第三話
―――翌朝。
もたらされた情報通り、ユーブメルトたちは一昨日訪れたばかりの連絡通路に集まっていた。
集まったのは計5人。
ユーブメルトとユミナ、レオリスはまあ当然の事として、スフィアとセリスクの二人までもが集まっていたのだ。
「…なんでお前ら二人がここにいるんだよ…しかも、俺たちより先に…。それに、レオリス、お前は監視役に回るんじゃなかったのか?」
「ええ、回りますよ? 見送りすらもさせてくれないんですか? つれないですねぇ」
「…あっそ…」
もはやため息と言うより、呆れ声しか出す事の出来ていないユーブメルトを尻目に、レオリスは人当たりの良い笑みを浮かべるばかり。
昨日話し合った通り、彼らにはフレリックからの出来る限り集められた、大きな2つの情報が与えられていた。
一つは、この連絡通路奥に異常とも呼べる高硬度の結界が展開され、そこから微量の闇属性の魔力が漏れ出していること。もう一つは『黒』が放つ斬撃には十二分に注意することだ。
斬撃に関しては、ユミナが身をもって経験していることであるので、他の面々に対して注意を促すことは容易。だが、不可解な事は結界が展開されていることだった。
「私がここにいるのは、『黒』とやらが万が一逃げた時の後詰になります。まあ、それすらも必要とさせないでしょうが」
「準備はし過ぎってくらいが丁度いいんだぜ? ま、お前の鷹の目で見てくれてりゃ、誰も逃げられないと思うけどな」
「ご期待に沿えるよう、尽力しますよ」
そう言って恭しく礼を行うレオリス。
芝居がかったその動きを見て、ユーブメルトは一瞬目を細めるが、彼の実力を嫌と言うほど知っているためにスルーした。
彼、レオリスは彼が鷹の獣神と契約をした共鳴者だからだ。遮蔽物がなければどこまでも見通せると言われるほどの視力と、強靭な翼を使った高速飛行。これほどまでに索敵、そして迎撃に優れた人物はいないだろう。
それを分かっているからこそ、ユーブメルトはスルーしたのだ。そして、だからこそこちらはスルー出来なかった。
「わ、私は、少しだけでも力になれればと思って来たんです!」
「そうだぜー、ユーブメルトー。水臭いじゃねーかー」
必死に自分をアピールするように言葉を口にするスフィアに対し、剣を担ぎながら少しだるそうに言うセリスク。
言葉と態度は全く両極端だが、二人の心は同じだった。
事件の事など露も知らない二人だったが、昨日夜遅くに呼び出されるのではなく、フレリックに態々訪ねてこられてしまっては驚くしかったのだ。
フレリックが言った言葉はこうだ。「彼が初めて自ら決断したんだ。彼が、彼自身が、他人のためにね。勝手なお願いだとは思うけどね、彼を、彼がやりたいことを手伝ってあげてはくれないか?」と。
正直、何だそれはと思う内容の言葉だが、二人にとってはすぐに了承できる内容だった。
二人とも、彼を助けた事もあれば、彼に助けられたこともあるのだ。悩む必要などない。
困っているのであれば、助けるだけ。そして、それが初めてユーブメルトが決めた事だとしたのなら。あの、「めんどくせぇ」「あ? いや、だって嫌なものは嫌だし」「うるせぇ、今は黙れ。眠いんだよ」のユーブメルトが自ら面倒事に首を突っ込もうとしているのだから。
友人として、彼に協力しない訳がないのである。
「いや、あのな…。水臭いとかじゃ無くてだな…」
「不幸だ不幸だって言ってるけどな、俺だってやるときゃやるんだよ!」
「いや、お前がやる事と言ったらすべて不幸だろ」
「うぐ…。でもなぁ、俺だってやるときゃやるんだよ!!」
ビリッ
「「「「………」」」」
抗議のためだろうか、セリスクが腕をなぜか振りかぶった時、ものの見事に制服の袖が破れる。
しかも、脇の付け根の方から。
「ぬぉぉぉぁぁぁ!!! なぜ、なぜ破れるんだ! 今、この瞬間にぃぃ!!」
破れた脇の辺りの制服の惨状を見ながら、セリスクが滂沱の涙を流す。
その一人芝居と言えなくもない、セリスクのいつも通り過ぎる不幸を目の当たりにした4人は、黙っているしかなかった。
いや、不幸と言っていいものなのかどうかも分からないが。
「…ぐすっ…いいんだ…俺なんて…俺なんてぇ…」
「あーあ、不幸オーラでまくりだな」
「…そうだね」
「…そうですね」
姉妹には泣き始めてしまうセリスクだが、それをユーブメルトたちは慰めようともしない。いつもの事だからだ。
レオリスに関しても、普段一緒にいる者達が何も手を出さない事を不思議に思うでもなく、ただ無言を貫き通している。
「…ま、こいつは放って置いてだ。フィー、お前はなんで来たんだ?」
「え…わ、私にも何か力になれる事があると思ったから…です。だって、あの時の借りはまだ返せてないんですから」
「…そっか。ま、俺は貸しになんか思ってないけど、手伝ってくれるんなら大歓迎だ」
スフィアのその言葉に、ユーブメルトはスフィアの頭をくしゃくしゃと撫でた。
もともとふわふわの髪質のためか、ユミナなどは髪の毛が乱れると言いながら避ける行為だが、スフィアは嬉しそうに目を細めながら撫でられている。
それを横目で、若干悔しそうにしながら見るユミナの姿は割愛するが。
「俺も! 俺もお前に借りがあるんだからな! これできちんと返してやるぜ!」
「あっそう。なら、これからは宿題とか見せてやらなくてもいいよな?」
「ぐが…それは…ちょーっと…きつい交換条件だと思うんですが…」
冷や汗をだらだらと流しながら、復活したかに見えたセリスクが沈んでいく。
セリスクの場合、ユーブメルトと違って純粋に頭が悪い。宿題をやってこないではなく、出来ない部類の人間なのだ。
そのために、基本的に毎朝宿題を見せてもらう=勉強を教えてもらうと言う行為をしているセリスクにとって、その交換条件は呑む事の出来ない条件である。
面白いように冷や汗を流しながら狼狽するセリスクを見ながら、ユーブメルトは苦笑しながら笑った。
「ははっ。まあ、別にいいさ。教える事は嫌いじゃないからな。めんどくさいもんはめんどくさいが」
「よっしゃ! そうと決まれば行こうぜ!」「
「…変わり身の早い奴…」
ガッツポーズしながら情報にあった場所に近い分岐点の入り口に立つセリスク。その現金な態度の変化にユーブメルトは項垂れながらも、セリスクの後を追いその隣に立つ。
それに習うように、ユミナとスフィアも並んでいく。
「さて、俺たちは行くぜ。レオリス、後は頼む」
「頼まれました」
後ろに控えるレオリスに声をかけながら、ユーブメルトたち四人は足を踏み出す。
その際に、セリスクは背中に蝙蝠の羽を、ユミナは2本の揺らめく白い尻尾を出し、臨戦態勢を取る。
隊列は前回と同じ。前衛に二人、後衛に二人と言う布陣。
ユーブメルト自身は、自分でこの隊列に納得しながらも悩んではいた。
「(…これが一番ベストだ。俺がどうなっていたって、これが一番ベストなんだ。…俺が囮で、後の3人には攻撃を任せる。…これで前もやったじゃねーか。なのに…なんでこんなモヤモヤしてんだ?)」
歩きながら、ユーブメルトはどこかに引っかかりを感じる自らの考えに悩んでいた。
だが、いくら悩んでも答えなどでない。自分の体の事は自分が一番よく分かるとは言うが、今のユーブメルトにはそれは当てはまらない。
フェンリルと意識を通わせ、一時はそれに預けたこの体。どんな変化が起こっているか分からないのだ。
「(考えても仕方ねぇ! 今は、あいつを…)」
「そろそろだ! 結界の魔力を探知した、だいぶやばいぜ…この魔力は…!」
物思いにふけっていたユーブメルトの思考を、先行していたセリスクの焦った声が中断させる。
そして、セリスクの方を向いたユーブメルトは気づく。薄暗い連絡通路の洞穴の中に、まださらに暗い空間があることに。
「なにこれ…こんな魔力ってあり得るの? しかもこれ全部が闇の魔力…一人で?」
「…なんか、怖いです…。あれには、なにかがあります」
「でも、行くしかねーだろ。セリスク、何か分かったことはあるか? 情報通りなら、かなり固い結界らしいんだが…」
「…だめだな。結界の中は分からない…?」
その空間を見つめながら、少女二人はその異質さに怯えの声を上げる。
片耳にその声を聞きながら、ユーブメルトは少女たちの背中を押し、セリスクに情報を求めた。
「…は? なぜ…いや、かえって好都合なのか…?」
だが、セリスクは自らの能力を使って探知したことに驚き、ただ一人で完結させようとぶつぶつと呟いている。
「おいセリスク! 何があったんだよ、こっちにも情報よこせ!」
「あ…いや、結界が一部だけ開いたんだ。結界を1か所だけ開けるなんて…正気の沙汰じゃない…」
「…へっ。招かれてんだよ、俺たちは。…いいじゃねーか。行ってやろうぜ? ご招待の通りにな」
驚きを隠せないセリスクに、ユーブメルトは若干引き攣った笑い声をあげる。
全周囲を覆う結界が1か所だけ開く。それはもはや誘っているとしか思えない。その考えの元、ユーブメルトは指示された箇所に向かって駆け出す。
「っはぁ! …ここに、ここにいるんだな? …返事しやがれぇーーー!!!」
ついてきた仲間の事などお構いなしに、ユーブメルトは結界の中に入った瞬間に叫び声を上げる。
だが、暗い空間に反響するその声に応える者は誰もなく、ただ虚しく反響する声だけが流れた。
「ちっ。セリスク、何か見つからないか? なんならここから歩いて…」
「…来たか」
苛立ちを隠そうともしないユーブメルトの声に被せるように、つい最近聞いたことのある男とも女ともつかない声が発せられる。
「…ああ、来てやったぜ? あいつはどこだ?」
「………」
ユーブメルトの声に反応するかのように、暗い空間の中ではかなり目立つ白の少女が現れる。
虚ろな表情で、なにも見えていない様な赤い瞳でユーブメルトを見つめていた。
だが、今のユーブメルトには、その表情は全く見えていなかった。
「っ! よかった、お前大丈夫だった―――」
チャキッ
「―――んだ…な…?」
明るく声を発しながら、ユーブメルトが白の少女に向かって足を踏み出した瞬間、返事と言わんばかりに突きつけられるものがあった。
「ユー!」
「待てサイレミア! 俺たちの方も、なんかやばい事になってるぜ…!」
「くっ…。なんなんですかこいつら!」
死神の鎌。それを連想させられる物を首に突きつけられながら、ユーブメルトは首を動かし、声の聞こえる方向を向く。
そこには、大小様々の化け物の姿が。大きいものはウィンディーヌほどではないが、十分人間のサイズを超えている。小さいものは人間の頭ほどの大きさ。
形も様々な化け物たちが、ユミナ達を取り囲んでいた。
「ユミナ、セリスク、フィー!」
「こっちは気にしないで!」
「そうだ、お前は自分の事に集中しろ!」
「大丈夫です! 私たちの事なら!」
助けに向かおうと声を張り上げたユーブメルトに、3人は口を揃えて来るなと叫ぶ。
歯痒い思いを感じながらも、ユーブメルトはその言葉を信じ、向き直る。
―――自らに凶器を向け続ける白の少女に向かって。
「へっ。これが、お前なのか? …俺は、なにをしてやればいいんだ? 何をすれば、お前を助けられるんだ?」
自嘲気味に笑いながら、ユーブメルトは手を広げて白の少女に語りかける。
「―――死ねばいいと思うよ?―――」
ボソッと、近くにいたユーブメルトにしか聞こえない様な声で少女は呟くと、その手に握られた鎌を振り抜いた。
ザンッ
「っ!!」
ほんの一瞬だけ聞こえた言葉と、鎌が振られる時に感じる風により身を捻ったユーブメルトは、間一髪直撃だけは防ぐ。
だが、綺麗に制服であるコートだけはバッサリと切られてしまった。
「…いきなりとはずいぶんなご挨拶なこって…」
切られたコートを脱ぎ捨てながら、ユーブメルトは言葉を吐き捨てる。
それを虚ろに開かれた目で見ながら、少女はさらなる追撃を加えていく。
鎌と言う武器の利点を生かした円運動による攻撃。一つ体を回転させながら振るわれる鎌。それをユーブメルトは身をのけぞらせながら避ける。
だが、のけぞった体勢で見たのは、さらに迫りくる鎌の切っ先だった。
「くっ! 厄介なもん振り回しやがって…」
体のバランスをあえて崩し、地面に向かって体を落下させることでその切っ先を回避したユーブメルトは、振るわれる鎌の演武をかわし続けていく。
縦、横、斜め。様々な方向から飛んでくる鎌の一撃を、不恰好ながらも避けていくユーブメルト。だが、振るわれる鎌の余波までもかわすほど器用ではない。微妙にかすることもあるために、ユーブメルトの服はボロボロになっていった。
「がっ!」
片手一本で振るわれた鎌が、片手と言う事で不安定になり、揺れる。その揺れを察知できなかったユーブメルトは、右腕を浅く切り裂かれる。
浅くとは言っても、引き裂かれているためにその断面は鋭利そのもの。流れ出る血を抑えながら、ユーブメルトは額に浮かんだ汗をぬぐった。
「…やっぱ…このままじゃ色々と無理だよなぁ…。あー、ほんとめんどくせぇ」
ため息を吐くように、ユーブメルトはいつも通りの悪態をつく。斬られた右腕の部分を抑えながら言っているために、あまり格好はついていないが。
だが、このままでは埒が明かない事も、きちんとユーブメルトは分かっていた。
今までの戦法は、魔法が使えない、共鳴者でもないユーブメルトが囮になり、生じた隙に残る3人が攻撃魔法をぶち込んで終わり、と言うものだけだ。
そして、今この瞬間ではその攻撃役の3人はどこからか現れた化け物に囲まれて援護に意識を使う暇はない。
この場は、ユーブメルト自身の力で切り抜けるしかないのだ。
「―――死ねばいいと思うよ?―――」
2度目の提案。まったくもって魅力的ではない提案のため、ユーブメルトはその提案を呑む気はさらさらなかった。
そして、再び振るわれ始める鎌の演武。その円運動を主とした攻撃に、ユーブメルトは活路を見いだせないでいた。
相手は刃物を持って振るっている。対して、こちらは無手。手甲すらもつけていていないために、その刃物に触れて叩き落とすと言う芸当もできない。
その考えに至って初めてユーブメルトは後悔した。
―――ああ、俺も何か武器の扱いを習っておけばよかったな、と。
だが、いまさら悔やんでも遅い。今この瞬間にも振るわれる刃はユーブメルトの命を刈り取ろうとしているのだから。
だからこそ、今ユーブメルトにできる事は一つしかなかった。
「おい! 聞こえてるか!? 俺だよ、お前が銀とか言ってた奴だ!」
説得、もしくは言葉による無力化。それしか出来る事はなかった。
「………」
しかし、その言葉に反応はない。ただ、虚ろな目をしたまま鎌を振るい続けるだけ。
「…どうした、銀。…それで終わりか?」
ユーブメルトが再度言葉を発しようとした所で、ようやく『黒』が言葉を発した。
この暗い空間に置いてもはっきりと見える『黒』の異質さ。だが、今はユーブメルトの頭にはその現象に注目できるほどの集中力はなかった。
「ああ、終わりだよ! 俺には何もないからな! だから…!!」
グサッ
「がはっ! …こうするしか、ないんだよ…!」
右腕を差し出し、自らの右腕を犠牲にすることで鎌の動きを止める。
その無謀極まりない行為に、白と黒の二人は目を見張った。
「…何をバカな…」
「バカで…結構! こうするしかないんだよ! なに、魔法使えばすぐに治る。だからなぁ…」
鎌が突き刺さった右腕を睨み、その先にある鎌を掴むユーブメルト。
そして、思いっきり左手を振りかぶり―――
「こんなもん、へし折ってやらぁ!!!」
―――思いっきり、振り下ろした。
バキィッ!
ユーブメルトの左手により、少女が握っていた鎌の刃が、半ばから綺麗に折れる。
その破天荒とも言うべき行為に、この場にいる者すべてが注目した。
「…ははっ。やってみるもんだな…」
苦笑いを浮かべながら、血が流れ続ける右腕を抑えるユーブメルト。
だが、その押さえている左手も、先ほど鎌を殴り折った影響か、かなり大きく赤く腫れ上がっていた。
それに加え、見た目的にはかなりボロボロな制服。誰が見ても満身創痍と言えるだろう。
「………ぁ」
「…おい、聞こえてるか?」
そんな状況にありながらも、ユーブメルトは動くことを、手を伸ばすことを止めなかった。
虚ろだった表情に、どこか怯えの色が混じった顔で、手を伸ばしてくるユーブメルトに向かって折れた鎌を構える少女。
向けられた切っ先。折れているとは言っても、十分に鋭利なその切っ先に構わず、ユーブメルトは手を伸ばす。
「ったく…なんでこんなことしてんだよ、お前。それに、この程度では殺せねーよ、俺は」
「…来ないで…でないと…」
「あ? お前が何言っても、俺は行くぜ」
「…殺すことになってしまうから…そんなこと…したくない!」
初めて聞いた。そう思えたのも一瞬。少女の体が動き、ユーブメルトに向かって突進した。
「…がはっ!」
その突進をもろに喰らい、後方へと弾き飛ばされてしまう。
つい先ほどまでは追撃をかけていた少女だったが、今回は何もせず『黒』の元へと向かってその歩みを進める。
「……まだ、か…」
「ぐぅ…あああぁぁぁ!!!」
『黒』の元にたどり着いたとき、白の少女は苦悶の声を上げた。
―――その身を蹂躙する、黒い雷によって。
「っ! てめぇ、なにしてんだ!」
「……兵器は兵器らしく、人の手の中にあり従うのが道理。…従わないものには、罰を与えるだけ」
ドクン…
その言葉を聞いた瞬間、ユーブメルトは全身の毛が粟立つ感覚を覚えた。
「…お前…」
ドクン…
レオリスと教室でやりあった時のような魔力の嵐が、ユーブメルトを中心にして巻き起こっていく。そして、それと同時に進行するかのように、彼の髪の色の変化も。
「そいつはな、生きてるんだよ! 兵器だろうがなんだろうが、生きてるんだよ! 人の命を、人の手の中でなんて、ふざけんじゃねぇ!」
ドクン…!
魔力が吹き荒れ、今まで暗かった空間を吹き飛ばすかのように塗り潰していく。
「俺は…そいつを助けるって…! 一人じゃない事を見せてやるって…そう思ってここまで来たんだ! お前がそれを邪魔するって言うなら…俺は、お前を倒す!!」
ドクン!
「フェンリル! 聞いてんだろお前! 何でもいい、俺が俺であるために、俺の願いのために力を貸せぇぇ!!!」
―――そうだ、欲せ。わらわの力を。さすれば、全ての力を委ねてやろう。わらわの主たる者の想い、しかと見届けた―――
髪の色がすべて銀色に変わり、瞳の色までもが銀色に染まった時、ユーブメルトは吠えた。
内なる声に従って。
「ガァァァァァァァ!!!」
吹き荒れていた魔力の嵐が、収束しながら密度を濃くしていく。
掲げられたユーブメルトの手に向かって収束する魔力は、膨大な量の雷となり、一息にでも人の命を吹き消すことが出来るほどに凝縮される。
そして、ユーブメルトは叫んだ。
「これが、俺の力だ!! 誰にも、俺の邪魔はさせねぇ!! 『雷雲ノ牙』!!」
振り下ろされた手から放たれたのは、大きな雷で象られた狼。
その雷撃の牙は、ユミナ達を囲んでいた化け物たちを蹂躙し、一体ずつその命を終わらせていく。
「ユー! すぐに回復を!」
「へっ、やってくれるじゃねーか」
「やっぱり、ユーさんは凄いです…」
囲まれたいた所を助けられたユミナ達は、真っ先にユーブメルトの元に向かい、その満身創痍な体を守るように取り囲む。
そして、すかさず発動されたユミナの光魔法がユーブメルトの傷を癒していく。
「…さぁて、これでどうだ? 4対2、意外と厳しい数字じゃねーの?」
「私たちの全力、見せてあげます!」
一番前面に立っているセリスクとスフィアが、挑発する声を上げる。だが、その挑発に乗るような馬鹿ではない。
「…銀狼が目覚めたか…ならば、役目は果たせたな…それに…これは少々分が悪い…」
「っ! 待ちやがれ!」
保健室で消えた時のように、まるで周囲の暗い雰囲気に溶け込むかのように消えてしまう『黒』。
だが、今回は前回と違う点があった。
少女の存在が消えてはいなかったのだ。
「………」
『黒』が消えたと同時に消えた結界の中で際立っていた白い髪も、戻ってしまった世界では対して注意をひかない。
だが、生気のない瞳でこちらを見つめられていては、気にならないと言った方がおかしいだろう。
そして、その証拠にユーブメルトは無言で手を差し出した。
「……え?」
「ほら、行くぜ?」
「……でも…」
「怪我させたことか? そんなもんどうだっていいよ。この世界には魔法って言う便利なものがあるんだから、使わなきゃ損だぜ?」
「………」
「ああもう鬱陶しいな! 手を取れ! 俺にはお前が必要なんだよ! 俺が…俺が変わるために!」
「…必要?」
「ああ、俺にはお前が必要なんだ。それに、お前は一人じゃないさ。これからは、俺が一緒にいてやる」
「……うん」
差し出された手を、ようやく少女は握る。
ユーブメルトの台詞はあまり理解できなかったようだが、それでも少女は手を取った。
一緒にいてやると言ってくれた、心優しい少しめんどくさがりの少年の手を。
感想等々待ってます。
誤字脱字誤変換等の指摘も歓迎。




