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北の森の魔女 第3シーズン  作者: 鉄猫


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その声を聞いた。

※このエピソードは、現代日本においてはセンシティブな内容を含んでいます。

舞台となる世界の様子を描写するために必要なエピソードとして、公開します。

 その日魔女は馬に乗り、とある山の坂道を歩いていた。

 北壁の近くの町で、そこの顔役と仕事の交渉に行っていたのだ。一人の時や、あまり目立つことを避ける場合、HMMWVではなく馬を移動に利用していた。

 全身を外套で隠し、フードを深くかぶる。敵に気づかれないことも、無駄な戦いを避ける一つの手段である。どこで誰が狙っているかはわからない。

 馬はゆっくりと坂を登っていく。その背に揺られ、魔女は小さく昔のヒットソングを口ずさんでいる。

「ん?」

 坂を登り切るところで、向こうから一人の男がやってくるのが見えた。男は魔女に気づくと、道を開ける。

 魔女は何かを感じ、男の様子をまじまじと見た。一見農夫風の服装ではあるが、どことなくそうではない気がした。筋肉の付き方が、粗食で仕事をしている農奴と違うのだ。「こいつは肉を喰っている」そう思った。

 男の方は、魔女の方を見ずに道を譲っていた。魔女は馬を先に進めた。

 道は森の中に続いている。北の森はまだ先である。と言っても、のんびりと道行きを楽しんでいるわけにはいかなかった。仕事の手筈も整えねばならない。

 そんな考え事をしている魔女の前を、一人の子供が横切った。魔女は慌てて馬を止める。

 いななく馬に驚いたのか、子供は後ろに転んだ。そして大声で泣いた。魔女は馬を降り、子供をあやそうとする。

──なぜ、こんなところに子供が?

 まだ幼い子供だった。生まれてから数周期といったところだろう。そんな年の子供が、こんな昼間に森の中にいるはずはなかった。このぐらいの歳なら、親の仕事の手伝いをしているところだ。

 魔女はフードをあげ、笑顔を見せる。半泣きの子供のあちこちを検分し、ケガが無いことを確認する。そして、魔女はあることに気づいた。その子には、片腕がなかった。戦災で失ったわけではなさそうだった。生まれつき右腕が無いのだ。

「そっちに行ってはダメだと……」

 森の中から、年若い女がやってくる。女は魔女を見て立ち止まり、明らかな警戒の素振りを見せる。

「ああ、ただの旅の者だ。とにかく、この子をどけてくれないか? 先に進めない」

「そうですね。少々お待ちを」

 女は子供の手をひく。が、子供は魔女の外套をひしっと握りしめ、ぶーっという顔をする。

「こりゃ大変だ」

 魔女は笑って肩をすくめた。

「離してくれないようだねぇ」

 魔女は立ち上がり、若い女の方に言う。

「家は近いのかい? 無理に引きはがすのは夢見が悪い。この子がいいと言うまで付き合うさね」

 女は逡巡していたが、子供が魔女の陰に隠れるのを見て、しょうがないと肩をすくめた。

「では、こちらへ」

 魔女は馬の手綱を手に、女の後を子供とともに歩いた。

「ここです」

 道からほんの少し森の中に入ったところだった。けっこうな広さの空き地であった。そんな中に、木の枝や倒木で作った粗末な掘っ建て小屋が並んでいる。

 魔女が驚いたのは、そこにいる人達だった。子供である。それも数人ではない。見えるだけで十数人はいる。

「…………」

 子供たちを見ていた魔女の眼が細くなる。空き地で遊んでいる子供たちは、ただの子供たちではなかった。ある者は木の枝で作った杖をつき、ある者は他の子に手をひかれていた。ずっと空を見つめている子もいる。

「そういうことかい」

 魔女は若い女に言った。

「そうです。皆、捨て子です」

 当世、子供も重要な労働力である。農地での草取りや害虫駆除、水運び、放牧の手伝い、親に代わって幼い兄弟の面倒を見るなど、その力は無視できない。そのため、様々なハンデを負い、労働に「使えない」子供に先はなかった。多くが産まれた直後に「死産」したとして殺されていた。しかし、そう単純に思い切れる者たちだけではない。しのびなく、山や森に置き去りにし、「どこかで生きている」と自分を納得させていることもあった。ここに居る子供たちは後者にあたる。

 魔女にくっついていた子が手を離す。兄弟分の子に呼ばれたからであった。幼子は魔女に手を振る。魔女はそれに応えて手を振った。

「そこで、あんたが面倒見てるということかい」

「はい。私は運が良いようで、ここまで生きのびました。家を作り、食べ物を集め、捨てられた子をこうやって育ててます」

「あんたも何か?」

「いえ……」

 女は襟元を少しずらして魔女に見せた。うなじから胸元にかけて、鱗状の皮膚が見られた。

「私は取り換えっこです。それで捨てられました」

 【取り換えっこ】とは、足長の子供を欲しがった妖精が、醜い自分の子供と産まれた直後に取り換えていくという伝承である。取り換えられた子供は、普通ではない顔つきや、明らかな変異が見られた。人々はそんな子供を忌諱し、捨てたり殺したりするのが常であった。本当に取り換えられる子もいるが、ほとんどは「口減らし」するための方便である。

「暮らしはどうなんだい?」

「何とかやっています。幸い、この森には果実をつける木が多いです。さすがに動物を捕らえる事は難しいですが、時々卵を拾ったりもできるんですよ」

 魔女はいろいろな感情が入り交じった顔をした。それを見て、女は先手を打った。

「いえ。同情は結構です」

「──そうだね。わたしも情けはかけない。最後まで面倒が見きれないのであれば、手を出すわけにはいかないからね」

「わかってくださって、ありがとうございます」

「では、退散することにするよ」

 魔女は若い女の肩をぽんっと叩くと、馬を連れて道へと戻った。

 しばらく馬を進め、ちょうどよいところで昼食をとろうと思い立った。馬を木につなぎ、ホールディングバッグからMREとPETボトルを取り出す。道の脇の倒木に腰をかけ、MREのパックを開こうとした時、異変に気づいた。

 微かな焦げる匂いだった。

 魔女は手を止め、辺りの様子をうかがった。最初は木々の枝がこすれあって発生した山火事かと思った。が、そうではなかった。白い煙が森の中から漂ってくる。

「まさか!」

 魔女は馬に飛び乗ると、道を引き返した。煙はそちらからやってくる。自分の予想が正しければ、とんでもないことが起こっていると、魔女は思った。

 その予想は的中した。燃えているのは、あの空き地の小屋だった。

 十数人の野盗が、そこにいた。その足元には子供たちが転がっている。皆、死んでいた。

 魔女は眼をめぐらし、あの若い女を探す。そして、野盗に組みしかれ、脚を大きく開かされた姿をみとめた。

「おい、なんだてめぇは?」

 馬上の魔女に野盗が聞く。魔女はそれが、あの山道ですれ違った男だと気づいた。

「そうだね……わたしは……」

 魔女はフードを脱ぎ、外套を大きく跳ね開いた。右手には抜き放った.45がある。

「北の森の魔女だ」

 その言葉を聞いた野盗の顔色が変わる。魔女は男が声を発する前に、胸と額に弾をぶち込んだ。

 銃声に他の野盗たちが振り返る。魔女は馬から飛び降りると、.45を前に突き出し、歩を進めた。

 拳銃が吠える。放たれた銃弾は、武器を構えようとする野盗の肘や膝を砕いた。弾切れになった.45を納めると、M14を抜き、肩付けで構える。そして、野盗たちに向かって非情の銃弾を撃ちはなった。

 銃弾は野盗の薄い皮鎧をいとも簡単に貫通し、肝臓や腎臓を射貫いた。腹に銃弾を受けた野盗たちは、何もすることができずに地面に転がり、激痛に身体を折り曲げる。

 魔女は殺戮の巷の中をつかつかと歩き、女から離れ、両手を上げている野盗に向き合った。

「くそったれが」

 野盗と地面に倒れているあの若い女の姿を交互に見る。半裸になっている女は、胸と腹を刺されていた。涙を流している眼には、すでに生気はない。

「頼む、殺さないでくれ!」

 下半身を丸出しにした野盗が、情けない顔をして懇願する。魔女は辺りを見回した。身体に銃弾を受け、うめく野盗たちの他に動く者はいない。だが、魔女はその声を聞いた。

「まずは、なぜここに来たかを言え」

 両手をあげたままの野盗はすべてを白状した。子を捨てていた村人たちはこの場所を隠していたが、近郊の領主がここの存在を知り、「病」が拡がる前に処断することを決めたのだった。その命令は領主から町の口入屋に回り、口入屋から仕事を得た冒険者が、さらに野盗へとこの仕事を持ちかけたのだ。依頼金は人の手を渡る間に目減りしたが、野盗にとってはそんなに元手もかからず、報酬に見合うだけの危険度も低い簡単な仕事であったというのだ。

「そうかい」

 魔女は銃口を野盗の手に向けた。そして引き金を引く。弾頭により手が弾ける。すぐさまもう一方の手も粉砕する。両手が消えた痛みに野盗はうずくまり、ぼろぼろと涙を流し声をあげた。魔女はその声を聞きながら、野盗の片膝を撃ち抜いた。

 野盗たちの呻き声を背に、魔女は木々の間に無言で穴を掘った。夕方になり、夜になった。すべてが終わったのは、翌日の朝の事だった。野盗たちの半分は、夜の間に獣たちに森の奥深くへと引きづられていった。

 あの若い女を葬ったところに、魔女は一輪の花を手向けた。それが魔女にできる精いっぱいの事であった。

 魔女は馬に乗ると歩を進めた。行く先は決まっていた。


 その冒険者は、町の酒場で給仕相手にくだを巻いていた。野盗に仕事を回した差額分は、飲み明かすには充分であった。

「──あんた、一人かい?」

 冒険者は耳元でその声を聞いた。振り返ると、魔女が居た。魔女は笑って男の肩をつかむ。その手を払おうとするが、万力のような力をのけることはできなかった。

「あの子たちからだ」

 魔女は外套の中からナイフを抜き放ち、テーブルの下で男の下腹部に深々と刺し込んだ。もれる声を手でふさぎ、介抱するふりをして、冒険者をテーブルへと押しつける。

「死ぬかどうかは、あんたの運次第だ」

 ナイフを抜き、魔女は何ごともなかったように店を後にした。

「これだけは慣れないもんだねぇ」

 魔女は煙草に火をつけ、夜の空気の中に紫煙を流した。自分が万能の存在で無い事は、自分が一番よく知っていた。


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