第11話 紅の聖騎士
ついに俺は壁の方までたどり着いた。
俺がここまで来た目的はそうだ、壁の移動をこれ以上防ぐため……
あれは魔法によるもので間違いないはずだ。
「おい、あの異端者はどこへ消えた!」
「……分かりません! 今、探知魔法を!」
今のうちだ、長居は良くない。
ふぅ…… 焦らずに今、俺がやるべきことを……!
そうして俺は壁に手をかざした。
――魔法陣展開 解析……
――キィィィィィン……!
青白い光を放つ大小さまざまな魔法陣が、壁一帯に浮き出る!
……驚いた、まさかこれほどの規模の魔法をここに隠していたとは。
「なんだ! 何が起きている!」
教会兵たちは魔法陣の光に動揺している。
元凶は分かった。あとは、これを破壊するだけだ……!
――ピシッ! ピシィッ……!
俺の手の周りにある魔法陣が段々と深紅に染まり、ひびが入る。
っ、ぅ…… 集中しろ、もう少しだ!
「い、居たぞ! 真下だ!」
「何をしている! 今すぐ離れろ! こうなったら、下に降りて……!」
だが、今にも飛び降りようとする兵士の肩に手を置き、制止する者がいた。
「……いや、お前たちまで出る必要は無い。ここは、私が対処しよう」
「!? あなた様は……!」
もう少しだ。これで……どうだ!
――バリィィンッ!!
魔法陣のひとつが完全に壊れ、連鎖的に崩れていく。
ふぅ…… これで破壊できたようだな。
「そこまでだ、異端者。大人しく拘束されてもらおう」
「……何者だ」
紅の髪を持つ女騎士が隣から現れた。俺に剣を向け、明らかに敵対する意思がある。
そこらの教会兵とは違う装備だ。多分、こいつは……
「私の名はアリア・リシュヴァール…… 聖騎士だ。もう好きにはさせない」
「フッ、もう手遅れだと思うぞ?」
「確かにそのようだ。だが、お前をゆめゆめ逃がすわけにもいかない」
アリアは剣を構え、今にも攻撃せんとする体勢だ。
……だが、俺はこいつと戦う意味はもう無い。
後はここから離れるのみだ。つまり、次に俺がすることは……
――魔法陣展開 生成 煙幕
アリアの近くで魔法陣を発動させ、辺りに煙を充満させた。
視界を防ぐには十分だ。
「っ! 煙幕か……」
「すまないが、お前と戦う気はない」
「……そう簡単に逃げられるかな?」
「っ! 何!」
煙の中から一瞬の迷いもなくこちらに突撃してくる!
とっさに剣で受け流し、俺は後ろに下がった。
「今の魔法…… 無詠唱魔術か? 面白い、初めて見るな」
アリアは剣を軽く振りながら、少し笑っている。
無詠唱魔術を一瞬で見破る……か。こいつは相当強いぞ。
「異端者よ、なぜ人間でありながらこのようなことをするのだ? まるで意味が分からない」
「なに、俺は理不尽なことが許せないたちでな。こういうのが嫌いなんだ」
「ふむ…… 理解できないな。異種族は私たちの敵だ」
「フッ、まずはその古い価値観は変えるべきだな」
「ハハッ、お前はまだ知らないだけ、だ!」
……! 来たか!
――魔法陣展開 生成 棘
俺の前に立ち塞がるように、地面から棘が突き出る!
「無駄だ!」
アリアは飛び上がり、華麗に攻撃を避けた。
宙に浮いたな? それは既に読んでいる……!
――魔法陣展開 発動 衝撃波
――ドォォォォンッ!!
「クッ……!」
アリアは後ろに吹き飛ばされ宙を舞ったが、すぐに体勢を戻し近くの家の屋根に着地した。
「届かなかったか。次は必ず……!」
「いや、お前にもう次は無い」
十分に距離は取った。これであいつは追えない。
――魔法陣展開 生成 煙幕
「……! 待てっ!」
この戦いはお預けだ、アリア。
だが、再び戦うことになるだろう。俺の直感がそう言っている。
そして、俺はここから離脱するのであった……
そうして数分後……
「……すまない、遅れた」
「あ、帰ってきた! 一体何をしてたのよ! 爆音がしばらく鳴りやまなかったわよ?」
俺はさっきの場所に戻って来た。
メルサは結構心配していたようだ。
「ああ、壁が動く元凶を潰しに行っていたんだ。案の定、壁に魔法陣が仕掛けられていた」
「え? 何を言っているの?」
「言った通りだ。壁に仕掛けられていた魔法陣を破壊した。これでもう安心だ」
「あの一瞬で…… それだけのことを……?」
「もう、なんだか慣れてきたわ……」
メルサは額に手を当てている。
……少し感情任せに動いてしまったかもしれない。
この後教会との対立は避けられないな。うん、まあ何とかなるだろう。
「取りあえず、ハンス爺のところへ戻ろう? 後で詳しく話を聞きたいし」
「ああ、そうするか」
~~
――リウ東部、ハンス邸にて
「何ぃ!? 教会兵と戦ったじゃと!」
爺さんは顎が外れそうなほど口をあんぐりさせながら、飛び上がった。
「あと壁の動きを止めてきた」
「止めてきた!?」
そんなに驚くことか……?
「ああ、何か聖騎士アリアって名乗るやつと戦ったぞ」
「「聖騎士アリア!?」」
「何それ初耳なんだけど、どういうこと!?」
今度はレアまで驚いている。
ほう、ここまでアリアの名が知られているのか。
「……ガハハッ! お主は血気盛んじゃのう!」
「アリアってそんなに有名なのか?」
「有名って何も、この街でその名前を知らない人なんていないよ!」
「そうなのか……」
「ワシが答えよう」
爺さんは再びゆっくりと椅子に腰かけ、茶をひとすすりした。
「……まだリウにあの壁ができたばかりの時、沢山の戦士が教会兵に挑んだんじゃ。ワシもその一人でな」
なるほど、雰囲気から何となく察していたが、やっぱり爺さんは戦士だったんだな。
「最初は優勢だったのじゃが、あのアリアが現れてな」
「……」
「ことごとくやられたんじゃよ。仲間も沢山死んだ。ワシの目が見えにくいのも、その時の傷じゃ」
そう語る爺さんの目は遠く、しかし誰かを見ているかのような感じがした。
何も言えないな。常に死と隣り合わせ、それが戦士の宿命だ。
「……そうだった、のか」
「空気を悪くしてすまないな。だがシュベルト、この街の為に戦ってくれてありがとう」
そう言って爺さんは頭を下げた。
「俺は理不尽が嫌いなだけだ、気にしないでくれ」
「フッ、カッコいいこと言うわい」
「シュベルトって強かったんだね! 初めて知ったよ!」
「ふふふ、レア。シュベルトはね、元王国近衛騎士なのよ!」
「ほお…… 王国の最精鋭じゃったのか」
「ふふーん!」
「おい、なんでメルサがそれを誇るんだ?」
それからも、皆の会話は続く……
俺は理不尽が嫌いだ。
あの玉座の間のことを思い出してしまう。
何が相手であろうとも、必ず打ち砕いて見せる……!




