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回胴式優義記  作者: 煙爺
第二章
90/171

贈る言葉

5月13日 月曜日 9時30分


「せやけどホンマにエエんけ?学校休んで

最後やから言うて無理すなよ」


心配するカズヤに何事も無く答える

「大丈夫ですよ色々あって担任に嫌われてるんで無断で休んでも病欠扱いになる筈ですから」


「はぁ?何でや?」


「いやちょっと…その…

職員室で軽く詰めたら泣かれまして……

いや自分の正当性を主張しただけなんですよ?そやのに言い返さんと泣いたら許されると思ってたみたいやから……色々と」


「ハァ…お前はスロット上手いのに…

学校通うのは下手やのぅ…

まぁそやったらたまにはエエやろ

さぁ最後に有終の美で終わろけ

ワシはモグラ381やアタルは?」


「そうですね自分はランプ見ますけど

一発目はカエル516の据えから行きますわ」


「よっしゃホナ行こけ」




開店10分前

モーニング狙いの客達や常連客らが

続々と並び始めるN店の正面入口

いつもと変わらぬ筈の景色に

ツナギ姿の男が混じっていた

常連のお爺さんに話しかけられる

「おやニィさん珍しな今日は朝からかいな」


「そうやねん今日は急に休みなったもんやから久しぶりやで」

そんな会話をしつつ時刻は9時55分

いよいよ入場の時間となった


いつも通り

走らないでという店員の言葉を無視して

猛然と台に向かう客達

アタルもその中に混じり

一直線に516番台へ

少し手前から下皿にタバコを投げ入れた

(よし無事確保)

千円札をサンドに入れ

出てきたコインを下皿に移して席に座る


すぐ店員によって端から順に開けられる台

他の客達が談笑やコーヒーを買いに行く中

アタルの視線は

周りの台の精算ランプに注目していた


何故か朝イチは全台埋まる赤パネルのニューパルサーをまずはチェック

(赤パネルは510が変更か……

やっぱり下げられたか

ちゅうことはやっぱり5やったんやろな…

結構出てたからなしゃーないわ)

前日常連客によって恐らくは2000枚程のプラスになっていた510番台のランプ消灯を確認


次はまだ空き台の目立つ緑パネルのニューパルサーだ

513番台と515番台は空席の為まだ不明

そしていよいよアタルの座る516番台

店員が鍵を開け電源を入れる

今日の狙いは

前日自分が打ってプラス200枚程で終わった

設定6の据え置き狙い

ランプが点灯していれば

ほぼ据え置きorモーニングだ


店員が内部のスイッチを押す

一瞬の間が空き


パッっと台の電源が入った


(点いとけ!)


そんなアタルの心の声に応えるかのように

516番台の精算ランプは赤く点灯

ほぼ据え置きorモーニングだ

(よし!第1関門突破)


席に座り開店を待ちながら次々と電源の入る他の台をチェック

(あとわかるのは518だけか…

よし今のとこ510と518が消灯やな

518が5に上げやったら読みは完璧やけど)

頭の中で様々なパターンを考えながら

開店を待つ


そして

店内に大音量のBGMが流れると

一斉に台が回り始める

アタルも自分の台にコインを10枚程入れ

レバーを叩く


昨日の閉店間際

小役をワザと30ゲーム程ハズしておいたのが効いたのか

左リールは中段に7が止まり角チェリー

そのままハサミ打ちで

右リールを押すとズルッとスベって

ボーナス絵柄を嫌がった

(よっしゃモーニング無しや!)

中リールを適当に押し

一旦手を止めて周りを見渡す

スーパーモグモグのシマを見ると

カズヤの座る381番の台枠ランプは光っておらず左隣の380番378番がモーニングの様子

(おっカズヤさんも取れたっぽいな)


それを確認し9枚手持ちから自分の台を打ち始める

(さぁSS判別から行こか)


しかし打ち始める事僅か2分

クレジットが22まで上がり

丁度手持ちコインが無くなった11ゲーム目

7・カエル・7の大V字のリーチ目が出現

(おっ速いな…さぁどっちや)

2枚手入れの1BETでレバーを叩き

左リール下段にBARをビタ押し

(スベれ!)

しかしそんな願いは届かず

下段にBARがしっかりと止まってしまう

(あーあ…15枚小役やな)

バチ当たりな事を思いながらも

そのまま斜めにBARを並べた

(クレジット36の7枚持ちから続行か…)

JACゲームを6回消化したところで

一度クレジットを落とし

コインを10枚入れてそのまま消化すれば

クレジット36の出来上がり

(よし大丈夫やな)

7枚を手に取り手入れで消化した後

一度席を立ち

次々と電源の入る緑パネルのニューパルサーの精算ランプをチェックする

(ほぉー…無し…無し…無し…おっ消灯か

角の525やな…こんで全部や…な…良し

今日は510と518と525が変更やから

多分510は前日設定5の下げで

518か525のどっちかに5が入ったかな?

この店のパターンからいうて

518が75%で525が25%いうとこやろ…)

そんな予想をしながらトイレに行き

台番号をメモ

すぐにトイレを出て自販機で烏龍茶を買い

席に戻って再び9枚手持ちで回し始めた


暫く烏龍茶を飲みながら打っていると

何故か笑いが込み上げて来た

(ハハハ何でやろ……何かオモロいわ…)

もう何度も繰り返して来た動き

月に約25日毎回こんな風に動いて来た

ほぼ毎日同じ物を食べ同じ場所に住み

情報を共有しながら打ち

勝った金を公平に分配する

終われば明日の為に話し合い

また同じ事を繰り返す

側から見れば退屈そうに見えるかもしれない

しかしアタルにとってこんな経験は初めてだ

コンドル遠征に行った時とはまた違う

学校という日常とスロットという非日常

自分の生活に他人を入れ

干渉と不干渉を繰り返す

そんな生活を約4ヶ月間過ごして来た


そして…そんな生活も今日で終わり


勿論今後もカズヤと打つ機会はあるだろう

しかしもう違う…カズヤは辞めるのだ

スロットでの生活を辞め

夢であった自分の店を持ち優希と結婚する

そんなカズヤが変な中学生である自分を信用し話に乗ってくれたのが何故か可笑しかった

(ホンマにカズヤさんも変わってるわ……

でもそれ言うたら山村さんもカオルさんも

変わってるなハハハ)

自分の周りは変わった奴ばかりだ

そんな事を思いながら回す事72ゲーム

再びバケ

(あっちゃー…またかいな…)

先程と同じ様な手順を踏み

再びSS判別を続行する


すると段々と絞りこまれて来た

クレジットが上がっている

しかも約30ゲーム間隔だ

(よっしゃ…こら6やろ…

後はBIG引いて確認や頼むでぇ)


そして迎えた182ゲーム目

総投資4000円で

上段に7がテンパイしたかと思うと

そのまま右上に7が飛び込みBIGスタート!

(うお!…っと…)

完全に油断しており身体がビクッと反応してしまう

すると左の方から笑い声が


「ハハハ」


そんな笑い声が聞こえた方を見ると

朝の並びで話した常連のお爺さんが

2つ隣の513番台で笑っている

(あら見られたか…恥ずかし…)

恥ずかしそうに笑いながらペコリと会釈をし

BIGを消化した


BIG終了後

いきなり設定6の判別からスタートする事に

(まぁ確認やからな多分大丈夫やろ)

そして判別の準備が終わり

クレジットが30になった1回目の判別ゲーム

(さぁ来いや)

気合いを入れて

左リールにチェリーを狙う……が

停止したのは上段7

チェリーを否定してしまう

(うっ…幸先悪いな…)

残りのリールを適当に止める


すると


見事に7が斜めに並び再びBIGがスタート!

(うおぃ!!)

先程よりも油断していた為

前回よりも大きく身体がビクッと反応してしまった


「ハッハッハ」


(あっ…まさかまた…)

左を見ると前回同様

513番台のお爺さんが笑っていた

「い、いやー…

この台自分が油断すんの待ってますわー……

中に人入ってんちゃいますかねー…ハハハ」

という謎の言い訳をかました後BIGを消化

再び判別のやり直しとなる

(何で最終日にこんな辱め受けなアカンねん

エエ加減にせぇよ516番台!

昨日も6で不発してんねんから

今日ぐらい素直に出んかい!)


するとその想いが通じたのか

次の当たりは110ゲームでBIG

(よしよし)

更に次も72ゲームでまたBIGと

判別のサンプルを増やしながら

出玉も増やすイイ展開に


ここまでで判別20回中12回のチェリーを獲得

設定6の据え置きを確信し判別を終了した

(よっしゃ後は回すだけや)

ゲーム数を頭の中で数える事もヤメ

ひたすら回し始めるアタル


12時の時点でBIG8回 REG2回

出玉は約2000枚と順調に箱に手が届く

(おー…バケは引かんけどよぉ当たるわ)

更に出玉は止まらない

14時ではなんとBIG18回 REG4回

出玉は約4500枚と既に下皿満タンに箱満タン

(ち、ちょっとやり過ぎちゃう?ニューパルやで?)

しかし流石にそこがピークだったのか

300ゲーム程でバケから

150ゲーム程でバケ

200ゲーム程でBIGを引くも

150ゲーム程でまたバケを引き

出玉が3500枚〜4000枚を行ったり来たり

16時までその状態を繰り返し

17時寸前で速いBIGが2連

この時点でBIG25回REG8回

出玉を約4500枚まで戻した

(ちょっとバケ少ないのが気になるけど…

まぁ順調過ぎるな)

そこからダラダラと増やし

19時にはBIG30回REG10回で約5000枚

2箱目にコインを入れ始める


21時にはBIG37回REG14回で約6000枚

3箱目が見えて来た


そして…


(フゥー…ここまでやな……よぉ出たわ…)


22時50分

蛍の光が流れる中

コイン精算機にコインを流す


ザーッザーッ…ザザーザー…カラカラ…ピッ


レシートの表示は7083



換金が終わり

いつもの様にうどん屋前に停まる

ハイエースのスライドドアを開けた


ガーッ……バタン


「お疲れ様です」


カズヤが挨拶を返す

「おぅお疲れさん よう出とったのぅ」


メモを取り出し結果を告げる

「はい昨日の仇討ちましたわハハハ

えーと4千円投資の7083枚で89100です」


「ハッハッハ凄いの

こっちは7千円投資の4117枚で47100や

えーと今日は時間一緒やから…

891の471で1362やから端数切って1360で

68000やの」


手元の金から差額を抜き取りカズヤに渡す

「ホナ21000円渡しますわ……はいこれ」


それを受け取り確認するカズヤ

「おぅスマンの……確かに…」


「………」


「………」


いつもなら…


今日の設定はどうだった?

明日はどこに座る?

メシでも食いに行くか?


ポンポンと弾む会話が何も出て来ない


そんな空気に耐え切れず

アタルから切り出した

「カズヤさん…

今日までお疲れ様でした

それから……

ありがとうございました

自分の我儘に付き合ってもうて…

感謝してます

あの時……どうしても解決策が浮かばんかったからホンマに助かりましたわ

しかもわざわざ後任をカオルさんにまで頼んでもうて…」


するとカズヤが笑いながら答えた

「ハッハッハ気にすなや

お前の我儘に付き合うた訳やないで

ワシも充分儲かったわ

ほんでカオルの件もな…持ちつ持たれつや

アタル…お前は真面目やのぅ」


「いやー…真面目では無いと思いますけど…

中学生でスロット打ってますし……」


「ハッハッハそういう意味ちゃうわい

ワシのう……

ホンマは疑っとったんや

洋次とかカオルがアタルは本気や

ひょっとしたら俺らより真剣にスロット打っとるかもしれん言うからの

若い奴にそんなもん無理や思てたんや

自分が無理やったからの」


「あー…まぁ事情が無かったら自分もやってませんよ16越えてたら働いてたでしょうし」

(流石に3千円スタートはせんわな……)


「そやろの……

せやけど事情聞いて

引き受けた後はビックリしたわ

学校終わってから毎日休まんと打ちに行って

帰ったら本読んでスロットの勉強してやで

朝は色んなとこから情報仕入れてメモして

火曜も先輩と他の店回っとるんやろ?

家事も全部器用にやりよるしな

アタル…

お前は当分大丈夫や

今回もワシと組まんでも何とかしてたと思う

だからの…これだけは言うとくわ

絶対金借りてまで打つな

借りた金で打つスロットはシノギちゃう

ただのギャンブルや、よう覚えとけよ」


真剣な顔で言うカズヤのアドバイスを受け

アタルも真剣に頷いた

「はい よぉ覚えときますわ」

(借金で打つスロットはただのギャンブル

なるほどな)


それを聞いたカズヤはフッと表情を緩め

元気に言った

「まぁアタルも元気でやれや!

夏には遊びに来いドリンクと焼きそばぐらいはサービスしたるからの

洋次とカオル……いやカオルはエエわ……

あいつ店員ナンパして営業妨害しそうや…」


「ハッハッハ

まぁ今年の夏絶対遊びに行きますから

その時は宜しくお願いしますわ」

そう言って車を降りるアタル


運転席側に回りカズヤに別れを言う

「お疲れ様でした また向こうで」

アタルがそう言うと


「よっしゃホナ帰るわ」


と言い残し

ハイエースは国道へと消えて行った


本日の収支

総投資4000円

回収93100円トータルプラス89100円

????回転 BIG42回 REG16回 7083枚

組み打ち計算後

トータルプラス68000円


1996年5月14日

桐嶋 一也 引退

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