第9話 半魔族の少女 2
爺さんは椅子に腰かけ、俺たちも座るようにと促した。
テーブルの上には、いつの間にかお茶が用意されている。
「これは青い……茶か? 見たことないな」
「知らないの? これはソキ茶よ、ここからずっと西の方で採れるの」
「レアが出してくれたのじゃろう。まったく…… あやつも来ればいいものを」
ひとまず、ソキ茶? というものを飲んでみるか。どれどれ……
お? 少し酸味があるが、ほのかに甘味もある。 俺の好きな味だ。
「どうだ? 美味いじゃろう」
「ああ。初めて飲むが、なかなか良い味だ」
「ワシは世界各地からこうやって茶を集めとる。コレクションには自信があるんじゃ」
爺さん、嬉しそうに話しているな。目が輝いている。
けど、確か目が見えなかったはずだよな? しっかり動いているように見えるが……
聞いてみたいが…… 駄目だよな。
「ねえ、あの女の子…… レアさんは半魔族って言ってたけど、なんで同居してるの」
「あやつは、そう……身寄りが無かったんじゃ。だからワシが招き入れた。それだけの話じゃよ」
「……本当にそれだけなのか?」
「明日、街の中心へと行ってみい。話はそれからじゃ」
爺さんはそれだけ言って立ち上がった。やっぱり、この人は多く語ってくれない。
「さあ、晩メシとするかね。レアがもう作ってくれてあるんじゃ。レア! 降りて来りてこい!」
「え!? さ、先に食べて。私は後で良いよ……っ!」
上から声が返ってくる。
「つべこべ言っとらんと早く来い!」
「ひ、ひぃ…… わ、分かったよぉ……」
――とぼ、とぼ、とぼ……
階段から恐る恐る、魔法の杖を両手で持ちながらやってきた。
バリバリの戦闘モードじゃねえか!
「どうぞ、よろしく……」
半泣きになりながらも、引きつった笑みを無理やり作っている。
「ああ……そんなに怖がらないでくれ」
「ひっ…… ぜ、全然怖がってなどいませんよ……へへ、へへ……」
うん、嘘だな。爺さんもあちゃーって顔してるぞ。
レアは足をガクブルさせながら、キッチンに置いていたバケットを持ってきてテーブルに置いた。
「さ、サンドイッチです、どうぞ召し上がれ……」
「は、はは。美味しそうだ。ありがとう」
「こ、光栄です……」
しーん。
き、気まずい……! 助けてくれ、地獄だ……!
「はぁ…… ねえ、私はメルサ。レアさん……だっけ?」
「は、はい…… レアーヌです……」
「さっきはお茶、ありがとうね。美味しかったわよ」
「え、あ。はい…… 良かった……です」
「あなたもお茶、大好きなの?」
「ま、まぁ…… ハンスじいの影響で」
……どんどんメルサとレアは打ち解けていってる。
なんでそんなに会話を弾ませることができるんだ? なんだか悲しくなってきた。
何だろう。爺さんから冷たい視線が送られている気がする。目が見えてないのに……
「さすがは商人じゃな。誰かさんとは違って」
「うるさい」
俺は少々荒げにサンドイッチを頬張った。
うん、これも美味しいな。相当な料理上手だ。
チラッとレアの方を見ると、顔色も結構マシになっている。メルサに任せた方がいいな。
「あ、そうだ。ハンスじい、聞いた? 東の街道が突然無くなったらしいよ」
「うむ…… お主らが言ってた通りじゃな」
「やっぱりそうか……」
「確認のため聞くが、レア。お主はやって無いじゃろうな?」
「え、そ、そんな! やってないよ!」
「だ、そうじゃ。後は外部の人間くらいしかおらん。ここらで魔法が使えるのはレアだけじゃからのう」
爺さんは目をつむって考え始めた。どうしたものか、あれを何とかしないと戻れないぞ……
「じゃあ、西の街道を使うことはできないの?」
「そっちには行けないよ。だって……」
レアは言い留まってしまった。
「それも街の中心部へ行けば分かる。お主らの目で確かめんと、きっと信じられんじゃろうて」
「……そうか。じゃあ、明日行くことにする」
……リウは俺が思っているより複雑だ。だがここから出るためだ、何だってしよう。
「うむ、それがええ。だが、ワシは明日忙しくてついて行けそうにない。じゃから……」
爺さんはレアの方に顔を向けた。
「……え? えぇ!? わ、私ぃっ!?」
「よろしく頼んじゃぞ」
おいおい、レア、また半泣きになったじゃん。
~~
そして翌日……
俺、メルサ、レアの3人は家の前に集まっていた。
「えーと、灯りは全て消したし、火の元も消した、っと。後はカギを閉めるだけ……」
レアは左手に杖、右手にメモを持って家の戸締りをしている。
「レアって意外としっかりしてるわね。昨日の様子を見た感じ少し心配だったけど」
「ああ、そうだな。あと左利きの魔法使いか。珍しいぞ」
「どこを見てるのよ……」
何を言っているんだ、利き手というのは重要だぞ。
戦い方によるが、どこから攻撃が来るかある程度分かるからな。
「お、終わったよ!」
「あ、じゃあ行こうか。シュベルトも大丈夫よね?」
「ああ、問題ないぞ」
「案内よろしくね、レア」
メルサはニコッと笑った。
「が、頑張ります……!」
そうすると、レアは先陣を切って歩き始めた。
「メルサ、やるな」
「あなたもその仏頂面、何とかしなさいよ。だからレアに怖がられるのよ」
「何も言い返せないな」
メルサのように愛想よくってなんだ?
こんな顔か? いや、こんな顔かもしれんな。
「メルサさん……ひっ!」
あ、しまった。振り返ったレアと目が合ってしまった。
「こら、シュベルト。いきなり何してるの?」
「それはその……愛想良い顔っていうのをだな、練習してたんだよ」
「へぇ、その顔が?」
そ、そんな悲しそうな目で見てくるなよ! 俺だって頑張ってるんだぞ!
「レア、怖がらなくていいのよ。シュベルトはこう見えていい人だから」
「こう見えては余計だろ」
今度はレアがじーっと見てきた。
「…………頑張ります!」
何をだよ。
……そう話しているうちにもう大通りの方に出てきたようだ。
昨日行った酒場の場所だな。前と同じように人でいっぱいだ。
おかしいな、ならばなぜそんなに夜は静かなんだ?
「なあ、レア。ひとつ聞いてもいいか?」
「え? な、何?」
「この酒場って夜まで開いているのか?」
「いや、開いていないよ。夜は危ないの、だから全く夜は音がしなかったでしょ」
「ああ、確かにそうだな……」
「夜になると、突然消える人が後を絶たないの。だから誰も出歩かないんだよ」
おぉ、物騒な街だな……




