甘い髑髏と綺麗な星
4月7日 日曜日
台所で何やら作業をするアタルの後ろに
大きな影が迫った
「ほぉー…旨そうやんけ、アタルこれどこで覚えてん?」
「え!?い、いやグルメ雑誌で写真だけ見て自分なりに……
何か出来そうやったから…
や、やってみよかなーと思ってハハハハ」
「グルメ雑誌て…そんなん読んでたんけ?
俺にクレープの綺麗な焼き方教えてくれ言うた時は何事か思たけど……男子中学生が読む本ちゃうやろ……」
「そや!5枚ほど多めに焼いて4分の1にカットしたやつも作るからカズヤさんも味見してや」
「おっエエんけ?ホナ呼ばれるわ」
「是非感想を聞かして下さいよ」
(危なー!!この時代はまだ有名ちゃうかったんやな…余計なことすんのはアカンな)
アタルが作っていたもの…それは
クレープと生クリームを幾重にも重ねて作るケーキだった
西岡克則生誕祭[誕生日会]に招待されたアタルはすぐにそれを快諾
その際に何か誕生日プレゼントを持って行こうとしたのだが本人に固く断られてしまった
しかし手ブラで行くのはマズいと頭を悩ませ
結果自作のお菓子なら大丈夫だろうと
この作業をするに至ったのだ
(これやったら消えモンやしな
もし余っても晩飯の後とかに家族で食えるから邪魔にはならんやろ……
しかし予想以上に難しいわ…
生地の8割程度まで生クリームを綺麗に均等に伸ばすのは至難のワザやで
スンマセン完全にケーキ屋舐めてました
次からは買わせて貰います)
そんな初めてのケーキ作りをなんとか終えて
ケーキを冷蔵庫で冷やしている間に
今度は衣装選びの時間
しかし……
ここで大問題が発生
着ていく服が無いのである
いや…正確には[中学生らしい服]が無いのだ
成長期からか以前より急激に
縦にも横にも大きくなってしまったアタルは
中1の始め頃に着ていた服が完全に着れなくなってしまっていた
それによりアタルが現在着れる服
それは
ジャージや作業着にツナギといった
普段パチンコ屋に着て行く服ばかり
Tシャツすら白のBVDと紺のシャツのみ
(し、しまったぁぁ
完全に着心地と安さを重視してもうた……
ど、どないしよ…)
そんな時ケーキを試食中だったカズヤから声が掛かる
「アタルこれ中々旨いのぅ!……ん?どないしたんや?そんな服ひっくり返して」
「か、カズヤさん大変です!
服が無いんです!中学生らしい服が!」
「はぁ?今更何言うてんや……
元々持ってないモンがある訳無いやんけ
ホレこの前先輩に無理矢理買わされた言うてたアレでエエやんけ」
そう言うとカーテンレールの端に掛けてある服を指差すカズヤ
「えぇ!これですか!?こ、これ滅茶苦茶派手なスカジャンですよ!?中学生らしさと
かけ離れてますやん!」
そうカズヤが指差したのはミヤマサと一緒に買ってしまった黒地と金のスカジャン
背中には大きく銀の髑髏が刺繍されている
ヨシキを紹介されたあの日
3人で近くのショッピングモールに行き
色々と買い物をしていたのだが
たまたま服屋の店先に吊ってあった
このスカジャンを見てアタルが何気なく
[へぇーこんなんが流行りなんかぁー…
着る人が着たらカッコエエんやろなぁ]
と言ってしまったのが運の尽き
それを聞いていたミヤマサに
[スカジャンに流行り廃りは無い、あるのはカッコ良さだけ]という謎の理論を推され
そのまま試着から値引きまで強引に進められてまった
勿論アタルも初めは断っていたのだが
スカジャンは一生モノだというミヤマサと
隣で似合っているを連呼するヨシキの言葉に
乗せられて遂に1万5千円を出し購入してしまったのだ
ケーキを食べながらカズヤが言う
「何でやねんカッコエエがな
それにそんな派手ちゃうやろ黒やし
ていうかアタルは中学生らしい服って
どんな服か知ってんけ?」
「えっ……えーと……学生服?」
「アホけ?私服で学ラン着てる奴なんか見たこと無いわい…どうせ知らんねやからそんでエエやんけ」
「…でも…いつも行くスーパーの店員やってるお母さんもいるんですよ?あんまり悪い印象与えたら行き難いですやん…
息子の友達にどエライの来たとか思われませんかねぇ……」
「ハッハッハ大丈夫や…………と思うで
昼ぐらいに行くんやろ?もう11時半やぞ
諦めて早よ行けや」
「えっ?もうそんな時間ですか!?
アカン早よ用意せな!」
急いで服を着るアタル
そして完成したのは……
上は無地の白Tシャツに髑髏のスカジャン
下はポケットの多い迷彩柄のカーゴパンツ
靴は茶色い革のブーツを履いた
中学生らしさゼロの姿だった
思わずカズヤが突っ込んだ
「こ、こらアカンわ…完全にチンピラや…
何でやろか……やっぱ顔怖いんか
目付き悪いからの……」
「め、目付きって…そ、そんなもん整形せな無理ですやん!!」
「アタル…俺も人の事は言えんけど
諦めろ、お前に中学生らしさは無理や
大丈夫ハタチ過ぎたら問題は無くなる」
「あと6年以上あるんですけど………」
「……そうか……頑張れよ……」
そんな悲しいやり取りの後
ケーキを用意した箱に入れ
スーパーで買ったノンアルコールのシャンパン風飲料を持ち部屋を出た
自転車に乗って右に曲がり
本屋の交差点を左折
スポーツ用品店を過ぎ
銀行手前にある角を左に曲がって暫く行けば
右手に見える住宅街の中に
西岡と表札の出た立派な一軒家が見えてくる
(はぁー…久しぶりに見たけど立派な家やで
確か2年ちょっと前に建てた言うてたから凄いわなぁ……
93年言うたらバブル弾けてすぐやろ?
この家やったら2×4で坪50万としても
60坪はあるから最低3千万は掛かってるやろ…それプラス土地代やからなぁ
こんな時期に中々ローンは通らんやろうし
大したもんやで西岡君のお父さんは
流石公務員やな)
建って2年と少し
まだ新築の雰囲気が残る家を前に
腕を組みながらじっくりと物件を眺める
髑髏スカジャンを着た坊主頭の男に
後ろから声が掛かった
「あのー…ウチに何か御用ですか?」
「えっ!?い、いやあの…誕生日に呼ばれて
来させて頂いた者なん…あっ!」
そんな言い訳をしながら振り返ると
そこにいたのは西岡君のお母さん
赤のカーディガンを羽織って細身のジーンズを履いた背の高い女性が自転車を押しながら
ケーキの箱を持ちこちらを見ていたが
どうやらアタルの顔を見て気付いたようで
「あっ…いつもコロッケのお兄さん!
いつもありがとうねぇ今日はどないしたん?ひょっとしてご近所さん?」
いきなりの恩人登場に心の中を掻き乱された
アタルであったが何とか落ち着きを取り戻す
(落ち着け落ち着いて対処するんや!
恩人を不安がらせたらアカンからな……
よし…大丈夫や大丈夫…)
そして意を決したように口を開いた
「あ、あー…あの実はですね…こう見えて
自分中学2年生でして克則君と1年生の頃は
同じクラスだったんですよ」
するとどうやら話は伝わっていた様で
西岡母が満面の笑みを浮かべてアタルに
話を始めた
「ホナひょっとして神崎君!?
あの子から聞いてるんよー!いっつも助けて貰ってる言うて、さぁほら入って!汚いとこやけど遠慮せんと」
「いやこちらこそ助けて貰ってばっかりで
しかしエエ家ですねぇ建売ちゃうでしょ?
思わず眺めてしまいましたわハッハッハ」
「いや!神崎君は上手言うねぇ若いのに
さぁ入って入って」
「そうですか?ホナ失礼して
お邪魔させて貰います」
そう言うと家の中に招かれ
久しぶりの西岡家に入る事となった
時刻は11時47分
約束は12時丁度だったのでまだ少し早い
「すんませんお姉さん…
ちょっと早よ着き過ぎまして
ほんで家見させてもうてたんです」
「フフフフッ…私な?スーパーで会った時もいっつもお姉さんって言うてくれるから
てっきりハタチぐらいの子なんかぁって
思てたんよ…まさかあの子の同級生やったなんてねぇ」
「ハハハ いやーホンマは途中で克則君に聞いてお母さんやとは聞いてたんですけど……
それまでお姉さんって呼んでたのにいきなり
お母さんとかオバさんて呼ぶのはちょっと…
背も高いし昔はモデルか何かやってはったんですか?」
(中身は俺のが年上やしな呼び難いで)
「いやまた上手言うて!そんなん違うよ
ただちょっとチラシの広告載った事あるぐらいやで?若い時やから昔の話やんか
もう15年も前やわ」
「やっぱり!そうちゃうかなー思てたんですよ、克則君もよぉモテるみたいやし…
きっとお姉さんのおかげですねぇ」
「えっ?あの子モテてんの!?そんなん全然言わへんから…でもバレンタインのチョコは
何個か貰ったみたいで私らも協力したけど…
ねぇ!あの子ってどれぐらいモテてんのか
ちょっと教えてくれへん!?」
「うーんそうですね…本人おらんから
ちょっとだけですよ?うーんそうやなぁ
1年の時に席が隣やった子に聞いた話なんですけどね?その子が女子バレー部なんですけど先輩女子部員にまで人気やったみたいで
だからバレンタインも先輩から同級生まで
幅広く貰ってると思いますよ」
「先輩って2年3年の女の子からも貰ってやったん!?ちゃんとお返し出来たんかしら…
そういうのには疎い子やから心配やわぁ…」
「ハハハ大丈夫ですよ
お姉さんが思ってるよりしっかりしてます
自分なんかいっつも助けてもうてますからね
気遣いは出来るし差別はせぇへんし
誰にでも優しいしモテて当然ですよ
ただちょっとあがり症なだけで
でも女の子にはそれが良いんかも知れませんけどねハッハッハ」
「何か小学校の担任の先生と話してるみたいやわ……
実はな神崎君あの子小学校の時
ちょっとからかわれてたんよ
あの子背高いやんか?
ほんでそれが原因でウドや何や言われた言うてよう泣いてやったわ
ほんで私がそんなもんアンタもチビって言うたり!言わな言われたもんの気持ちなんかわからへんねんで!言うたんやけど…
誰に似たんか気小さいからよぉ言わんかったみたいで
学年変わってそれは自然と無くなったんやけど…中学入っても中々友達出来ひんみたいで心配やったんよ
それがバレー部入って先輩と話すようなったからやろか?ちょっと明るなってんけど
友達は相変わらず出来ひんみたいで
多分背の高い人の中では普通に話せるけど
それ以外の場所では
まだ無理やったんやと思うわ
それが夏休み前やったかな?
家帰って来て急に
悪い事した
わかってたのに何もせんかった
昔自分がやられて嫌な事知ってたのに
気付かん振りして見捨てて
皆んなと一緒になって無視したんや
って言うて真っ青な顔してな
ほんで話聞いたら
背の順で自分の1つ前におる神崎って子が
周りの子から無視されたりウドや言うて悪口言われたりしてんのわかってたのに
皆んなと一緒なって無視した言うんよ
自分も昔やられて嫌やったのにな
しかもその子は先生にまで嫌われて
係でも無いのに毎日プリント取りに行かされたり重い荷物運ばされたりして
家でも掃除とか洗濯までしてるんやって
今日皆んなの前で夏休みの宿題取りに行かされる姿見てやっと気付いたって
…
だから私がそう思うんやったら
夏休み中の登校日に話しかけて謝り
ほんで友達なったらどう?って言うたんやけど……」
長年の謎が氷解した
(あぁー!!それで昔 体育用具室の片付けやった時に話し掛けて来てくれたんか!!!
なるほどなぁー……親は偉大やなぁ……)
更に西岡母の話は続く
「ほんならもう手遅れやって言うから
何でやの?って聞いたら
今日終業式の最後で急にその子が怒り出して
先生に殴り掛かって行ったって
途中で他の先生に止められたけど
連れて行かれてどうなったかわからんって
その時に
[西岡はお気に入りやから雑用免除してんのか
お前殴って指導室でもどこでも行ったる]
って言うてたから自分にも怒ってる
もう無理やって言うてやったわ」
(エラいこっちゃ!!完璧に誤解さしてるやん!諸刃どころか悪い方に行っとるがな!)
「それが夏休み入って2〜3日したぐらいに
夕方部活から帰って来たらエラい機嫌良ぉなってたからどないしたん?って聞いたら
今日神崎君に会って謝ったら逆に謝られたってほんで許して貰えた言うて嬉しそうな顔してやったわ
それから他の子とも色々話せる様になったみたいで友達出来たって言うてやったんやけど
………でもねぇ……」
急に話が途切れ不思議に思ったアタルは
先を促す
「えっ良かったじゃないですか…何かありました?」
「いや勿論あの子の事は信用してるんよ?
せやけど部活ばっかり行ってホンマに友達と上手い事付き合えてんねやろか思て……
あんまり遊びに行くとか言いやれへんし
家に誰かが遊びに来た事も無いんよ?
流石に1年ぐらいは待ったけどちょっと心配なって来てねぇ…
ほんで今日誕生日やから友達呼びなさいって
言うたんよ」
「ち、ちょっと待って下さいよ?
今まで1回も友達家に来た事無いんですか?」
「そうなんよ1回も無いんよ?」
「あぁー……そらまぁ心配なりますね」
(ははぁ昔は俺が夏休み明けてすぐぐらいに
家入ったから大丈夫やったんか
ていうか西岡君…ゼロはアカンで…ゼロは
俺も人の事言えんけどウチは特殊やからな)
「やっぱり神崎君も思うやろ?だから今日はホンマに神崎君が来てくれて良かったわぁ
でも大丈夫やったん?家の方は?」
「あぁ大丈夫ですよ、今日は朝早よ起きて
洗濯も掃除も終わらせましたから
夜は菜の花のおひたしと
ワカメと筍の炊き込みご飯にしましたし
フタ開けてよそったら完成ですわ
ハッハッハ」
「いや偉いわぁ!!そんなん作れんの!?
若いのに菜の花なんか食べんの?」
「好きなんですよ菜の花
もう花咲いてる時期やからアカンかなー思てたんですけどね
今朝スーパー行ったら奇跡的に置いてたから
最後やし食べ納めやと思て買いましたわ
あのちょっと苦い感じが良いんですよね
この前なんか辛子入れ過ぎてエラい目に」
「神崎君!」
ふとドアの方を見ると西岡君が綿田君を連れこちらを見ている
「あら?お帰り!お邪魔してます
綿田君も久しぶりやなぁ」
「う、うん久しぶり」
そんな西岡君の格好は
胸に白い星のワンポイントが入った
黒のスタジャンだった
(あっ!ち、中学生らしい格好や!!)




