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第十六話 兵士は戦争を開始する

 黛はマスケット銃のスコープを覗き敵を見る。


「さすが紫木少佐かな。……じゃあさっきと一緒で要は前方、花宮は後方を見てて。僕は一応敵を捕捉できているけど、どう動くか分からないから。種崎は一番に行動できるよう構えてて」


「敵はどんなやつなんだ?」


 もしかしたら要の知っている人物かもしれず念のため要は聞いた。


「男で短髪だね。なんでか動かないけど」


 要の知り合いにそのような人物はおらず要は一安心した。


 すると種崎が鎌を前方に向ける。


「ちょっと、敵が見えてるんだったら狙撃しなさいよ。あんたそれが得意なんでしょ」


「それは僕も考えたけど、もし敵が気づいていないんだったら僕たちの場所を教えることになるよ」


「どうせバレてるわよ。それに気づいてないんだったら逆に仕留めるチャンスじゃないの?」


 種崎の言うことも一理ある。要もどちらかといえば種崎と同じ意見だが、今は黛が隊長だ。要が口出しする権利はない。要は黛の判断に任した。


「うーん、確かに種崎の意見も筋が通ってるけど…………。いや、そうだね。ここは種崎の意見にしよう」


 黛は種崎の言うことを聞き、銃を構える。


「さてと、できればこれでやられて欲しいんだけど……」


 マスケット銃に指をかけ一つ息を吸い込んだ。そして狙いを定めた黛は引き金をひき銃声が鳴り響いた。


「どうなった?」


 銃声の後静まり返り要が聞くが、

「まさかっ……! みんな構えて!」


 黛は慌てながら叫んだ。


 なぜ慌てているのかも何が起きたかも分からず、黛以外状況がわからない。


「だからどうなっ……」


「はーい、ちょっとお邪魔するよ」


 突然、聞いたことのない男の声がし要は振り向く。


「てか、なんだ? ここにはお子様しかいないのか?」


 逆立った黒髪が特徴的な男がなぜか要たちの背後に立っている。だが黛はすぐさまその男に銃口を向ける。


「みんな気をつけて! そいつは一瞬で二キロ先から移動してきたやつだ!」


 黛の言葉で何が起きたか分かった。

 この男は黛の銃弾を避け、さらに瞬間移動のようなことをしてここに現われたのだ。おそらく移動できたのも憑依文字の能力だろう。


「さて、どう殺してやろうか……」


 後方に立っていたせいで花宮が一番近く、男も花宮に狙いを定める。


「花宮、一旦引くんだ!」  


 黛はいち早く察知し、花宮は指示通りに急いで後ろに下がろうとする。


「おいおい、勝手に逃げるなよ」


 が、男が易々と逃すわけもない。

 瞬き一つの間に男は花宮との間合いを詰め右手を伸ばしに行く。


「まずは一人」


「舞花から離れなさい!」


 そこに種崎が誰よりも早く、黛の指示で構えていたおかげもあり対応でき男の横から鎌を振りかぶりにいっていた。

 しかし男は慌てず、そして不敵に笑った。


「もらった」


 振りかぶった種崎の鎌に伸ばした右手を方向転換し触れる。


 そして、種崎は消えた。


「え……」


 目の前で起きたことが分からず要は声を漏らしてしまった。


 男が触れた瞬間いなくなった。まるで消えてしまったかのように。


「たね、さき……?」


 要の思考に最悪の事態が予想された。憑依文字が人を殺すことのなど造作もないというのは要が一番わかっている。


 種崎は死んでしまったのか、憑依文字の能力で跡形もなく塵になってしまったのか……。


 呆然とする要の耳にイヤホンから一つの声が入る。


「いたた……、ちょっとどうなったのよ」


 聞き覚えのある声に要は顔を上げ、すぐさまイヤホンを右手で押さえた。


「種崎! お前、大丈夫なのか?」


「だ、大丈夫よ……」


 誰よりも早く声を出した要に驚き種崎は気まずそうに答えた。種崎にとってはデートの一件の蟠りが残っている。しかし今の要にそのようなものはなかった。種崎のことが心配でありデートの一件は忘れている。


「一体どこにいるんだ?」


「わ、分からないわよ、急に飛ばされたんだから。うまく地面に着地できたのは良かったけど……。それよりも、そっちはどうなったのよ」


 種崎の言葉で首を敵に向けると男はなぜか何もせず立っていた。要の前に黛と花宮が構えているのだが、それだけで仕掛けてこないわけではないはずだ。


 だが何もしてこないのはこちらとしても好都合である。


「お前がどっか飛ばされてから状況は変わってない。とりあえずこっちに合流しろ」


「あんたに言われなくても分かって、きゃっ!」


 突然、種崎は叫んだ。


「おい! どうしたんだよ!」


 声だけでは何が起きたか分からず要は慌てて聞き返してしまう。


 が、種崎の返事はなかった。


「種崎! 聞こえてるのか!」


 声をかけても返事はなく、種崎の声の変わりに男が口を開く。


「あいつは死んじまったよ」


「どういうことだよ」


 要は睨むように男を見た。


「そのまんまの意味に決まってるだろ。俺が飛ばしたところに隊長がいるからよ、今ごろ焼き殺されてるんじゃないのか」


 男はにやけながら喋る。


「あいつがそう簡単に死ぬわけないだろ」


「お前らのことなんか知るかよ。普通に考えて一対一で勝てるわけがねえって言ってんだよ」


 男の言っていることは正しく、憑依文字に対して一人で挑むなど自殺行為に等しい。しかし、あの種崎がいともたやすくやられるはずがない。まだ種崎とは少ししか一緒にいないがそれでも種崎の強さは知っている。勝てなくとも逃げることはできるはずだ。


 だが、要の考えが願望であると分かってしまう。


 急に、違方で凄まじい音を立てながら火柱が大きく上がった。

 それは要の肌でも熱を感じるほどであり草木が燃え上がった。要の頬に汗が流れ、火柱のところに種崎がいると確信する。


「ははははは。隊長本気じゃん。残念だったなお前ら。確実に死んだぜ、あいつ」


「そんなもんわからないだろ」


「いやーこれがわかるんだな。真っ黒焦げで焼死体になっている姿が目に見えてわかるぜ。それか、骨も残らず燃えちまっているかもな」


「てめぇ……」


「要!」


 要が怒りに一歩踏み出すと同時に黛が要を呼んだ。


「要は今すぐ種崎のところに向かうんだ。こいつは僕と花宮でどうにかする」


「おいおい、簡単に言うじゃねえか。ガキのくせによ」


 黛は男の言葉に何も言わない。ただじっと要を見る。


「けどそれだとお前たちが」


「今一番危険なのは連絡も取れない種崎なんだから、早く向かって。一分一秒でももったいないんだよ」


 黛は珍しく叱咤するように言った。そのおかげもあり要は冷静になる。今、自分がするべき行動はなんなのか。

 要は黛に一つ頷くと足を火柱が上がったところへ踏み出した。


「逃すわけないだろ」


 またしても突然要の目の前に男は現れた。


「ちっ!」


 要は刀を抜こうとするが、

「そのまま走って!」


 黛の声と共に銃声が鳴った。


 男も銃声に反応し顔をそらすが頬に空気の銃弾が掠る。


「あんのガキが……」


 頬から少し血が流れ男は視線を要から黛に移す。


 黛は射撃を止めることなく要が完全に遠くに行くまで牽制する。だが男は右手を黛の方へ向けると、銃声は響くものの男は何一つ傷がつかない。


「知ってるぜ。てめぇら東日本の銃は空気を飛ばすってな。生憎、それは俺には効かねえんだよ」


 黛は男の声が聞こえているものの射撃を止めようとはしない。その間に要は男から離れることができ種崎の元へ向かって行った。


 男は目だけを動かし遠くの要の背中を見る。


「ったく、逃げたじゃねえか。まあ隊長のところに一人や二人増えたところで関係ないか。……俺はお前らで発散さしてもらうぜ」


 ギロリと黛に視線を戻すと、また一瞬で黛の前に現れた。


「くそっ!」


 黛は射撃体勢から防ぎにいく。


「意味ねえよ!」


「だ、ダメ!」


 そこに頭上から花宮が叩きつけにいく。男は花宮に気づき舌打ちとともにその場からまた消えるようにいなくなった。


 花宮の斧はそのまま大きな音を立て地面にぶつかり、その衝撃で地面は斧を中心に四方に亀裂が入る。

 男は距離を開いたところに立っており花宮を見ると小さく呟く。


「さすがにあれはやべえな……」


 花宮はゆっくりと斧を持ち上げ、黛は銃を構えながら横に並ぶ。


「ありがとう、花宮。おかげで助かったよ」


「……わ、私は……同じ部隊、だから」


 声は小さく発せられたがその姿に気弱さはない。花宮も東日本軍の兵士であり、これまでもいくつもの戦争を経験している。戦場に立つことに臆することはない。


「でもごめんね。僕のせいで危険な状況になってしまって。二対一でも正直、勝てるかどうか怪しいのに」


「だ、大丈夫……。信頼、してる……から」


「嬉しいこと言ってくれるね。まあ僕たちは色々なことを切り抜けてきたし、今回も乗り越えるよ、花宮」


「う、うん」


 花宮は小さく、そして力強く頷いた。


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