第十話 無邪気
ずっと同じ場所にいては退屈だろうから。
男性はそう言うと、寝たきりの状態にさせられている土羽梨を、三本の丸太の上にふかふかの綿を敷いた寝台ごと抱えて運んだ。
土羽梨が男性から結婚を申し込まれてから、一週間が経った。
その間、睡眠以外の生理的欲求が土羽梨に訪れる事はなく、また、瞼以外を動かす事ができない状態が続いていた。
結婚の申し込みを受け入れない限り、一生このままなのだろうか。
寝たきりの状態のまま、死に絶えるしかないのだろうか。
いいや。
それはないと、土羽梨は考えていた。
『砂の国』への執着を断ち切りたい。
男性はそう言った。
このまま死に絶えたとしても、『砂の国』への執着を断ち切れないはず。
むしろ、日に日に強くなっているのだ。
『砂の国』が木の根に襲われて消滅するのではないかという恐怖によって、より一層強く。
「あはははは~」
焦燥と苛立ちが男性の無邪気な笑い声で遮断された土羽梨は、瞼を持ち上げて男性を見た。
(この男性は)
土羽梨に名前は結婚する時に教えると言ったこの男性は、『緑の国』の住民でしかも、『緑の国』に並々ならぬ想いを抱いているはず、なのだが。
「あははははは~。こいつう~。お転婆さんだな~」
じゃれついているの、だろう。が。土羽梨の目には、どうしても、緑の竜に攻撃されているようにしか見えなかった。
この一週間、生物の違いはあれど、見慣れた光景であった。
(………嫌われている、のか?)
嫌われているから、認められたくて、『緑の国』の国土を広げようとしているのか?
(2023.8.9)