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回胴式優義記  作者: 煙爺
第一章
33/171

懐かしの味

8月20日 日曜日 14時17分


店に近付くと店頭の鉄板前で

頭にタオルを巻いた若い男が

焼きそばを焼いている

(うわ暑そうやな…サッと済ますか)

男に声を掛ける

「すいません桐嶋店長さんいらっしゃいますか?呼ばれて来た神崎と言う者なんですが」


男が威勢良く答える

「はい!いらっしゃ……え?店長ですか?

あーはいはい今朝社長が…わかりました

ちょっと待って下さいね」


どうやら話は伝わっているようだ

「すいませんお願いします」


男が店の奥に向かって叫ぶ

「社長ー!今朝仰ってた業者の方がいらしてますよー!」


(誰が業者や!まぁしゃあないけど……)


するとすぐに反応があった

木目調の店内の奥にある赤い暖簾をくぐって

1人の大柄な男が現れた


短く刈りそろえられた茶髪

鋭く細い糸のような目

ボコボコと潰れた耳

もみあげと繋がった顎ヒゲ

そして何より横にも縦にも大きな体格

そんな男が青い生地にヤシの木が描かれた

アロハシャツと迷彩柄の短パン姿で現れた


(うわ顔怖っ!!デカっ!!2m近くあるやろ!ほんで肩幅広っ!無理無理!絶対無理!

そらカオルさんも喧嘩売らんわ……)


男が口を開く

「業者ぁ?そんなもん頼んでへんど

俺が言うたんはアタルって子が……業者?」


こちらを見ながら言うそのセリフに反応する

「いや業者じゃなくてアタルです

一昨日電話でお話しした」

(誰が業者や!って突っ込みたいとこやけど

まだや…距離感を測らんと顔が怖い)


「……何でツナギ着てんのや?…好きなんけ?」


「いや打ち方教えて欲しいって仰ってたんで

店行くんかなぁと思いまして…一応変装を」


「………何やよぉわからんけど

来てもうておおきにな取り敢えず奥行こか」


「あっハイほんなら失礼します」


そう言われカズヤについて行く

赤い暖簾をくぐり奥に行き

調理場を過ぎ

休憩室と書かれた部屋も過ぎたところで

何も書かれていない部屋の前に到着

そのままドアを開け中に入って行く

「まぁ入って座ってや」


そう言われ部屋に入ると

3畳程のスペースに

テーブルと椅子が1つ置かれ

テーブルの上には帳簿と書かれたノートが1冊あるだけのシンプルな部屋だった


その椅子をアタルに勧め

立て掛けてあったパイプ椅子に座るカズヤ

「遠いとこスマンの改めて自己紹介するわ

桐嶋一也やカズヤって呼んでくれ」


「あっどうも初めまして 神崎 中 です

アタルって呼ばれてます」


「うん洋次から聞いとった通り落ち着いた

若者やな、心配せんでも詳しい事は聞いてないのや洋次は要らんこと言わん奴やからの」


「そうですか……一応事情話したのは

山村さんとカオルさんだけなんです」

(話して無かったんか…口堅いんやな山村さん)


「そうか まぁ金の掛かった組み打ちやっとんやから多少の事情話し合うのはしゃあないわ信用出来ん奴とは組めんからの」


「そうですね金額誤魔化されたら

どうにもなりませんもんね」

(あぁだから山村さんもカオルさんに事情話してくれって言ったんかな)


「ほんで早速で悪いんやけど地図と説明

頼めんか?打ち方は後で店行って頼むわ」


そう言われ早速説明を開始するアタル

「はい ほんならこれが地図です

でこの青点が借りてる部屋で赤点が………」



20分後

地図を見ながらメモを取るカズヤ

そこに突然


ピンポーン


と音が聞こえた

(えっ何の音やこれ?インターホン?)

するとカズヤが慌てた様子でアタルに告げる

「ちょう待っとってくれ!」

そう言うと急いで席を立ち上がり

店の方に走りだした

(何や!何事や!?)

ビックリしたアタルもカズヤの後に続き

店の方について行く

赤い暖簾から店を覗くと……


店内の左側にある3つのテーブル席

その真ん中の席で若い男2人組と

エプロンをした若い女の店員が見える

そしてそこに立つカズヤの後ろ姿

「お客さんウチの店員に手ェ出してもうたら困りますわ…ここは海の家やで女触りたいんやったら違う店行って貰わんと」


黒髪ロン毛の男が騒ぎ出す

「な、何やお前!声掛けただけやんけ!

そんな事ぐらいで煩いんじゃボケ!」


その言葉を聞き茶髪ボウズの男も調子に乗る

「そうじゃ!こんなとこで働いてんねんから

声掛けるぐらい普通やんけ!何がアカンねん!」

どうやら2人共かなり酔っ払っているようだ

(うわっ酔うて女の店員に絡んだんか最悪や)


しかしカズヤの対応は変わらない

「声掛けただけやったら何も言いませんわ

せやけど触るのは見過ごせませんな

こんだけのお客さんと店員が

この子の肩抱いて無理矢理隣に座らせようとしたん見てますんや言い逃れは出来ませんで」


仁王立ちのカズヤが睨みを効かせ

ハッキリとそう告げたことで

黒髪ロン毛は怯み黙ってしまう

が…しかし茶髪ボウズが逆上してしまい

更に騒ぎ出した

「何やとコラァ!そんなことぐらいで普通やろうが!コッチは金払てる客やぞ関係ない奴は黙っとけやボケ!」


「さっきも言うた通りここは海の家やで?

ここで金払ってもそういうことは

出来ませんのや理解して貰えませんか?」


冷静な対応をされ

更に逆上する茶髪ボウズ

「ゴチャゴチャうるさいんじゃオッサン!

シバくぞ!」


「落ち着いて下さいや

何でそんな話になるんか理解できませんけど

コッチも親御さんから大事な娘さん預かって

働いてもうてますんや

とりあえずこの子に謝って貰えますか?

ほんなら警察は無しにしときますんで」


そうカズヤが言った瞬間

遂に茶髪ボウズの男がキレた

「黙れやぁぁぁ!!!」

そう叫びながら殴り掛かる!

(あっ!ヤバっ!)


「おっと危ないなぁ」


カズヤがそう言ったのと同時に


男が前のめりに倒れカズヤに支えられた


「ウォェ…ゲッ…ホ」


そして何故か咳き込む男


後ろ姿しか見えなかったアタルには何が

起こったのか理解出来ない

(何…今の………山村さんに教え貰ったやつか?でも……殴り掛かって来た奴やろ…

何か吐きそうなってるし…)


そんなアタルをよそに

カズヤは茶髪ボウズに話し掛ける

「危ないなぁだいぶ酔おて足に来てますやん

大丈夫ですか?咳き込んではるし今日は帰った方がエエんとちゃいますか?

どないします?」


そう言うと

黒髪ロン毛の男がすぐに謝り出した

「すんません!もう帰りますんで…

お姉さんもすんませんでした!

コイツも酔おてまして…すぐ連れて帰りますんでホンマにすんません」


その後すぐに会計をして逃げるように帰って行った

カズヤが他のお客さんに謝罪する

「皆さん お騒がせしてすんませんでした

お詫びにソフトドリンクの半額券を

差し上げますんでまたお願いします

藤島君半額券をお配りして

俺ちょっと休憩室に三木さん連れて行くから

後頼むわ」

そう言って

焼きそばを焼いていた男に指示を出し

女の店員を連れ戻って来た

「すまんな もうちょう待っといてや」


「あっ大丈夫です気にせんといて下さい

事情が事情ですから」

(こらしゃあないわな待っとこ)


奥の部屋に戻り10分程待っていると

カズヤが紙コップを両手に戻って来た

「いや すまんかったの、まぁ飲んでや」


「いやとんでもない、でも大変ですねぇ

あっいただきます」


「まぁようあることやからもう慣れたわ

元々ナンパ目的で来てる男が殆どやから

しゃあないわの」


「そうなんですか…あの店員さんは大丈夫やったんですか?」


「あぁ怪我も無いし、このバイトも3年目の

子やからの慣れたもんやで

でも一応休憩室で休んでから行くように言うたわ見た目大丈夫でも女はわからんからの」


「へぇ同じ子が何回もバイト来るって人気あるんですね」


「海の家のバイトは募集だけは凄い競争率や

仕事キツいから辞める奴も多いけどの

だから慣れとる子は有り難いわ」


「憧れみたいなんありますもんね

海の家のバイトって

楽しそうなイメージが強いからかな

そんな甘ないと思いますけど…」


「おっさんみたいな事言うな自分…若いのに

あっそや思い出した一個聞いてエエけ?」


「えっ?ど、どうぞ」

(何や改まって)


「豚キムチ焼きって作り方教えて貰えんの?」


「は?いや別にイイですけど…何でまた

普通の奴ですよ」


「いやカオルが来たら作ってくれ言うて

うるさいからの…もうすぐ15時の休憩やし

良かったら作ってみてくれへんけ?」


「いいですけど材料ありますかね?

豚肉とキムチと木綿豆腐とゴマ油と調味料なんですけど…」


「わかった近くに激安スーパーあるから

すぐ揃えるわ、すまんの色々さして」


「そんな難しい料理ちゃうんで大丈夫ですよ」


そして15時になり調理場で作る事になったのだが………


「カズヤさん……」


「ん?どうした何か足らんけ?」


「何で店員さんが覗いてるんですか?」

(しかもさっき絡まれてた女の子もおるし

アンタ落ち込んでたんちゃうんかい……)


そう 後ろの入口で2人の店員が覗いていた


それを聞きカズヤが後ろを注意する

「は?…あっコラ!三木に藤島!覗くな!

俺の客に失礼なことすなよ休憩室戻っとけ」


藤島と呼ばれた男が口を開く

「いや社長、業者さんが料理するってめっちゃ気になりますやん…てっきり換気扇とか直すんか思てたのに」


三木と呼ばれた先程の女も同意する

「そうですよ社長 何作るんかだけでも

教えて下さいよ私の将来のためやと思って」


「藤島…まず業者ちゃうから換気扇も壊れてへんし…訳あってこの格好してるだけや

それから三木…今から何作るかで何で

お前の将来が変わんねや…」


「いや…見てもいいんですけど

覗かれると気になるんで中入って普通に見て下さい」

(カズヤさんの方振り返る度にチラチラ見えて気になんねんな)


アタルがそう言うと2人は

「やった」「ありがとうございます」

と言って中に入って来た


「スマンの…アタルこいつらはおらん者として扱ってくれ」


「いえ じゃあ始めますね

まず豚肉を漬けるタレを……」


そこからいつも通り豚キムチ焼きを作って行く


簡単と言うだけあって10分程で完成し

カズヤの前に皿を置いた

「冬場はタレを豆腐に絡める段階で

水溶き片栗を足してトロミを出すと

豆腐が冷めにくくなって冬には最適……

……どうしましたカズヤさん」

(何か嫌いなモンでも入ったか?)


「アタル…お前居酒屋に勤めてんのけ?

めっちゃ手ェ速いやんけ…ビックリしたわ」


「いや…違いますけど

まぁどうぞ食べて見て下さい」

(うわー何か緊張するな…見られて作るのなんか久しぶりやったからな)


そう言うと早速箸を伸ばすカズヤ

「おぅほんならいただくわ」


少し緊張しながら感想を聞く

「どうですか?ビールに合うらしいですけど」


「アタル…こらウマイわ

豚キムチと崩した木綿豆腐て合うねんな

このタレと豆腐がまた………お前ら……

食いたいんけ?」

先程からコチラを見る2人の視線をどうやら無視出来なくなったらしい


「お願いします」「気になって寝れません」


そう言ってお願いする2人

カズヤがアタルに聞く

「エエけ?アタル」


「どうぞ どうぞ」


「あざーす!」「ありがとうございます!」


早速食べ始める2人

すぐに感想が返ってくる

「ウマッ!めっちゃ美味いですやん!」

「ホンマ美味しいわー豆腐が美味しい」


呆れてカズヤが話し出す

「お前ら……でもホンマにウマイわ

これアタルが考えたんけ?だいぶ料理やっとるやろ?」


「いや これはオカンが作った味を思い出して作った再現料理なんです

だから考えたのはオカンですね多分」


「ほぉー再現するとは大したもんやな

懐かしの味ちゅうわけか」


「いやオカンの作ったやつはもっと美味かったんですよ、何ていうか…もっとまとまってた気がするんです色々試したんですけどね

完全再現は難しいですわ」


ここで藤島が何気なく言う

「へぇー!凄いですね お母さんに聞いてみて下さいよ何入ってんのか」


「いやぁそれが無理なんです、すいません」


ここで何かを察したカズヤが止める

「藤島もうエエから店戻れ三木も休憩終わりやぞ」


「えっ あホンマや すいません ご馳走さまでしたー」


「私も ありがとうございましたー」



2人の居なくなった調理場でカズヤが謝る

「アタルすまんかったのうちの店員が余計な事言うて」


「いいんですよ、もう何年も前の事ですから それに死んだ訳ちゃいますから多分

逃げただけです」

(流石に俺の中では29年前やからな)


「そうかウチと一緒やな」


「えっ?そうなんですか?」


「あぁウチの場合は行方は分かってるけどの

実家に逃げてそのまま離婚や」


「あーよう似てますね」

(だからすぐ分かったんか)


「せやろだから何となくの」



奥の部屋に戻り説明の続きをする

暫くして説明が終わり

カズヤがお礼を言う

「よっしゃ大体わかったわ、おおきに

後は19時ぐらいに打ちに行くから頼むわ」


「わかりました」


「ほんなら飲みモンでも取ってくるわ

コーラでエエけ?」


「はいありがとうございます」


「よっしゃちょお待っとってや」


そう言うと席を立ちすぐに紙コップを持って

戻って来る

「ほいほんならコレ、何か他に言わなアカンことあるけ?」


そう言われコーラを受け取りながら

どうしても気になったことを聞くことに

「あっ ありがとうございます……あの

関係無いこと聞いていいですか?」

(いや アレしかないやろ)


「ん?エエで何や?」


「じゃあ…さっきの酔客を急に倒したやつって何なんですか?柔道のバランス崩す奴ですか?でも咳き込んでたし」


首にてを当てながら気まずそうに答える

「あーあれ…あれは……まぁ偶然の産物や」


「偶然の産物?」

(いや絶対嘘や!マグレでなるわけないし)


「勘違いすなよ?言葉の意味の問題や

つまり相手から殴り掛かってきたわの?」


「はい」


「それを俺は避けたわけや

ところがその時偶然にも避けた俺の左足に

相手の右足が当たって転けたわけや」


「あー……はい」

(何か分かってきたわ偶然の意味が)


「ほんなら何と俺の方に向かって倒れて来たから慌てて支えたわけや

すると偶然にもそこには俺の右手親指あって相手の喉に直撃したんや」


「……」


「ほんで慌てた俺はすぐ手ェ離した

ほんならお客さんは倒れて咳き込んだ

というわけや」


「偶然って怖いですね…」

(俺はアンタが一番怖いわ…)


「ホンマやな正に事故や避けようが無かったわ」


「…じゃあ最後にもう1個だけ

これは質問というか確認です」


「確認?なんや?」




「このコーラ……というかソフトドリンク

半額でも利益出てるでしょ?それもかなり」



「………な、何でわかったんや」



「懐かしの味ですよ」

(思いっきり39円コーラの味やんけ……)

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