1時限目 きほんのしくみ
9月22日 金曜日
「だから家庭訪問も三者面談も飛ばすから…
ハッキリ言うてな…お前には関わりた無いんや」
「そうですか、そらお互い様ですわ
ホナ俺が2年なるまでそれで良いですから
じゃあ頑張って下さい お疲れさんでした」
そう告げると返事も聞かずに部屋を出た
(こっちのセリフじゃ…たまには役立つやんけ)
ガラガラ
生徒指導室と書かれた部屋から出るとすぐに声が掛かった
「神崎」
声の主は柿本
それを見てアタルは申し訳無さそうに返事をする
「おぅ柿本悪かったな待たして
松センから呼び出し食らったモンやから
堪忍してくれや」
「い、いや!それはエエねん…それより大丈夫なんか呼び出し?何かバレたんか?」
「ハハハ大丈夫や別に何もバレたわけちゃうよ、それにあんなもんどおって事ないわ
それより昨日の説明聞きたいんやろ?
着いて来いや 人おらんとこで話したるわ
流石に学校内ではな」
「そうか…ほんならエエんやけど…」
そう言って柿本を連れ歩き出す
グラウンドの大きな時計は12時50分を指していた
(しっかしホンマにどうしようもない教師や
まさか あんな事言われるとはな
普通やったら大問題やで……)
今朝予定通り遅刻して来たアタルは
職員室で学年主任の河崎に理由を聞かれ
昨夜は泊まりで先程葬式のあった場所から
電車で帰って来たのでどうしようも無かったと説明した
すると何のお咎めも無く教室に行く事になったのだが…その際、松センに昼休み指導室へ来るように言われ先程の問答となった
その内容を要約すると…
今後学校で行われる予定の行事をアタルとはやりたくないというもので
それは三者面談や家庭訪問は勿論の事
10月頭の体育祭やその後の合唱コンクールに文化祭まで
担任主導でやるもの全てを拒否
その代わりその期間を休んでも出席扱いにしておくという所謂松センからの職務放棄宣言である
(まぁ俺に対する嫌がらせのつもりもあったんやろうけど…丁度エエわ稼働増やせるし
この歳でフォークダンスも無いやろ
せめて相手が女子大生ぐらいやったら喜んで
やるんやけど)
「神崎 どこまで行くねん」
そんな事を考えていると行き先を不安に思ったのか柿本が尋ねて来た
「ん?裏門の先の公園や
あそこのベンチやったら誰も来んやろ
先生来てもすぐ逃げれるしな
心配すんな大丈夫やから」
そう告げると当然の様に裏門を飛び越え
公園に向かうアタル
後ろから柿本も着いてきている様だ
公園のベンチに着き腰を下ろすアタル
「まぁ座れや 説明したるから」
そう言われ隣に座る柿本
するとポケットから缶コーヒーを2本取り出し1本をアタルに差し出した
「神崎…これ…
昨日はホンマに助かったわ……
換金したら5000円もあったから……」
まさかの柿本の行動に驚きながらも
受け取るアタル
(こいつホンマにヤンキーか?
それとも俺が殴ると思ってんのかな?
まぁエエ…折角の好意や有り難く頂こか)
「おぉ!ありがとうな 丁度喉乾いてたんや
有り難く頂くわ」
缶コーヒーを一口飲み
本題を切り出す
「ほんなら時間も大して無いし
ちゃっちゃと説明するわ…
と言いたいとこやねんけど
その前に聞かなアカン事あんねん」
「何?」
「柿本、お前パチンコとかスロットって
いつ当たりが決まるか知ってるか?」
「えっ?えーと……羽根開いて…真ん中のVに入ったら当たりやろ?」
「あースマン質問が悪かったわ
俺が聞いてんのは普通の液晶とかデジタル
付いてるパチンコや」
「あー……それやったらデジタル動いてリーチなってから真ん中止まる時ちゃうんか?」
(まぁそう思うわな)
「ほんならスロットは?」
「スロットは知らんわ…昨日初めて打ったし
でも7狙ってたらその内揃うんちゃうんか?」
(俺も昔はそうやったなぁ…)
「よし分かった そんだけ聞いたら大丈夫や
今から説明するから」
「お、おう」
「まずパチンコは台の真ん中にデジタルとか液晶画面を動かす為の穴あるやろ?
あれをスタートチャッカー言うねんけど…
Vとかスタートとか書いてあるやつな
見た事無いか?」
「あぁ あるな」
「そこに玉が入った瞬間に当たりかハズレが
決まってるんやリーチは一切関係無い」
そうアタルが告げると目を見開いて驚く柿本
「えぇ!そうなんか!!…で、でも先輩は」
「先輩は何て言うてたんや?」
「いや確かリーチがよお掛かる台はエエ台やとか…あと左に7の図柄が止まる台はもうすぐ当たるとか…」
「で?その先輩は勝ってんのか?」
「いや…たぶん俺と変わらんと思う…
昨日もバイト代無くなって怒ってたし……」
「そやろな…そんなモンが通用してたらパチンコ屋に来る客の9割は勝ってるで
確かにひと昔前には一部そういう機種もあったらしいから多分その名残やろ
でも今ある台に通用することはまぁ無いわ」
「そうなんか……」
「勘違いすんなよ?別にそうやって楽しんで
打つのが悪いって言うてるわけちゃうぞ
現にパチンコ屋にいる人の殆どがそうやって
自分なりに楽しんで打ってる人や
その先輩も自分がバイトで稼いだ金で楽しんで打つ趣味や
誰に文句言われる事も無いからな
でも今の柿本はいき過ぎてるやろ?
だから言うてるだけや」
「そうやな…先輩はバイトの金やもんな…」
「まぁパチンコの話はこの辺にして…
スロットの話するわ昨日の事もあるしな」
「そ、そや!昨日のアレは何やってん!
何で当たる台がわかったんや!?」
「落ち着けや今から説明するから
スロットはコイン入れてレバー叩いて
3つのボタンを押すんやけど…
当たりハズレの抽選はレバー叩いた瞬間にしてるんや」
「す、スマン……そうなんか!?
ほんならさっきのパチンコと殆ど一緒やん!
神崎はいつレバー叩いたら当たるか知ってるんか!?」
「アホか…そんなモンわかる訳ないやろ…
わかったらバイトなんかせんと自分の金で打つわ…
スロットはなパチンコと違って当たったら
自分で狙って揃えんとアカンねん
だからそのためにリーチ目があるんや」
「リーチ目?」
「そうや さっきレバー叩いた瞬間に当たりが
決まるって言うたやろ?
ほんなら台は中で当たりの状態で待機する
その当たってる状態を知らせてくれるのがリーチ目や
要は台が当たってる時にしか出えへん目が出るんや」
「じゃあ昨日の台は……」
「そうやリーチ目が出てたんや
前に打ってた客がリーチ目に気付かんとヤメて行った台や」
「な、何でその客はそんな状態でヤメたんや?」
「さぁそこや…リーチ目っちゅうのは機種によって変わるんやけど
あのニューパルサーの場合リーチ目の種類は
約1000種類以上あるって言われてる
だから客も気付かんかったんや」
「1000種類!?そんなん無理やんけ!
まさか神崎は全部覚えてるんか?……」
「あのなぁ…
お前はさっきから俺をなんやと思てんねん
そんなモン覚えれる訳ないやろ…
俺が覚えてんのは精々10ぐらい
あとは何個か法則を覚えてるだけや
昨日の台はその法則に当てはまってたんや」
「法則?」
「そうやニューパルの場合
中段フルーツの組み合わせとか
右リールの下段チェリー付き7とか
あと誰でも知ってんのは
左リールにチェリー出て右リールの対角線上にボーナス図柄がテンパイしたら当たりってやつやな
昨日の台はその中段フルーツの組み合わせが出てたわ」
「そうやったんか……だから神崎はバイト出来るんやな…それ知ってるから」
「いや全然違うで、リーチ目の法則ぐらい
お前にもいつでも教えたるわ」
「えぇ!?な、何で…」
「大事なんはこっからや
お前昨日初めてスロット打ったんやろ?
7の絵柄見えたか?」
「いや全然…どのリールもボワッとして
繋がって見えてたわ」
「ほんなら例えばお前が1人で打ちに行ったとせえや勿論リーチ目の法則も知った上でな」
「おう」
「じゃあ暫く打ってリーチ目が出ました
どうやって7揃えんねん」
「あっ…どないしよ…」
「そこで7揃えられる様になって
初めて一歩前進や目押しって言うねん
目で見て押すって意味でな」
「ほ、ほんなら神崎は見えてんのか!?
あのリールの絵柄!?」
「全部見えてるで だから昨日も押せたやろ」
「す、凄いな!…だからバイト出来るんか…」
「まぁ大まかに言うとそうやな
目押しが出来たら更にエエ事もあるんや
さっきリーチ目は1000種類以上あるって言うたやろ?ところが目押しで毎回おんなじとこばっかり狙ったらどうなると思う?」
「あっ!ひょっとしておんなじリーチ目ばっかり出んのか!?」
「そうや だから当たりがすぐわかるんや
ほんなら揃えるのも昨日やったみたいに
コイン1枚で出来るから無駄が無い
他の人が10枚も15枚も使ってるとこが1枚や
それが長いこと打って30回ボーナス引いてみ?300〜450枚違うんやで?」
「そ、それって俺の昨日換金した枚数と一緒やん!」
「そうやだから大事なんや」
(まぁこんなもんやろ ちょっと喋り過ぎたかな…)
あまりにショックだったのか
黙り込んでしまう柿本
(ちょっとショックやったか?
でもバイトのとこ以外はホンマやしな…)
暫くした後、静かに口を開いた
「…2つだけ聞きたいことがあんねんけど……エエかな?」
「エエで 答えれる事やったらな」
「…その目押しが出来ても勝たれへんのか?
神崎やったら勝てるんちゃうんか?」
「目押しだけやったら無理やな…
ハァ…そうか…ほんなら何で勝たれへんのか教えたるわ…
出る台と出えへん台の違いってわかるか?」
「そら店が出る様にしたら出るんちゃうんか?パチンコやったら釘叩いて出る様にするんやろ?」
「まぁ…大体合ってるわ
スロットにはな釘が無い代わりに
設定っちゅうのがあるんや1〜6までな
1が悪くて6が良いんや
勿論1で出る事もあるし6で出えへん事もある…でも大体は1は負けて6は勝てる様に出来てるわ確率やけどな」
「へぇー…そうなんか」
「例えば10台の台があって
設定1が5台に設定3が3台
設定6が2台入ってる店がある
あくまで例えばやで?
設定1が2万円負ける台、設定3がチャラの台
設定6が4万円勝てる台やと考えてくれ」
「なるほど わかった」
「じゃあこの店に10日行ったら
5回負けて3回チャラで2回勝つ計算になるよな?ほんなら合計3回負けでマイナス2万円
無理やんけ」
「いや待てや!何回も6に座る事もあるやろ!?」
「そんなん言うたら何回も1に座る事もあるやんけ…何で勝つ方ばっかり贔屓すんねん」
「で、でも1で勝つ事もあるんやろ?」
「あるで 6で負ける事もあるけどな」
「…そうか……そうやな」
「わかったか?これが負ける理由や
勝ったり負けたりして最終的に負けるのも
こういう事や………ところが世の中には
例外があるんや」
「例外?」
「10回行ったら普通2回しか座れん筈の6に
何回も座る人それが俺のバイト先や」
「や、やっぱりそんな人おるんか?」
「おるよ、俺はその人に雇われてんねんからな」
「…何でその人は何回も座れるんや?」
「それがわかったら俺がやってるわ…
代打ちのバイトなんかせんとな」
「…そらそうやな……バイトて一回いくらぐらいなんや?……」
「あの店で週1回だけ17時から23時迄で
5000円や、昨日は丸1日やったから1万円」
(まぁ安い代打ちやったらこんなもんらやろ)
「えっ!ほんなら毎週5000円か!?
めっちゃエエやん!」
「あのなぁ…小遣いちゃうねんぞ?
生活費や…お前当たり前にメシ食ってるやろうけど一食いくらか知ってるか?
一食250円でも1週間で5250円やぞ?
小遣いなんか1円も残らんわ…」
「……家でメシ出えへんのか?」
「出たらこんな危ないバイトなんかするか
ウチのオトンがアホなんは皆知ってるやろ
どうしようも無いからやってるんや」
(それどころか生活費も全て出てへんけどな)
「………だから神崎…金取るんか言うてキレてたんか……」
「そうや俺から金取るいう事はメシ取んのと一緒や、それが先輩やろうとヤンキーやろうと関係無い絶対許さん」
「そうか……そらそうやわな…」
「まぁそういう事や もう聞きたい事無いか?
無いんやったら戻るで」
「あっ…最後に1個だけ聞かせてくれ」
「何や?」
「昨日…何で……何で助けてくれたんや?
俺の事…恨んでるやろ?呼び出して先輩のとこ連れて行ったし…森元さんにも絡まれたんやろ?……だから…」
「あー…それか…
お前に昨日ナンボ持ってるか聞いたの覚えてるか?」
「あ、あぁ あれも何でやったんや?
関係あるんか?」
「あれはな お前が踏み止まれる奴やって
わかったからや 言うたらわかる奴やってな
昨日ゲーム売るぐらい金無かったんやろ?
それでも絶対使ったらアカン金やからって
1000円残した
そういう奴はまだ大丈夫な奴なんや」
「そんなん関係あるんか?」
「ある…と俺が思ってるだけやけどな
ホンマにギャンブルに嵌ってる奴は
その1000円が残されへん
でも柿本は残せた
ギャンブルする場におってもギャンブルより大事な金があるって事や
だからコイツやったらまぁエエかと思ってな
それから別に恨んでへんぞ?
お前らに直接絡まれた訳ちゃうしな
あれは…と、戸部?……ちゃうな戸部はウチのクラスの女子か………えーと……戸池や!
戸池が悪いんやろ?あと森元か」
「そ、そうか……それやったらエエんやけど」
(あっ俺が戸池の名前間違えたの引いてるな…)
「まぁ1円も残さんと使ってもうて反省するパターンの人の方が多いねんけどな
ギャンブルに熱くなるかならんかの違いや
それから昨日みたいにリーチ目落ちてる事なんか滅多に無いし
最後の最後でラッキーやったと思といたらエエやろ
さぁ時間無いし教室戻ろや
5時間目の授業始まんで」
「わかった…でも何か授業受けた後みたいな気分やわ…スロットの授業やな…」
「ハッハッハそうやな
どうや?松センの授業より分かりやすかったやろ?次はモーニングの説明でもしたるわ」
「ハハハ全然分かりやすかったわ
ほんでモーニングって何や?」
「それは次まで楽しみに待っとけや
さぁ戻るで」
(さて後は退屈な授業受けて今日もコンドルと行こか)




