第十五話 兵士は戦地に赴く
要たちは一台のバンに乗り込み向かう。
運転は紫木ではなく軍の関係者がし、ある程度場所に近くなると降ろされる。そこからは徒歩で向かわなければならない。おそらく上は負け戦だと思っており雑にしているのだろう。
もう要はこのぐらいでは怒りは起きなかった。どちらかといえば呆れている感情に近い。
西日本軍の偵察部隊がいつ攻めてくるというのは分からないので早めに現地入りする必要がある。もう一個の部隊とは現地集合でありすでに到着しているらしい。
バンの中では各々再備装衣を点検しているが、要は特に再備装衣をみたりはしない。要にとっては憑依文字さえあれば再備装衣など関係ない。
「要はその再備装衣をみなくていいのかい?」
要の横にいる黛が自分のマスケット銃をいじりながら聞いてきた。
「俺はいいよ」
「そうなのかい。あ、もしかして初の戦争だから緊張してる? 大丈夫だよ、僕も初めての時は銃もろくに握れなかったけど、みんながフォローしてくれたからね。僕たちを信頼してくれればなんとかなるよ」
「ああ」
黛の声が通り過ぎたように要は軽い返事をした。
もちろん戦争で緊張しているからではない。それも少しはあるが大部分は西日本軍の兵士に会いたくないからだ。
東日本軍に所属すると決めた時は覚悟を決めていた。
しかし今は違う、要は一年前の敗因だ。
もしかしたら西日本では要は行方不明扱いされ要の顔が知れ渡っているかもしれない。そして一年前の原因ということも知られているかもしれない。
一体何を言われてしまうだろうか。罵詈雑言は飛んでくるだろう、殺しにもくるだろう。そのせいで東日本にもいられなり。西日本に戻ることもできない。そうなってしまえばどうすればいいのか……。
見えない不安に駆られ要はじっと下を見つめる。
しばらくしてバンは目的のところまで来ると停車し、紫木の指示で要たちは降りた。要たちが降りるとすぐにバンは来た道を帰り、要はあたりを見渡す。
草木が所々に生えており瓦礫や地面が抉れているところもある。一年経った今でもこの場所は戦争の跡が残っている。
「ちょっといい」
要たちに声をかけ紫木がポケットから何かを取り出す。
「みんな、これつけてて」
要は手の上に乗っているものを見ると、それは片耳イヤホンであった。
「もしみんながバラバラになった時や緊急の時はこれを押しながら話したら私たち部隊みんなに話すことができるから。まあ通信手段だと思って」
要は受け取り右耳につける。
「さてと、じゃあ移動しますか。まだ敵はいないと思うけどここはすでに戦場だから、気を抜かないようにね」
紫木を先頭に歩いていき、要は通り過ぎる道を見ながらついていく。
まだここは要が来たことのある場所ではない。もっと進んだところで要は紫木と出会い種崎を助けたはずだ。今のところは見たことのない景色ばかりだ。
そうして二十分ほど歩いた頃だろうか、紫木は軍専用の小型通信機を取り出し別の部隊と連絡を取る。
しばらくして通信機をしまい要たちのいる後ろに向いた。
「あと少しで目的のところに着くから。もう一個の部隊は一応、索敵しているらしいけど今の所は敵さんは見当たらないらしいって」
その言葉で花宮は安心した表情になる。
とりあえずは戦闘になることはないと要も考える。よっぽど雑に索敵をしていなければ大丈夫なはずだ。
部隊の安全も確保でき先へ進んでいくと少しであるが、要が見たことある景色がうつりこむ。着いたところよりだいぶ奥に進んできており、同時に要は過去を思い出し苛まれる。
「要」
不意に黛が要を呼んだ。
「これは僕からのアドバイスだけど、ちゃんと前を向いて歩いた方がいいよ」
下を向いて歩いていた要に、笑顔の黛は言った。それは要の心に気づいているようでもある。
「なんでそんなこと言うんだよ」
「いやー、下ばっか見てるからさ、気になって」
相変わらず何を考えているのかが分からず、言葉の意味も分からない。だが要がここで追求しても笑ってごまかされることが見え聞き返しはしない。
「じゃあちゃんと前を見て歩くよ」
「それがいいよ。下を向いていたら落ち込んでいるように見えるからね」
「別に落ち込んでたわけじゃない」
「またまた、悲壮感が漂っていたよ。この世の終わりみたいな顔だったし、この戦いで死ぬわけじゃないんだから」
特別根拠もない黛は死なないと言った。なぜそう思えるのか不思議である。相手は憑依文字を持っており誰かが死んでもおかしくない。
「なんで死なないって思うんだよ」
「ん? ただの勘だよ」
何一つ当てにならない根拠であった。
「黛、喋りすぎだよ。今は任務中なんだから」
首を後ろに向け紫木が注意した。
「あー、すいません。要が緊張しているように見えたんで、つい」
別に緊張しているわけではないと、要は思ったがこの言葉も嘘のように感じた。本当は別の考えがあって話かけてきたのではと思ってしまう。
「でも紫木少佐、だいぶ歩いてますけどまだなんですか?」
「もうすぐだよ」
紫木は前を向きながら答える。
瞬間、一つの爆発音が響いた。
要たちは急な轟音に驚き、音のした方に首を向ける。
ここからはそう遠くはなくすぐに臨戦態勢に入り身構える。
「全員、戦闘準備! 要は前方、花宮は後方を見て。種崎と黛は周りの索敵!」
紫木が速やかに指示し各々再備装衣を展開する。紫木は通信機を取り出し別の部隊と連絡を取り始めた。
敵が現われたのか? だとしたら予定よりも早すぎる。それに別の部隊が索敵をしていたはずだ。それに気づかなかったのか。
疑問に思うことが多く現状を把握できない。
すると紫木は連絡を取り終え通信機をしまった。
「簡潔に言うからよく聞いて。まず別の部隊の方で三人の憑依文字持ちが現われた。これは一つの部隊が相手できる人数じゃないから応援に行かないといけないのだけど……」
「前方に敵! 距離二キロ、人数は一人!」
索敵を行なっていた黛が紫木の話を割った。
「このタイミングで……」
紫木は表情を渋らせる。
一瞬の間にことが進み、対処しなければならないことが多すぎる。これには紫木も悩むがすぐさま状況判断する。
「いい? 応援には私一人で行くから、黛を隊長として任務を続行して」
「紫木少佐、ですか……?」
黛が疑問を口にし、それは要たちも思ったことだ。なぜ部隊長自ら行かないといけないのか。
「そうよ。理由は敵が急に現われたから潜んでいた可能性が高いことと、応援に向かっている途中で敵に会う可能性も高いから私一人で向かうの。二人で行くことも考えたけど、それだと残された方にさらに敵が現われたらどうしようもないから、分かった?」
紫木の言っていることは正しい。しかし、その判断で一番危険なのは紫木である。もし道中に敵と遭ってしまえば一巻の終わりである。
「それだと渚さんが……」
「これでも私は部隊長だから、安心して。とりあえず時間もないから、何かあったら連絡すること。全員、死なないようにね」
それだけ言うと紫木は走り出し、爆発したところへ向かって行った。




