのかしら?理解出来ないわ。
『【そのうち分かるわよ、あなたもね。魔力が多いと仕方ないのよ。一人の相手にずっと私達の相手をさせるのは可哀想なのよ。固執するのはあまりよくないわよ。お互いにそれでいいのならば、いいけれどね、鬱陶しくなったらおしまいだから。ほどほどの距離感がいいのよ。】』
『それは…、そうね。大人になれば分かるわ。』
『【ああ、それと、私は超魅力的な女だったからよね~。魔力もそうだけど、顔も体も全部が完璧の超モテモテの罪な女だったからなのよ。みんな私のことが好き過ぎて誘ってくるから仕方ないのよ。】』
…。
自惚れ馬鹿女の言葉は無視しよう。こんな女が前々世の私だと思いたくないわ。
『同感よ。フィアレアラ。節操のない馬鹿女は無視したらいいのよ。記憶も要らない、解放するなって言っていいわよ。』
そうするわ。フィオナ。私、馬鹿女の馬鹿な記憶に洗脳されたくないわ。
『【フィオナもフィアレアラも失礼ね。私の記憶があるから今があるのよ。特に、フィアレアラ。フィオナに私の記憶がなかったら、あなた、生まれてないわよ。今の帝国もないのよ。感謝しなさい。全部私のおかげなんだからね。】』
なんて恩着せがましい女なんだろう。前々世の私って。こんな女の夫や子ども達は苦労したに違いない。疲れる女ね、エリザベートって。もう寝よう。馬鹿な女たちの相手をしていたら、私まで馬鹿になりそうだわ。
『えっ?ちょっと待ちなさい、フィアレアラ。馬鹿女はエリザベートだけよね?私をエリザベートと一緒にしないで欲しいわ。』
『【同じよ。フィオナも私、フィアレアラも私よ。なんだかんだ言ってもね、あなたも私になるのよ、フィアレアラ。】』
無視、無視。私、もう寝るから、エリザベート、あなた、さっさと行きなさいよ。今日は、クノハ先生のところでしょ?
『【そうだったわ。クレアはフィオナやフィアレアラみたいに生意気でないから可愛いわ。真面目だしね。】』
『私の娘だからね。私に似たのよ。』
『【全然、全くフィオナには似てないわ。真面目なフェリオに似たのよ。】』
『どっちも私じゃない。』
『【全然違うわ。】』
だから、五月蝿い。言い合いはもういいから、さっさと行きなさいよ。眠れないじゃない。