第11話 奇妙なお願い (これって何気に第一関門だよな)
昨晩の新展開に浮かれ気分で帰宅したのとは裏腹に、翌朝の私はダウナーだった。シスターお薦めの「学校のトイレ掃除(罰掃除風)」は実にナイスアイディア!これで優等生キャラを脱却!とは思ったものの、これをクラス担任に言い出す段になって途方に暮れていた。何も悪いこともしていないのに「トイレの罰掃除をさせてください。」と言い出すなんて、余りに奇妙に思えた。「マゾヒスト」そんな単語まで浮かんできた。
「いっそ、掲示板での告知なんかしないで勝手に掃除しちゃえばいいのでは?」とも思った。でもそれだと率先してみんなの嫌がる掃除をする「真面目な生徒」になっちゃう。いや、多分本当の問題はそこではない。一番の問題は、そんな中途半端な状態だと、きっと私はきっとなんだかんだ言って何も実行できずに逃げ出しちゃうのだ。私は精神力が弱いというか何というか。それこそ学校に強制でもされない限り、「トイレの罰掃除」なんてできないのだ。やっぱりというかなんというか、私は「いいカッコしい」なのだ。そんな自分を辞めたくして、自分なりに悩みまくって、奈緒の差し金とはいえ図らずも修道院とやらにまで行って相談してきたのに。
そんなことをごちゃごちゃと考えつつもなんの解決策もないままにいつもより早めに登校した私は、今、職員室の扉の前でフリーズしていた。
ふと鞄から昨日シスターにもらったプリントを取り出した。「生徒による清掃のお知らせ」と題され、しっかりと私の名前が書かれている。きっとシスターは私がトイレ掃除に踏み切れないことも見越してこんな提案をしたのだろう。確かにこれを職員室の掲示板に張り出されたら、いかに精神力が弱く「いいカッコしい」の私でも、粛々とトイレ掃除しなくてはならないだろう。
「よし!このプリントの掲示をお願いしよう!」なんとか覚悟を決めた私は職員室の引き戸を開け、先生の席に向かって歩みを進めた。担任の佐々木先生はもう席にいて、何やら手帳に細々とペンを滑らせていた。
「先生、おはようございます。」
「ああ、宮野さん。おはようございます。早いですね。」
大学卒業直後とかではないだろうけど、先生達の中ではかなり若手で美人で生徒ウケも良い佐々木先生は、ハキハキとした声でそう応えてくれた。悲しいかな、私なんかより元気そうだ。
「今、5分ほどお時間いただけませんでしょうか?」
「もちろん良いですよ。場所はここで良いの?」
「はい、ここで大丈夫だと思います。」
「で、あらたまって何かしら?」
自分でも心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、私は切り出した。
「先生にお願いしたいことがあってきました。」
そして言った。
「奇妙なお願いです。」




