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第40話 グラデーション塗装って、つくれちゃう?

 

 準備を済ませ、塗装ブースが置いてある机の前に座ろうとした乃亜だったが、いきなり塗装するのは不安だったのか、隣にいる葵に早速ヘルプを出す。


「ねえ、まずは赤ちゃんが手本見せてくれない? そっちの方が分かりやすいというか……」


「分かりました。確かに最初はイメージが掴みにくいですよね」


 席を変わった葵は自分用の保護メガネと防毒(ぼうどく)マスク、両手にニトリル手袋を付けると、塗料ビンから調色スティックで塗料を取り分け、塗料皿に移すと混色した塗料1に対し、薄め液を2の割合でよく混ぜ合わせる。


「エアブラシの使い方は覚えていますか?」


「うん! イメトレもしてきたし」


 塗装ブースのシロッコファン(換気扇)は回していたのでブース内のLEDライトを点灯し、葵はエアブラシの塗料カップに調色した塗料を注ぐと、まずはプラスプーンに試し吹きする。


「オッケーですね。肌のグラデーション塗装ですが、まずはベースとなるハイライト色ではなくシャドー色、いわゆる影となる部分を先に塗っていきます。具体的にいうと、下半身では腰のくびれや鼠径部(そけいぶ)――太もものつけ根ですね。あとは(くぼ)みやヘソなど、影になる部分をピンポイントで塗っていきます」


 葵は塗装クリップ(持ち手)を付けた右脚のパーツを手に取り、右手に持ったエアブラシを近付けて太ももの付け根あたりに薄く色を塗る。


塗膜(とまく)は薄いのですぐに乾きます。塗る時は一度に厚く塗らず、薄く重ね塗りすることがポイントですね」


 鼠径部(そけいぶ)の他にも、(ひざ)膝裏(ひざうら)など影になる部分に葵は数回に分けて薄く色を乗せる。


「自然の影だけでは立体感がでませんので、シャドーを入れないと肌が全体的にのっぺりとしたイメージになってしまいます。そのため、濃淡を付けて立体感を出させます」


「へぇ~、なんかカラーのイラスト描くのと似てるかも」


「そうですね。シャドーを軽く付けた後、今度はパーツ全体――ハイライト部分にも薄く吹いて色を乗せていきます」


「てか、まだレジンが透けてる感じ? なんか白っぽい」


 乃亜は体が触れそうなぐらい密着し、葵の手元を()き込む。


 普段の葵なら取り乱していたはずだが、作業モードである葵はすぐ真横に乃亜の顔があっても平然として狼狽(うろた)えることはなかった。


「クリアカラーなので、薄く吹いた状態では下のレジンが透けますが、まずはこれくらい薄い方が良いです。色を重ねるほど濃くなっていきますが、一度濃くなった部分は元に戻せないため、色を薄く重ねていくのがコツですね」


 全体のバランスを見極めながら色を吹いていく葵は、シャドー部分の色がハイライトよりも薄くなると、先程と同じようにピンポイントでシャドー部分に色を乗せ、他と色のメリハリが出るように調整する。


「今回はグラデーションで、透明感を出すサフレス塗装なのでクリアカラーを使っていますが、サフレス塗装をしない不透明な肌塗料の場合、白サフで下地を塗装して肌色のベースを塗り、少し濃い色でオーバーコート――つまり、上塗りしてシャドー部分を出します」


「へぇ~、塗装にも色んなパターンがあるんだ。なんか奥が深いわ~」


 慎重に何度も薄く重ね塗りし、葵はエアブラシをホルダーに置く。


見習い天使(エリス)は色白なので、この程度が肌に透明感があって良いと思いますがどうでしょうか?」


「エグいて! ガチ最高だし! キャパいわ~!」


 乾燥台に立てた葵の塗装見本を前にした乃亜は、うっとりとした表情で思わず見入ってしまう。


「レジンを()かした透明感ヤバっ! マジエモいわ」


「では、残りのパーツは綾音さんにやってもらいますね」


「お、おけ! 今ので、なんとなくイメージできたし」


 乃亜は葵と交代して塗装ブース前の椅子に座る。


「細かいパーツについてですが、手先の指の間など小さい隙間(すきま)や奥まった部分は塗料が入りづらいため、そのような部分は先に面相筆(めんそうふで)で色を塗っておきます。細かい部分を筆で塗った後、広く大きい部分をエアブラシで塗っていくという順番ですね」


 葵は机の上に置いてある面相筆(めんそうふで)を手に取って乃亜に見せる。


面相筆(めんそうふで)は、顔など細かい部分を描くために先が細くて長い筆です。ドールメイクや、ガレキ製作だとアイペイントなどでも使用しますね」


「へぇ~、筆も使うんだ」


 肌用の中間色で指先などを先に塗った後、乃亜はいよいよエアブラシ塗装に移る。


 うがいでエアブラシの塗料を撹拌(かくはん)し、試し吹きの後に深呼吸した乃亜はパーツを手に取った。


 真剣な眼差しでパーツを見つめる乃亜は指先に神経を集中し、手を止めずにエアブラシを動かして薄くシャドーを付け、次にパーツ全体に色を吹きながら薄くなったシャドー部分に再び色を乗せる。


「吹く色は、常に薄くなるよう心掛けて下さい。手を止めると、その場所は色が濃くなるので注意が必要です」


 慎重に色を乗せていった乃亜はエアブラシをホルダーに置き、深く息を吐くと葵が手本で塗装したパーツと色を見比べ、差がないことを確認する。


「あ、赤ちゃん……ど、どう?」


「――良いと思います! 同じ要領(ようりょう)で他のパーツも塗装していきましょう」


 肌を塗るパーツを全て仕上げた乃亜は葵にチェックしてもらった後、オッケーが出ると肩から力を抜いた。


「ガチ疲れたけど、めっちゃ達成感あるわ~!」


 エアブラシをホルダーに置き、乃亜は強張(こわば)った筋肉を伸ばすように腕を突き上げ、大きく伸びをする。


「塗装が終わりましたら、仕上げにつや消しクリアーを吹いてコートします」


「ネイルの仕上げにやるトップコート的なやつ?」


「役割は同じだと思います」


 葵は机の横にある(たな)からつや消しクリアーのスプレー缶を取り出すと、まずは手本を見せる。


 スプレー缶をしっかりと振った後に2~3回ほど試し吹きを行い、パーツから20センチ以上離したところから、手を横切らせるように素早く動かして腕のパーツに吹いて見せる。


「へぇ~、つや消しクリアーだとマット肌になる感じか」


「光沢クリアーだと逆にツヤが出ますね。半光沢というのもあります。この辺りはキャラクターによって変えますので好みの違いかと思います」


 乃亜は葵のアドバイスを受けながら、グラデーションでサフレス塗装したパーツにつや消しクリアーを吹き終わる。


「赤ちゃん。マスキングした靴下部分は?」


「あとで塗り分けますよ」


 肌のサフレス塗装が無事に終わり、ふと葵が机の上にある置き時計を見ると、すでに正午を過ぎていた。


「いつの間にか、お昼になっていますね」


「めっちゃ集中してやったからね~」


「俺はお昼の準備をしますので、綾音さんはエアブラシの洗浄をお願いできますか?」


「おけえ! 肌が終わったから次は別の色だし、どっちみち洗浄しないとだし」


 こうして葵はキッチンに向かい、乃亜はそのまま作業部屋に残ってエアブラシの洗浄を始めた。



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