第一話
「…はぁぁぁぁ…」
本日何度目になるのか。
ため息を吐きながら、ユーブメルトは学園の外にあるちょっとした芝生の上で寝転がっていた。
魔力測定会が終わり、いつものように絡んで来たレオリスをあしらった後、ユーブメルトは居心地のいいこの場所に来ていたのだ。
ゴロゴロと転がりながら、いつものように襲ってくる睡魔に身を任せ、眠る。
だが、今の彼はそんな気分に全くなれなかった。
ユーブメルト・レディナス。
魔力総量Sランク。
魔力属性測定不可。『刻名』不明。
『獣刻印』不明。二重刻印の可能性あり、要観察。
獣刻印顕現率50%。資質Sランク。
獣刻印シンクロ率0%。『魂の契約』不可能。
『属性相克』上位互換の可能性あり。
魔力制御率Eランク。
これらが彼のいつも通りの成績だ。
ほとんどがSかE。最高か、最低かだ。かろうじて真ん中も存在しているが、それも役には立たない。
これらの事柄から、彼は『落ちこぼれ』と『極端』のレッテルを張られているのだ。
そして、毎度の事のように魔力水晶を壊すことから、教員たちからはかなりの確率で白い目を向けられる。
だが、それも一応は保護責任者であるフレリックのおかげか、ユーブメルトに直接向けられることはない。
それに感謝していないと言えば嘘になるが、それでもユーブメルトとしては余計なお世話と言うしかなかった。
「…ユー?」
「…ユミナか。どうした?」
芝生の上でゴロゴロと転がっていると、その様を見ていたのだろうか。ユミナが話しかけてきた。
彼女も同じように測定会を終えているため、その手には測定会の結果が記載された羊皮紙が握られている。
「…ぷっ。なんか、いつもこうだね、ユーって」
「変わらねーよ。そんな簡単に人は」
「いや、変わる所は変わるんだよ。変わらないのは変わらないけどね」
「…急に変な事言いやがって。なに食ったんだ?」
ユーブメルトと視線を合わせるためにしゃがみ込んだユミナが、唐突に笑い出す。
そんな幼馴染の行動に、ユーブメルトは頭に?を浮かべながらも言葉を返していく。
少しぎこちないながらも、彼らは笑っている。
それは確かに、彼らの関係が良くなっていると言う事実だった。
「…なーんにも。あ、そうだユー。授業の件だけど、学園の地下に潜るって奴のパーティー、誰と組むか決めた?」
「いや。ってか、受けるつもりねーし」
「…不良発言しないの。でさ、よ、よかったら、その……わ、私と…///」
しどろもどろになりながら、頬をゆっくりと赤く染めていくユミナを見たユーブメルトは、静かに言った。
「…パーティー組むってか?」
測定会が終わり、最後の解散を告げられるべき場で、ユーブメルトのクラスの面々は担任の男からこんな話を聞いていたのだ。
『連絡事項はこれだ。明日、全員には学園の地下に潜ってもらう。四人編成のパーティーだ。他学科とのパーティーは認めん』
唐突に切り出された話題に、クラスの生徒たちは静まり返った。
だが、それもつかの間。すぐさま生徒たち同士でパーティーの相談が始まる。
その様を、ユーブメルトは机に突っ伏したまま見もせずに寝ていたのだ。だからこそ、ユミナがユーブメルトを誘ったのだろうが。
「…う、うん。…だめ、かな///?」
「ダメなわけないが…。後二人はどうするんだ?」
「えと、スフィアとセリスク君」
「げ…。なんであいつら二人が組んでるんだよ…」
残りのメンバーの名前を聞いた途端、ユーブメルトは心底絶望した表情になった。
なぜそこまで絶望した表情になったかと言うと、彼らの体質と性格が問題なのである。
不幸体質と天然。混ぜ合わせれば何が起こるかわからない、危険物質だ。実際問題、スフィアと組んだものは必ずドジに巻き込まれるし、セリスクと組んだものはその不幸を一緒に受けることになるのだ。
誰もが口を揃えて言うだろう。『一緒にするな。混ぜるな危険』と。
だが、決まってしまったものは仕方がない。ゴロゴロと芝生を転がり、その勢いに任せて立ち上がるユーブメルト。
授業に出なければ、どうせフレリックに小言を言われるのが目に見えているためだ。
「…やっぱり、だめ?」
「…いーよ別に。めんどくさいけどやるさ」
「ほんと!? やったーー!!」
「いきなり抱きついてくんじゃねぇ!!」
パァッと明るい笑顔になったユミナは、その嬉しさを表現するためにユーブメルトに突貫する。
その直情的な表現に、ユーブメルトは恥ずかしさに少し顔を赤くしながらユミナの体を引きはがす。
少し物悲しいのだろうか。ぷくーっと頬を膨らませるユミナに対し、頭に手を置いて宥めるユーブメルト。
その頭の感触に、ユーブメルトは懐かしいものを感じながらユミナの頭を撫でていた。
「…うにゃー…///。…はっ!」
とろけきった表情と声を出していたユミナが、一瞬で我に返る。
「と、っとととにかく///! 明日、転地の門集合だからね! 夜明け前だからね! 遅れないでよね!」
顔を真っ赤にさせながら、一気に言葉をまくし立てるユミナ。
そのコロコロと変わるユミナの表情を微笑ましく見ながら、ユーブメルトは言葉を口にする。
「…ははっ。やっぱ、お前はそうじゃないとな。その方がお前らしくて可愛い」
「か、かかかか可愛い///!? もう、ユーの馬鹿!!(かかかかかかか可愛いって言われた可愛いって言われた可愛いって言われた///!!!)」
もう完全に彼女の頭の中はオーバーヒートである。
耳まで真っ赤とはこのことかと言うぐらいに顔を赤くしながら、ユミナはユーブメルトの言葉を噛み締めるように体をくねらせていく。
言葉と体と心がまったく一致していない。なかなかできない芸当だ。
「…また始まったな…」
それに慣れているユーブメルトは、暴走する幼馴染を冷めた目で見つめながら立ち竦む。
だが、それも数瞬の事。
基本的にめんどくさがりであり、厄介ごとに巻き込まれたくないユーブメルトは、未だにどこかの世界に旅立ってしまっているユミナを放って置いて寮へとその足を向けた。
―――ま、誰かが見つけて保護してくれるだろう―――
かなり投げやりだが、その思いは一応実現することになる。
偶然通りかかったスフィアが、その金色の尻尾を犠牲にすることによって。
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