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「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録  作者: もりぞー


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第85話 閑話 桜井すみれは、二年半ぶんの本音を引き出しに隠す

 書くよ。ちゃんと書く。


 自分で言ったはずの言葉が、まだ胸の底で温かい。

 十字路で安藤くんと別れてから、まっすぐ家に帰った。


 お風呂に入って、髪を乾かして、パジャマに着替えて。

 いつもの夜のルーティンを全部こなしてから、わたしは机の前に座った。


 ノートパソコンを開く。

 テキストエディタの白い画面が、部屋の暗がりの中でぼんやりと光っている。


 時計は二十三時過ぎ。両親はもう寝ている。

 リビングの明かりは消えていて、廊下の向こうから微かに冷蔵庫の稼働音だけが聞こえてくる。


 深夜の自室。

 この時間が、いちばん書ける。


 卒業文集に載せるエッセイ。

 タイトルはもう決まってる。

 今日の帰り道で、安藤くんにも伝えた。


 ——『観察者のいる教室』。


 カーソルが点滅している。白い画面に、黒い縦棒が明滅するだけの光景。

 何度も見てきた景色。

 エッセイを書き始めるときは、いつもこうだった。


 息を吸って、指をキーボードに置く。


 まず、構造を決める。

 今日の帰り道で安藤くんに話した内容を、そのまま文章にすればいい。


 教室の端っこの席に、一人の生徒がいる。

 目立たない。手も挙げない。

 教室の真ん中にいる人たちとは、ぜんぜん違う位置にいる。

 でもその人がいると、空気がほんの少しだけ柔らかくなる。


 冷静に。客観的に。

 「端の席にいる彼」という存在を、分析するつもりで書く。


 ——それが、最初の計画だった。



 最初の三段落は、うまくいった。


『教室のいちばん隅に、いつも同じ席に座っている人がいた』


 その人が教室にもたらしている微細な変化を、季節の移り変わりに沿って記述していく。


 春。まだ名前も知らなかった。

 ただ、窓際の後ろから二番目の席にいつも座っている人がいた。

 誰と話すでもなく、かといって孤立しているわけでもない。

 背景に溶け込むのが上手な人。


 わたしは、自分の文章を褒めるつもりはないけれど——ここまでの段落は、かなりよくできていると思った。

 視点は俯瞰的で、感情の挿入は最小限。

 「教室の空気を分析するエッセイ」として、ちゃんと機能している。


 四段落目に入った。


 その人は、誰かが困っているとき、声をかけるわけでもないのに、さりげなく動く。

 一年の文化祭のときに、黒板に書いてくれた短い一行のこと。

 二年の体育祭の号外に写った、泥だらけの手の写真。


 ——待って。


 指が止まった。


 なんでわたし、こんなに具体的に覚えてるんだろう。


 あの黒板の一行も、泥の手の写真も、わたしの記憶の中にあまりに鮮明に残っていた。

 教室の「空気」を分析するだけなら、こんなに解像度の高いディテールは必要ない。

 それなのに、指が勝手に拾い上げている。


 ……いや、これは書き手の性分だ。

 観察して、記憶して、言語化する。

 それがわたしのやり方。安藤くんのことに限った話じゃない。


 そう自分に言い聞かせて、五段落目に入る。


『彼は、いつもわたしが欲しい言葉をくれた』


 タイプした瞬間、指が止まった。


 ——わたしが欲しい言葉?


 いつから、この文章の主語が「教室」じゃなくて「わたし」になっていたんだろう。


 消そうとした。バックスペースに指を伸ばした。

 伸ばしたのに、押せなかった。


 だって、事実だから。


 模試の結果で潰れそうだったとき、数字の話じゃなくて、「エンジンが壊れたわけじゃない」って言ってくれた。

 傘のない雨の日、「送る」じゃなくて「一緒に行こう」と言った。

 観察係なので、と笑った。たまにずるいよねって返したら、困ったような顔をした。


 その顔が、今、画面の向こうに見える気がした。


 わたしの指は、止まるどころか速くなっていた。


『彼というフィルターを通すと、退屈な教室が愛おしく見えた』


『彼が休んだ日だけ、教室の色がほんの少し褪せた』


『わたしが一番きれいに笑えるのは、彼の前だった』


 打ちながら、指先だけが妙に熱かった。

 指先がキーボードを叩く音と、胸の奥の鼓動が重なって、自分の部屋なのにやけに騒がしい。


 ——違う。こんなの、エッセイじゃない。


 書き直そうとした。

 主観が入りすぎている。もっと客観的に、事実だけを書かないと。

 わたしはバックスペースキーを連打して、『一番きれいに笑える』の行を消した。


 代わりに、分析的な文章を打とうとする。


『彼は、教室の空気を読むのが上手で』


 そう打とうとした指が、勝手に動いた。


 ——『彼は、誰よりも優しい』


 無意識に、エンターキーを強く押し込んでいた。

 画面に確定される『優しい』の三文字。


「……ちがう」


 消す。もう一回。

 今度こそ、事実だけを。


『彼は、誰にも気づかれない場所で』


 ——『わたしだけを見ていてくれた』


 「ああもう!」


 打てない。

 指が、脳の命令を聞かない。

 消そうとすればするほど、新しい言葉が溢れてくる。


 「観察者」という言葉で蓋をしようとしても、指先が勝手にその蓋をこじ開けて、中にある熱いものを引っ張り出してしまう。


 変換候補に出てくる言葉が、全部おかしい。

 「あ」と打てば「安藤くん」。「す」と打てば「好き」。

 わたしのパソコンまで、わたしを裏切って自白しようとしている。


 書き終えたとき、時計は零時を回っていた。

 息を整えて、画面を見上げる。


 血の気が引いた。


 画面に並んでいるのは、エッセイじゃなかった。

 客観的な教室の分析でも、匿名の「誰か」への観察記録でもなかった。


 これは。


「……なにこれ」


 声が出た。深夜の自室で、自分の声だけが響いた。


「これじゃ、ただのラブレターじゃん」


 頬が、じわりと熱くなった。

 エアコンの温度は変えていない。

 なのに、顔だけが内側から発熱している。


 画面の文字が、急にぜんぶ読めなくなった。

 目が滑る。視線が文章の上を通り過ぎていく。


 さっきまで自分が書いた文字なのに、他人の手紙を盗み読みしているような恥ずかしさが込み上げてくる。


 落ち着け。深呼吸。

 わたしは書き手だ。感情に呑まれたら負けだ。


 冷静に、分析しろ。

 この文章のどこが「ラブレター」で、どこが「エッセイ」なのか。


 ——分析しようとした。

 した結果、もっとまずいことに気がついた。



 全部だ。


 全部、最初から、ラブレターだったのだ。


 高一の屋上。


 あの日、放課後の階段を上がって、鉄の扉を開けた先にいたのは、教室で見るのとは違う安藤くんだった。

 教室では背景に溶けているのに、屋上のフェンスに寄りかかっているその横顔は、夕日に照らされて輪郭がくっきりしていた。


 ——あ、ここにいたんだ。


 あれが最初だった。

 「背景の人」じゃなくて「背景を分かってる人」だと気づいた瞬間。

 わたしの「目」になってくれる人を見つけた瞬間。


 あのとき胸の底がどくんと鳴ったのを、わたしは「書き手としての興奮」だと処理した。


 ……本当に?


 高二の文化祭。階段の踊り場。


 安藤くんの視点で見ると景色が変わる、と言ったわたしに、安藤くんは「色眼鏡だから」と答えた。

 わたしは——何て返した?


『その「色」が、私のお気に入りなんだけどな』


 あのあと慌てて「写真のトーンの話だよ」って言い訳して、安藤くんが「新聞の話ね」って乗っかってくれて。


 待って。

 あれ、完全に——「あなたが好き」って言ってたのと同じじゃん。


 椅子の上で、体が固まった。

 指先が冷たくなっているのに、首の後ろだけが熱い。


 同じ日の夕方だった。文化祭の打ち上げ前、安藤くんがゴミ捨てに行って、なかなか戻ってこなくて。

 なぜかすごく不安になった。理由なんかなかった。

 ゴミを捨てに行っただけだ。

 それなのに、胸がざわざわして落ち着かなくて、気がついたらLINEを開いていた。


『安藤くん、どこ? 戻ったよ』

『早く戻ってきて。最終確認、したいから』


 最終確認って、何の。

 あのとき、確認しなきゃいけない仕事なんてなかった。

 ただ——安藤くんが隣にいないのが、怖かった。

 投げた言葉は「最終確認」でくるんだ命綱だった。


 バレンタイン。高二の二月。


 千夏と凛ちゃんには同じ包装の袋を渡したのに、安藤くんにだけ違う箱を用意した。

 『編集長手当』って言って渡したら、安藤くんが「さっきの二つと、だいぶ違わない?」って笑って。

 わたしは目が合わせられなくなって、「用事思い出したから」って逃げた。


 手当って何。


 あんなに動揺して逃げ出した人間が、どの口で「手当」なんて言っているんだ。


 ——本命チョコ渡してたんじゃん、わたし。


 顔を両手で覆った。

 指の隙間から、パソコンの画面の光が漏れている。

 手のひらが熱い。自分の頬の温度がそのまま伝わってくる。

 そこに並んでいるわたしの文章が、もう別のものにしか見えない。


 エッセイの更新が止まっていた時期のことも、今なら分かる。


 高二の後半、匿名エッセイの投稿頻度が落ちた。

 書こうとすると、安藤くんのことばかり浮かんでしまう。

 それをエッセイに書いたら「教室の空気の分析」じゃなくなる。だから、筆が止まった。


『変に名前がついたら、書けなくなる気がする』


 高二の三月にそう言ったのは、わたし自身だ。

 「書けなくなる恐怖」の正体は——これだ。


 恋を認めたら、「観察者」というわたしの居場所が崩れる。

 わたしにとって安藤くんは、教室を面白くしてくれる「フィルター」で、エッセイの「共犯者」で、「観察係」で——そういう名前で呼んでいる限り、この距離のまま変わらずにいられた。


 「共犯者だから」で説明できた。

 「仕事のパートナーだから」で蓋ができた。

 「一緒にいて気を張らなくていい人だから」で、無防備でいられた。


 全部、ラベルだった。

 わたしが自分の感情に気づかないために、丁寧に一枚ずつ貼り重ねてきた、嘘のラベル。


 画面の文字を見つめる。


 ——『わたしは、彼に見つけてほしかったんだ』。


 打った覚えがない。

 けど、画面にある。わたしの指が打った文字だ。


 椅子を蹴って立ち上がった。


 二歩でベッドに辿り着いて、枕に顔を埋める。

 そのまま、足をバタバタと動かした。布団がぐしゃぐしゃになるのも構わない。


「……うわあああ!」


 枕に向かって叫んだ。声は潰れて、くぐもった悲鳴になった。


「バカバカ! わたしのバカ! 全部バレバレじゃん!」


 枕を殴る。ぼすぼすと間抜けな音がする。


 脳内で、過去の自分の映像が走馬灯のように再生される。


 文化祭の後、今の放課後がなくなりそうだから、と告白を断ったときの、いっぱしのヒロインぶった台詞。

 極めつけは、文化祭の「お気に入り」発言だ。


『その「色」が、私のお気に入りなんだけどな』


 うわあぁぁぁ!

 あれ、遠回しなプロポーズじゃん! 何を上手いこと言った気になってたの、わたし!


 思い出すだけで、全身の毛穴から火が出そうだ。

 ベッドの上を転がり回って、掛け布団を体に巻き付ける。

 簀巻きになって、芋虫みたいに丸まって、それでも熱は冷めない。


 お気に入りって言った。戻ってきてって送った。本命チョコ渡して逃げた。

 ぜんぶ、見えてたんじゃないの。安藤くんの観察力なら、ぜんぶ——


 いや。


 安藤くんは気づいてない。

 あの人は、わたしのことになると、びっくりするくらい鈍い。

 「新聞の話ね」って乗っかる人だ。「編集長手当ね」って受け取る人だ。


 それは安心材料のはずなのに、なぜか目頭が熱くなった。


 枕から顔を上げる。

 天井が見える。

 蛍光灯は消えていて、デスクライトの光だけがぼんやりと天井板に反射している。


 息を吐く。

 吸う。

 もう一回、吐く。


「……どうしよう」


 声が、思ったより小さかった。


「わたし、安藤くんのこと、大好きだ」


 言葉にしたら、胸の奥がぎゅっと締まった。

 呼吸が浅くなる。手のひらがじっとり湿っている。


 ……でも。


 恋だと認めたその瞬間から、書き手としてのわたしの足場が崩れていくのが分かった。


 「観察者」というフィルターは、距離があるから機能する。

 好きな人のことを「端の席にいる誰か」として冷静に書けるわけがない。

 さっき書いた文章が、その証拠だ。


 あの文章は、外に出せない。

 読む人にはただの恋愛ポエムだ。

 それに……恥ずかしくて……出せるわけがない。


 でも——消せない。

 一文字も、消せない。

 これがわたしの本音だから。

 二年半分の本音が、全部あそこに流れ出てしまったから。


 ベッドの上で膝を抱えた。

 パソコンの画面は、開きっぱなしだった。



 スマホが震えた。


 時刻は零時二十三分。LINEの通知。


『ちなつ』


『原稿進んでる? 燃えてない?』


 ……このタイミングで、千夏。

 この人のアンテナはどうなっているんだろう。


 わたしは震える指で、返信を打った。


『電話できる?』


 三秒後にコールが来た。


「もしもし。すみれ、どったの?」


「……どうしよう」


「え、何、原稿で詰んだ?」


 千夏の声は、深夜とは思えないくらいハッキリしている。

 たぶんSNSを巡回していたところだろう。


「……ちなつ」


「うん」


「わたし——」


 喉が詰まった。

 さっき枕に向かって叫んだときより、ずっと言いにくい。

 あれは独り言だった。これは、誰かに伝える言葉だ。


「……安藤くんが、好き」


 沈黙。


 一秒。二秒。三秒。


「……え、いまさら?」


 千夏の声は、呆れを通り越して、どこか安堵しているように聞こえた。


「いまさらって何」


「だって、うち高一のクリスマスから知ってたし」


「嘘でしょ」


「嘘じゃないし。あの頃から顔に出てたよ。

 あと、業務上の適正な報酬とか言って本命チョコ渡してるのバレバレ。

 明らかに他の人と扱い違ったもんね~」


「……」


「編集長手当もね。あのとき箱のランク違いすぎて、うちとサエは唖然としてたからね」


「……やめて。死ぬ」


「死なないの。で?」


 千夏の声が、ほんの少しだけ真剣になった。


「気づいたんでしょ。で、どうすんの」


「……わかんない。いま、頭ぐちゃぐちゃで」


「原稿がとんでもないことになった、とか?」


「……うん。エッセイ書いてたら——途中から、全部安藤くんのことになってた」


「でしょうね。で、そのエッセイどうすんの」


 千夏は、核心を突いてくる。昔から変わらない。


「……書き直す。このままじゃ出せない」


「元のやつは?」


「消す……いや、消せない。でも見せられない」


「消しちゃダメだよ」


 千夏の声が、急にはっきりした。

 からかいのトーンが消えて、親友の声になっている。


「それ、すみれの本音でしょ。二年半分の。消したら、なかったことになっちゃうよ」


 指先が震えた。スマホを持つ手に力が入る。


「……印刷しておく。手元に置いとく」


「うん。いいんじゃない」


「でも安藤くんには見せない。見せられない」


「今はね」


「今も、これからも」


「はいはい。今のすみれの『これから』は信用しないけどね」


 千夏が笑った。

 深夜なのに、やけに眩しい笑い声だった。


「……もうちょっとだけ、聞いて」


「いいよ。うちの推し活に終わりはないので」


「……推し活って言わないで」


 そこから、わたしは全部話した。

 今まで「観察係」というフォルダに隠して、見ないふりをしてきたファイルのすべてを。


 高一の五月、初めて屋上で話したとき、本当は心臓がうるさくて仕方なかったこと。

 去年のクリスマス、イルミネーションの下でマフラーに顔を埋めたのは、寒かったからじゃなくて、安藤くんの横顔を直視できなかったからだということ。

 

 千夏は、ときどき笑って、ときどき「それは重症」「あー、あったねそれ」と合いの手を入れて、あとは黙って聞いてくれた。


 話しているうちに、喉が枯れてきた。

 スマホの本体が熱を持って、耳が少し痛い。


 気づけば、画面のバッテリー表示が赤くなっていた。

 時計は一時四十分を回っている。

 一時間以上、喋り続けていたことになる。


「……ごめん。明日、早いのに」


 熱くなった頬を冷やすように、スマホを持ち替える。

 千夏の声は、さっきより少し優しくなっていた。


「いーよ。どうせ寝れないとこだったし」


「……ちなつ」


「ん」


「ありがと」


「当然。……おやすみ、すみれ。明日も普通に学校なんだからね。寝なよ?」


 通話が切れた。

 静かになった部屋に、充電切れ間近の警告音が小さく鳴った。


 スマホをベッドの上に放り出して、もう一度パソコンの前に座る。


 画面の文章は、まだそこにあった。

 一文字も変わっていない。

 わたしの本音が、二千字ちょっとの形をして、白い画面の上に横たわっている。


 印刷、と千夏に言った。

 ファイルメニューを開く。プリントのボタンを押す。

 廊下の向こうで、プリンタの小さな稼働音が鳴った。

 両親が起きませんように、と心の中で祈りながら、わたしは部屋のドアをそっと開けた。


 取りに行く。

 まだ温かい紙を受け取って、抜き足差し足で部屋に戻り、二つ折りにして、机の一番下の引き出しにしまった。


 教科書やプリントの下。誰にも見つからない場所。


 画面に戻る。

 新しいファイルを開いた。


 ——書き直す。

 『観察者のいる教室』を、今度はちゃんとエッセイとして。

 感情を削いで、構造を整えて、読む人が自分の教室に重ねられるように。


 安藤くんが「そのほうがいい」と言った形で。


 カーソルが点滅している。

 今度は、なかなか指が動かなかった。

 さっきの熱が嘘みたいに、指先が冷たくて、重い。


 さっきまであんなに溢れていた言葉が、全部引き出しの中に閉じ込められてしまったみたいに。


 ——明日も学校だ。

 明日も安藤くんに会う。いつもの席で、いつもの距離で。


 「おはよう」って言えるだろうか。

 目を見て、笑えるだろうか。


 分からなかった。

 書くことだけは得意だったはずなのに、自分の明日のことすら、一行も書けなかった。

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