目撃 伝説のハゲ頭
ガタン…ガタンガタン…キィー
窓の外に広がる
真っ暗な田園風景を眺めながら考える
今日自分に起こった出来事は
今も続くこの出来事は一体何なのか…
(あの時…疲れ果ててベッドに倒れこんだ…
タイマーもセットしたし服も脱いだ…
こんな眠気は中学の水泳時間終わり以来や
なんてしょうもないこと思ってたのも憶えてる…ここまではエエ…でも何で起きたら中1やねん…
しかもジィちゃん家に逃亡した日や
訳がわからん………
…
…
でも待てよ?確か……
今日は終業式前日の7月19日や
疲れて倒れたあの日が7月18日やから…
丸1日寝てたとしたら日にちは合ってんのか………ナルホドな…
…
…
…
って そんな訳あるかい!!
疲れ果てて寝たら27年間巻き戻りましたー…
なんて言うたら真っ直ぐ病院行きじゃ!!
折角会えて心配掛けへんて誓ったジィちゃんにも生涯最大の心配掛けてまうわ!!
ハァ…
アカン…頭おかしなって来た…
何処のドラマのお話やねんコレは…
唯一希望があるとしたら
寝たらこうなったんやから、もう1回寝たら元に戻るかもしれんて事ぐらいか……
今まで神を信じたことも祈ったことも無いけど…頼む神様!!元に戻して!!)
そんなことを考えるアタルをよそに
窓の外には段々と街の灯りが映りはじめる
その灯りが更にアタルを不安にさせた
(木村のオッチャン怒ってるかなぁ……
バイト決まったて喜んでた従業員の伊藤さんにも悪い事したなぁ……
あんなに古い台詳しい人居らんのに
というか店自体はどうなるんやろ
経営者行方不明で処理されんのかなぁ…
……
ハァ…しかし今直面してる問題は実家に向かってるっちゅう事や…
実家いうことは……
あのロクデナシのオトンと
嫌味なババアに会うんか…………
まぁババアは無視したらエエだけやけど
オトンに会ったら最悪やな……)
様々な思いが駆け巡る中
非情にも電車は実家の最寄り駅から2つ離れた乗り換え駅へと到着してしまう
ガタンガタン…ガタンガタン…ウーーン
キキィー プシューッ
ハァっと溜息を吐きながら乗り換え駅に降り
各駅停車の来る4番線ホームへと階段を上がる
急行が止まる駅だけあって郊外であるこの辺りでも駅周辺はネオンが多い
ピカピカと光る灯りを横目にホームへの階段を下り時刻表を確認
「22時31分発か…まだ10分も待つんか…」
そんな時ふと…
何気なく目にしたネオンに
いや…ネオンに照らされた
その文字に
そのイラストに
目が釘付けになる
それは駅の横にあるパチンコ屋のネオン下
自動ドア一面を埋める大きなポスター
木曜定休日
21日新装開店15時オープン!!
新台クランキーコンドル10台
遂に登場
その下にある
あの伝説のハゲワシに
赤枠にゴールドで描かれたその文字に
電車が来るまでの憂鬱な10分が
一瞬でフッ飛んだ
(コンドルやコンドルの新装や!!
ホンマかい!?
この時期導入やったんかぁ!
うわぁぁぁぁあ!!!
メッチャ打ちたい!!!
…いや打つやろ絶対!!勝ち確や!!
青テンや!!
リリスや!!
右枠下青7やぁぁぁあ!!!)
一気にアツくなるアタルは
思わず電車を忘れるところであった…
暫くして…
各駅停車に乗り込んだアタルは一気に落ち込んでいた
(アホや…俺はホンマのアホや……
今の自分が中1やっちゅうのをスッカリ忘れとった……最悪や…
それに手持ちの金も………アカンアカン!!
ジィちゃんからの御守りは使われへん!!
…となると小遣いの3千円が全財産か……
無理やな最低2万……いや1万5千は欲しい…
クソォ………)
そんなことを考える内に
電車は最寄り駅へと到着
キギィーィーー プシューッ
下がった気分が一気に上がり
一気に落ちた…そんなアタルは真っ暗な夜道を歩きながらこれからの事を考える
(これからの事を整理しよか
最高はオトンもババアも留守で
寝たら元に戻ってる
ジィちゃんにも会えたしこれなら文句ナシや
……まぁ…コンドルは別にして…
で…最悪は2人とも家におって寝ても元に戻ってない…流石にコレは避けたいな…
外から様子見ておりそうやったら
公園行くか暑いけど…しゃあないな…
2人に会わんと身体が戻れるならそれに越したことは無いからな)
団地裏にある酒屋の隣
ひっそりとある小さなボロい一軒屋
督促状と書かれた紙が貼られた郵便受けには多くのDMが詰め込まれていた
アタルは酒屋前の自販機に隠れて
その様子を伺う
…
…
どうやら電気も消えており
物音もしないようだ
(よっしゃ!この時間におらんということはオトン麻雀勝っとるな
ババアも出勤みたいやしここまで最高の流れや!後は元に戻るだけ、頼みまっせ!神様)
アタルは神に祈りを捧げ
ゆっくりと玄関のドアを開けた
本来は9月導入開始らしいのですが
そこはフィクションなのでお許し下さい