18 至急来られたし
異世界ですが魔法はなく、何となくイギリスのヴィクトリア時代後期の世界観で書いています。
恋愛&ちょこっとミステリーな話になればいいなと思います。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ダニエル・カッシーナ公爵は、次男ルーベルトの婚約者候補シャルロッテの父親であるウィリアム・ヒューバート伯爵の急な訪問を受け、ふたりの婚約の意思が定まったこととローエングリン公爵家からの横槍が入った話を聞いて笑った。
「そうか、ルーベルトとシャルロッテ嬢はやっと婚約に同意したか!
思ってたより早かったな!」
「ダニエル、問題はそこじゃないよ。
ならもう少し早く決心してくれて、さっさと婚約できてれば良かったのに……」
「ウィル、ローエングリンに忖度することはない。
そのまま発表すればいいさ。
まあ、一言もう決まりましたと事前通告は必要か?!」
「……それで済むと思うか?」
「まあ……、思わないが……。
また、ひどい噂が流れるかもな?」
ルーベルトもシャルロッテもローエングリン公爵家の子ども達に嫌われたことでひどい噂に悩まされてきた過去がある。
「また噂ですか……。
シャルロッテもある程度慣れて、強くなり、やり過ごせるようになったとはいえ、やはり女の子です。
辛い思いはこれ以上してもらいたくない……」
「そうだな、それは同感だ。
ルーベルトはどうでもいいがな」
「ルーベルトも傷ついていると思いますよ……」
「まあ、あいつの場合は不器用でうまく対応できず、あしらえなかったということもあるからな。
自業自得なところがある。
シャルロッテ嬢に対してはなかなかどうして、うまく自分の気持ちを伝えているようだな。
エドワードのおかげか?」
ヒューバート伯爵はエドワードの名前を聞くと、ため息をついた。
「どうでしょうね……。
その、エドワードですが、まだ身分は定まらないのでしょうか?」
「……何か問題でも?」
「いや……、我が家に、娘と姉妹のように育った部下の娘がいて、今は娘付きのメイドをしてくれているんだが……。
どうやら、その娘、リアーナのことをエドワードが気に入っているようで……」
「反対なのか?」
「リアの父は子爵家の次男で我が商会と伯爵家に仕えてくれているのだが……、身分的には平民ということになる。
このまま、交際して結婚なんてことになった時、問題が起きてリアが傷つく結果にならないように願っているが……。
いや、今はまずローエングリンの方だ!!」
「だから気にせず、正式に婚約させちまおう。
カッシーナ公爵家がついてる」
「うーむ……、わかった。
急いで婚約の書類を……」
「もう作ってある!」
ダニエルはニヤリと笑って机の引き出しから書類袋を取り出す。
「ふたりは伯爵邸に?
すぐここに来るように連絡を!」
公爵邸の執事が頷いて下がる。
「ふたりの確認が取れれば、今日中に提出しちまおう。
そして同時に両家連名でローエングリンに断りの知らせを出そう。
『まことに申し訳ないが……』ってね」
それでも不安気なウィリアムを見てダニエルは笑った。
「伯爵家としてはローエングリン公爵家にケンカを売ることになるかもと不安だよな。
まあ、大丈夫だよ。
めでたいことなんだから、すぐ祝ってやりたいしな」
カッシーナ公爵邸から至急来られたしと連絡を受けて慌てたのはシャルロッテである。
シャルロッテが外出のため、ブラックドレスに着替えようとすると「そのままでいいんじゃない?」とエドワードが止めた。
「もう、ブラックドレスは、いざという時に着ればいい服なんじゃないの?」
エドワードが続けて言った言葉にシャルロッテは頷いた。
「そうですね。
ブラックドレスは……、戦う時のために!
今日は家族になりに行くのですから……、はい、そうします!」
ルーベルトの車に4人で乗り込む。
車の中で「あ! 手土産は?」とシャルロッテが慌てたように言った。
「気にしない、大丈夫だ」とルーベルトが笑う。
エドワードも笑いながら言った。
「シャルロッテが手土産みたいなもんだろ?」
「……なんか、その言い方、嫌です」
リアーナがぼそりと言った。
「えっ?
じゃあ、言い直す!
ルーベルトの父は息子と婚約してくれるシャルロッテ嬢に会えるのを心待ちにしているから、もう土産よりも早く行くことの方が喜ぶ」
「んー、まあいいでしょう」
リアーナが腕を組んで頷く。
「旦那様も先に行かれてますしね」
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