表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
2/4

第2話


 そしてジョアル港に着いたマサヒデ達であったが、何やら港の様子がおかしい。


 人が集まっているが、今までのようにマサヒデ達(の中の貴族3人)を歓迎している風でもなし……


 簡単な質問に答え、入国審査が終わって、マサヒデは係員に尋ねてみた。


「何で人が集まっているんです?」


冥頭くらうず様が説法に参られたのです」


「誰です?」


「ああ、トミヤス様はご存知ありませんか。魔の国では高名なお坊様です」


「へえ! お坊様ですか!」


 魔の国でも仏の教えが広まっているとは知らなかった。

 係員はにこりと笑い、


「宜しければ説法をお聞きになってみては。驚きますよ」


「ええ? あいや、ちょっと、そういう堅苦しいのは」


「全然堅苦しくはございませんよ。きっと驚かれます」


「ふうむ……まあ、皆と話して決めます」



----------



 今回は入国審査も無事終わり、入国管理の内門を出た所で、皆と合流。

 マサヒデは建物の外を見て、


「何か有名なお坊様が来てるとか、聞きました?」


 ふん! とクレールが鼻息を吹き、


「勿論ですとも! 行きますよ! 冥頭和尚の説法が聞けるなど、そうチャンスはありません!」


 イザベルも、ぐっと拳を握り、


「マサヒデ様! 説法の参加をお許し下さい! これは滅多にない機会!」


 クレールはまだ分かるが、純粋軍人一直線のイザベルまでこんな反応をするとは。

 普段のイザベルなら、全く興味なし、という反応をすると思うのだが。

 マサヒデとアルマダが意外そうに顔を見合わせる。

 アルマダが訝しげな顔で、興奮するクレールを見て、


「クレール様、どんなお方なのです」


「行けば分かります! すぐ分かります! さあ! さあ! さあさあさあ!」


 クレールがマサヒデの袖をぐいぐいと引く。


「まあ……分かりましたよ。飽きたら行きますよ」


 シズクが顔をしかめ、


「ええっ? お坊さんの説教なんてやだよ」


 と言うと、きり! とイザベルがシズクを睨み、


「愚か者! 冥頭和尚の説法が聞けるなど、そうはないぞ! 来るのだ!」


「ええ……」


「来るのだ!」


 がし! とイザベルがシズクの腕を引っ掴み、ぐいぐい引く。


「マサちゃん、飽きたら私達だけで行こうよ。宿も取らないと」


「そうしましょう。行くだけは行きますよ。アルマダさんも行きましょう」


「私もですか?」


 アルマダは流石に顔には出さなかったが、少し考えて、


「まあ、良いですよ。クレール様だけでなく、イザベル様までこんなに言うのです」


 そうして、マサヒデ達一行は建物を出たのだが……



----------



「冥頭様ー!」

「冥頭御坊ー!」


 群衆が壇を囲み、熱を上げて冥頭の名を叫んでいる。

 マサヒデはその群衆を指差し、


「……あれ、本当に説法なんですか?」


「そうですよ! 早く行きましょう!」


 こんな説法は知らない。

 取り敢えず、まだ冥頭なる僧は来ていないようである。

 イザベルが前に出て、


「お任せ下さい。皆様、後ろにぴたりと離れず付いてきて下さい」


「はいはーい」


 シズクがクレールを後ろから両手で持ち上げ、肩車。


「行きますよ! さあイザベルさん!」


「は!」


 熱狂する群衆をかき分け、イザベルがぐいぐい入って行く。

 マサヒデ達もその後ろにぴたりとくっついて、前の方に入って行く。


「押すんじゃねえ!」

「何しとんねや!」


 文句を浴びながら、マサヒデ達が前に出た。

 後ろからは冥頭を呼ぶ歓声。

 一体何が始まるのか……


 そして5分程待っていると、僧が1人上がって来て、ぺこりと頭を下げた。

 銅鑼桴どらばちを取って、じゃああん! と鳴らすと、しんと静まる。


 もう1人、僧が壇上に上がり、太鼓の前に立つ。

 人が多いので、木魚の代わりに太鼓を使うのだろうか?


 どん、どん、どん……


(うっ!?)


 上がって来た坊様に、マサヒデは思わず声を上げそうになった。

 剃り上げられた頭から見えるのは角。赤い肌。なんと鬼族ではないか。

 老人ではあるが、でかい。

 袈裟の上からでも分かるごつい肉体に、鋭い眼光。

 僧と言うよりも、仁王様とか、戦神様にそっくりだ。


「塵芥共があーっ!」


「「「冥頭様ー!」」」

「「「降臨やあー!」」」


「儂の説法を聞きに来たかあー!」


「「「おおーっ!」」」


 す、す、と冥頭和尚が横の銅鑼の前の僧、太鼓の前の僧、と見ると、2人が桴を構えた。

 冥頭和尚が数珠を持って前に突き出すと、


「般若波羅蜜多心経じゃあーッ! 喰らいやがれーッ!」


 どん! どん! どん! どん! と太鼓が叩かれ、じゃああん! じゃああん! と銅鑼が鳴る!


「観! 自! 在! 菩ー薩ッ!」

「「「観! 自! 在! 菩ー薩ッ!」」」


「行! 深! 般! 若! 波羅蜜多時ッ!」

「「「行! 深! 般! 若! 波羅蜜多時ッ!」」」


「……」「……」


 クレールとイザベルも声を上げ、拳を上げて、経(?)を叫んでいる。

 マサヒデは鳴り響く銅鑼と太鼓の音の中、呆然としてしまった。

 これが、読経……?


「不生! 不滅ッ!」

「「不生! 不滅ッ!」」


「不垢ッ! 不浄ッ!」

「「「不垢ッ! 不浄ッ!」」」


 そっと隣のアルマダを見ると、アルマダも呆然とした顔で、汗を飛び散らせてお経を叫ぶ冥頭という鬼族の僧を眺めている。カオルもシズクもラディも、皆、呆然としている。


「羯諦! 羯諦!」

「「「羯諦! 羯諦!」」」


「波ー羅ー! 羯諦!」

「「「波ー羅ー! 羯諦!」」」


「波羅僧! 羯諦!」

「「「波羅僧! 羯諦!」」」


「菩提薩婆訶!」

「「「菩提薩婆訶!」」」


「ぬううん……般若ッ! 心経おーッ!」

「「うおおー!」」


 歓声と拍手。天に拳を突き上げる冥頭和尚。

 これは一体何なのだ?


「「「説ーっ法! 説ーっ法! 説ーっ法!」」」


「……」


 観客からの説法の声。

 一体どんな説法が始まるのやら……

 と、マサヒデが思っていたその時。


「そこな娘ーッ!」


「はっ!?」


 しーん……

 静まり返り、周りから突き刺さる視線。

 冥頭和尚が太い指を向けたのは、カオルであった。


 カオルはきょろきょろと周りを見て、自分を指差し、


「わ、私でございますか?」


「そうじゃ! 娘! ここへ上がれいッ!」


「私が、で……ございますか?」


「その耳は飾りか! 上がれ! 同じ事を2度言わせるな!」


「は……」


 カオルが助けを求めるようにマサヒデを見ると、マサヒデは目を逸らしてしまった。ではとクレールを見ると、クレールは目を輝かせ、ぐ! と拳を握って頷いた。


「では、失礼致します」


 腹を据え、壇の横から上に上がると、冥頭和尚が少し横にズレて、カオルの方を向いたので、カオルはぺこりと頭を下げ、冥頭和尚の前に立つ。


「娘! 名を申せ!」


 目の前に居るというのに、何とでかい声。


「カオル=サダマキでございます」


 冥頭和尚は数珠を握った拳をカオルに突きつけ、


「カオル=サダマキ! 貴様、血の臭いがするぞ! 腰の物は飾りではないな!」


「それは勿論。人を斬るための物で」


「この人斬りめがあーッ! 什麼生そもさん!」


「は!? せ、説破せっぱ!?」


「悟りとは何じゃ!」


「そんなものは知りませぬ」


 即答。

 そもそも忍であるカオルは仏罰上等である。

 悟りだの何だのには一切興味なし。


「ほう……」


 にやりと冥頭和尚が笑うと、おお……と群衆から声が上がる。


 少しして、気付いたようにざわざわと声が上がり始めた。


「おい、カオル=サダマキいうたら……」

「あの肩車されとんの……」

「あれトミヤス流ちゃうんか……」


 ざわざわ……

 思いもかけぬ客に、群衆の目が輝き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ