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5.フラグは事前に叩き潰しましょう

新キャラが出てきます。妹たちは一旦、休憩です

 アーサーと、可愛い妹たちとのほのぼの日常生活が順調に進んでいた。

 アーサーは、思う存分に妹たちに構い、愛でていたのだ。

 あまりにも、テンション爆上げしすぎて、シェリーたちの戦闘面に関しては、アーサーが2人の教師を買ってでいた。

 何せ、魔王スペック。

 ここには、更に元黒幕と結界魔法スペシャリストも揃っている。もちろん、アーサー自身が魔法の他に、剣術、棒術、弓術などなど、なんでも完璧に扱うことができる。元魔王スペックは伊達じゃない。

 そんな訳で、時には妹たちをビシバシと鍛えて、時には妹たちを可愛い可愛いして餌付けをしながら、時折やってくる不審な虫を潰しつつ、アーサーたちは穏やかに暮らしていた。

 最近では、「お兄さまの料理が1番ですわ!これからも作ってくださいまし!」「兄さまのご飯すき。ずっと食べたいです」と妹たちから、花束を貰って、アーサーは崩れ落ちた。無論、心で。

 その花束は時間魔法をかけられて永久保存され、今もアーサーの部屋で美しさを保っている。妹たちからのプレゼントを永久保存できなくて何が兄だろうか。禁忌とも言われる時間魔法の大盤振る舞いである。


 しかし、そんな穏やかで優しい時を過ごしてたアーサーには、まだあることが心に残っていた。


 それは、本当にシェリーの悪役フラグが折れたのだろうか、ということだ。


 シェリーに、本当に第一王子の婚約者になりたいのかを尋ねたところ、「お兄様をこえるほどの料理の上手な方じゃないといやですわ!」ということだった。

 そのため、すでに国王に第一王子の婚約者にうちのシェリー及びアリスはやらないと誓約書を書いてもらっている。迅速な行動。

 妹たちを嫁にもらいたければ、俺の屍を越えていけ、という旨も書いて貰っている。無論、負ける気はさらさらない。とんだシスコン野郎である。

 ちなみに、叔父叔母である国王と王妃は大爆笑していたことを記しておく。


 父親? それは知らない虫ですね。


 話は戻って、ゲームの舞台は、学園である。

 正規のゲーム設定なら、アーサーの同級生にこの国の第一王子、そして1学年下にシェリーとアリスが入学するのだ。

 しかし、現在のアーサーの年齢が正規のゲーム設定と違うのだ。これは妹可愛さに全力を尽くしていたアーサーが最近気がついたことである。


 あれ?俺の年齢違くね、と。


 アーサーとシェリーは本来なら年子の兄妹である。しかし、現状はアーサーは10歳、シェリーはあと少しで、5歳、アリスは4歳となる。この時点で、すでにこの世界線は可笑しくなっているようだ。

 ちなみに、従弟である第一王子は今度5歳になるようだ。メインキャラが全員年下になっている。

 そもそも、学園においてもアーサーは前例なしの9歳から満点合格して、その後も4年で卒業のところを1年未満で修了している。

 原作のアーサーは、きちんと15歳から学園に入学していたというのに。前世を思い出す前からアーサーも、ちょっと原作から外れていた可能性がある。


 つまり、アーサーは物理的に舞台から強制退場してしまっているのだ。


 しかし、前回のように抑止力(シナリオ)というのは侮れない。アーサーが居ない学園で何か起こってしまう可能性はゼロではないのだ。


 もしも、可愛い可愛い妹たちが泣くようなことになれば、アーサーは簡単に世界を滅ぼすだろう。そして完璧で完全なる妹たちが幸せな世界を創りなおすだろう。妹が泣く世界なぞなんの価値がある?全ては妹たちが健やかに育ち、笑ってくれる世界に、という、全くぶれないシスコンガチ勢である。ヤバイやつであるという自覚はある、恐らく。


 アーサーがいれば、抑止力にも対処できるはずだ。

 そのためには、シェリーたちの入学の時にアーサーがいるようにしなければならない。学園に在籍していることが大前提である。

また、あの誓約書を書いてもらったことによる、国王(叔父)夫婦たちからの非常に面倒くさい交換条件にも頭を悩ませているのだ。


 そして、アーサーはある案を思いついた。

 どちらも、解決できる妙案のはずである。

 善は急げと、アーサーは涙をこらえる妹たちに見送られ、後ろ髪を引かれる思いで屋敷から外出をしていた。もちろん、屋敷には防御魔法などその他諸々をたくさんかけてきたので、例え爆発が起こっても、屋敷は確実に無事である。


 **


 アーサーが、訪れていたのは最早来ることはないと思っていた学園である。

 恋姫の舞台となるフリーデンアイト学園だ。広大な敷地を持ち、この国の創立と同じほど歴史も持つ由緒正しき学園である。

 この学園は、15歳の子どもから、試験に合格したら通うことができる。しかも、学費は全て無料であり、完全寮制。

 身分も権力も、この学園では全て平等を謳っている。所謂、治外法権としての権利をこの学園は持っているのだ。

 まぁ、アーサーは例外の例外でスキップしたのだが。権力と才能のゴリ押しである。治外法権とはなんだったのか。


 アーサーは学園の門をくぐり、花園を歩いていた。


「アーサー」


 背後から、涼やかでどこか楽しげな声がかけられる。しかし、アーサーはまるで聞こえないかのように、無視して歩き続ける。

 すると、無表情の薄い桃色の髪をした双子のメイドと執事がアーサーの前に現れ、行く道を妨げた。

 アーサーが目を細めると、同時にその2人が、黒髪と白髪のメイドと執事に地に伏せられ、アーサーを遮るものはなくなった。


「ぶは!!ふふふ、アーサー!!」


 堪えきれてない笑い声と可笑しくてたまらないといった様子に、アーサーは仕方なく足を止めて、振り返る。


 そこには、まだあどけない子どもでありながら、神秘的とも言えるような雰囲気を纏う男性的でもあり、女性的でもある、中性的な美しさを持つ子どもがいた。

 晴れ渡った青空を美しく薄めような水色の長髪は纏められており、透き通った海を閉じ込めたサファイアのような瞳。

 まるで、おとぎ話で出てくる麗しき水の精霊ーーウィンデーネのような、そんな人知を超えた美しさをもつ子どもであった。

 しかし、そんな子どもでも、顔を真っ赤にして口元を抑えて笑うのを堪えているのは、その魅力は大いに半減している。寧ろ、これまでの神秘性はなんだったのか。神秘性が裸足で逃げ出すレベルである。

 アーサーは、内心げっそりとする。残念なことに、このまま無視をしたいが、そうはいかないの人物である。


(くそ、めんどくせぇ)


 これが、隣国である帝国の皇子様というのだ。世も末ではないだろうか。こいつに夢見る乙女たちが見たら、落胆待った無し。こいつの本性を教えてあげたいところである。


「何の用だ、ウィン」


 そして、悲しいことにアーサーとは同い年の腐れ縁野郎であるのだ。是非とも無視したかった。

 ウィンーーと呼ばれた美しいその子どもは、未だに笑いに耐えながら顔を上げる。妙にイラっとくる顔をするウィンにアーサーはとりあえず、召喚したタオルをぶつけた。


「ぶふ!! ちょっと!アーサー!いたいじゃーん!もっと優しくしてよね!」

「貴様やる優しさなぞあるか」


 ウィンはやれやれと肩をすくめて、自身の従者である双子を呼び寄せる。アーサーの側仕えであるクロエとルーツに地に伏せられて、ボロボロだった服はすでに綺麗になっている。相変わらず、ここの従者も規格外のようだ。


「あーー、可笑しかった。うちのルルとトトを瞬殺だもん! ほんと、アーサーとこの子達最高だわ。あ、新人ちゃんいるじゃん! うちにこない?ちょうだいよー!」

「貰っていけるもんなら、貰っても構わない」


 貰っていけるもんならな。

 アーサーの言葉に、ウィンは目を細めた後、口を尖らせた。もちろん、クロエとルーツが行くわけないことはわかっているからの自信である。


「どうせ、口説いてもきてくれないんでしょ?」

「俺のだから、な」


 氷の貴公子とも名高く、表情の殆ど変わらないアーサーが、口元を釣り上げる。その姿は、紛れもなく勝者としての圧倒的な力を感じさせる笑みであり、ウィンは、様になってるなぁと実感する。ウィンは自身の容姿の美しさに自信を持っているが、アーサーも自分並に、いやそれ以上に美しいと思っている。アーサーは、圧倒的とも言えるほど「無」の美形である。その無が有に変わる時、表情が変わる時など、見たものが倒れる、死を覚悟する、桃源郷などと言われるほどだ。

 確かにこれは、とウィンは納得する。アーサーと付き合いの長いウィンでも、ちょっとグラっとくるのに近しくない人などひとたまりもないだろう。

 しかも、彼が表情が変わるのは身内の話の時且つ親しい者だけ、例外は敵対した者のみであり、殆ど見れるものでもない。ある人は魔王のようだといい、ある人は神のようだというように、神話化されてるのだ。あながち間違いではない。

 そう考えると、ウィンはアーサーと仲は悪くはないと考えている。まぁ、良くもないが。


「で、何の用だ」

「そんなのわかってる癖に。すでに単位を習得してあと卒業を待つばかりで殆ど学園に来ない幻の天才様が、突然学校に現れたら何かと思うでしょ?」


 学園もざわめき立ってるし、とウィンが言うとアーサーの目がかすかに細められた。この学園においてアーサーに声かけられる人物はかなり限られているのだ。ここにいるウィン(隣国の皇子)と学園長しか、身分的に無理なのだ。


「学園長に用事だ」

「へぇ、珍しいどうしたの?」


 ニコニコしながら隣についてくるウィンに、アーサーは眉をひそめた。しかし、ウィンはそんなことで諦める人種ではないので、アーサーは早々呆れめた。


「少し、仕事の話だ」

「ふーん? 」


 ついてくる満々のウィンに、アーサーはピタリと足を止めて、ウィンをじっと見つめた。


(あ、そういやこいつ使えるかもな。なにせ、隣国の皇子だし。まだ公爵令息でしかない俺よりも権力は上だし、何より頭が切れる)


「ウィン」

「なーに?」

「この学園の教育体制をどう思う?」

「んー? やっぱり、この辺じゃ1番じゃない?設備もいいし、教員も揃ってるしね」

「俺が、そんなパンフレットに書いてあることを聞いてるとでも?」


 アーサーが少し眉を寄せると、ウィンは声あげながら笑う。どうやら、それは建前だった様だ。全く持って面倒臭い男である。


「学園にいる時は平等が謳われてるけど、15歳からの入学だともうすでに固定概念に染まってしまっているし、この学園じゃあ生徒の方が先生よりも社会的地位が高いこともある。今まで大きな問題はないのがラッキーな程だよね。まぁ、学生はいいよ。学園に守られるからね。でも、特待生で平民がここに入ってもその後の就職先で結局、社会的地位や家の爵位とかに縛られてるよねぇ。まぁ、ここの国の人たちは結構バイタリティが強いけどさぁ。折角のいい人材が膿に、使い潰されてるのはもったいないかなって思うかな。

 それに、あと10年だっけ?

 ここの第1王子が来るときに色々と起こりそうだよね?」


 ウィンは、それはそれは楽しそうにニンマリと猫の様に笑った。アーサーは、正直ウィンがここまでしっかりと見ていたことに少しだけ目を見開く。いつもフラフラと遊んでいる様子しか見られなかったが、彼の観察眼と情報網は舌を巻くものがある。流石、帝国きっての外交皇子の名は伊達ではないようだ。


(ふむ、これなら巻き込むか。といってもこいつはどこかしらで嗅ぎつけてくるし。先手を打った方が対応が楽だな)


 アーサーは、ウィンと自分に防音魔法をかける。アーサーの行動に、ウィンは興味深そうに様子を伺っていた。


「この学園に、卒業後のさらなる研究や勉強することができる機関をつくる」

「メリットとデメリットは?」


 すかさず、思考モードに入るウィンにアーサーは、優秀なようだな、と目を細めた。


「メリットは、優秀な人材を確保。また研究や勉強する支援する代わりに、その発明や成果は一部学園に還元と身元預かりを学園とすることだ。それに、学園の教員確保にもする。デメリットは、古い狸貴族どもの反感か? 」

「どうせ君のことだし、すでに王様には手回ししてるんだろう? 卒業後の機関は、誰かの成果がないと続けられないよ?」


 ウィンの言葉に、アーサーは想定内だと思った。この男はアーサーが思っていた以上にキレものである。普段もこの調子であるのなら付き合いやすいというものだ、とアーサーはお茶目っ気がありすぎて最早ただの迷惑でしかないウィンの言動に頭を押さえる。


「問題ない。卒業後機関の初めの第一人者となるのは俺だからな」

「あーーなるほど。いいよ、のってあげる」


 アーサーとウィンはお互いにまるで悪巧みをするように、口元をつりあげた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

長かったので、この話は次に続きます。

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