30:戦ってる最中よ
俺とマリーは、キョンシー対策――要は四肢及び頭部の部位破壊――を行いなんとか押し返し始めた。
しかし、どれだけいるのか。
倒したそばからキョンシーが襲いかかってくる。
俺は手近の男の右腕を斬り飛ばし、その飛んだ腕越しにコトミを確認した。
ちょうどコトミがアリレボに切りかかったところであった。
アリレボの右肩に目掛けて刀が振り下ろされる。
それをアリレボの槍が遮った。
しかし、その程度で刀の重みが乗った一撃が防げる訳ではない。
アリレボは即座に詠唱を行いその槍から地面に向かって木の弦を伸ばした。
おそらく、木槍の変化したもの。
それで、ギリギリと威力を押さえ込む。
さらにアリレボが連続詠唱――をかけようとするとコトミは、スルリと刀を引いた。
木の弦で押さえ込んだ一手が、それに追随すべき一瞬を遅れさせる。
コトミは身体を駒の如く身体を回転させ、そこからの胴打ち。
槍を支えていた木槍と共に空気が切り裂かれた。
そして、胴へ到達。
しかし、アリレボもまた恐ろしき魔術師。
胴への一打は、木製の盾のようなもので防がれていた。
どうやら何かの詠唱を強引に木囲へ変化させていたらしい。
そして、その木囲が膨れる。
弾ける前兆。
「離れろ!!」
しかし、コトミは離れない。
刀で散弾の如く弾かれた木片を切り払う。
しかし、それは全てではない。
自らに与えるダメージを見抜いてるのか、はたまたやたらめったらなのか。
頭部や胴への着弾は無いようだが、腕や脇腹へ破片が食い込んでいる。
そして、コトミはそれを知らないかのように一歩踏み出した。
アリレボは少し驚いたように顔をしかめて、後ろへ跳びはね距離を取る。
めちゃくちゃだ。
だが、そのめちゃくちゃがアリレボを押さえ込んでいる。
「援護する! 入れ!!」
俺はすぐにパーティー申請を送りつける。
それにコトミはすぐに答えた。
俺は、コトミのステータスを確認する。
◆◆◆◆◆◆
コトミ・カラスヤマ
鉱小族
筋力 :20
魔力 :13
持久力 :15
反応速度:19
――――
【剣】 熟練度:3251
攻撃:8057
精神:2408
防御: 968
速度:6006
《一打強打》
《一打強斬》
………
……
…
◆◆◆◆◆◆
俺は思わず、笑顔にも似た奇妙な顔をしてしまった。
ステータスは通常、アーツ、即ち武器それぞれに成長率というステータスの伸びやすさが存在する。
【弓】や【短刀】であれば速度が、【斧】や【槍】などであれば攻撃が、【盾】であれば防御といった具合だ。
しかし、ステータスは同じにならない。
行動によってステータスは変化する。
その最たるものがアーツ【剣】だ。
剣は、成長率が一律になっている。
これは器用貧乏というわけではない。
ステータスの成長は攻撃を主に行えば攻撃が、防御を行えば防御が上がるという行動に準じたものが上がるというシステムのせいだ。
つまり、剣はステータスが全体的にあがるのではなく、行動がステータスに表れやすい。
これだけをみればコトミが攻撃重視の行動を取り続けたということがわかるのだが……
これは異常なのだ。
攻撃主体だとしても、だいたい防御は攻撃の半分程度になる。
先程の木囲のような避け得ない攻撃があるせいだ。
しかし、コトミはあれを防御としてではなく、攻撃として捉えていたのだ。
――端的に言ってバカだ。狂ってる。
そして、この狂気がコトミをアタッカーでありつつタンクとしての役目をこなさせていたのだ。
とはいえ、恐ろしく歪なタンクである。
通常のタンクであればヘイトを管理することで複数の敵を引き受けるものだが、コトミの場合は圧力を与えることでたった一体の強敵を引き付け、場合によっては文字通り「殺してしまっても構わんのだろう?」を狙うという狂った前衛なのだ。
なぜ狂っているのか。当たり前だ。元ネタ通り、下手すりゃ死ぬ。
バカバカしすぎる。
死ぬことに攻略の糸口など見い出さないPCには絶対にたどり着けない境地。
俺はキョンシーの頭を斬り飛ばしながら、心の内で快哉を叫ぶ。
面白すぎる。
「マリー!! 暇を見つけて、あのアリレボを射て!!
コトミごと!!!」
「わかっ――えぇ!? なんでコトミまで!?」
「コトミは避けろよ! 速度と防御を最低限まであげる!!」
俺はそう叫びながらスキル《投擲》を取得する。
そして、キョンシーの一撃を地面を転がりながら避けるとついでに落ちていた剣を拾ってアリレボに投げつけた。
当然その中間地点にはコトミが。
「なにするんですか!?」
そう叫んで振り返りつつ刀で剣を弾いた。
と、その隙をアリレボは逃さない。
「仲間ごととは可哀想な。それならいっそ私が――」
アリレボが槍を引き、そしてコトミの背から心臓を狙って突き出す。
それを、俺は見越していた。
剣を投げた姿勢から、そのまま走り込むと、その槍の前に立ちふさがる。
――白刃取
鼻先で捕まえた穂先がギラリと光る。
「邪魔ぁすんな」
ぐいっと捻りアリレボのバランスを崩すと、その肘の辺りを蹴りあげる。
ゴッと固いものがぶつかった音。
アリレボの両腕がそれに合わせて上がり万歳状態になる。
さらに、そのがら空きになった腹に靴裏を叩き込んだ。
「コトミが訓練してる途中でしょうが!!」
アリレボが地面を転がっていくのを後目に俺はコトミに指を突きつける。
「なんで弾くのよ! いい? 回避は防御と速度をあげるのに一石二鳥なの!
一体、いまのこの時間をなんだと思ってるの!?」
「戦ってる最中よ!」
マリーがそう遠くでさけんだ。




