第14話 ドワーフの鍛冶師
そして、歩き続けること5分。メルサたちはリウの特産品売り場まで足を運んでいた。
「わぁ…… ここ全部売り場なの?」
「そうだよ! とても複雑だから、離れないでね」
これは…… すごいな。
さっきまでとは違い、店は道の端だけでなく近くの建物の内部にもある。
あれは橋だろうか。建物同士がつり橋でつながれ、そこに店が立っている。上にも店が広がっているのか!
「ここに入るよ、下は薄暗いから気をつけてね」
「ええ、分かったわ」
俺も入るぞ。
見えるように、できるだけメルサと距離を縮めて……
「わぁ、なんだか神秘的ね……」
魔導ランプのあかりだけが頼りのこの場所は、とても幻想的だ。
あれはどこかの民族衣装だろうか? 店の人たちは多種多様な服装をしている。
「ん、これは何の匂いかしら? なんだか甘いような」
「あ、これは…… その、悪い……薬だね。止めといたほうがいいよ」
「げっ…… そうなんだ」
俺も見てみると、黒いフードを被った男と目が合った。
――ニヤリ……
いや、俺は遠慮しておくぞ?
「見て、この布地。すごく綺麗……どこで織られてるのかしら?」
メルサが声を上げて立ち止まる。その前には、織物や染め物の専門店が広がっていた。
棚には鮮やかな赤や青の生地が並び、高級感を漂わせている。
「お姉さん、お目が高いねぇ…… これは俺たちタッセル族が作ったんだ」
「タッセル族……?」
「ドワーフの中でも、布を主に作る部族のことさ。ドワーフは作るもので部族分けする文化があるんだ」
小柄な男はそう言う。
「へぇ…… すごいわ。この生地、とても滑らかね」
「お、分かるか? これはな、特殊な糸を織り込んでるんだ」
メルサは生地を触って確かめている。
「これは水を弾く布で、雨具用だ。こっちは耐火性があってだな……」
良く分からないが、とても楽しそうなことは分かる。
このまま見守っておこう……
「ケッ、全部同じ布じゃねえか…… 何がそんなに楽しいんだか分からねえな」
「ん?」
「あ? 何だよ人間」
メルサとは少し離れて、俺の前には鍛冶屋がある。
ここにも小柄で筋肉質な男が座っていた。
「どうしたんだ? 嫉妬か?」
「好きじゃねえんだよ、タッセル族が。あんなふにゃふにゃしているだけのもんだぞ?」
そう言って、舌打ちをした。
「おまえ、戦士か?」
「ああ、そうだが」
「最近の戦士は、堅いとか言って防具に布を選ぶんだよ。目が腐ってやがる」
「ま、まあ。金属製の方が信頼できるな」
「だろ! あいつらは俺たちの客まで奪いやがるんだ。俺たちは客の命を考えてるのに!」
近衛騎士時代、見た目を重視して鎧はつけられなかった、なんて言えないな……
だから魔法を使って防御するようになったしな。
「気持ちは分かるぞ。頑張ってくれ」
「おまえに理解されても状況は変わらねえよ」
「…………」
あぁ…… 面倒なやつだな。切り替えて、品ぞろえでも見てみるか。
男の前には大小様々な武器が置かれている。
「防具はあるのか?」
「それは客に合わせて作るから、置いてねえよ」
俺はあるショートソードを手に取った。
何度か軽く振ってみる。
「これは、防戦向けか」
「そうだ。重心が柄の方にあって、コントロールしやすい。早く対応できるよう、グリップは両利き用に作っているぞ」
「ほう……」
刃の方を見る。反射して、俺の顔が見えるな。
とても鋭そうだ。ドワーフはこんなにも精巧に作れるのか…… あんまり見ないからな。
もう一度、試しに振ってみるか……
両利き用だから、持ち手切り替えもついでに……
――ヒュン! スッ! ヒュヒュン!
「…………」
「ん? どうした?」
「おまえ、職業は何だ? 本職の戦士か?」
「ああ、一応護衛騎士をしている者だ」
「武器を見せてくれ!」
俺は持っている武器を確認した。
特にこだわりがないから、王国からの支給品を使っていたが……
どれどれ、ショートソードが1本、ダガーが3本か。俺はそれらを男に差し出した。
「これは…… 素材はいいが、それを生かしきれていねえ。ぜひ俺に作らしてくれ」
「金がないんだ。すまないな」
「ダガー1本分の素材でいい! おまえみたいなやつに俺の武器を使ってもらいたいんだ」
「それだけでいいのか?」
「ああ、任してくれ」
ふむ。新しい武器がほしかったし、いいかもしれないな。
俺はメルサの方を見る。まだ布に気を取られているようだ。
「3日後までにはできるか? 実戦に使うんだ」
「おうよ! 何ならそこのショートソードを持って行け」
「いいのか?」
「ああ、どうせ展示品だ。返してくれたら問題ない」
そして、俺はショートソードを手渡された。
余り気にしてはいないが、逃げられる心配もなさそうだな。
「おまえの名前は何て言うんだ?」
「俺はシュベルトだ」
「おう、俺はグラッドだ。待っておけよ、最高の物を作ってやる」
グラッドは手を前に出してきた。俺もそれに答え、握手を交わす。
「こうしちゃ居られねえ、さっさと作業だ!」
……行ってしまった。
興奮した様子のグラッドの後ろ姿を最後に、シュベルトはひとり取り残されてしまった。
もうあいつに任せよう。それより、メルサの方は……
「メルサ、まだ決まらないの?」
「うーん、ちょっと待って」
メルサはまだ口元に手を当てながら、いまだに悩んでいる。
「お姉さん、なんの目的で使うんだい?」
「ちょっと、ある人がいて。プレゼント用なの」
「へぇ…… 面白いじゃん。もっと聞かして」
メルサは少し照れくさそうにほほ笑む。
「彼は、戦士なの。彼のためにクロークを作りたいわ」
「じゃあこれだね、白なのに汚れにくい布だよ!」
男は白く、なめらかな布を手に取った。
「戦いやすいよう、裏地をグレーに染色しておくよ。これでどうだい?」
「…………」
メルサはしばらく沈黙する。
そして……
「それでお願いできるかしら?」
「あいよ、任しておけ! 彼もきっと喜ぶさ」
そうして男は染色を始めた。
待つメルサの姿は、なんだかそわそわしている。
「メルサ…… そういうことだったんだ!」
「……うん」
メルサは少し笑った。
……ここに居るべきではないな。
爺さんの家で茶でも飲んで待っておこう。
俺は急ぎ足でハンス爺の家へと戻っていくのだった……




