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回胴式優義記  作者: 煙爺
第一章
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始まりは赤いロゴ


ガラガラガラ…


白いタイル張りの床に台車を押す音が響く

7月18日深夜2時過ぎ

(ハァ、暑い…あぁビールでも飲みたいなぁ…

もう何台運んだやろ)


ガラガラガラ…


(2ぃ4ぃ6ぉ…と51台か

チッ!まだ半分もいってへんやんけ)


ガラガラガラガラガラガ…ラ………


「暑い!やっとれるか!!休憩や休憩!!」


店内に並べられた黒い椅子

その一番手前にドスッと腰を下ろし

タバコに火を付ける


キンッ…シボッ


チャイルドロックの掛かった硬い100円ライターではなく使い古したオイルライターなのは短気な愛煙家唯一の拘りだ


スゥ…フハァ…

煙がフワァっと立ち昇る中

カウンターを見つめながら渇いた喉をどうするか少し考える

(確かコーラあったな…

安っすい39円のバリューコーラやけど無いよりマシか…それにドリンクスターの点検も兼ねてるし一石二鳥やろ)


青い紙コップをカウンター下から取り出し

コーラと書かれた場所にセットしてレバーを倒す


ウィーン……


ゴッゴッ…ン…ブハァ!


(なかなかイケるやんけ39円!

氷で薄めたら君も明日から100円ポッキリのワンコインドリンクや!ハッハッハ)


郊外にある潰れた元スロット専門店C

所謂スロ専だったこの店に

せっせと何かを運び込む大きな黒い影

神崎 中 40歳

高い身長に浅黒い肌、少し太めなお腹が目立つ立派な中年男性である

中と書いてアタルと読むのは

麻雀好きのロクデナシが付けた少し変わった彼の名だ


10分ほどしたところでグッと伸びをしつつ立ち上がる

(ヨシ休憩終わり!あと69台や…ボチボチやろか)

休憩を終え、タバコを消そうと左前の灰皿に手が伸び……ビクッと止まる

(おっと…流石に台の灰皿で消すのはマズイな)

ポケットから携帯灰皿を取り出し、火を消しつつ手が止まったソレを見る


全体的に黒っぽくシックなデザイン

リール下部に赤字で描かれた美しいロゴ



イプシロンR


1999年5月に登場した山佐のマシン

それまではニューパルサーやソンナカバナなどのいわゆる万人向けの台を得意としていた山佐が出した技術介入機であり

アタルも大好きでお世話になった1台だ

(相変わらずキレイな台や

今でも十分通用するデザインやと思うなぁ…って…そんなん思っとる場合ちゃうわ

はよ作業しよ)


潰れたパチンコ屋で何をしているのか

答えは簡単

ここは2週間後に彼の店になる

といってもパチンコ屋では無く

設備を流用したスロット専門ゲームセンター


[スモークセブン]


と書かれたその店は

分煙のカケラも無かった当時のパチンコ屋で煙まみれになりながらセブンを揃えた事を懐かしみ付けた名前である


アタルが長年の夢だったスロット専門ゲームセンター

120台の中古スロット台を揃えるだけで300万は掛かった

役所への申請も風営法に厳しい時世だけに時間も手間も掛かったし設備を流用したとはいえ工事費用も高かった

更にオープンした後も大変で

電気代は異常に高いだろうし

広い土地を借りる家賃、人件費、光熱費に

古い台が多いので故障した時の修理費etc…

考えただけで頭が痛くなる内容だ

今1人で作業しているのも少しでも費用を浮かそうというアタルなりの節約だった

しかし それもこれも全ては夢のため

金を稼ぎ増やし貯めて遂にここまで漕ぎ着けた


午前4時半

グッと背筋を伸ばし腕を回す

(よっしゃ終わり!あとは明日電源入るかテストやな、無理やったら電気屋呼んで配線見て貰わなアカンし頼むでホンマに…

とりあえずトラック返して帰って寝るか)


キィキィと鳴るシャッターを閉め

裏口の鍵を確認

(戸締まりヨシ!スマホもタバコも財布も持った忘れ物ナシ!さぁーあ帰ろ)


トラックを運転し運送屋までの約25分間

安全運転を心がけながら借りに行った時の事を思い出す


トラックを借りに行った際

昔パチンコ屋で知り合った常連の中年男性に出会ったのはビックリしたが

更にその男が運送屋の常務だったのは

節約したいアタルにとって非常にラッキーだった

今やすっかり初老となった男に事情を話し…いや元中年男性改め木村様に割引をお願いすると

「まかしときぃ!その代わり店出来たらサービスしてや、目押しも頼むで!」

と笑って引き受けてくれたのだから

まさに木村様々である

(情けは人の為ならずて言うけどホンマやな

いっつも頼まれたニューパルの目押しやっといて良かったわ

でも木村のオッチャンうちの店のニューパルXが裏モンって知ったら怒るかなぁ笑)


無事トラックを返却し

木村様にお礼のメールを送り終わると

もうすっかり空は明るい

(夕方ぐらいに行って菓子折りでも持って行こか…帰りにコンビニ寄ろ

まぁ安いのやけど気持ちやからな

こういうのは)


運送屋の駐車場から50ccのバイクに跨り家路へ、途中の信号待ちで何気なく信号を見つめていると……

急にクラッと目眩がした

(何やコレ…)

今日の疲労感と日頃の運動不足が祟ったのかアタルへと一気に眠気が襲い

目の前の景色が薄暗く瞼が重い

(不味い!)

そう思ったアタルはコンビニに寄るのを中止し家路を急ぐ


何とかアパートにたどり着き

ヘルメットを脱いだ頃にはもうフラフラ

手すりを使って必死で階段を上がり

なんとか無事部屋に到着

エアコンのタイマーを押して服を脱ぎ捨て

ベッドに倒れこんだアタルが気を失うまでは一瞬の出来事だった

(何やこの眠気は…

こんなん久し振りに味わったで……

中学の水泳終わり…以来…や……な)

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