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第23話 粉塵対策って、つくれちゃう?

 

 続いて葵は、作業机の上に紙ヤスリとスポンジヤスリ以外の道具を並べる。


「俺が表面処理でよく使う道具ですが、デザインナイフにナイフ型のダイヤモンドヤスリ、セラカンナ甲刃、マジ・スク(マルチジルコニアスクレーパー)ですかね」


「なんか……どれも形は似てる気がする……」


「見た目は似ていますが、各ツールは得意とする作業が違っているので使い分けます」


 最初に葵は、ペンの先が刃になったデザインナイフを手に取る。


「デザインナイフが一番基本的なツールですね。切る・()る・(けず)るなど色々な使い方ができます。刃は交換式なので替刃(かえば)は持っていた方が良いですね。ガレージキットは基本的にデザインナイフと紙ヤスリ、スポンジヤスリがあれば製作できます」


 説明に張り切る葵は、怒涛(どとう)のごとく残りの工具も一気に解説する。


「ナイフ型のダイヤモンドヤスリは、ナイフ型をした部分が全てヤスリになっていますので、形を生かして様々なパーツに使えます。セラカンナ甲刃、マジ・スク(マルチジルコニアスクレーパー)は、刃の部分がセラミックのブレードになった切削(せっさく)工具です」


「あ、赤ちゃん?」


「――大まかなパーティングラインはセラカンナ甲刃、服やリボンなど細かく入り組んだ部分のパーティングラインなどの処理は、マジ・スク(マルチジルコニアスクレーパー)が使い勝手が良いです」


 解説を終えた葵は一息ついて乃亜の様子をうかがうが、息もつかせぬ説明だったせいか乃亜の頭では全く理解できず、ポカンとした顔のまま、作業机の上に並んだ道具を見下ろしていた。


「す、すみません! 説明していたら調子が出てきて、一気に紹介してしまいました……」


「わかる! 自分の得意なことってさ、話し始めると止まらなくなるよね」


 思い当たる節がある乃亜はフォローしてくれるが、葵は調子に乗ってしまったと反省する。


「説明だけでは分かりづらいので、まずは俺が手本を見せますね。これらの道具以外にも専用のツールがたくさんありますが、全て(そろ)えなくても実際に使ってみて、使いやすいと思ったものが一番です」


 作業を始める前、葵は棚の下からドライボックスを持ってくる。


「綾音さん。今から表面処理でヤスリがけをしますが、パーツをヤスリで(けず)るとレジンやパテの粉塵(ふんじん)――つまり、削りカスが発生します」


「パーツを(けず)るんだし、とーぜん出るよね?」


「この削りカス――粉塵(ふんじん)は体に良くありません。プラスチックの粉を体内に吸い込むことをイメージしてもらえば、その意味が分かるかと思います」


「え? それヤバいんじゃ……」


「はい、ヤバいです。表面処理など、ヤスリがけの時には粉塵(ふんじん)から身を守るため、俺は保護メガネと防塵(ぼうじん)マスクを着用して作業しています」


 葵はドライボックスの(ふた)を開け、目の周りを全て(おお)う保護メガネと、フィルター付きの防塵マスクを取り出して乃亜に見せた。


「この、防塵マスク? なんか業者の人が使ってるやつじゃない?」


「そうですね。家庭用ではなく、専用の工業用を使っています。きちんとした規格のもので防護しないと、安全性に不安がありますので」


 葵がそこまでして粉塵(ふんじん)対策していることを知り、作業の裏にある危険性を乃亜もしっかりと認識する。


粉塵(ふんじん)対策は、保護メガネと防塵マスク、あとは塗装ブースを使っています」


「塗装ブース?」


 葵は作業机とは反対側の壁際に設置された、別の机に置いてある箱型の物体を乃亜に見せる。


「塗装作業の時に詳しく話そうと思っていますが、簡単に説明すると塗装ブースは換気装置です。塗装の際に舞ってしまう塗料を吸い込むためのものですが、ヤスリがけの際に使えば、舞い上がった粉塵(ふんじん)を吸ってくれます」


「へぇ~、別の使い方もできるんだ」


「他にも、防水ヤスリと水でヤスリがけする〝水()ぎ〟、専用の集塵機(しゅうじんき)やタッパーなどで自作する集塵機(しゅうじんき)、代用品としてネイルダストコレクターという、ネイル集塵機(しゅうじんき)を使っている方もいらっしゃいますね」


 乃亜は〝ネイル集塵機(しゅうじんき)〟というワードに思わず反応する。


「それって、あの……こう四角くて、置いて使うやつだよね?」


「基本的な形はそうですね。綾音さん、もしかして使っているんですか?」


 乃亜がネイルについて詳しいことを葵は思い出す。


「あたしじゃなくて、莉里奈(りりな)がね」


(莉里奈って……綾音さんの友達の金髪ギャル(不知火さん)か)


「莉里奈はネイルに超(くわ)しくてさ、セルフネイルもやってんの。でさ、ジェルネイルのオフとか、スカルプ(ネイル)のサンディングの時とか、ファイルっていう――あっ、ファイルっていうのは(つめ)ヤスリね。で、ファイル使う時、ネイルダストが出るからって、ネイル集塵機(しゅうじんき)を使ってたの思い出してさー」


「ガレキやプラモ製作のヤスリがけ時に使っている人もいますが、本来の用途はネイル用ですよね」


「莉里奈がネイルダストのことをさ、なんか説明してたけど真面目に聞いてなくて。ふつーに散らからないためかと思ってたけど、あれも粉塵(ふんじん)対策用なのか」


「そうですね。ネイルも種類があると思いますが、樹脂(じゅし)が使われていますよね?」


「それ! ジェルもスカルプもよく考えたら樹脂(じゅし)じゃん! あーね! なんか共通点あると、めっちゃ分かるわ~!」


 全く異なった分野だと認識していた乃亜だったが、ガレージキットやプラモデル製作がネイルの一部の作業と共通していることが分かり、より教養が深まったような気がした。


「――ねえ赤ちゃん。そのボックス、他にもマスクとか入ってるけど、予備とか?」


「これは塗装の時に使う防毒(ぼうどく)マスクですね」


 葵はドライボックスから防毒マスクを取り出し、作業机の上に置いていた防塵マスクの隣に置く。


「防毒マスクは塗料から気化した有機溶剤など、粒子やガスを吸着するものです。防塵マスクはフィルターですが、防毒マスクには吸収缶というガスを吸着してろ過するものが付いています」


「へぇ~、こっちも専門のやつなんだ」


「そうですね。塗料時に使う防毒マスクの吸収缶は、有機ガスと防塵の一体型になったものを使っています。保護メガネに防毒マスク、そして塗装ブースを併用することにより対策しています」


 乃亜はガレージキット製作において重要なのは、作業の技術ばかりと考えていたが、工程によっては健康被害を引き起こすものがあることも知り、無知なのは危険だと深く心に刻んだ。


「マスク本体と保護メガネは、予備がありますので使って下さい。フィルターや吸収缶も揃っていますよ」


 葵は予備として保管していた新品の防塵マスクとフィルター、保護メガネを乃亜に渡した後、付け方やフィルターは交換式になっているなど、防塵マスクの説明を一通り行った。


 こうして準備が整い、顔に保護メガネと防塵マスクを付け、塗装ブースの前に座った乃亜は各パーツの表面処理に入る。



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