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回胴式優義記  作者: 煙爺
第二章
82/171

いちにいさん

4月5日 金曜日


(あー……しんど………何かこんな名前の

サッカー選手昔におったな…)


くだらない事を考えながら体育館で立ち続ける事約30分

相も変わらず内容の同じ話を繰り返す演説を聞きながら

アタルはこの後の事を考えていた

(えーと…この後教室に戻って自己紹介とかすんのか?たぶんそうやったよな……

ほんでその後解散で今日は終わりやろ

早よ帰ってカズヤさんに連絡しよ)


それから約30分間

新たな担任の紹介や

この後の予定を告げられ

始業式は無事に終了した


かに見えた


「アタル君!」


「お?おーヨシキ!来てたんか!」


体育館から出ようとしたアタルに

後ろから声を掛けたのはヨシキ

「ハハハそら今日は来るよ、兄ちゃんからも

初日に決まるからな舐められたらアカンぞ!

って言われてるもん」


「ハッハッハ相変わらずアホな事言うて

しかしヨシキお前……凄い格好しとるな…」


アタルがそう言ったのも無理は無い

今日のヨシキの格好は

頭は茶髪のオールバックに中ラン

黄色のパーカーを中に着て

下はボンタンにサンダルという

完全な小型ヤンキーが完成していた


そう言うと嬉しそうに説明をするヨシキ

「せやろ!この中ランなんか兄ちゃんが

昔に着てた奴仕立て直して貰ってん!

兄ちゃんが入学祝いや!言うてお金出して

裏地が赤なんやで凄いやろ!」


「す、凄いな…高そうや…」

(マサやん…稼いだ金で弟に入学祝い買うという発想までは素晴らしいねんけどな……

ちょっと間違ってんねんよな…ちょっとだけ)


「そうやねん!でもホンマは短ランがエエって言うてんけど…兄ちゃんが……」


「短ランはアカンて言うたんか?何でやろ

ヨシキは痩せてるからそっちの方が似合うと思うけど……あっ…」

(似合うとか要らん事言うてもうた…)


「せやろ!アタル君もそう思うやんなぁ!

でも兄ちゃんが…

この時期に初心者が短ランはまだ早い

6月過ぎんと腹壊すから中ランにせえ!

って言うねん…どう思う?」


「…そんなルールあんねや…マサやんの理論は難し過ぎて俺には分からんわ…

まぁ金出してもうてんねやし

中ランも似合ってるから大丈夫やで

ところでヨシキは何組なんや?」


「あっそうや!それ言おうと」



「宮永!!」



ここでヨシキの話を遮るように

アタルの背後から大きな怒鳴り声が聞こえた

それに強く反応するヨシキ

「あぁん?なんや?

今話してるからちょお待てや」


アタルもクルッと振り返り、その顔を見た


(うわ!ヨシキの担任てお前かい!

松センやんけ!!)


そう…

1年3組であるヨシキの担任はアタルと因縁深い暴力教師 松谷 大介こと松センだった


「何やその口の聞き方は!!

それにその格好が一年生のする格好か!?

来い!指導室や!お前みたいな奴は……

………チッ…」


急に声のトーンが下がり

舌打ちをした松セン


(あっコイツ…明らかに俺と目合ってから

舌打ちしてるやんけ

人には舌打ちすんな言うてた癖に……

まぁエエ俺もコイツは大嫌いやし

ヨシキ殴られんの分かってて黙っとく訳にもいかんしな)


そんなアタルが仲裁に入った

「まあまあ松谷先生落ち着いて

いやーなんか久しぶりですね

ところで指導室とか聞こえましたけど…

まさか殴ったりしてませんよね?

確かにヨシキの格好は褒められたもんや無いですけど…

口頭での注意もせんとまだ未熟な一年生を

いきなり殴るとかそんな 野蛮 な事は

しませんよね松谷先生?」


そう言うと

「もうエエ!!宮永!!お前は月曜までに

その格好直して来い!わかったな!」

と言って背中を向け立ち去って行く松セン


フゥ…と一息吐いてヨシキに向き直り

忠告する

「エエかヨシキ?

もし松センに殴られたりして怪我したら

まず俺に言え

保健室とか職員室行く前にすぐ言うんや

絶対治療してからやったらアカンぞ

怪我したままで俺に言うんや

授業中でも休み時間でも関係無いからな

俺は2年2組におるからわかったか?」


そう言うとヨシキは元気良く返事をした

「わかったすぐ行くわ!

でもアタル君凄いなぁ!松センがアタル君見たらすぐ帰って行ったやん!」


「い、い、いやそれは全然凄い事無いんや

この事は他の人にはあんまり言わん様にな?

それから今日は初日やからしゃーないけど

月曜日からはもうちょっと大人しめの格好にするんやぞ?」

(そんなとこは見んでエエんや!

それより怪我せんようになった事を喜べ!)


「うん!一年生は特別な時以外は変形アカンねやろ?それは兄ちゃんからも聞いてるから大丈夫や!

じゃあ行くわ、ありがとうなアタル君!」


そう言うと手を振って走って行くヨシキ


(なんか昔マサやんがそんな事言うとったな

学校のルールは守らんけど謎のルールは守るんやから……変わった人種やで…)

そんな事を思いながらアタルも体育館を後にした



ガラガラガラ


ガヤガヤと騒がしい教室に入ると

何人かはアタルの方を見るが

すぐに視線を外し友達との会話を再開する

そんな自然な光景にアタルは嬉しさを覚えた

(いやぁー…良いなこの自然な感じ!

これやこれ…これを求めとったんや)


「神崎」


「ん?おぉー……一緒のクラスやったんか

久しぶりやな 三田」

(何や今日俺に話し掛けてくんのはヤンキーばっかりやな……)


余韻に浸るアタルに話し掛けて来たのは

柿本の相方である三田


「おぉ…ユウイチは…柿本は1組や

それにしても……」


「ん?何や?」

(三田から話し掛けてくんのは珍しいな)


「神崎は変形着いひんのか?2年やから解禁やろ」


「着るか!あのなぁ俺はヤンキーちゃうねん

そんなん着たら絡まれるやんけ…

それに成長期やのに何回も制服仕立て直してたら金も掛かるしな」


「いや神崎の場合1年の時から標準でも絡まれてるやん…しかもミヤマサさんにまで呼び出されてたし」


「うっ!い、いやそうやけど……

あっそうやお前らに言うとかなアカンわ」

(痛いとこ突いてくるやんけ……)


「何や?俺らって…柿本にもか?」


「ちゃうわ、お前らヤンキー全体にや

今年の1年3組に宮永 芳樹っておるんやけど

そいつ俺の直接の後輩なんや

今日は生意気な格好してるから

1年同士で揉めるのは知らんけど

もし2年か3年で手出したら

俺が行くからな一応言うとくわ」


「はぁ!?1年の宮永って…

ミヤマサさんの弟やろ!?

そんなん全員知ってるわ!!

それより……神崎の直接の後輩!?

アカン!ちょっと行ってくるわ!」


そう言うと走って教室を飛び出して行く三田


「あっ!おい三田!」

(何やアイツ…でも皆知ってたんか…

ほんなら黙ってても良かったかな?……

まぁエエか)


しかし

この何気なく言った一言が

この学校のヤンキー全体に伝わるのは

一瞬の出来事だった



自己紹介で好きな食べ物をサザエの壷焼きと言った時に少し笑いが起きた事を微笑ましく思いながら教室を出て裏門に向かうアタル


そんなアタルが下駄箱で靴を履き替えていると本日三度目となる声が掛かった

「神崎君!」


「んー?……おお西岡君!久しぶりやなぁ

元気しとった?」

(おおミスター中学生や!相変わらず男前やな)


声を掛けて来たのは久しぶりに会う西岡君

「うん 久しぶり この前部活でちょっと怪我したけどもう治ったわ」


「ハハハそらしゃあないな スポーツに怪我は付き物やからな 今日は部活無いの?」

(部活で怪我……担任に殴られたり

ヤンキーに腹パンされて怪我してる俺とは

エラい違いやで…実に爽やかや)


「いや この後あるんやけど……

実は…神崎君にお願いがあんねんけど

聞くだけ聞いてくれへんかな?

も、勿論無理やったら断ってくれて良いから

どう?」


「エエよ出来る事やったら

やらして貰うから何でも言うてや、何?」

(ほぉ困った顔してどないしたんやろ?)


「うん…じ、実はな?明後日やねんけど

僕の誕生日やねん」


「ほう!ははぁ…ひょっとして女の子とデート行くんか?やるなぁ!」


「ち、ち、違うよ!全然違うから!」


「あら?スマンスマン変な事言うたな

最後まで聞くわ、続けて続けて」


「う、うん…えっと…それでな?

お母さんが友達家に呼んでお祝いしたらって

言うんやけど…その…神崎君良かったら

日曜日ウチ来てくれへん?」


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