『せみ』のこえ
拙作にお目を止めてくださりありがとうございます。
本作は『夏のホラー2026』の『音』のテーマに合わせて執筆いたしました。
ぞろりと這い寄る様な恐怖感をご賞味ください。
※この作品には残虐性や出血を想起する表現が含まれます。
苦手な方や15歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
私に付き纏い続けるものを、私は『せみ』と名付けた
「カササカサカサわぁあぶゥぅぅんじじジジジどゅワワァぁガチャッツっつくピーググわぁぁボボえぼぽっぶぅぅぅカサカサぐるぅぅがガゴごボぼぉぅじぃィいぃィボボボ」
こんなことを常に私の耳元で囁くからだ。
鬱陶しくて本当に嫌になる。
小心者の私にそんなことができるはずがない。
解決策も見出せず、私の身体が限界を迎え意識を手放す時以外、常に響く不快な言葉を聞き続け、数ヶ月が過ぎた。
『せみ』は私の弱さを知っている。
その証拠に私が人と関わりを持とうとすると、さらにうるさく言ってくる。
「ごガガガがジジびぃぼぉぉブボボぃガィッぴぃぁぁィィぃ」
「たジぃジさぇげんジジじぃぃぃぃィィ」
私がひとに助けを求めるのを防ごうとしているのだ。
「あのぅこちらにサインを」
宅配便の配達員に返事もせず、小さく開けた玄関からペンと紙をやりとりする。
たったこれだけの関わりでさえも『せみ』は耳元で邪魔をする。
「ぼぼブゥわぁんぶワゎァぁぁんブぶびびぃざざぃんぶぼォぉゴォォ」
『そこに置いてください』玄関脇を指差しながら、何度も使いまわした紙を差し出す。
そうして、前回と変わることなく、2週間ぶりの他者との触れ合いが終了した。
こんなふうだから、『せみ』の望みも私の望みも一向に叶うことがない。
…また数ヶ月が過ぎ、部屋のカレンダーも機能しなくなっていた。
「ガガッごうんガゴガごうんぼボォわァワぁん」
いつもの配達員とともに、知らないひとが玄関に立っていた。
配達員といつものやり取りを済ませると、知らないひとは小さな紙を2枚差し込んできた。
『私はこの地区の民生委員です。
何かお手伝いできることがあればと思いお伺いしました。
お困りの事がありませんか?』
『 ○○市 民生委員・児童委員証
氏名 △△ □□
担当 ○○地区
○○市長
○年○月○日発行 』
『せみ』が騒ぎ出す。
「ぼツガゴッボアァぼっァぼばっぼぁあァンヴヴぐがぼぉキチキチびがかいぃ」
「カササカサッキチキチキチャッキチャキチャジャラッボォォォ」
震える手でチェーンを外し、ゆっくりと扉を開く。
ひさかたぶりの光に目を窄め、手のひらで中へとしめせば、頭を下げ、中の様子を伺う様に側によってくる。
暗い部屋に目を凝らし、首を伸ばす横からバスタオルを巻き付け中に引き込むと、後手にサムターンを回す。
『せみ』が歓喜を奏でた。
「ガガだダンッぶぶぶごごがっつっつガッガガッゴッごぼザリッぐぅぼぐっぅぼふっごぼぉチャッがザザぎぎっブゥぐっっッザリザリッザザガタガタッッッギチギチギチぐぐぅっっかはっつっ」
体にひたりと沿った膜に覆われて響いてくる波の奔流が私の体を誘い、差し込んだ青白く細い光がたたきに鋭角な影を踊らせる。
「ザクッっっザグッッぎがぁぁぁザグッがっっザグザリッボッっツ」
徐々に黒に染まる肢体をよじり、手で空を切りながら低く湿った音を重奏する。
「くぐっぼぼぉぉ」
「がぁジャリッグジュガダダッぎぃあぁぁダダン」
先ほど空を切った手や、乱れたリズムを奏でていた足が、高度を失いたたきを這う。
「ガガァがッボふぶヮアぁぁァンブブブブブザザザリガリッガリッぶぐぅぅぅぅぅ」
ぎゅしゃりっと音を立てて手の中で潰れた感触が、ぞわりと肌を逆撫でる。
波はさらに激しさを増し、腑をも揺さぶり、私の脳もどくりどくりと揺れている。
その中毒性を持つ感触を味わいながら『せみ』は終奏へ移行する。
「 」
私の言葉は音にはならず『せみ』の声だけが聞こえた。
「がヵぼうぅざらぃぃぴーーじーーーーーィィ」
「ズズズズズブゥンビーーー」
「ずっズズすぅぅゥ------------------」
そして…
煌々と照らす月明かりの下に黒々と光る細波が、生温く広がっていく様を恍惚と眺め、私の『せみ』が鎮まるこのひと時の幸せをかみしめた。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
物理的に閉じても入り込んでくるものにはご注意下さい




