エピローグ
ギィ…
「ただ今戻りました、フレリックさん」
「おお、よく戻ってきてくれた……って、これはどういう事だい?」
「あははは…」
理事長室のドアを開け、報告に戻ったユーブメルトたちは、いきなりフレリックを驚かせることになった。
フレリックを驚かせることになった理由、それはユーブメルトの周りにあった。
「…ふー!」
「……?」
ユーブメルトの右にいるのは白の少女。腕ごと抱き着く形でユーブメルトに引っ付いている。そして、その反対側にいるのはユミナ。かんっぜんに対抗意識を燃やしまくりの図だ。
生える2本の尻尾の毛が威嚇のために逆立ってしまっている。
そんな二人に挟まれたユーブメルトは、両側から腕を綺麗に抑えつけられているために、頭をガシガシと掻くこともなく苦笑いしか浮かべられない。
「えーと、幸せ者は放って置いて報告です。すいません、『黒』は逃がしました」
とても受け答えなどできる状態ではないユーブメルトに変わり、セリスクが報告を肩代わりする。
普通なら突っ込まれている所だが、あいにくユーブメルトにはその手段がない。口を出そうとしても報告の邪魔になるからだ。
「そうか。なら、こちらで引き続き捜索は続けるよ。皆、ご苦労だったね。後、エンディー君はどこに?」
「それなら、いろいろと調べる物が出来たから、申し訳ないけど報告は頼みますねって言ってました」
スフィアがセリスクの隣に立ちながら、レオリスの動向を伝える。
ユーブメルトたちが連絡通路を出た辺りで、一応合流はしたのだ。だが、ユーブメルトの今の状況を見て呆れでもしたのか、そう言ってそそくさと退散してしまった。
「ふむ、なら構わないか。それと、ユーブメルト君。その子は、どうするんだい?」
まるで蓑虫のように引っ付いて離れない少女を指さしながら、フレリックはユーブメルトに質問を投げかける。
「…どうするも何も…保護って言うか、俺はただ仲間として迎えたいんですけど…」
「…なら転入手続きでもしようか。えーと、書類はどこにやったかな…」
とんでもない爆弾発言をしながら、フレリックはごそごそと棚の中身を探していく。
あまりにも普通にしゃべった事柄だったため、誰もその行動に反応が出来ていなかった。
そして―――
「「「「えええぇぇぇ!!!」」」」
案の定、そんな声が木霊した。
「フレリックさん、それ職権乱用ですよね!?」
「構わないさ、それぐらい。あー、そうそう。転入するんだったらユーブメルト君の家名を使わせてもらうよ。君に懐いているんだろう?」
「それぐらいは構わないですけど…って、え?」
「だから、便宜上は君の親戚と言う事にするって言ってるんだ。それなら僕でも面倒が見れるし、なんたって楽だろう?」
「…そんな簡単に…」
フレリックの考えに、ユーブメルトは項垂れてしまう。
だが、項垂れた先にあったのはユーブメルトを見つめていた少女の真っ赤な瞳。
上目づかいで見つめられては、断ることなどできるはずがない。
「……?」
「ったく…。なら、それで行きましょう。こいつには名前もないし…あ、そうだ」
手を叩くことはできないが、何かを思いついたかのように言葉を口にするユーブメルト。
「お前の名前、決めてなかったな」
「それもそうだな、なににするんだ?」
「やっぱりかわいい名前がいいですよ!」
「ふー!」
約1名、人間としての言語を喋れていない輩がいるが、そこはまああまり気にしてはいけない所だろう。
セリスクとスフィアもユーブメルトの言葉には賛同したようで、少しだけ悩むそぶりを見せるが、実際の所はユーブメルトに任せていた。
「そうだな……よし、決めた。お前の名前はイネージュだ。お前の白い髪見てたら、そう思ったんだよ。安易な考えだけどな」
「ふむ…雪の違う言い名か…いいんじゃないかな? なら、イネージュ・レディナスで進めておくよ。それでいいかい?」
「……うんっ///」
よほど嬉しいのか、首を千切れんばかりに縦に振るイネージュ。
そして、イネージュはユーブメルトの方を向きこう言った。
「…ありがとう」
初めて見せる満面の笑顔で、イネージュは笑った。
その笑顔を向けられてユーブメルトはつられて、本当に久しぶりに心の底から笑った。
「ああ、これからよろしくな、イネージュ!」
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