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第十四話 兵士は準備する


 すると突然、沈黙を破るよう要の携帯が鳴った。


 思わぬ音に驚き携帯を開くと、そこには紫木から着信が来ていた。


「……もしもし」


 要が電話にでると、

「要、今どこにいるの?」


 どこか慌てながら紫木は聞いてきた。


「今は海岸沿いのところにいますけど……」


「そこに種崎もいるよね? 悪いんだけど今すぐ戻ってきてくれない? 緊急事態が発生したから」


「緊急事態って……」


「それは来てから話すから、とりあえず急いで」


 それだけ言うと紫木の方から電話が切れてしまい、その様子からよほどのことが起きたと理解する。


「何かあったの?」


 要と紫木の話が少し聞こえたのか種崎が聞いてきた。


「緊急事態が起きたから今すぐ戻ってこいだって」


「なによそれ」


「俺もよく分かってない。とりあえず急いで戻るぞ」


 種崎との会話には少しのぎこちなさが生まれてしまっているが今すぐそれが解決するわけもなく、要と種崎は急いで本部へと戻っていった。




 二人は本部へと戻り目的の部屋にたどり着いた。


 要が扉を開けると一つの大きなテーブルを挟んで紫木、黛と花宮がすでにいた。


「お、やっときたね。じゃあこっち来てくれる」


 紫木は手招きし要と種崎は紫木の元に行く。立ち位置的に種崎と要が一番距離のある位置に陣取った。


「えーと、私が君たちを呼んだのは……」


 紫木は一つ間を開け、

「単刀直入に言うと、私たち第八部隊は戦争に参加します」


 要は目を大きく開け驚いた。

 それは要だけではない、種崎、花宮や黛も驚いた表情になる。


「まあ驚くのも無理もないよね。普通はもっと前に連絡があって準備があるんだけど、急すぎるよね」


「幾ら何でも急すぎる気がするんですけど」


 黛が質問した。


「普通はあり得ないことよ。新しく入った千歳がいるのに私たちが適任だと私も思わない」


「じゃあなんでですか。紫木少佐から上に言えなかったんですか」


「もちろん言ったけど、色々あるのよ」


「色々って……」


 言いかけた黛はあることに気がつき言葉を止めた。

 軍にも軍事機密がある。紫木が詳しく話さないということは、つまりそういうことだ。


 下を向いて黙った黛を見て紫木は右手で頭を掻きながらため息一つ吐いた。


「はー、でもまあ君たちだったら話してもいいかもね」


 その言葉で黛は顔を上げた。


「実は西日本軍の大軍が攻めてくるかもっていう情報が入ってきてね」


「それが今日ですか」


「違う違う。それはまだ先なんだけど、そのための偵察部隊が送り込まれるらしいのよ。で、上は大軍のために使える部隊は備えようと考えているのよ。だから私たちが偵察部隊を相手にしないといけないの」


 要は理解した。つまりは死なせたくない部隊は大軍のために備え、死んでも大丈夫な部隊が今回の任務についたわけだ。


 それは合理的で現実的だ。戦争に勝つためには最適ともいえるだろう。


 しかし、当事者になってみるとわかることもある。捨て駒として扱われていることに怒りがこみ上げてくるというものだ。


「それって」


「それって私達に死ねと言っているのですか?」


 要が言いかけた言葉を種崎が遮り代わりに言った。


「それも違うよ。敵はおそらく小隊規模だと思うけど、こっちは私達を含めて二部隊で応戦するから決して負け戦じゃない。それに厳しい戦いになると思うけど、自分のやってきたことを信じれば大丈夫だから」


 不安の表情を浮かべる隊員を安心させようと紫木は言葉を述べた。その言葉に嘘は感じない。自信もあるのだろうが何よりも隊員を信頼している。


「早速だけど作戦内容を話すよ、あまり時間がないからね。まず私たちの任務は偵察部隊の撃退、または殲滅。で、その場所が……ここ」


 紫木はテーブルに地図を広げ指さした。


 要は指差したところを見ると思わず驚いてしまった、そして種崎も。


 その場所は一年前の戦争の場所であり、要が種崎を助けた場所。

 紫木も分かっているが触れることはなく話を続ける。


「私たち第八部隊は敵の小隊が進行してきそうなところを索敵。そこで敵が現れたらそのまま戦闘に移行、もし現れずもう一方の部隊の方に現れたらすぐさま救援に向かう。最悪なのは私たちが救援に向かうまでにもう一個の部隊が崩壊、もしくは私たちの部隊が崩壊すること。こうなったら戦闘は続行不可能と判断して撤退する」


 敵の小隊一個に対して一つの部隊では太刀打ちできない。そうなってしまえば一人の憑依文字所持者に一対一のような状況になってしまう。このような状況になれば間違いなく負けてしまう。質ではどうしても西日本軍の方が優っている。なので東日本軍は量で戦わなければならない。


「敵は確実に憑依文字を持っているやつを寄越してくるから絶対に一人で戦わないこと。もし味方が周りにいなかったら全力で逃げて味方に連絡。言ったかもしれないけどこれは私たち第八部隊の決まりごとね」


 紫木は一瞬要を見た。

 要も紫木がなぜ見てきたかは分かっている。要は憑依文字を持っているが一人で戦ってはいけないと伝えたかったのだろう。要にもそのつもりは毛頭ない。今は西日本軍ではなく、東日本軍の兵士だということを自覚している。


「とまぁ、大体はこんな感じだけど何か質問ある?」


 紫木が見渡すと花宮が手首だけを上にして手を挙げた。


「何かある、花宮?」


「そ、その……、もし、敵が……分散したら…………?」


「あー、もし仮に敵が分散してたらそのまま戦闘に移行するから。こっちとしても都合がいいしね。それと一応、この任務を任されているのは私だから全体のことも見ないといけないのよ。だから臨機応変に戦って」


 納得した花宮は手を下ろした。


「じゃあ実戦用の再備装衣をもらうから今から受け取りに行くよ」


 要たちが持っているのは訓練用のため変えなければならない。

 紫木の言葉で部屋から出て廊下を歩いていく。

 部屋に着いた要たちは実戦用の再備装衣を受け取り、また戦争用の服も支給された。これは主に防御用のためのもので多少の衝撃を和らげることができる。



 そして紫木の命令でこのまま現地に向かうことになった。

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