⑥姉と冨久君~姉の上京~優麗高の新入生
-響希・愉怪な6人+αエピソード0-
高校入試まで、あと僅か。いくつも来ていた私立高からの推薦を受けず、優麗高を第一志望に決めた。不合格だったら、亜武良高の二次募集を受ける予定だけど、「文架市にある私立高なら、渡帝辺よりは亜武良が良い」って評価が一般的な為、亜武良高の二次募集は倍率が高くなってしまう。渡帝辺は滑り止めで合格済みだが、優麗祭で絡んできたバカ共の学校なんて行きたくない。
「ふぇ~~~・・・チョット休憩」
スポーツで集中力を養われ、理解力や記憶力も高い響希だが、如何せん勉強が嫌い。何時間もぶっ通しで机に向かってる事なんてできないので、少し気分転換をしようと思う。
「かんちゃん、帰ってくるの遅いなぁ~。
お友達とお別れパーティーでもしてんのかな?」
姉は首都圏への進学が決まり、あと一ヶ月もすれば上京をする。響希にとって、姉が部屋にいないのは、チョッピリ寂しくて、チョッピリ嬉しい。
姉の所有するマンガ本を持ち出して(いつも読みっぱなし片付けないので「勝手に読むな」と怒られる)読み始めて5分強が経過。部屋の扉が開いて、かんちゃんが無言で入ってきた。響希は「ヤバい、見付かった!怒られる!」と思ったが、かんちゃんは、チラ見をするだけで何も言わずに、ベッドに潜り込んでしまう。
「・・・かんちゃん?」
心配だったけど、何も聞けなかった。だって、布団の中から、かんちゃんの泣き声が聞こえたから。
響希は体育座りをして考える。自慢の姉に何かを言って元気付けたかったけど、何を言えば良いのか解らない。結論から言えば、自分じゃ姉に何もしてあげられない。
だから、自分まで、かんちゃんを悲しませないことが、今の自分にできることと思うことにした。
「私、絶対に優麗高に合格するね。優麗高に行っても、陸上、続けるね。」
「・・・うん。」
かんちゃんは、布団の中で、小さく返事をしてくれた。響希は、机に向かって、受験勉強を再開する。
受験終了後、尚実ちゃんに教えてもらった。かんちゃんは、大好きだった“ふく君”に告白をして、フラれちゃったらしい(第35話)。今までの“ふく君”は、恋愛には興味が無くて、ずっとフリーだったので、いつかは可能性があると希望を持っていたけど、今の“ふく君”には好きな人がいて、かんちゃんの失恋は決定的になったみたい。
「ザコキャラ3号(福島のこと、響希命名)の何処が良いんだろう?」
「福島、許さん!」と思ったあとの、響希の行動は早かった。翌日、補習帰りの福島を待ち伏せして、理由も述べずに思いっ切りドロップキックを喰らわせてやった。
「かんちゃん、仇は取ったよ!」
「・・・はぁ?」
成敗を終えて帰宅した響希は、失恋から数日が経過して少し元気になった環奈に報告をする。そして初めて、かんちゃんの好きな“ふく君”が、さっき成敗された“ふくちゃん”とは別人とを知る。かんちゃんに見せてもらった画像の“ふく君”は、知的でクールな感じで、メッチャ格好良かった。かんちゃんが、6年間も思いを寄せているのが納得できた。
「え?え?かんちゃん、諦めちゃうの?」
「うん、さすがに、もうダメかなって思ってる。
一緒にいたくて同じ首都圏の大学を選んだけど、意味が無かったみたい。
今更だけど、文架大を受験しとけば良かったなぁ~」
「ダメじゃない!ダメじゃない!
近くの大学に行って、近くに住むなら、
まだチャンスあるかもしれないじゃん!」
「でも、友達(石松)の情報だと、一個下に好きな人がいるみたいだし・・・」
「ふく君、きな子にフラれるかもしれないじゃん!
もし付き合ったって、一個下なら遠距離決定でしょ!
離れ離れになった隙に、取っちゃえば良いじゃん!まだチャンスあるよ!」
「響希は単純だなぁ・・・でも、心配してくれて、ありがと。
なら、響希が言うとおり、もう少し、頑張ってみようかな?」
「ふく君が好きな子って誰なの?尚実ちゃん?」
「まさかっ。そんな狭範囲だったら、尚実と険悪になっちゃってるよ。
だいたい、尚実は同い年だよっ!」
「だったら誰?」
「言わない。言ったら、響希、今度は、その人を成敗するでしょ?」
「うん!」
「だから言わない」
「あぁっ!しないっ!成敗しないから教えてっ!」
「ダ~メ!」
「ヒントだけで良いから!」
「ダ~メ!何でそんなに知りたいのよ?」
「かんちゃんに勝つヤツが、どんなヤツなのか見てみたいのっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
恋敵は、優高内で圧倒的な存在感を放つグループの一人。2年目のミスコンで、環奈は彼女に負けている(3年目は生徒会長権限で廃止された)。響希の気性を考えると、響希が優麗高に合格すれば彼女達とは正面から衝突するか、勢いに押されて「適いっこない」と態を潜めて小さくなるか、どちらかだろう。姉としては、「あの人達には適うわけがない」と戦おうともせず、長所を発揮できず、小学校の時のような適当な言い訳をする妹は見たくない。4月から上京をする環奈では、怠け癖を発揮させた響希を導いてやることはできない。それならば、「勝て」とは言わないけど、響希らしく彼女達にぶつかって欲しい。
環奈は、しばらく押し黙った後、ポツリと呟いた。
「凄く可愛い子だよ」
「え?かんちゃんより?」
「うん、格好良くて素敵な子。私が持っていない物をたくさん持っている子」
「そんな人、ホントにいるの?」
「うん、優麗高には、そんな子がいるよ。私じゃ、全然、適わない。
冨久君が好きなのが、その子なら、
私はチョット無理かもって思っちゃうくらいにね。
多分、響希なら、そのうちぶつかると思う」
「・・・・・・・・・え?」
「でも、だからって、キックはしちゃダメだからね」
「・・・・う、うん。そうだね」
自慢の姉が白旗を揚げるような人が恋敵?日本中を探せば何人もいるだろうけど、優麗高の中に、そんなに凄い人がいるの?チョット信じられない。「そのうちぶつかる」ってどういう事?前を見ないで歩いていてぶつかるってのとは、違う気がするけど、意味が解らない。響希は困惑をしてしまう。
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3月上旬。突然、環奈が「進学先を見に行く」「住む場所の候補を探す」と言い出した。中旬の土日に両親と一緒に行く予定だったのに、急にどうしたのだろう?響希は、尚実ちゃんにくっついて、駅まで姉を見送りに行くことにした。環奈は「直ぐ帰ってくるんだから見送りなんて要らない」と言ったけど、「チョット怪しい」と思ったので、無理矢理、見送りに行った。
新幹線の発車予定時刻まで5分弱。リュックを背負った環奈を先頭に、響希と尚実ちゃんが、プラットホームの階段を駆け上がる( 第41話)。
「あっ!いたいたっ!お~~~~~いっ!!私もその新幹線に乗りま~す!
海跳くん、新生活の下見に行くんでしょ?一緒に行こ~~~~~~~~~っ!」
「・・・・・・・ん?」
「ぶひぃひぃ♪」
そこには“かんちゃんに見せてもらった画像のふく君”の実物と、優麗祭の演劇でヒロイン役をやったデブ男(石松)がいた。実物のふく君は、画像よりも格好良かった。かんちゃんみたいな凄い子が、ずっと片想いを続けているのが、何となく解る。響希は「ああ、そう言う事か」「ふく君を諦めるのをやめたんだ」と感じた。
一緒にいるボブカットの女子は知っている。東中出身の先輩だ。デブと仲良さそうにしている。もう1人の、上品な雰囲気のロングヘアの女の子は誰だろう?ボブカット女子の友達っぽいけど、チョット気になる。
「なんで、田村が此処に?
ま、まさか、英邦!ソースはオマエかっ!?」
「まだ、タムラちゃんにも可能性があると思って、声を掛けたばいっ!」
「余計なお世話だっ!」
ふく君とデブが乗っている乗車口に、環奈が飛び乗った。好きな人と一緒だからかな?響希の方に振り返った環奈は、いつも以上に可愛くて、活き活きとしているように見えた
「環奈、ガンバ!」 「かんちゃん、お土産、買ってきてね~!」
出発時刻が来て扉が閉まり、新幹線は動き出す。もし、かんちゃんと、ふく君と付き合ったら、美男美女のお似合いカップルの誕生だ。響希は心の中で「かんちゃん頑張って!」と応援をした。
ちなみに、事前に環奈から尚実に箝口令が出ているので、一緒に見送ったロングヘアが環奈の恋敵って事を響希は知らない。
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4月上旬、姉の引っ越しを手伝う名目で、響希は環奈の上京先のアパートに来ていた。環奈は事前に、初恋相手の上京日時を掴んでいたので、タイミングを合わせて強引に同行することも可能だったが、響希が「かんちゃんの住む場所に行ってみたい」と言い出したので、初恋相手とは別日に上京をした。妹共々、初恋相手に同行して、乗車中に、ずっと姉のセールスなんてされたら、姉の方が恥ずかしくて居場所を無くしてしまうだろう。
「手伝いに来たんでしょ?なら、そのダンボール潰して片付けて!」
「うん、これ読んでから」
響希は、最初の1時間くらいは頑張って手伝ったが、今は、姉が持ってきたマンガ本を読んでいる。環奈はキッチン周りの整頓をしながら、響希を見て溜息をついた。尤も、はなっからアテにしていないので、響希が手伝わないのは想定済みだ。
「そこで寝転がってると邪魔!マンガ読むなら、部屋の端っこで読んでて!」
「は~い」
空返事だけして、チョットしか退かない響希を、環奈が部屋の端に追い立てる。
「ねぇ、かんちゃん。『ふく君』の住むところって近いの?」
「響希には関係無いでしょ!」
「へぇ~・・・『解らない』って言わないってことは近いんだね。
わざと近くにしたの?見に行きたい」
「バカなこと言わないの!
もし行って、バッタリ会っちゃったら、なんて説明すんのよ?」
「『かんちゃんをよろしくお願いします』って説明すんの」
「余計なお世話!」
以前は“ふく君”を全否定していたのに、別人と解った途端に、この有様だ。環奈的には、たまたま(?)初恋相手の住んでる周辺をウロウロして、偶然(?)バッタリと会う展開は考えている。「あれぇ?海跳君、今帰り?」とか「買い物に行くとこ?」などと言って接近して、「チョット相談があるの」とか「手伝って欲しいんだけど」と話を持ち掛ける。「バイト先の先輩にコクられちゃったけどどうしよう?」などと言って、相手の反応を見るのも有りだ・・・が、それらの計画を実行するのに、隣に妹が居たら邪魔なのだ。
持ち込んだ物が少ないので、カラーボックスを組み立てるのと、テレビを機能させるのに手間が掛かったけど、引っ越し作業は3時間くらいで終わった。テレビってコンセント挿したら直ぐに見られるわけじゃないんだね。環奈は、その事実を今日初めて知った。雑貨品は、明日以降、生活をしながら現地調達でちょっとずつ集めるつもり。
夕食はコンビニ弁当で済ませて、テレビを見ながら無駄話に花を咲かせ、一組しか無い布団に、姉妹が一緒に入る。
「部屋、好きなように使って良いけど、GWや夏休みには帰るんだから、
散らかってて、私の入る場所が無いなんてのはやめてね」
「・・・うん」
「響希、私が居ないと、直ぐ部屋を散らかすからね」
「・・・うん」
「修学旅行の時だって、私が1週間いなかっただけなのに、
帰ったら大変なことになっていて・・・」
「・・・うん」
環奈は、響希が布団の中で泣いているのを解っていた。ずっと一緒に居た姉妹が、明日、響希が帰れば離れ離れになる。寂しいのは環奈も同じだけど、響希の前で泣いたら妹に心配をされてしまう。だから環奈は、響希を見送るまでは泣かないと決めていた。
「・・・かんちゃんの仇は、私が討つからね」
「そんなの考えなくて良いよ。ちゃんと高校生活を楽しみなさい」
「・・・うん」
環奈が会話をやめて部屋が静まりかえると、響希がグスグスと鼻水をすする音だけが聞こえた。
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優麗高等学校の入学式当日。新しいブレザーで身を包んだ響希&清華&七菜が、東中前で待ち合わせて、一緒に登校をする。まだ、自転車通学の許可をもらってないので、今日はバスに乗る。前日、響希が「自転車で行って、スーパー文架に駐めれば良い」と提案したけど、「いきなり規則を破る気?」と七菜に却下された。
かんちゃんに勝った強敵が居る学校。そして、まだ、響希は知らないことだけど、響希に初恋を認識させる“バンダナ少年”が居る学校。
田村響希の新しい生活が始まる。




