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回胴式優義記  作者: 煙爺
第二章
87/171

流行の最先端


ガジャッ


パイプ椅子に座らされたアタルの前に

木のカゴに入った何かが置かれた


中に入っていたのはモックと呼ばれる

携帯電話機の原寸大サンプル


そう…

ここは携帯電話機を扱うコーナーの一角

PHSサービススタートと書かれた登りや

加入金5980円!などと書かれた店内ポップ

が目立つ人気コーナーである


美咲がアタルに声を掛ける

「どれがいい?

これなんか最近よお出てるけど」


ボォーっと美咲を見ていたアタルは

声を掛けられ我に返り素早く返事した

「あっ!そうですね…えっと…

この蓋付きのヤツをお願いしたいんですけど

これはお幾らですか?」

(はぁー…近くで見たら更にエエ女やなぁ…

何とも言えんわこの感じ……あー……良い)


少し苦笑いをしながら対応する美咲

「あっゴメンね…これPHSなんよ

蓋付きがエエの?フフッ珍しいねぇ

じゃあこれにしたら?」


その顔を見て更に興奮するアタル

(うおー!めっちゃエエやん!

笑顔も最高やで……エエもん見たわ

ありがとうございます)


すると横のカズヤから衝撃の発言が飛び出す

「いや携帯とPHS両方くれや

あと新しいベルも選べ、文字出る奴にせえや

便利やど」


思わずアタルがツッコむ

「カズヤさん自分は通信兵ちゃうんですから

そんな3つも要りませんって…」


「アホけ要るわい

携帯とPHSは繋がれへんねんど?

PHSは家の電話代わりにしたらエエやんけ

通話料も3分40円やし基本料も安いからの

加入金とか機種代は全部俺が払ったるから持っとけや

アタルやったらそこそこ稼いでんねやから

基本料ぐらい余裕やろが」


「いやまぁそうですけど…そんな使いますかね?」


「心配すな使わんようなったら

俺が引き取ったる、俺の会社名義にしとくからの問題無いわ」


「そうですか?ほんならまぁ…

有り難くお借りしますわ

スイマセンお姉さんお騒がせして」


するとそのやり取りが美咲にウケた

「ハハハハッ通信兵って…カズさんも面白い子連れて来たねぇ」


(おっウケた!やったで)


「せやろ?ホナこの2台とベルも頼むわの」



こうして…

右のポケットに携帯電話

左のポケットにPHS

右後ろポケットに財布

左後ろポケットにメモ帳

右膝サイドポケットに台取り用タバコ

左膝サイドポケットにベル

という通信兵アタルが誕生した


「カズヤさん……」


「ん?どないした」


「まさか全部のポケット埋まると思ってなかったんでメッチャ重たいんですけど…」


「俺らみたいにセカンドバック持つか?

どっちがエエ?」


「我慢します……」

(中2でセカンドバック持ってたら

絶対引かれるやん…)



2時間半程で漸く手続きが終わり

美咲と泣く泣く別れたアタルは

駐車場の車に戻ったのだが……

先程から運転席で

攻略雑誌を読み続けるカズヤは

全く帰る素ぶりを見せない


「カズヤさん帰らんのですか?

もう19時ですけど…

優希さんとメシ行くんちゃいますの?」

(折角週一の休みやのにデートせんのかな…

あっ…ひょっとして俺のせいか?

電車で帰ろかな悪いし)


「いや もうすぐ優希が此処に来るんや

だから心配すな」


「あっそうやったんですか

ホナ合流したら駅まで送って貰えません?

土地勘無いんでスンマセンけど」

(邪魔モンは消えるに限るで、ササっとな!)


「はぁ?お前まさか1人で帰る気ちゃうやろの…何か用事あんのけ?」


「何言うてますの若い2人の恋路を邪魔する訳にはいきませんやん!

自分は帰って久しぶりの便所掃除と

今日発売の攻略雑誌から有用な情報をメモに書き出す作業しますから」


「いやお前が1番若いやろが!!

ほんで恋路て…オッサンけ…

エエから今日は俺に付き合えや

便所掃除は俺が今日やっといたから

お前は今から洋次とカオルにお前の番号伝える作業を先にせぇや

2人が言うとったど?アタルには中々連絡し辛い言うての」


「えっ?何でですのベルありますやん」


「いやお前ベルに連絡しても公衆電話まで行かなアカンやないけ…誰でも気使うわや

部屋の電話も名義ちゃうから勝手に使う訳に

イカンしの

PHSやったら気軽に話出来るがな」


(そうか…言われたら確かにそうやな

急な用事ある時以外は連絡しづらいか…

最近情報交換もしてへんし…)


「あー…そら気付きませんでした

ホナ最近会ってへんから久しぶりに電話してみますわ…でも2人共今の時間は打ってるんちゃいます?閉店してからの方がエエかも」


「カオルは今日休みやから多分大丈夫や

洋次は木曜休みやから閉店してからにせぇ

これカオルのPHSの番号や」


「わかりました ホナ早速」


PHSを取り出し

渡されたメモの番号へダイヤルする

プルルルルというコール音が数回鳴った後

プツッと音が鳴り

声が聞こえた

「はい もしもし時田ですけどー…誰やー?」


「あっもしもしカオルさんですか?

アタルです、今さっきPHS買ったんですよ

ほんで番号伝えとこうと思って」


「アタルかー!!久しぶりやなー!

そうかPHS買ったんやー

最近は安なったから高校生もどんどん買ってるらしいなー

あっそや!今週金曜の夜に洋ちゃんと集まるんやけどアタルもおいでやー

俺やー…久しぶりに豚キムチ焼き食いたいねんかーだから頼むわーエエやろー?」


「ハッハッハわかりました

ホナちょっと時期は過ぎましたけど

冬限定の餡掛け豚キムチ焼き作りますわ」


「えー!何それめっちゃ旨そうやんかー!

ホナ洋ちゃんにも伝えとくから絶対金曜日来てやー!頼むでーまたなー!」


そう言うと電話はすぐに切れてしまった


「あっちょっと番号は……カズヤさん……

カオルさんに番号伝える前に切られたんですけど……」


「もうほっとけ今頃洋次に電話して喧嘩しとるわアホや」


「……金曜日会った時に伝えますわ……」



その時

車の外から予想外の声がした

「あれー?あの子まだ来てやれへんの?

何してんのよ…ちょっと電話するわ」


こちらに歩いて来たのは

先程泣く泣く別れた筈の美咲

私服に着替えアタルの座る後部座席へと

近付いて来る


(あっ!あれは!!)


その格好を見てアタルは思い出す

黒のタートルネックに

チェックのミニスカート

茶色のブーツを履いている


(アムラーや!懐かしのアムラーやんけ!

しかもめっちゃ似合ってるやん!)


その姿をボーッと見ていると

運転席のカズヤから声が掛かる

「アタルちょっとドア開けたってくれ」


勢いよく返事するアタル

「あっはい!」


ガーッっとスライドドアを開け

自分も降りるアタル

近付いて来る電話中の美咲に小声で

「…奥の席どうぞ自分ドア閉めますから…」

と告げるとニコッと笑った美咲から

ウインクして口パクで

[あ・り・が・と・う]と伝えられた


(アカーン!!神様ありがとー!!)


美咲が無事乗り込んだのを確認し

後から乗り込んでドアを閉めるアタル

目を瞑り神経を集中させる


(落ち着け…落ち着くんや……

久しぶりの女性との食事会や……でも………

アカン……今は嫌な思い出は忘れんと……

大丈夫…大丈夫や……良し…切り替えや)


パッと目を開けると隣の美咲の通話が

丁度終わるところだった

「わかったから…ほんなら早よおいでや

じゃあね」


すぐにカズヤが美咲に尋ねた

「優希なんや言うてた?どうせまた顔決まらん言うてんやろが」


眉をハの字にして申し訳無さそうな顔の美咲が答える

「そうやんか…あの子化粧長過ぎやねん

そやのに早よ用意せえへんから…

アタル君やったっけ?ゴメンね」


急に美咲から話を振られたアタル

慌てて話を合わせていく

「い、いやー気にせんといて下さいよ

それにしてもお姉さんはアムラーですか?

凄い似合ってますね!」


「へぇ…アムラー知ってるんや

でも私は厚底ちゃうし眉毛も太いやろ?

肌も焼いてないし

だからアムラーモドキかな?

流石に仕事場にあの格好で行くのは

勇気いるやんか

だから服だけ真似してる感じ」


「そういえばそうですね

でも厚底とか歩き難いから危ないんちゃいます?眉毛とか肌もこういう接客業やったら

お姉さんぐらいの方が年配の方のウケはいいでしょうし何より似合ってますから

そのままでいきましょう」

(その方が俺は好きやとは言えんけど)


そんなアタルの意見を聞き益々笑う美咲

「アッハッハッハ凄いなぁ優希よりしっかりしてるやんかウチの店長みたいやったわ」


その横からツッコむカズヤ

「お前は相変わらずオッサンみたいな事言うてんの…年寄りのウケ狙って売り上げ伸ばそうとすなや」


「しゃーないですやん金持って高い携帯買うのはオッサンなんですから…

ほんで今からどこ行くんですか?」


「ちょっとメシ食いに行くだけや

終わったら美咲送ってからアタル送って

解散するわ」


「聞きました?お姉さん

その後2人でどっか行く気ですよ?

やらしいわぁ…

あっそや!カズヤさん!

ちゃんと前に言うた事守ってますか!?」


「あ、アホけ!?ちゃんとしとるわ!

美咲がおる前で言うなや!!」


「前に?アタル君何て言うたん?」


「えっ!?えーと……だ、大事にせんとアカンって……い、言いました…」

(流石にまだ下ネタは早いやろ)


「フッ…ハハハハ…ハーハッハ!

大事にせぇって言うたん?カズさんに?

ハハハハ凄いなぁアタル君!

この辺でカズさんにそんな事言える人あんまりおらへんよ」


「あっ…やっぱり怖がられてるんですか?」


「やっぱりて何や!やっぱりて!」


すると美咲が思い出話を始めた

「フフフッそうやよ…昔はねぇ…

私なんか声掛けるのも

よう声掛けれへんかったわ…

14歳ぐらいの頃かな?

7月8日から学校が3日休みなったんよ」


「はい?どういう事ですか?」

(学校が休み?関係あるか?)


「私は7日の夜に友達から聞いたんやけど

7日の放課後にカズさんが暴れたんよ

嫌味な先生がおったんやけどね?

その先生を殴ったらしくて

ほんで止めようとした他の先生も殴って蹴って机とか椅子とか壊して

ほんで[こんな学校やめてまえー]言うて

職員室の窓全部割ったんやって」


「ええぇぇぇ!!!」

(映画やんけ!)


「ほんなら他の不良の子らも一緒なって

自分のクラスの窓割り出したらしくて

ほんで机とか椅子も全部校庭に投げて

結局次の日から3日間学校休みなったんよ

警察も来て新聞にも載ったんやから」


「え、えげつな……」


「だから7月8日から10日までの3日間は

桐島記念日って言われて

次の年から不良の子は勝手に休むようなってたわ、凄いやろ?」


壮絶な思い出話に引きながらカズヤを見る

「凄過ぎて引いてます……カズヤさん…」


しかしカズヤは窓の外を向き視線を合わせないまま答えた

「聞くな……若気の至りや……」


「至り過ぎです」


「知っとる」



その後、無事に優希も合流し

洋食屋での楽しい食事会となった


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