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北の森の魔女 "The Baba Yaga of the Northern Forest" 第3シーズン  作者: 鉄猫


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袋の鼠

 その日、魔女たちを乗せた2輌のHMMWVは、山間の道を走っていた。とある村の案件を終えたばかりで、あとは小屋に帰るだけだった。自然と気も緩み、ハンドルを握る者以外はうとうととする時もあった。

 そして小さな谷間に入る。

「なんだ?」

 道の真ん中に木を組んで作った馬防柵があった。それを見た魔女が叫ぶ。

「バックだ!」

 声に反応したナットが後ろを見ずに車をバックさせる。万が一の時にと、車間距離を開けていた2台目の運転手レンチはあわててバックしようとした。その時、その後ろに斜面の上から複数の岩が転がり落とされてきた。大きな音がして、後方の車輛がとまる。

 魔女は状況を察した。

「降車!」

 魔女とナットがHMMWVから転がり降りる。その様子をシュウジは不思議そうな顔で見ていた。

「この中の方が安心だろ?」

 魔女が叫ぶ。

「早く出ろ! 車の中は死の罠になる!」

 魔女の剣幕に驚いたシュウジはHMMWVから慌てて外に出る。その直後に伸びてきた射線がHMMWVの車内に飛び込み、ファイアボールが炸裂する。

 その光景を後方の車輛で見ていたボルトが銃を手に飛び出す。

「メム!」

「さがれ! ボルト!」

 不意に斜面の一部が上に開いた。そこから手に槍を持った一群が飛び出して来る。板の上に砂をまき、その下に隠れていたのだ。ボルトは反射的に銃弾を撃ち込み、後方の車輛に戻る。

「あたしが蹴散らしてやる!」

 するりと銃座から屋根の上に出たラチェットに、どこからか飛んできたマジックミサイルの束が直撃する。ラチェットは口からくぐもった悲鳴をあげて転がり落ちる。

 魔女とナット、シュウジの3人は破壊されたHMMWVの近くに固まり、槍を持って突撃してくる一団と交戦していた。最初の不意打ちを銃撃で防いだが、相手は槍衾を作って、ゆっくりと間合いを詰めてくる。魔女が銃を構えると姿勢を低くし、さがる。まるで猛獣を囲んで狩ろうとしているかのようだった。

「くそっ、リベットがいれば……」

 ボルトは悔しがった。リベットなら、持ち前の装甲でこのような包囲陣は楽々と突破できる。レンチがようやく車輛を下り、銃を手にボルトの横まで這ってくる。

 わぁっという声を上げて槍兵が突っ込んでくる。ボルトとレンチはそちらへ銃弾を浴びせる。すると槍兵たちは下がり、今度は逆側の槍兵が突っ込んでくるのだ。自然とボルトとレンチは背中合わせになり、強力な弾幕を張れなくなった。

 魔女は戦場を見ていた。この待ち伏せを企画したリーダーがいる。あと、魔法使いが最低一人いる。

「ボルト!」

「yes! メム!」

「ラチェットの様子は?」

「動いてません!」

「いいか、銃座には戻るな。相手はそれを待ってる」

 おそらく、後方の車輛に逃げ込んだところを一網打尽にするつもりなのだろう。槍兵が数に任せて突っ込んでこないのも、槍兵が命を賭けるほどの金をもらっていないか、リーダーに対しての忠誠心が無いからだろう。とはいえ、完全な待ち伏せのど真ん中に入ってしまった事には違いがなかった。

「……眼が……」

 ボルトがぱちぱちと眼をしばたかせた。そして叫ぶ。

「眼が見えねぇ!」

 ボルトの眼が何も映さなくなったのだ。

「ボルト!」

「くそっ! 魔法にちがいねぇ」

 それを見た槍兵が突っ込んでくる。ボルトはM4を構え、それらしい方向に向かって撃つ。

 魔女たちは窮地に陥っていた。

「いいかい、わたしから離れるな」

「わ、わかった」

 シュウジは魔女の背中に背をつけ、剣を抜いた。がくがくと震えている。

「怖いか?」

「あたりまえだろ!」

「ベローウッドの戦いに比べれば、こんなものはピンチでも何でもない」

「なんだよそれ!」

「昔話さ」

 魔女はM14を構え、槍兵の何人かの頭を吹き飛ばす。槍兵がその様子を見て後退する。

 ナットはグレネーダーを構えてぴくりとも動かない。槍兵に向かって撃てば、自分たちもその爆発範囲に巻き込みかねないのだ。だが、ナットは敵の動きを観察し、いつでも発砲できるように待機しているのだ。

 目の見えなくなったボルトが手探りで弾倉を入れ替える。そこに槍兵が槍をくり出す。それを見たレンチが振り返り、短い連射で槍兵を撃ち倒す。すると逆から槍兵が突っかかり、レンチは慌てて向き直って銃撃をくわえる。

「マガジンの交換を狙われたら……」

「万事休すってやつだな」

 ボルトはチャージングハンドルを引き、弾を装填する。次のマガジン交換のチャンスはないだろう。

「ラチェットはどうしてる」

「倒れてる」

「そうか」

 ボルトはふっと息を吐いた。先に逝ってしまったか。すぐに自分たちもそれを追うことになるだろう。と一瞬思った。だがすぐにその想いを打ち消す。ここを逃げ延び、生き残るのだ。

 レンチは機関銃を構えたまま意識的に大きく呼吸した。緊張で息をするのを忘れないためだ。その眼の端で、ラチェットの手が動くのが見えた。

「ラチェット! 動かないで! 今は死んだふりを!」

 相手は待っているのだ。ラチェットに駆けよれば、そこを二人まとめて吹き飛ばすつもりだろう。機会があれば、ラチェットに魔法を撃ち込んで、仲間を呼ぶ声を出させるかもしれない。だから今は死んだふりをするのが妥当である。

 魔女は頭の中で戦場の様子を作図する。破壊された車輛の位置と、ラチェットが転がる位置を記入する。そして、魔法の射程距離の円を描き、その2回の攻撃を可能とする地点を導き出す。

 魔女はナットの肩を叩く。そして、斜面のある一点を示した。ナットは素早くそこにグレネードを撃ち込んだ。斜面にあった岩が吹き飛ぶ。しかし、岩の破片は飛び散らない。

「やっぱりな」

「何が?」

 シュウジが聞く。

「イリュージョンの魔法で、自分を隠蔽していたんだよ。岩に見せかけてね」

 それまで岩のあったところにローブ姿の魔法使いが見える。とっさに防御魔法を発動させたらしく、あまり傷ついてはいないようだった。

「ナット!」

 ナットがグレネードを放つ。魔法使いは防御魔法でその爆発片を防ぐ。そして、次の瞬間魔法使いは3つに分裂した。何が起こったのかシュウジはわからなかった。魔法使いはそれぞれ5mほどの距離をあけて、まったく同じ動きをしている。ワンドをあげ、呪文を唱える。稲妻が魔女たちを捉える。とっさに伏せた頭上を抜け、電気の塊が壊れたHMMWVに命中し、周囲に飛び散る。

「死んでないだろうね?」

 魔女がシュウジに聞く。自分が一瞬死んだかと思っていたシュウジは、何度も大きくうなずいた。

 槍兵がじりじりと包囲陣を詰めてくる。ボルトは弾倉交換をあきらめ、拳銃を抜いた。レンチも同じように拳銃を抜く。機関銃の弾倉交換はライフルとは違い、それなりの時間を必要とするのだ。

 3人の魔法使いはまたワンドをあげた。その姿を見たシュウジが何かを気づいた。

「あの右端の奴……足が地面についてない」

 魔女がその言葉を聞いてそちらを見る。確かにそれの足は宙に浮いていた。

「でかした!」

 魔女はM14を構え、右端の魔法使いを撃つ。銃撃を受けた魔法使いの姿が消える。魔女は銃口を素早く動かし、もう1体を撃つ。それは一瞬ぶれた。

「なるほど、そういうことかい」

「何が?」

「3体の間を本物が行ったり来たりしていたのさ。当たりをひいても、すぐに移動しちまうというわけだ」

 魔女はM14を構え、慎重に照準する。

「確かに剣や魔法では、この速度では対処できんだろうて」

 魔女は3発目を魔法使いに命中させた。魔法を発動させようとしていた魔法使いが、悲鳴をあげてのけぞり、斜面に転がる。魔女はそれにさらに1発を撃ち込む。

 ボルトの眼に光が飛び込んできた。目が見えるようになったのだ。

「ボルト!」

「銃座につけ! レンチ!」

 ボルトは拳銃を構え、前後の槍兵に射撃する。その援護の元、レンチがHMMWVに乗り込み、銃座につく。そしてミニガンを起動させた。

 あとは一瞬だった。ミニガンの暴力的弾幕が一瞬にして槍兵たちを肉塊に変えた。レンチは反対側に銃口を向け、射撃する。

 それを見た魔女は立ち上がろうとする魔法使いにとどめの一発を送り込み、シュウジとナットと共に、後方のHMMWVまで後退する。それを追おうとした槍兵はミニガンに一掃される。

「ナット、斜面上部にグレネードを」

 ナットはグレネーダーを構え、左右の斜面の上にグレネードを撃ち込んだ。岩を落とした連中を制圧するためだった。

「メムが代わる。ラチェットを見てくれ」

「わかった」

 レンチが銃座からおり、魔女がその位置につく。レンチが地面に伏しているラチェットに近づく。

「……助けに来るのが遅い」

「しょうがないでしょ」

 レンチは治癒魔法をラチェットにかける。本格的な治療はここを逃げ延びてからだった。レンチはラチェットを担ぎ上げ、後部座席に乗せる。

 ボルトとナット、シュウジが前に走り、馬防柵を動かす。重くはあったが、興奮によるアドレナリンの放出が、普段より大きな力を発揮させた。馬防柵を道の脇にどける。

 HMMWVに戻ったナットが運転席につく。ボルトはM4に新しい弾倉を入れて窓から銃口をつきだす。シュウジが後部座席に飛び込むように乗ると、ナットはHMMWVを発進させた。

 HMMWVはできる限りの速度で山道を走り、周囲を見渡せる高台で停まった。

「さて、休憩と行こう」

 魔女の声で、皆が車輛から降りる。突然の戦闘での疲労で、みなぐったりと地面に膝をついた。ラチェットに治癒魔法をかけ、ある程度回復するとラチェット自身が自分に魔法をかけた。ボルトとナットが互いの装備を確認し合い、マガジンやグレネードを装填しなおす。

「よく見てたな」

 魔女はPETボトルで水を飲んでいたシュウジの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。シュウジは半分照れながら、顔をあげた。

「俺もチームの眼の一つだ。銃は使えないけど、見ることはできる」

「そうかい。それは頼もしくなったな。次も頼む」

 魔女はシュウジの肩をぽんと叩き、ラチェットの方に向かった。

「誰の差し金でしょうかね?」

 ラチェットの様子を見ている魔女にボルトが聞く。

「さぁな。わたしの首を獲りたい奴はまだまだいるってことさ。今に始まったことじゃない」

 魔女は背を伸ばし、辺りを見回した。誰が来ても結果は同じさ、と魔女は思った。


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