26 やっと見つけた
異世界ですが魔法はなく、何となくイギリスのヴィクトリア時代後期の世界観で書いています。
恋愛&ちょこっとミステリーな話になればいいなと思います。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「シャルロッテ!
リアーナのいる場所を見つけられたよ」
ルーベルトはいつもの客間に入るなり、明るくシャルロッテに話しかけた。
シャルロッテは頷き「いつ出発するの?」と聞いた。
「明日、出発する。
汽車を乗り継いで3日間もかかる辺境だよ、ね。
合ってるよね?」
「……ええ、たぶん。
エドワードが我が家に来ないのは、私のせい?」
「ああ、どうだろうな。
でも、わかってるよ、エドワードは。
まだ、リアーナに会えてないから……。
リアーナに気持ちを伝えられたら、元のエドワードに戻ると思う」
「これを持って行って」
シャルロッテはふたつの封筒を取り出した。
それぞれアルトール辺境伯爵とリアーナの名前が書いてある。
「渡して下さい。
そうすれば、少しはスムーズに対面できるのではないかと……」
「やっぱり一緒には行かないか……」
「ええ、ここはエドワードとリアで乗り越えないと先がないと思うから……。
気をつけて行ってらっしゃい」
「ありがとう。
ローエングリンの動きはどうだろう?
あっちもリアを探している?」
「たぶん、アンドリューが密かに調べてると思うけれど、そんな簡単にたどり着けないと思う。
メリメ伯爵家でもジョンに知らない人と会わせないようにしているだろうし。
もし、王都に連れ帰るなら、リアはどこに?」
「そうか……、それもあるのか……。
うちはどうかな?」
「カッシーナ公爵家に?
………いいですね」
「うん、ならそうしよう。
兄夫婦にも話しておく。
先日、バイエルン王国から戻って来たばかりだから」
「私、まだご挨拶してないわ。
外交官をなさっておいででしたね」
「じゃあ、リアーナが戻ってきたら、一緒に紹介するよ」
「ええ、楽しみに待っています」
☆ ☆ ☆
「リア、今日は庭へ出ないように」
朝食の席でアルトール辺境伯爵がダイアナとマークに給仕をしたり手伝ったりしているリアーナに言った。
「はい……」
緊張した様子で返事するリアーナ。
「……怖がらせたかな?
大丈夫だ。
昨夜、観光ではなさそうな雰囲気の貴族男性が街の宿に入ったと連絡があってね。
念のためと連絡があった。
屋敷内にいれば大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
ダイアナがふたりのやり取りを心配そうに見ている。
リアーナの袖をグイっと引っ張る。
「リア、どこかへ行っちゃうの?」
「大丈夫ですよ。そのために今日は屋敷内で過ごします。
ダイアナ様もマーク様もお庭で遊びたければ、マーサかジャンについてもらえばお庭に出られますよ」
「ううん、私はリアといる」
マークもリアの袖をつかみ言う。
「マークも!」
「ふふ、ありがとうございます。
では、今日はお絵かきをしたり、本を読んだりしましょうか?」
「「うん」」
ふたりの子どもは笑顔で頷いた。
そんな子ども達とリアーナのやり取りを微笑んで見ているアルトール辺境伯爵だった。
街の宿から馬車を頼んだルーベルトとエドワードは居心地の悪さを感じている様子。
この辺境の地、夏に静養に訪れる貴族はいるのだが、家族連れや年配の夫婦といった客層が多く、ルーベルトとエドワードのような若い男性ふたりという組み合わせは珍しく、注目を集めてしまっているようだ。
御者に「アルトール辺境伯爵の屋敷まで」と頼むと、驚いた表情でじっと見られた。
「何かあるのか?」
ルーベルトが聞き返すと、慌てて御者は馬車を走らせ始めた。
「いいところだな」
エドワードは屋根のない開放的な馬車から景色を見渡しながらのんびりと言った。
街の外れに大きな屋敷が見えてきた。
「旦那方はどちらの方で?」
御者が好奇心を抑えられなくなったように話しかけてきた。
「メリメ伯爵からアルトール辺境伯爵を紹介されてね。
訪ねるところだ」
ルーベルトが自分達の名は名乗らないように聞かれていることをうまくぼかして答える。
「メリメ伯爵様のお知合いですか!
それなら良かった!
実は辺境伯爵家から外から来た見知らぬ貴族がいたら知らせるようにと、宿や馬車、車など観光客を相手にする職の者にお達しが出てましてね。
旦那方は観光って感じじゃないから、目立ってたんですよ」
「そうか、それで……。
教えてくれてありがとう。
なんとなく感じた違和感はそれだったんだな」
屋敷前で馬車を降りようとすると、御者が門番に話をつけてくれ、中まで馬車で乗り付けることができた。
馬車は待っていてもらうことにして、対応に出て来た執事にシャルロッテから預かってきた辺境伯爵宛の手紙を渡して取次ぎを頼んだ。
夏の日向と日影が差が激しい空気感の中で、玄関エントランスは時間が止まったように薄暗く、遠くから降ってくるように、微かに子どもの笑い声やピアノの音が聞こえた。
やがて執事が戻って来て客間に通される。
アナトール辺境伯爵が迎えてくれ、ルーベルトとエドワードは自己紹介をした。
辺境伯爵は「それはそれは」と言って、エドワードをじっと見た。
ルーベルトはリアーナがこの屋敷で働いていることを知り、会いに来たこと。
合わせて欲しいとお願いする。
辺境伯爵は頷いたが考え込んでいる。
「彼女に君達と会いたいかと聞いたら……、それはダメか」
独り言のように言ってから「どうしたらいいですかね?」と逆に聞いてきた。
「えっと……」
ルーベルトも困ってしまった。
そこでリアーナ宛の手紙を取り出す。
「これをシャルロッテから、リアーナ宛に預かってきました」
辺境伯爵は受け取って思案する。
「……それでは、リアーナだけ図書室へ呼んで、この手紙を渡しましょう。
彼女が読み終えたら、声をかけて話せばいい」
ルーベルトがエドワードを見ると、エドワードは頷いた。
読んで下さりありがとうございます。
今回はすんなり終われそう。
今は5章の途中。
現在、最後の6章の話を書いています。
これからもどうぞよろしくお願いします。