陰と陽のクラッシュ
さぁ…行こうか
僕、織田信長こと島優吾は頭のモヤを振り払うが如く降っていた木刀を井戸に掛け
袴から袖を抜き上半身を曝け出し
予め汲んでおいた冷水を頭から思いっきり被った
「うっ……」
僕は情けない事に小さく悲鳴を上げる
これを、日課とし呻き声1つ毎朝出さず淡々とやっていた信長はやっぱり神だったのかもしれない
心頭滅却すれはを火もまた涼しならぬ
冷水もまた温しって所か
しょうもない事を考えた優吾は布で自身の体を吹く
現代の様にタオルではないないので水捌けが悪く
数分かかったがある程度まで吹けた所で用意しておいた服に着替える
袴の帯をギュッと力強くしめ
優吾は「よし!」っと気合いを入れる
剛輝は答えを出しただろうか?
僕と真逆の答えを出してなければいいが……
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「これが俺の考えだ!」
(はぁ……)
僕は頭に手を添えて項垂れる
「俺達の未来知識があれば出来る筈だぜ!人を1人も殺さずに無血降伏させる事くらいな!」
剛輝はカッカッカッっと笑う
「なぁ剛輝さ「剛輝。そんな甘くないわ」」
僕が剛輝を諌めようとしたら、由紀が言葉を被せてきて僕の言葉は掻き消えた
「由紀…」
僕は剛輝を叱責した由紀を見やる
「剛輝あなたもわかっている筈よ。秀吉の記憶を受け継いでいる貴方ならこの時代がそう簡単では無いことを」
由紀は剛輝を厳しくも優しい声音で剛輝に現実を突きつける
「ああ、わかってるさ。俺も一晩考えたさ。その上でこの考えを述べているさ」
剛輝は剛輝なりの覚悟があるのか言い返す
「ハッキリ言ってそんな覚悟じゃ生き抜いていけるとは思えないわ
悪いけど私は優吾の信長としての覚悟を全面的に支援する。私はそう決めたわ」
僕は由紀の言葉に強い衝撃を受けた
「どうしてだよ!何でそんなに簡単に人を殺す事への躊躇を無くしちまうんだよ!人を殺したくないっとかって倫理の問題じゃねぇ!
人と人とが殺し合うのが前提だなんてそもそも間違ってるだろうがよ!」
「ええ、間違ってるとは思うわ。でも、この時代からすれば剛輝の今の考えこそがイレギュラーなのよ。誰も傷つかずみんなで手を取り合う?そんなの私達全員が望んだとしても武田信玄や今川義元は同意しないわ!」
「わかんねぇだろ!誰も提案した事ないんだから!
それに未来知識のある俺達ならその方法だって思いつくかもしれないだろ!」
「いいえ、秀吉と長秀とじゃ経験が全く違うわ
幼少の頃から政治的知識も叩き込まれた丹羽長秀の経験則から手を取り合うなんて端から頭にもない自分勝手な豪族でこの世は犇めきあっている事。そして、確実に近々私達の意図も関係なく齋藤家は家族で殺し合いを始めて、その後は今川義元が私達の国へ攻め入っている事。」
「そんな世の中だって事は農民の秀吉だってわかってんだよ!
未来の事だってもちろん知っている!だが、その上で俺等第2歴史研究会のみんなで力を合わせて無血での天下統一を目指そうって言ってんだよ」
「いいえ、わかっていないわ。農民の秀吉と武に生きるのを宿命付けられ精進してきた長秀。お互いの代行者の記憶で推し量れるこの世の厳しさを理解して考えた結論には重みが違うわ」
「…俺の考えが浅はかだってのか?」
「いいえ、剛輝はこの世の厳しさを真に理解していないだけ
ここはゲームや小説の世界じゃないの。理想では生き抜いて行けないの。わかって」
僕は由紀と剛輝の討論を黙って見守る
そして僕はその討論を見聞きして、由紀の叱責にとてつもない安堵感を覚えていた
僕はみんなと一緒にこの激動の時代で生きていきたい
しかし、本人達にも伝えた通り強制するつもりはない
本人が嫌だと言うなら最大限の配慮をし屋敷を与えた上で、愛する者でも作り幸せに暮らして欲しいと思う
だが、僕個人としては信長として生きていく所存であり
その決意は僕なりではあるが固いし、曲げるつもりはない
だがその一方で甘える様ではあるが4人には僕を支えて欲しいと思う
僕は未来の知識も持ち、信長の気づき揚げてきた力や財力もある
しかし、まだ何処か現代の島優吾が抜け切っていない
そう感じている。そんな僕には、まだ非情になりきれない部分がある
なので、由紀の言葉
由紀の紡いだ剛輝への説得は心に響いた
由紀は自分の覚悟で信長の道を歩く僕を
丹羽長秀として由紀としても協力すると言ってくれた
僕は、剛輝への叱責をそう受け取った
「優吾先輩…」
「え、優吾?どうしたの?」
僕は討論に聞き入っていたが真綾と太一の言葉で我に返る
何?っと聞こうと口を開こうかと思ったが
何を思って2人が口を開いたのか自分自身で理解した
僕は
「…なんでもないよ。由紀の言う通りだ」
何事も無かった様に、太一と真綾が気にかけた
一筋の涙を袴の袖で拭い
討論に横槍を入れる事にした
「…優吾」
「由紀ありがとう。そして剛輝。すまないが俺からも言わせてもらう。甘すぎるぞ」
本人からすれば意味のわからぬであろうが、由紀にお礼をいい
剛輝に誠心誠意向き合うべく体を剛輝の方に向けて、目をしっかりと見て現実を突きつける
「……優吾。お前と対立する事はわかってた。だからお前には何も言わねぇ」
僕は無自覚ながら眉毛をピクっとさせる
「太一と真綾ちゃんの考え…聞かせてくれないか?」
僕と話しても由紀の時と同じ水掛け論になると分かっているのか
矛先を事の顛末を見守っていた太一と真綾に向けた
「私は…」
真綾は口を開いたものの口をモゴモゴさせる
考えがまとまっていないのか言い淀んでいるのだろう
「真綾ちゃん。僕からいいかい?」
「…はい」
そんな真綾に太一は静かな声音で会話の主導権を譲り受けた
「剛輝。剛輝のその考え僕は支持したい」
僕はビクッと心臓が跳ねるのを感じた
「お、なら説得にk」
「だが、申し訳ないが同意はできない」
僕は強ばった肩を落とす
僕も剛輝も早とちりだったみたいだ
「ちっ…なんだよ…」
「ごめん剛輝。でも無理だ。僕自身進んで人を貶めたり殺めたりするつもりは無い。ただ、その分必要とあらば躊躇はしないつもりだよ」
「なんで、どうしてだよ…」
「剛輝の思う通り無血開城できるなら、その方がいい
でも、日本の武将がそれを全員が受け入れるとはすまないが前田利家からの記憶も僕の考えからも考えられない。わかって欲しい」
太一は最後まで淡々と自分の思っている事を述べた
太一の考えに反対する事は一切ない
僕だって人を殺したい奴になったわけじゃない
だが、信長として殺らねばならぬというだけ
「わ、私は!」
真綾ちゃんがいつもの1オクターブ高い
上擦った声で、声をあげる
「わ、わたしも無血で生き抜いて行くのは無理だと思います…」
「…そうか」
剛輝からすれば、最後の頼みの綱であったであろう真綾からも手綱を切られ明らかに落胆する
「で、でも!太一先輩も言ってましたが無血開城自体が反対ではありません!無血で事が済むのならそうするべきです!」
うん…まぁそうではあるよな…
「だから!だから…剛輝先輩。率先して人を殺す事はありません
優吾先輩も剛輝先輩の事を思えば無理に人殺しはさせない筈です」
真綾は僕にアイコンタクトで返答を求めてくる
「うん。人殺しを躊躇ってる人を前線には出さない」
「だそうです!剛輝先輩!な、なので…私達の元から…離れたりは…」
後半は聞き取らない声であったが
前の文脈から発した言葉は想像できる
「大丈夫だ。真綾ちゃん…俺もみんなと対立したくないし
離れ離れになりたいとも思っていない」
剛輝も俺と同じ様な想像をしたのか
普通に聞こえていたのか
僕も真綾も望んでいた答えであろう返事をした
その言葉を聞き真綾は何も返事をしない
恥ずかしいのか
何と返せばいいのか迷っているのか
両方かもしれない
「ふー」
剛輝はため息をついた
「まぁ想像通りではあるな。この討論で孤立するのはバカな俺でも想像がついてた」
剛輝はやれやれと言った風に
仕方ないなっと言う顔をする
「一応だが優吾。お前の気持ちを聞かせてくれ」
剛輝は真剣な眼差しで僕と向き合う
僕もそれに答える様に剛輝に思っている事を告げる
「もちろん。僕の意見は変わらない。剛輝の言っている事は絵空事でしかない。僕は信長としてみんなを守らなければならない」
僕は曲げるつもりのない確固たる信念を告げた
「チッ」
剛輝はそんな僕の返答に舌打ちを返した
「剛輝。舌打ちは流石に態度が悪いよ」
太一は静かな声音とは裏腹に怒っているのか
怒気を醸し出す
「…太一。今の舌打ちは勘違いだ。ムカついたのは間違いないけどよ」
剛輝は太一の方に言葉を放ち
また、僕に向き直る
「悪いな優吾。だが、今の舌打ちを謝る気はねぇぞ」
剛輝は謝りながらも僕を睨みつける
その睨みは明らかに、秀吉が信長に向けていい目じゃない
「優吾。俺はこの世界にきて…特に真綾が合流して今後の事を考え始めた時からな。お前にムカついてる事があんだよ」
僕は怒気の孕んだ剛輝の言葉を受け入れる準備をした
「さっきもそうだがよ。何かにつけて「信長だから」とか「信長として」だとか…」
僕の頭には剛輝が何を言ってるのか即座にピンとこない
「お前は『島優吾』だろ!?信長じゃねぇだろうが!!
優吾お前が信長になったからって残虐の限りを尽くさなくちゃいけねぇ道理はねぇだろ!」
くっ…
僕はここまで来れば剛輝の言いたい事を理解して
それを踏まえた上で怒りを覚える
「剛輝に…」
「あ?」
「剛輝に信長の!僕の覚悟を!何をわかった風な口調で言ってんだよ!」
僕の突然の激昴に剛輝は喧嘩を売ってきながら面をくらう
だが、剛輝も黙っていない
「その信長の覚悟ってのが気に入らねんだよ!」
尚も食ってかかってくる剛輝
僕もこれは悪いが引けない
「秀吉程度の…足軽として出兵した程度のお前に信長の重さがわかってたまるか!」
「俺が言ってんのはそういう事じゃねぇよ!お前が信長になる必要なんかねぇんだよ!」
「そんなのは綺麗事だ!信長の肩に背負っているのは何も剛輝や他のみんな達だけじゃない!足軽一人一人の命やその家族の命さえ左右しかねない!これは僕にしかわからない!!
誰であろうと僕の覚悟を信長になる覚悟を踏みにじる人には…」
僕は鼻息荒くし
冷静じゃない自分を理解し踏みとどまる
「なんだよ…優吾。もう終わりか」
「激昴した所で解決する訳でもない」
「信長のお前は…現代にいた頃と違い。対等に言い争いを出来ないってか?」
そうだ
っと心の中で呟くも
声には出さない
「…だんまり…か」
剛輝も落ち着いたのか
半腰になっていた姿勢を戻す
剛輝は自分の頭を強引に掻きむしり
僕に言いたい事を述べる
「俺が言いたかったのはな…主に優吾だが、他のみんなもだ
代行者になって各人の記憶を引き継いで思う事があるのはわかるさ
でもな?俺達は俺達の歩んできた価値観とかあるだろ
それを押し潰してさ…時代が時代だから人を簡単に殺すとか…そんなの無いと思うんだよ…」
僕の心に剛輝の言葉は来るものがあった
他のみんなも私見ではあるが思い思いの考えが生まれた様に思える
「…剛輝の言いたい事はわかった。激昴した事は謝るよ。ごめん」
「いや、俺も無責任ではあった。不用意だったすまん」
僕達は互いに謝る
「「だけど(だがな)」」
僕と剛輝の声が被る
言いたい事は二人とも何となく察した
しかし、僕達はあえて言葉にする
「僕は信長である事を辞めないし、この覚悟。曲げる気はない
剛輝。人を殺す気がないなら僕の庇護下に入ってくれ」
「いや、その覚悟曲げてもらう。俺達ならできる筈だ
お前の考えを実行したら生きられたにせよ島優吾ならびに他のみんなが死ぬ。そんなのは俺は認めねぇ」
お互いの信念がぶつかり
お互いが曲げる気がない
僕はため息をつく
何となくこうなる気はしていた
僕は昨日のあの時、剛輝を部屋から出すべきでは無かったのだろうか
あそこで決断させていれば、引き込めたのだろうか?
いや、
僕はすぐに悟る
剛輝は多分
あの場で答えを求めても、同じ答えを出しただろう
今程の確固たる意思とまでは行かずとも
この対立は起こっていたと思う
僕が相対するのは
誰よりもまっすぐで愚直で無鉄砲で
誰よりも仲間達を繋げた太陽の存在なのだから
そして、剛輝に相対するのは
剛輝から言わせれば信長の価値観に触れて業を受け入れた
いわば、闇に染まった僕
陰と陽。どちらが正しいのか
客観的に見てどっちが正しいのか
どちらも正しいのかもしれないし、一方が間違っているのかもしれない
それはわからない
しかし、僕らの問題は進む
どちらが正しいのか?どちらの道を進むのか?
喧嘩しつつも決める。その必要がある
僕はその決定打を考える
だが、意外にも、その口火は剛輝から切られる
「優吾。みんなも。提案がある聞いてくれ」
…
……
………
僕を含め
部屋にいた全員が驚く
そして、様々な意見が飛び交う
そして僕は
「その提案。僕は受けたいと思う」
5500文字読了ありがとうございました
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ここで、1つ。感想のお題を投下
優吾と剛輝の考え。あなたはどちらを支持しますか?自分ならっと言うので考えて見て下さい!
結構面白いですよ!
ちなみに、作者は優吾よりの非情になりきるタイプ




