37.クノハとクノン親娘 1
母:「クノン第一王妃陛下。まだフィアレアラ皇女殿下の魔法指導の時間ではありますが、殿下の魔力がなくなってしまったのと、ご報告申し上げることがありましたので、こちらに寄らせて頂きました。」
娘:「母上。如何でしたか?フィアレアラ皇女殿下の魔法指導は?殿下の魔力がなくなるほどのことがあったのですか?」
母:「はい。フィアレアラ皇女殿下の魔力に触れて、前世を思い出してしまいました。懐かしいフィオナ父母上とエリザベスお祖母様にもお会いしました。」
娘:「えっ?前世を思い出した…とは?フィオナ父母上とは?」
母:「『クレアレイア』ですわ。レリーリアラ様。まさか、私がレリーリアラ様の母親になるなんて思いませんでした。」
娘:「母上は、クレアレイア王女様なのですか?」
母:「はい。クレアレイアだった頃の記憶を思い出しました。申し訳ありません、レリーリアラ様。私がもう少し早く記憶を取り戻していれば、今のような状況にならなかったかも知れません。」
娘:「母上…。」
母:「孫のクララの魔法指導も私が手伝いますわね。今日は、フィオナ父母上とエリザベスお祖母様にクララの魔法指導をしていただいたのです。フィアレアラ皇女殿下の魔力がなくなってしまったのは、そのためですわ。しかしながら魔力量を調整する技術は、レリーリアラ様ならばご存知とは思いますが、基本的に10歳までに身に付ける必要がありますから、急いでいたのです。」
娘:「はい。知っていますが、クララにフィオナ様達が魔法指導ですか?」
母:「幻影のフィオナ父母上がギリギリ可能かも知れないから今すぐクララを呼べとおっしゃったのですわ。まだクレアレイアの記憶を取り戻していなかった私は、父母上とエリザベスお祖母様がクララに何の魔法指導をしているのか分かりませんでした。基本の基本である『幹』の指導だったのに。
私は、フィアレアラ皇女殿下に尋ねたのです。『殿下の幻影のあのお二人は、孫に何をしているのか?私にも教えてください。』と。殿下は、私がクレアレイアだった子供の頃、フィオナ叔母上様に教えていただいた全く同じ方法で、己の『幹』を教えてくれました。そして、私は、クレアレイアだったことを思い出したのです。
記憶を取り戻した私は、今までの私とは技術力が違います。50歳を過ぎて魔力量は減りましたが、息子や国王陛下にはまだまだ負けません。クレアだった時に一生懸命磨いた技術ですから。」
娘:「母上、母上~。」
母:「ふふっ。漸くこの国やレリーリアラ様のお役に立てる時がきたように思います。クレアはレリーリアラ第一王妃陛下にとても感謝していました。言ったことなんてありませんが。」
娘:「…そうなのですか?全然知りませんでしたわ。」
母:「クレアの母親は、帝国のイッチバーン公爵家出身でしたから。この国の者ではありませんので、少し浮いていたのです、私。」
娘:「他国の女性が我が王国の国王の妃になることなんて前例のなかったことです。ハーフの王女様が珍しくて幼少期に多少そんなこともあったかも知れませんが本当に最初の頃だけだったように思います。」
母:「そうですね。でもクレアは覚えています。幼少の頃、貴族の子供たちが私をハーフの王女だと好奇の目で見ていたことを。レリーリアラ様やアリア異母姉上のおかげでだんだんそれがなくなっていったことも。
クレアが初等学校に入学した時、入学式に来てくださったのは、クレアの母親とサリアイーデアルお祖母様でした。サリアイーデアルお祖母様が母上の側にいるだけで貴族夫人は挨拶をしてくれたのです。
同級生もです。平民の同級生は、最初の頃、他国とのハーフの王女である私に話しかけることなく遠巻きに物珍しい顔をして見ているだけでした。そんな同級生達の視線から私を守ってくださったのは、アリア異母姉上やレリーリアラ様のご友人の貴族夫人の令嬢達でした。
私は異母姉上や彼女の達のおかげでだんだん平民の同級生とも話せるようになりました。
それから、学校行事の度に、サリアイーデアルお祖母様が異母姉上のところだけではなく、私のところにも来てくださり、私は、この国の王女としてみんなから受け入れてもらえるようになったって思っています。
もちろん、そんなことは言ったことないですよ。レリーリアラ様に。でも、私、お優しいレリーリアラ様が大好きだったのです。御実家のイーデアル公爵家のサリアイーデアルお祖母様やカイル叔父上達皆様にも感謝していました。」
娘:「クレアレイア王女様がレリーリアラをそう思っていてくれたなんて光栄ですわ。」
母:「『第一王妃レリーリアラ陛下』は、13歳で称『王妃』となられた国民に絶大な人気のある筆頭公爵家イーデアルの第一子のご令嬢でしたので。母上もレリーリアラ様に感謝していましたわ。帝国出身の自分が国民に受け入れられるのか不安だったらしいですから、私のことも含めて、です。
私が生まれた時、全て第一王女のアリアレイア異母姉上と同じようにしてくださったって聞きました。第二王妃の産んだ第二王女ならば格下扱いされて当たり前なのに。さらに、私の後見人も異母姉上同様イーデアル公爵家となりました。母上はとても感謝していました。」
娘:「ふふっ。レリーリアラはとっても欲張りな第一王妃だっただけかも知れないですわよ。第二、側妃、特別妃の産んだ子供達を全員自分の娘のアリアと同じ扱いにしましたから。」
母:「そうですわね。ならば、子供達だけでなく、妃全員でしたわね。皆さん、とっても仲良くて、よく楽しいお茶会していましたから。」
娘:「懐かしい話ですわね。今とは全く違いますわ。そんなことが出来たのも、フィオナ様とアリアがいてくれとからだと思っています。」
母:「フィオナ父母上ならばいますわ。フィアレアラ皇女殿下として。アリア異母姉上はいませんが、代わりに私が力になります。私は、クレアの記憶を取り戻して、この国の危機感を覚えました。今までは、ランセル国王陛下に遠慮がありました。あなたと第一王子のこと、息子と孫のクララのことで。」
娘:「はい。母上。」
母:「第二王子がナンダン王族家系五星ならば、王位を継ぐ資格はありません。第二王子の家系を公表し、クララを王位継承権第一位の王女としなければなりません。あなたはそのためにランセル国王陛下の妃になったのですから。」
娘:「はい。私もそれが正しいと思っていますが、ナンダン王族家系は古に滅びた家系です。どう証明したらいいのか、分かりません。そして、私も。私の王子が四星で、兄の子が五星だからと兄の子を王位継承権第一位にするのことを貴族や国民に受け入れてもらえるのか不安なのです。直系五星第二王子がいるのに、ですわ。」
母:「ですが、このままではいけません。」
娘:「母上。私、母上がご協力してくださるならば頑張りますわ。」
母:「もちろんですわ。クノン第一王妃陛下。母はどんなことがあってもあなたの見方になります。」
娘:「母上、お話が長くなりそうです。私と二人こちらで昼食をいただきませんか?時間が惜しいですから、ここに食事を運ばせますわ。私と母上が皆と一緒に食事をしないことを伝える必要もありますし。」
母:「ええ。そうして下さい。母もあなたと話すことがたくさんありますから。」