第20話 再会
ついに、ヴェルヘルムへ向けて出発する日となった。旅支度を終えて、私は皇族用の馬車へと向かう。皇帝とも挨拶を済ませたが、ユリウスだけはどこを探しても見当たらなかった。
あの晩餐会以来会えていないので、出発前に会っておきたかったのだが、仕方がない。私は少し沈んだ気持ちで歩を進める。
うつむいて歩いていたせいか、目の前に誰かが立っていることに気が付かなかった。私はぶつかりそうになってから、慌てて顔を上げる。
「あ、すみません!」
そうして顔を上げると、目の前に立っていたシモンと眼が合った。専属騎士として、専用の礼服に身を包んだ彼は、14歳とは思えないほど大人びて見える。
そして、昨日あんな想像をしてしまったせいで、私は真っ直ぐ彼の顔を見ることが出来ない。思わず、あからさまに目を逸らしてしまった。
「な、なんだシモンか!」
「……危ないので、前を見て歩いて下さい。皇女殿下」
その畏まった口調が、私を少し残念な気持ちにさせる。ああ、そうか。みんなの前だからか。シモンは畏まった口調でそう言うと、私に手を差し伸べた。馬車までエスコートするという申し出だろう。
騎士として、レディに対する当然の仕草だ。それなのに、どうしてこんなに緊張するのだろうか。シモンと手を繋いだことなんて、ほとんどない。私は、数秒の間その手を見つめてから、ゆっくりと自分の手を差し出した。
と、その時。不意に横から伸びてきた手が私の手を掴むと、そのまま無理矢理自分の手の上に乗せる。そんな無礼な行動をするのが誰か、驚いて振り返れば、私はすぐに納得してしまう。
クリストフェルが、やたら眩しい笑顔で、私たちを見ながら、私の手を握りしめていた。
「クリストフェル皇子殿下……」
「ほらほらシモン。時間が無いんだから、こんな事にあまり時間をかけないでくれ。行くよアンジー」
「あ、あのお兄様! 私は一人で歩けます!」
私の言葉を無視して、無邪気に笑いながら歩くクリストフェルに、なんで邪魔をするんだと内心威嚇する。別に割り込まなくても良いではないか。もうすぐ手を繋げたというのに。
そんな二人の背中を見送りながら、シモンも一人頭を抱えると、大きなため息をこぼすのだった。
◇
馬車の旅は、思ったよりも快適だった。それもそのはずで、皇族用の最高級の馬車は、揺れも少なく、中のソファも最高級の仕様である。
私とクリストフェルしかいないのに、あと四人は乗れそうな広さがあった。私たちの馬車を囲むように、騎士たちが馬で並走している。そして、私たちの馬車の前後を、荷物や使用人を乗せた馬車がそれぞれ走っていた。
ルクレッシオの領地を走る間、どこの街を通っても、街道に民衆が並び、盛大にお祝いしてくれている。皇女のデビュタントだと、誰もが知っているようだ。
私は顔を出すのが怖くて馬車の真ん中で縮こまっていたが、クリストフェルはたまに窓から顔を出して手を振ったりしていた。こういうのも慣れているのは、流石だと思う。
私はそれよりも、馬車の窓から並走する騎士たちの方に眼がいってしまった。時折見えるシモンの横顔に、私はちょっとだけ喜んでいる。この感情は何なのだろう。知らない、新しい感情。
クリストフェルは、そうして窓の外を見つめては嬉しそうな表情を見せる私を、どこか呆れたように見つめながら独り言のように言った。
「そんなつもりで、拾ってきた訳じゃなかったんだけど……」
「……? 今、何か言いました?」
「いや、幸せならそれで良いんだ」
「?」
そうして暫く走れば、国境を超えてヴェルヘルムへと入っていく。国境間近の街はそこまで見覚えもなかったが、首都に近づくつれて、窓から見える景色も私の――エルサの知るものになっていった。
もちろん、全く同じではないが、特徴的な建物がまだ残っていたり、街並みが500年前の面影を残している。私は懐かしい思いで、窓を開けて身を乗り出した。
「こら、アンジー。危ないよ」
クリストフェルの注意する声も聞こえたが、私は無視して祖国の空気を胸一杯に吸い込んだ。懐かしのヴェルヘルム。私の愛した国だ。
私は、帰ってきた。
人々が皆、幸せそうに暮らしている。平和な日常が、ここに存在した。あの戦争は、エルサの死は無駄でなかったのだと、安心する。そして、遠くへ見えるヴェルヘルム城に郷愁を覚えた。エルサが最期を迎えた場所。
そうして私が窓から身を乗り出していると、後ろから頭に手を置かれる。振り返れば、馬に乗ったシモンと至近距離で眼が合ってしまう。
「危ないぞ……」
「……!?」
この距離感の方が危なくて、私は何も言わずにそのまま馬車の中に身体を引っ込める。びっくりした。不意打ちであの近さは心臓に悪い。
赤い顔を少しでも冷まそうと、私が手のひらで顔を煽いでいると、目の前のクリストフェルが呆れたように笑って言った。
「大変そうだね、アンジー」
「な、何がですか?」
「いや。本当は明日のデビュタントも、シモンがパートナーの方が良かったりして?」
「ご冗談を!」
デビュタントを迎えた貴族令嬢のパートナーは、貴族であることが常識だ。だが、クリストフェルもそんなことはわかっているはずだろう。
どういう意図で言っているのか理解できない間に、クリストフェルはどこか呆れたような表情のまま、私から静かに視線を逸らすのだった。
◇
ヴェルヘルムの王城に着いた時には、既に日も落ちて月が真上に昇っている。
各国の有力貴族や王族たちが馬車に乗って列を作っている様は、童話に出てくるお姫様の舞踏会のようだ。しかし、渋滞になってしまい、なかなか王城の中に入場できない。
少しも動かなくなってしまった馬車の中で、暇を持て余してしまっている私を見ると、クリストフェルは少し微笑んでから、窓の外のシモンに声をかけた。
「シモン、うちのお姫様が疲れてしまったみたいだ。先に行って休ませてやってくれ」
「へっ!?」
「承知しました。皇女殿下、こちらへどうぞ」
その言葉に素直に従うと、シモンは馬から降りて馬車の扉を開けてくれる。そして、躊躇う事なく私に対して手を差し出した。私も、今度はクリストフェルに邪魔されない内にと、その手を取る。
シモンの手は、私の記憶の中より、ずっと大きくなっていた。大きくて、ゴツゴツしている。騎士の手だ。その手に支えられながら、私は馬車を降りる。
次いで、シモンは私の前で片膝をつくと、膝を足台にして馬に乗るように言った。馬なんて、前世では乗り慣れている。しかし、12歳のこの身体では、確かに支えてもらわないと自力で乗るのは厳しいだろう。
私は言われた通りに、シモンに支えられながら馬に乗った。たった2歳しか違わないのに、シモンはこの馬に一人で乗れるのだ。何だか、それだけでかっこよく思えてしまう。
そんなことを考えていると、私の後ろでシモンが軽やかに馬に跨る。まるで抱き抱えられるような状況で手綱を握ると、シモンは何食わぬ顔でクリストフェルに言った。
「それでは、お先に失礼します」
「うん。俺の妹を落とさないでね」
まだこの状況に困惑している私をそのままに、シモンは馬を走らせた。渋滞している馬車の列を尻目に、馬はどんどん先へと進んでいく。
ヴェルヘルムの街並みが懐かしいとか、馬に乗っている時の風を切る感じが気持ちいいとか、そんなことを考えている余裕なんて、私にはなかった。やけにドキドキする。それは、馬に二人乗りなんてしたことがないからだろうか。
それとも、シモンとこんなに密着したことがないからだろうか。
絶対に私は今、ひどい顔をしている。こんな顔を見られたくなくて、私は前だけを見ながらシモンに言った。
「ねえ、絶対に私の顔見ないでね!」
「……じゃあオマエも、絶対に後ろを振り向くなよ」
そんなの言われなくても分かっている。顔を見られたくないのだから、振り向くはずがないではないか。
――その時私は、シモンがどんな表情をしているのか、知る由もないのだった。
◆
ヴェルヘルムの門番は、私たちがルクレッシオの者だと招待状を見せると、直ぐに中へ通してくれた。そして、私のために用意された部屋へ案内される。
シモンとはそこで分かれた。部屋の前で待機しているらしい。侍女たちもまだついていないので、ちょっとだけベッドで横になって休んでいようと思っただけだったのだが、快適に思えた馬車の旅も、思ったより疲れが溜まっていたようだ。
私は、いつの間にか眠っていた。そして、故郷に辿り着いたせいか、久しぶりに夢を見た。エルサの夢だ。
エルサは、ヴェルヘルム城で最期を迎えた。その当時は原因不明なほど急激に体調を崩したが、今なら分かる。戦場で、強力な古代魔法を使いすぎたせいなのだろう。
身体にガタがきて、ついに崩壊した。それは、戦争が終わってからたった4年後だったのだ。
エルサは、ベッドの中で浅い呼吸を繰り返していた。医者も手を尽くしていたが、もうこれ以上どうすることもできないと、匙を投げる。
エルサの部下たちが、心配そうにベッドを囲っていた。既に涙を流している者もいる。最悪だ。ようやく平和な生活が始まったというのに。ようやく、戦争とは無縁に平凡な生活を送ることができるかも知れないのに。
エルサが絶望の中で、目を閉じようとしたその時、慌ただしく扉が開いた。
最近ほとんど顔を合わせていなかった親友が、泣きそうな顔で飛び込んでくる。ああ、彼には病状のことを言わないでくれと、色んな方面に口止めしていたのに、やはり無駄だったようだ。
彼は国王で、もうエルサの戦友ではない。自分のために時間を使わせるのが、申し訳なかった。
レオナルドは、悲壮な顔でエルサに近づくと、信じられないと言いたげに何度も首を横に振る。そして、もう力が入らないエルサの手を、強く握りしめた。
「嘘だ、エルサ……そんな。いやだ、置いていかないで……」
まるで子供のように縋るレオナルドを見て、少し微笑んでしまう。こんな彼を見るのは、初めてだった。いつだって、王族たる者完璧でなくてはいけないと、気を張っているような男だった。
そんな彼の、こんな貴重な姿を見ることができたのだから、悪くない最期だろう。
エルサはもう、声を絞り出すことすらできない。ただ優しく、彼を見返した。レオナルドは大粒の涙を流しながら、エルサの手の甲に唇を落とす。
「僕はまだ、君に伝えていないことが……――」
エルサの意識が遠くなる。レオナルドの声も遠くに吸い込まれるように消えていって、その続きを聞くことはできない。
彼は何を伝えたかったのだろう。その答えを知る術など、もう残されていなかった。
◆
次の日。デビュタントは夜から始まるが、私の準備は昼間から始まった。
ついてきた侍女たちに、目まぐるしく世話をされて、私はされるがままの状態になる。本当はもっと早起きしてヴェルヘルムの中を回ったりしたかったが、昨日の疲れもあってそれどころではなかった。
髪や肌の手入れから、完璧に準備が整えられていく。なんせ今日は他国の姫や令嬢も多く集まるパーティーだ。つまり私はルクレッシオ皇国の代表である。正直、美しさの勝負ならエレオノーラの方が相応しいが、そうもいかない。
国の威信をかけて、侍女たちは準備に余念がなかった。そして私は、まるでひとつの芸術作品のように、彼女たちの手で完成される。
美しい銀色のドレス。レースが繊細で、ルクレッシオのイメージカラーである白銀を取り入れていた。
そして皇族たる象徴として羽織る薄手のマントは、薄い青と緑が角度によって反射して見える素材だ。そこに、金色の刺繍で模様が縁取られている。
黄金でできたティアラには、繊細ながら美しく宝石が散りばめられていた。まだ12歳のアンジェリカだが、随分と大人っぽく仕上げてもらったと思う。
最後に、長い髪を美しく編み込みながら下ろしている。本当はひとつにまとめても良かったのだが、私の美しいグラデーションの髪色を見せるためのスタイルだ。
「皇女殿下。髪留めはどちらにいたしましょう」
侍女の一人が、そう言って私のジュエリーボックスを持ってきてくれる。私はいつも適当に選んでしまうが、ここは慎重に選んだ方が良さそうだ。
しかし、私の目にひとつの髪留めが止まった。シモンが今年の誕生日にくれた、花畑のような装飾の髪留めだ。私は、惹かれるようにその髪留めを手に取ると、薄く微笑む。
「これにするわ」
「かしこまりました」
その髪飾りを着けて、今日の私は完成した。鏡で見れば、間違いなく、アンジェリカが生まれてから一番美しい日だと分かる。
地下室で虐待されていた、ボロボロの見窄らしい少女からは想像も出来ない。ここまで長かったが、あと少しだと思うと複雑な気分だった。
もうすぐ、悲願が叶う。エルサが死ぬ間際に願った平凡な生活が、ついに手に入る。それは喜ばしいことだ。
けれど、その日が近づくほどに、私の胸は締め付けられた。離れ難いと感じてしまう。決定的な矛盾。
私は、今考えても仕方がないことから目を逸らそうと、首を横に振る。空はもう赤く染まり始めていた。そろそろ入場の時間だ。
私は侍女たちに連れられて部屋を出る。部屋の前では、先に準備を終えたクリストフェルが、シモンと一緒に何かを話していたようだ。
二人は、私に気がつくと顔を向ける。そして、二人同時に、驚いたような表情を見せた。それはそうだ。今日の私は一段と美しい。エレオノーラにも、アストリッドにだって負けないだろう。
クリストフェルも、髪型まできっちりとセットして、私とペアになるような色合いで、皇族の正装をしていた。
シモンは、今日のデビュタント会場に入れないので、昨日と同じ専属騎士の服装だ。私から目を離せないでいるシモンに、私は少し照れ臭くなる。
「そ、そんなに見つめないで下さい。恥ずかしいので……」
「あ、ああ。すまない! 俺の妹が世界一可愛かったせいで、つい。そうだろうシモン?」
何故そこでシモンに話を振るのか、私はクリストフェルを睨みつけた。これで可愛くも綺麗でもないと言われたら立ち直れないのでやめて欲しい。
そう思って二人から視線を外しながら立っていると、シモンは思い出したように私に言った。
「いや、その……綺麗だ。あ、です。その……すごく。とても……」
動揺したようなシモンの声で、私は思わず彼を見る。シモンは、私以上に恥ずかしそうな顔で、必死に目を逸らしていた。
「今日この会場で、一番綺麗に決まってる……」
最後に付け足された言葉で、私は頭の先からつま先まで、真っ赤になっているのではないかと心配になった。シモンからそんなことを言われるなんて、想像も出来なかった。
4年前は、お互い憎まれ口しか叩かなかったのに、こんなに素直に褒められると、どうして良いか分からない。そうして赤い顔でお互いの顔を見られなくなっている私たちを見て、クリストフェルが呆れたようにため息をつく。
「はい。もう満足したかな? それじゃあ行こうか、アンジー」
「は、はい……」
私はクリストフェルから差し出された手を取って、ゆっくりと会場へ向けて歩き始める。そんな私の後ろ姿を見送っていたシモンが、何かに気がついたように声を上げた。
「あっ」
「ん?」
「いや、その……髪飾り、よくお似合いです」
振り返れば、シモンと眼が合う。私はその目を見返しながら、得意げに笑った。
「そうでしょう?」
◇
自分の国で行う誕生日パーティーでさえ、入場する際は緊張する。それなのに、今日は他国の客が多く集まるパーティーだ。もっと緊張するに決まっている。
私の緊張が繋いだ手から伝わったのか、クリストフェルが手を強く握り返してくれる。そして、まだ閉ざされている扉を真っ直ぐ見つめながら、こうアドバイスした。
「大丈夫。堂々と胸を張ればいい」
「そりゃあ、お兄様はそうですよね」
「君もだよ、アンジェリカ。君は何者だ?」
「私は……――」
その時、扉が目の前でゆっくりと開き始める。眩しい光が、私の視界一杯に広がった。
私は何者なのか。そんなことは、聞かれなくても私が一番理解している。
――私の名前は『アンジェリカ・ルクレッシオ』。ルクレッシオ皇国の第二皇女、そうでしょう?
「クリストフェル・ルクレッシオ皇子殿下、並びに、アンジェリカ・ルクレッシオ皇女殿下、御入来!」
その声と共に、私たちは会場へ足を踏み出す。既に入場している他国の王族や貴族たちが、私たちを見ていた。その視線を浴びながら、クリストフェルに手を引かれるままに、階段を降りていく。
ルクレッシオは、変わらず大国だ。今でもヴェルヘルムに次ぐ大国であることは変わらない。しかし500年経っても、歴史的な侵略戦争を始めた国というレッテルも変わらなかった。
私たちのことを、厳しい目で見る者も少なくない。分かってはいたが、それでもこの視線は痛かった。
けれどそれと同じくらいの数、いや――それ以上に、私たちを好意的な目で見る者もいた。それはそうだ。こんな美男美女なのだから、目を惹かれるのは当然だろう。
そう自画自賛をしていないと、耐えられない。相変わらず、大衆の目線は苦手だった。
会場の中に溶け込んでも、皆私たちを遠巻きに見ていた。批判的であれ好意的であれ、話しかけるハードルが高いのだろう。別にこのまま、誰も私たちに話しかけなくて構わない。そう思っていると、会場の雰囲気が変わった。
どうやら、次が主役の入場らしい。ヴェルヘルムの王子。そのお披露目だ。
みんなの視線が、階段の上の扉に集まる。私たちも、そちらへ目を向けた。確かヴェルヘルムの現国王は、足を悪くしているため、車椅子で生活をしているらしい。そして王妃も既にこの世を去っている。
なので、今日のお披露目は、王子一人で行うだろう。あの扉の前に一人で立っているなんて、いったいどれだけ心細いか、考えただけで同情した。
そして、扉の前に立つ兵士が、大きく声を上げる。
「ヴェルヘルム王国の若き太陽。ラグナル・ヴェルヘルム王子殿下、御入来!」
それを合図に、扉が開く。扉の奥から、一人の若者が堂々たる足取りで、ゆっくりと会場に入ってきた。
夜闇で塗り染めたかのような美しい黒髪。鮮血のように鮮やかな赤い瞳。彼の纏う正装も、マントも、全てが黒で纏められている。だからこそ、彼の雪のような白い肌と、赤い瞳が際立って見えた。
私はいったい誰に同情したのだろう。そう反省するほどに、ラグナルは16歳とは思えぬ堂々たる足取りで入場してくる。初のお披露目のはずだが、まるで何度もこうした場面を経験しているかのようだ。
誰もが大きな喝采を送った。彼が、今後この世界の中心となっていくのだ。私も、関係ない話だが取り敢えず拍手を送る。
そんな喝采の中、ラグナルはまるで誰かを探すように、ゆっくりと会場全体を見渡していた。一人一人、顔を確認するように。
その視線を不思議そうに追っていたせいか、不意に私と目が合った。
瞬間、私たちは気がついてしまう。
どんなに姿が違くても、名前が、雰囲気が異なっていても。
私たちは、お互いを認識した。
私は喝采を送っていた手を止める。まるで世界に私たちしかいないかのように、世界から切り取られたかのように、私たちは見つめ合った。
お互いの存在を、確かめるように。
「レオ?」
私がその名前を呼べば、彼は弾かれたように階段を飛び降りた。その場の誰もが悲鳴を上げる中、ラグナルは危なげなく着地すると、迷わず私の方へ駆け寄ってくる。
そして、力強く私の身体を抱きしめると、耳元でこう囁いた。
「ずっと君に、もう一度会いたかった、エルサ」
ここで一度更新をお休みさせて頂きます。
また秋頃再開する予定です。よろしくお願いいたします。




