58.王族 クロード 2
「母上、もう私は、母上に意見したり、逆らうつもりはありません。ですが、私は、ランセル国王陛下のご命令にも逆らうことが出来ないのです。お許しください。」
「まぁ、そうね。五星は、実力主義だから。私も以前はそうだったわ。今ならば、ランセル国王陛下に負けない技術があるけれど。」
「母上。先日から気になっていました。母上が以前の母上とは別人のように感じるのです。魔法の技術もです。母上のさっきの魔法の技術は何なのですか?」
「あなたが以前の私とは違うと言うのは…そうかも知れないわね。ふふっ。クララにも『お祖母様ですよね?』って、確認されたわ。
クロード、息子を信じてないことはないけれど、あなたは、ランセル国王陛下側に一番近い人間だから言えないわ。さっきの魔力勝負も含めて、私とクノン第一王妃陛下のすることに口出ししないで黙りなさい。」
「はい。」
私は、もはや母上の言うことを聞くしかない。ランセル国王陛下よりも、もしかしたら母上が上だ。いや、もしかしたらではなく、今の母上の方が確実に強い。
「私は、さっきの私の魔法の技術をクララに伝えるために今必死なのよ。魔力量を調整する技術は、基本10歳までに身に付けないと一生無理なの。クララは、ギリギリ間に合うかどうかの瀬戸際よ。」
「マジですか?年齢による制限があるのですか?分かりました、母上。今の母上の技術を目の当たりにして疑うべきもありません。母上が以前の母上とは別人のようなことも含めて、母上に何らかの『力』の継承があったのだとお察し致します。」
「ええ。あなたも、もう少し慎重になりなさい。ランセル国王陛下に逆らえないことは分かるけれど、いつまでも第二王子の家系を偽ることは出来ないわよ。
第二王子は、旧帝国皇族家系五星ではないわね。クロード、あなたは第二王子の魔法の先生なのだからなんとなく、ではなく、違うと確信しているわよね?」
「はい。国王陛下には進言致しました。三年前、第二王子が二歳の時、私が王子の魔法の先生になってすぐの頃です。
ですが、既に、レティーア王女の降嫁は決まっていましたし、『黙れ』と言われて従わされました。」
「第二王子は、先祖返りのナンダン王族家系五星よ。めったにない先祖返りだけど、全くいないことはないのよ。あなたの知っている家系ならば、今の北家ね。約150年くらい前の北家のトーキタ王族家系五星は、家系図を遡って調べないほど分からないくらい古の昔に失われていた家系だったわ。」
「はい。知っています。今の北家のトーキタ王族家系五星の祖は、フェリオ国王陛下の第一王子レオン殿下であったことは歴史で習いました。レオン殿下は両親共に王家王族家系五星で、母親はノーストキタ公爵であったと。」
「ランセル国王陛下の母親は、南の本家サザリーナンダ公爵家出身で、第二王子の母親は、分家サザリーナンダ公爵家。第二王子が先祖返りのナンダン王族家系五星であっても不思議ではないのよ。ただ、古に失われた家系だから、証明は難しいわ。
第二王子がもう少し大きくなれば、旧マ・アール、ワントゥンよりも下、トーキタよりも上だと分かるとは思うけれど、それが分かった時のあなたとランセル国王陛下は問題ね。第二王子が旧帝国皇族家系五星でないことを知りながら、レティーア王女を降嫁させたのだから。」
「はい。」
「あの頃は、ランセル国王陛下に側妃が決まっていたこともあったし、四大公爵家第一位の権限を持つ南家の賛成もあったわ。筆頭公爵家の東家も賛成し、西、北、さらに各侯爵家も賛成せざるをえなかった。陛下とあなたの責任にはならないとは思うけれど、第二王子の家系を偽るままなのは良くないわ。」
「分かってはいるのですが、タイミングが難しいのです。」
「ランセル国王陛下は、レティーア王女のお腹の子供が旧帝国皇族家系五星女児ならば、利用するつもりなのよね?でも、残念ながら男児よ。おそらく旧マ・アールのね。」
「はい。女児であることを願っていますが、やはり男児なのですか?別件で少し前にも男児の可能性が高いという情報ならば、聞きました。」
「私のは、信頼出来る方々の見立てだから間違いないと思うわ。誰かとは言えないけれど。」
「母上、クララは、どうなるのでしょうか?レティーア王女のお腹のお子が王家王族家系五星でも女児でもないなんて、我が国の将来は、どうなってしまうのでしょうか?
私は、最悪の可能性が頭を過るのです。
私は、クララを守るためにランセル国王陛下に従ってきました。なのに、それが裏目に出てしまったら、私は、どうすればいいのでしょうか?
私、私は…。ううっ。」
「そうならないようにあの子を鍛えているのよ。あの子が王位を継がないと我が国は終わりよ。あなたも分かっているでしょう?あの子は、自分が王位を継ぐにふさわしい五星だと国家に証明しなければならないのよ。傍系の王族王女でありながら、自分が一番であると。」
「ですが、妹クノンの第一王子が四星なのは、私の責任だと言われてしまう可能性があるのです。私が、もっと早く妃の懐妊を公表していればと。出産予定日こそそれほど変わりませんが、実際には、クララと第一王子1ヶ月近く誕生日が違います。
私は、大切な王家の第一王子を四星に陥れた謀反人とされてしまったら。クララが私の責で王位継承権を剥奪されてしまったら、と怖いのです。
なのに、クララが、王位継承権第一の王女だと私は、言えないのです。」
「みんなそう思っているのよ。私も、クノン第一王妃陛下も、クララ自身もね。だから言えなくておとなしく従うしかなかった。だけど、これは、国家の将来に関わることなのよ。クララは、我が国を守る強い五星にならないといけないのよ。
心配しなくても、いざとなったら、フィアレアラ皇女殿下がいるわよ。全部彼女に任せていいって思うくらいよ。」
「あの皇女殿下は、何者なのですか?普通の五星ではない極上の魔力でした。そして子供とは思えない膨大な魔力量です。」
「言えないわ。だけど、まだ子供魔力よ。成長と共に普通に増えるわよ。ふふっ。楽しみだわ。私が『力』を取り戻したのは、彼女のおかげだから。彼女は、私にとってとても大切なお方なのよ。信頼出来るね。」
「マジですか?確かに、母上が変わられたのは、母上があの皇女殿下の魔法の先生になってからに思います。しかし、ならば、そのような稀有なお方の留学を許可したなんて、私は、帝国が理解出来ません。」
「殿下の魔力が分からないように父親が必死に隠していたのよ。父親は娘を溺愛して、殿下を自分の皇族離れ宮の外に出さなかったらしいわ。外の者達を全てシャットアウトして、魔法も勉強も剣術も皇族女性としてのマナーに至るまで全て父親が教えていたのよ。殿下の父親はね、溺愛する娘にくっついて離れないらしいのよ。そんな父親から無理矢理殿下を引き離すために皇帝は留学を許可したらしいわ。殿下をまともに育てるためよ。」
「…。殿下の父親はそんなにヤバいお方なのですね。分かりました、母上、私もヤバい父親になります。娘のために娘のことは全て母上にお任せします。」
「…。少し違うけれど、まぁ、いいわ。私達の邪魔をしないならば。」
私は、腹をくくった。クララが母上のような強い五星となるならば、誰もクララが王位を継ぐことに文句は言えなくなるだろう。クララは、いずれランセル国王陛下よりも強い五星になるのだから。我が国の将来と娘のために母上に全てをお任せしよう。そして私は第二王子の正しい家系を証明するための方法を私なりに調べることにした。