19.第一王妃クノン 1
『母上、母上、母上。お気を確かに。母上~~。』
…誰?
母上って、私のこと?
アリアレイア?
『母上、母上、母上。お気を確かに。母上~~。』
…アリア?娘のアリアが私を呼んでいる?
『母上、母上、母上。お気を確かに。母上~~。』
ああ、私、どうしたのかしら?
…そうだわ。私、フィオナ様を怒らせてしまって…。
それから???
ゆっくり目を開ける。あれ?男の子?アリアではない?誰?私を母親と勘違いしているようだ。
「母上。お気付きになられましたか。良かった。」
「えっと、どこの子なのかしら?あなたのお母さんは誰かしら?」
「母上?大丈夫ですか?ぼくです。ソウルです。母上?」
「…ソウル?ソウル?ああ、ソウル。ごめんなさい。頭がぼ~~っとしてしまっていたわ。」
「申し訳ありません、母上。ぼくが役立たずの四星王子なばかりに母上にご迷惑をおかけします。ぼくは、父上に何も言えません。申し訳ありません。」
「ソウル。あなたの責任ではないわ。私が悪いのよ。私が気を付けていなかったからよ。」
「母上。申し訳ありません。母上。母上。」
泣く幼い息子を抱きしめる。
ああ、私は…。今の私は、『レリーリアラ』ではなかった。
私は、国王ランセル・マ・アール陛下の第一王妃クノン・マ・アール。息子は四星第一王子ソウル・マ・アール。
ああ、私は…。
夫であるランセル国王陛下の異母妹王女をイーデアル公爵家に降嫁させるとの話を聞き、それに反対した。ランセル国王陛下は、激怒し、私の魔力を拘束した。
だが、しかし、一歳になる第二王子ハウルの魔力が王家系五星とは違う気がすると母上と兄上が言っていたのだ。もしそうならば、異母妹王女を降嫁させてはいけない。王族に残し、将来に備える必要がある。私は、黙ってなんていられなかった。
『煩い。我が第一王子が四星なのは、そなたの兄のせいではないか。そなたの兄の子供が、傍系王族王女のくせに五星で、しかも、そなたの姪だから王位継承権を持って生まれてきおった。我が第二王子がいるのだから、将来は何の問題もない。それに、側妃を迎え入れることも決まっているのだ。そなたも第一王子も役立たずなのだから、黙れ。』
そう言われて、魔力を拘束されて気を失ったのだが、私を『母上、母上、母上。』と必死で呼ぶ息子と前世の娘が被ってしまい、私は、前世を思い出してしまった。
私の前世は…。
前世の私もこの国の第一王妃だった。
前世の私は、国王フェリオ・マ・アール陛下の第一王妃レリーリアラ・マ・アール。王位を継いで次の国王になった五星第一王女アリアレイア・マ・アールと四星第二王子ヴィアラン・レリ・アールの母親だった。
前世の私も、フィオナ様に余計なことを言ってしまった。フィオナ様は、魔力暴走を起こし、私は、気を失った。再起不能になる寸前に娘のアリアレイアに助けられた。娘のアリアは強い魔力を持つ五星王女だった。
何故、前世の記憶を思い出してしまったのだろうか?今も前世も第一王妃だが、全然違う。前世の私は、夫をとても愛していた。幸せな人生だった。夫には妃が五人いたが、夫は、皆平等に愛してくれていたし、第一王妃の私を特別に思ってくれていた。妃は五人とも皆仲が良く楽しい日々を過ごしていた。
私の第一子は、王太子となり、後に国王となった強い魔力の五星第一王女アリアレイア。
さらに、もう授からないと諦めていたのに運よく第二子まで授かることが出来た。
子供たちにも孫たちにも恵まれた。孫王子は、娘の王位を継ぐ王太子だった。曾孫にも恵まれた。
なのに、今はどうだ?夫は私が四星の子を授かった途端、私とお腹の子供に見切りをつけた。私の懐妊が分かる一週間前に兄の妻が五星の子を懐妊したのだ。五星は、一年間に一人しか授からないことはわかっていたが、兄の妻と私の懐妊はほとんど同時だと思われる。そして、懐妊してすぐは、お腹の子供の魔力は分からない。お腹の子供の魔力が分かるまでは…と、祈るような気持ちで一週間待った。MRが五星であることを期待したが、結果は…四星だった。
以降、夫の渡りはない。無駄だと。次の子も必ず四星になるから。四星なんか要らないと。
兄の子供に王位継承権を与えるために私は好きでもない国王に嫁がされた。王族四星女性に生まれたからには仕方ないことだと諦めていた。好きな男性に嫁ぐことはないと。そして、必ず、五星の子供を懐妊するように言われていた。分かっていた。分かっていたから、兄に子供が出来るまで、一、二年くらいは懐妊しないように気を付けるつもりだったし、そうしていた。
なのに、何故?懐妊が分かった時は正直驚いた。まだ数回しか国王陛下のお渡りはなかった。避妊もしていた。避妊しなかったのは結婚初夜の日の一度だけ。そのたった一度で懐妊してしまった。そして、それが運悪く兄の妃と被ってしまい、第一子が四星になってしまった。
私の責任なのだろうか?初夜で懐妊してしまった私が悪いのだろうか?とずっと心が傷んだままだ。…息子に対しても。第一王子なのに。第一子は五星となる確率が高い。妊娠期間が被らない限り、ほぼ確実に第一子は五星だ。その大切な第一子を懐妊が被って失ってしまった。
ランセル国王陛下は、予定よりも二年以上早く第二妃を迎え入れられ、五星第二王子を授かった。五星第二王子が無事に生まれた時は、ほっとした。私は、ダメだったが、これで将来のこの国は大丈夫だと。
ところが、その第二王子の魔力が弱いと母上と兄上が言っているのだ。そして、そのうち四大公爵家五星当主たちもみんなこそこそと第二王子の魔力が弱いことを言い始めた。
ランセル国王陛下は、第二王子の魔力が弱いことがウワサになり、広がる前に異母妹王女を降嫁させることに決めた。異母妹王女には四星の婚約者がいて、王族に残る予定だったのに、だ。
私は、降嫁に反対した。そしてこの有り様だ。私の反対は聞き入れられることなく、異母妹王女の降下は、決定してしまった。
私は、何の力もない名前だけの第一王妃。この国は終わる。私が五星の第一子を産めなかったから。同盟国ではあるが今は形だけに近い帝国あたりに支配されるかも知れない。
帝国…。
今では世界一の大国だ。レリーリアラだった頃の帝国とは全然違う。あの頃は…。