21 襲撃
異世界ですが魔法はなく、何となくイギリスのヴィクトリア時代後期の世界観で書いています。
恋愛&ちょこっとミステリーな話になればいいなと思います。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「覚えてるわよ。この銅線みたいな赤毛!!」
ロザリーが憎々し気に言って近づいてくる。
リアーナはワゴンから手を離し、厨房に戻ろうとした。
「待ちなさい!」
エミリアが叫んで、ワゴンの上のポットを掴むとリアーナに向かって投げつけた。
「姉様?!」
ロザリーがびっくりしている。
リアーナは身を屈めてくるっと回転するように厨房に跳び込み、廊下でポットが割れる大きな音が響いた。
「どうしたっ!」
給仕に声をかけられ「襲われました!」と叫ぶリアーナ。
「急に女性がふたり迫って来て、逃げ出すとポットをつかまれ、投げつけられて!」
騒然となる厨房。
給仕の男性がふたり、廊下に飛び出す。
そこには誰もいない。
ワゴンが少し離れた所に止まっていて、熱湯のポットは厨房のすぐそばで派手に割れ湯気がもあもあと立ち上っている。
「怖い思いをしたね」
厨房の人達がやさしく声をかけてくれるが、リアーナは言った。
「私、お嬢様のところに戻らないと!」
「どうした?」
そこに来たのはローエングリン公爵家三男のアンドリューだった。
「この他家のメイドがお手伝いをしてくれてたんですが、廊下で女性に襲われたそうで」
「それは確か?」
「はい、彼女が逃げ込んできた後にポットが割れる音がしました。
自分でポットを割ったのではないですね。
ワゴンの位置も彼女が言った通りの位置でしたし、不審者が入り込んでいる可能性があります。
トーマス様にお伝え……、いえ、こちらでやります。
アンドリュー様はこのメイドを彼女の主人の所まで送って行き、謝罪していただけますか?」
「わかった……。君、立てる?
確かヒューバート伯爵家の……」
「私はヒューバート伯爵家のシャルロッテ様付きのメイドです」
給仕が驚いて、慌てて走って行く。
アンドリューはリアーナの手を取ると玄関の方へと歩き出した。
「悪かった。もしかしたら襲ったのは……」
リアーナは手を引っ込めようとしたが、アンドリューにがっちり握られ放してもらえない。
「私はメイドですから、手を!」
「あ、すまない」
すんなり放してくれ、ほっとするリアーナ。
「庭まで出れば後は大丈夫です」
無言で玄関までアンドリューが送ってくれた。
「ありがとうござます」
礼をして庭へ行こうとすると「名前は?」と聞かれる。
リアーナは振り返り「リアーナです」とだけ言って庭へ出て、キョロキョロ周囲を見回した。
☆ ☆ ☆
エドワードとマイヤー副局長は屋敷の中に招き入れられて客間にいた。
リアーナが屋敷の中で襲われたとエミリアとロザリーに言われ、ここに連れて来られ、トーマスから謝罪を受けている。
「それでリアーナは?」
「アンドリューが庭の方へ送って行った」と返され、思わずトーマスを睨みつけながら立ち上がるエドワード。
そこへアンドリューが帰ってきた。
「玄関まで送って来たよ、兄様」
「ヒューバート伯爵令嬢の所までではなく?」
「本人がここまででいいというから……」
「ひとりで返したのか?!」
「えっと……、まずかった?」
そのやり取りの途中からエドワードは客間を飛び出して行き、マイヤーが「失礼する!」と叫んで、その後を追った。
「言われたことくらい、最後までちゃんとやり遂げろ!!
他家のメイドに怖い思いをさせたのだぞ!
主人にきちんと伝えて詫びを入れるべきだろう!!
まだ不審な人物も隠れているかもしれない!」
「でも、兄様、たぶん、彼女を襲ったのはエミリア姉様とロザリーだよ。
ロバート兄様も何か一緒に動いてたし。
そっちを先に止めた方がいいと思うけど」
トーマスはエミリアとロザリーを見る。
ふたりはばつの悪そうな顔をしている。
「な、何を企んでいる?!」
トーマスが叫んで、エミリアとロザリーが「あーあ」とため息をつく。
「上手くいかないものね~」
エミリアの言葉に目を剥くトーマス。
「メイドを餌にエドワードをひとりにするはずが、おじさんがついて来ちゃうし。
メイドを捕まえる予定が、逃げられちゃうし……。
たぶんロバートの方もうまくいってないと思う」
「それにしても、あの赤毛、あんな目に合ったのに私達のこと言わなかったんだ……」
ロザリーがぽつりと言った。
読んで下さりありがとうございます。
今、ポケモンのヒスイ地方を少しずつ調査中でして、ゲームの中でくるっと回転して回避するのですが、思わずそれが出ちゃいました。
合気道でも練習した受け身です。懐かしい……。
今作はバトルシーンはほとんどないと思いますが、時々書けたら楽しいかな。
これからもどうぞよろしくお願いします。




