表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

13.奇跡という名のご都合主義

お久しぶりです。

まだぼちぼちやっていきます。

誤字脱字は優しく教えてください。

 

 門限通り、家に帰宅したアーサーは従弟へと購入してきたお土産を渡し、王宮まで送り届けた。そして、翌日の休日、アーサーが待ちに待った妹たちとのお土産お披露目会の始まりである。


「まあ!!アリス、とってもすてきですわ!」

「えへ、ありがと、ございます。シェリーお姉さまも、キラキラしてかわいい」

「アリスにそう言ってもらえるとうれしいですわ。ありがとう」


 アリスとシェリーは、お互いの髪飾りを見て目を輝かせていた。

 アリスの金色の髪には、月をモチーフした満天に輝く夏の夜空のようなバレッタで、ふわふわの髪をハーフアップにして纏めている。

 一方で、シェリーの白銀の髪には、太陽をモチーフとした晴れ渡った青空のようなバレッタがあり、お団子にして纏め上げられている。

 彼女たちを作り上げた立役者のルーツとアイギスも、満足げな顔である。

 どちらも、細やかな装飾が施されており、可愛らしい。もちろん、その可愛らしい装飾に、可愛らしい笑顔の妹たちという、最早無敵。可愛いは、世界を明るくさせる。楽しそうなシェリーとアリスを、眺めていたアーサーは、妹たちの更新されていく可愛さに、「やはりうちの妹たちが至高」と後方兄貴面で頷いていた。控えめに言っても、うちの妹たちが可愛い。


「お兄さま!すてきなプレゼントをありがとうございます!だいじにしますわ!」

「ありがと、ございます!うれしいです!」

「あぁ、気に入ってもらえたら何よりだ。2人ともよく似合っている」


 アーサーに褒められたアリスとシェリーは大輪の華が咲くように笑う。

 アーサーは、旅の疲れなんて吹っ飛んでいった。万物に効く妹の笑顔。治癒魔法よりも強力なんじゃないか?と真剣に考えているのはアーサーだけである。

 妹の可愛い、いやこの大切な存在たちを、全力で守らねばとアーサーは己の研鑽を更にしていくことを決意する。


 ーーあのイベントは、避けることはできない。


 正直、アーサーとしてもこれはどうなるかは予想不可。これは、未来視することのできない未来であり、もちろん原作にも本来ならアリスのみが遭遇するーーとあるルートで起こるイベント。しかし、アーサーは確信している。


 ーーきっと、この妹たちなら受け止められる、と。


「シェリー、アリス。母上に、会いに行こうか」

「……!?」

「おかあさん?」


 大きく目を見開くシェリーと不思議そうな顔をするアリスの反応に、アーサーはそっと2人の手を握る。そして、真っ直ぐにシェリーとアリスの目と合わせた。


「そうだ。俺とシェリーの母親。もちろん、俺らの妹であるアリスの母にもなる」

「お、にいさま。母さま、は、そのもう」


 泣きそうな顔をするシェリーに、握っていた手に力が入りそうになるのをと留める。


「あぁ、俺らのお母さんはすでに亡くなっている。だから、3人で墓参りに行こう。こんなに可愛い妹ができたんだ。紹介しないと母上に、怒られてしまう」


 じわり、と涙がこぼれ出したシェリーにアーサーがそっと片手を広げると、その腕の中に抱きついてきた。ポンポンとアーサーがシェリーの頭を撫でると、シェリーの抱きつく力が強くなる。


「わたしも、むすめなの?」

「ああ、俺らの妹なんだから。アリスも娘だよ」


 ぶわり、とアリスの目に涙が溜まり、一気にこぼれ落ちる。アーサーがシェリーと同じように手を広げると、飛びついてきたアリスを難なく受け止めた。泣いている2人の妹を、アーサーは泣き止むまで、優しく抱きしめる。


 そんな麗しい兄妹愛の姿に、見守っていたルーツも、号泣していた。大好きで可愛らしいお嬢様たちの、あまりにもいじらしい姿に、ルーツの心にクリティカルヒットである。


「ジェリーおぼじょざま、アリシュおぼじょざまぁ」

「ルーツ、あと5分で泣き止みなさい」

「クロエざんの、おにぃ」


 本来のクロエであれば、即ハリセンで意識を飛ばされていたため、かなりの温情であることをルーツは泣いておりそれどころではないのだ。


「グロエざん、おじょうざまたちのおかあざまって、あの、わたしが」

「ルーツ、あと3分です」


 クロエは、ルーツの顔にタオルを投げつける。余計なことを考えるな、という命令でもある。

 ルーツは気が付いている。

 元々、ルーツは災厄の終焉(ラストラスト)という存在であった時に、なによりも自分という存在がいかに負の要素を撒き散らしていたか、悪影響しか及ぼさないことを、身に染みて理解している。だからこそ、アーサーも、ルーツが気がつくことをわかった上でルーツには言わないのである。己の主人がそう決めたのなら、クロエはそれを守るのみ。


「ゔ、うえ、グロエざぁん!!」


 ルーツも、それがわかっているからこそ、涙が止まらないのである。災厄の終焉(ラストラスト)という存在だった時には、何も思わなかったし、感じもしなかった。そもそも、そのような意識や感情がない。生まれることなんてあり得ない。

 ルーツは、過去の自分を否定することはできないし、後悔も反省もできない。ただ、ルーツになって、初めて「悼む」ということを理解したのだ。そして、どうしようもない「切なさ」も共に。


「ルーツ、あと2分です。それまでに思いっきり泣いてしまいなさい」

「う、ゔぁわーーーーーん!!!!」


 クロエは、ルーツにしっかりと防音の結界を張ってあげていた。手のかかる後輩を背に、クロエは主人たちを見守る。


「2人とも大丈夫か?」


 赤い目をしてこくりと頷くアリスとシェリーに、アーサーは治癒魔法をかける。赤みが引いていくのを確認して、そのまま、しがみついている妹たちを、アーサーは抱き上げた。

 そして、クロエたちの方も確認する。


(ルーツは大丈夫そうだな。流石、クロエ)


 ルーツの鼻がまだ赤いが許容範囲であろう。クロエに目配せをすると、彼は心得たようにアーサーの魔法の有効範囲内へと、ルーツと共に移動する。

 2人の移動を確認して、アーサーは転移魔法を展開した。


 **


「シェリー、アリス着いたよ」

「え、ここは」

「わあ、おはながいっぱい」


 アーサーたちが転移してやってきたのは、一面に青い海のように、青い薔薇が咲き誇っている庭園であった。真っ青な空間に、真っ白な墓石が、中心に鎮座している。ここは、許されたものしか入ることのできない、王宮の敷地に隠された庭園である。アーサーは、2人を抱き上げたまま、その墓石の前へと足を進める。

 そして、立ち止まり2人をそっと下ろした。


「シェリー、アリス。ここに、母上は眠っている」


 シェリーとアリスは、アーサーにくっついたまま、じっと真っ白な墓石を見つめる。


「るーしー、ほわいと?」

「あぁ、俺たちの母上の名前だ」


 アリスが読み上げた名前に、アーサーは目を伏せる。

 ルーシー・ホワイト。

 それは、アーサーが生まれる前に、この国の第一王女として生まれ、「この世で最も美しい姫」「夜明けの極星」「神の贈り物」とその美貌を轟かせていた。また、彼女らの世代は「黎明期」と呼ばれる、後に英雄や傑物たちが産まれた時代でもある。その中でも、彼女の治癒魔法は世界一と呼ばれるほどの腕であった。そして、慈悲深く公平な愛を持つ、人格者として知られている。今もなお語り継がれる彼女の伝説は、広く愛されており、国民をはじめとして世界中からも、大変人気である。

 アーサーは、そんな母親の像を何億回と周りから教えてこられた。しかし、すでにアーサーはそんなものよりも、ベッドの上でも、アーサーを愛して叱り、導いてくれたのは紛れもなく、あの母の姿なのである。


 ーー私たちの愛しの子。


 アーサーは、再び目を開いた。


「お久しぶりです、母上。挨拶が遅れましたが、シェリーと新たに妹になったアリスです」


 アーサーがそっと2人の背を押すと、シェリーとアリスはおずおずと、墓石に向かって挨拶をはじめる。


「はじめまして、アリスです」

「おひ、さしぶりです。お母さま」


 お互いの手を握りしめあいながらも、しっかりと挨拶をした妹たちに、アーサーは、よくやった!えらい!という気持ちを堪えながら、そっと頭を撫でるだけに留まる。


「母上、シェリーは、アリスの良き姉として、淑女としても素晴らしい気品を備えた、俺の自慢の妹だよ。また、アリスも、シェリーを慕い、己の研鑽をし続ける一生懸命な、俺とシェリーの自慢の妹なんだ」


 ゆっくりと紡がれるアーサーの言葉に、シェリーとアリスは兄の顔を見上げる。とても、とても優しい顔をしている兄の姿に、胸がきゅー!!!と締め付けられた。


「お兄さま、お母さまは、どんな人だったんですか?」

「わたしも!しりたいです!」 


 目を輝かせる妹たちに、アーサーは思案する。決して、母親の話がタブーなわけではないが、アーサーも積極的に話はしてこなかったのだ。

 だが、妹たちが知りたいというなら話すべきタイミングは今だろう。


「そうだな、少し長くなるから。向こうのカボセで話そうか」


 こじんまりとした、薄い水色のカボセへと、彼らは移動する。そして、アーサーを真ん中にして、シェリーとアリスはベンチへと座った。ルーツとクロエもそばに控えている。


「そうだな、どこから話そうか。母上、母さんは、容姿はそうだな。シェリーにそっくりの瑠璃色の瞳で、髪の毛はアリスみたいにふわふわしていたよ」

「まあ!そうだったんですか!」

「おそろい!」

「あぁ、お揃いだ。母さんは治癒魔法の名手でね。この世界で随一の実力者で、多くの命を救っていた。母さんを超える存在はいないとまで言われてる」

「まさか、お兄さ、ま」


 アーサーの言葉に、勉強熱心なシェリーは気がついたのだろう。アリスは、??を浮かべて首を傾げている。2人の反応に、また頭を撫でながらアーサーは言葉をつづける。


「シェリー、しっかり歴史を勉強してるな。えらいぞ。そうだ、母さんは『12の終止符』と呼ばれたうちの1人だ」


 それはまだこの世界にて、戦争が活発であった頃の話。後に、黎明大戦と語り継がれる大きな戦いがあったころ、それを終結させるために、12人の傑物たちが手を取り合い、戦いの終止符を打った。

 そして、そのうちの1人として、すべてに治癒を施し、敵も味方も、死なせなかったルーシーなのである。


「すごい、の?」

「そうだな。歴史的に母さんの功績はすごい。ただ、家での母さんはかなりお茶目でな」


 アーサーが思い出すのは、ベッドの上で微笑んでいる母親の姿もあるが、ホワイト家で働いてる者たちから言われる、ホワイト家の日常と呼ばれる光景がある。


「よく、屋敷で鬼ごっこもしてたし、かくれんぼもしたな。それで、メイド長に怒られて、一緒に正座して謝ったなあ。あと、父さんには死んだふりをするというドッキリをよくしていて、父さんが毎回泣く」

「え!?」

「どっきり?」


 混乱してしまったシェリーとアリスに、アーサーは苦笑する。対外的に知られているルーシーの像は、清らかなる女神、美しき慈悲深い聖女のようなものである。

 しかし、アーサーの中のルーシーは、よく笑いよく泣いて、よく夫に死んだふりのサプライズをする、非常に愉快でアグレッシブな人なのだ。


(あの時の父さんは、ギャン泣きしていたけども。そして、母さんは「うそでーす!騙されましたね!ふふふ」と笑っていたなあ)


 アーサーが、今思えば、母は自分の死期を、そして夫からの深すぎる愛を察していたのかもしれない。だからこそ、少しでも夫が耐えられるように予行練習のつもりもあったのかもしれない。その目論見は、父にとっては外れているような気がするが。母は、本当に人の心に寄り添うのは大変うまいのに、何故か、己の夫の心はわからない。あのサプライズは母の趣味なところが8割だと、アーサーは思っている。


「驚くほど察しがいいし、気の利く母さんだったが、なぜか、父さんの気持ちにだけはめちゃくちゃ鈍くて鈍くて。そして、父さんは、大体泣く」

「おとう、さま」


 シェリーは父のことをなんとも言えない顔で受け止めていた。どちらかと言うと、それが父の本性である。正直、前のアーサーも「うわ、かわいそう」と思うことは割とあった。そのくらい、何故かルーシーは夫に関して、鈍感さを発揮して、スルーしていた。本当によく結婚できたな、と思わずにはいられない。たぶん、父の執念なのだろう。


「正直、母さんは『夫の後ろに3歩下がっている』というよりは『すごい楽しいー!!』と己で突き進むタイプだったんだ」


 アーサーは、ルーシーの伝説を見て、まず思ったのは『傑物としての真髄をみた』である。今のアーサーとしては『圧倒的な主人公属性』とも言える。それはもう、アーサーの中で、ルーシーの株が下がることはない。本当に人間として尊敬できるのだ。夫への対応はのぞいて。

 それに、ルーシーの体の調子がいい時は、アーサーの家庭教師をしていたのはルーシーである。それはもう、血を吐くほど扱かれた。


「誰からも愛されていて、誰もを愛していた。そんな、素敵な人だったんだ」


 アーサーは、そっと懐から小さな箱を取り出した。そこから、丁寧に開けて出てきたのは、美しい瑠璃色のうさぎだ。


「わあ!すごくきれいですわ!」

「すごい、きれい!うみ!」

「この色はね。本当に母さんの瞳の色と似てるんだよ」


 シェリーともよく似ているが、シェリーはルーシーに比べて少しだけ薄いのである。どちらかと言うと、ルーシーは透き通った海、シェリーは晴れ渡った空だろうか。


「そうだったのです、ね」

「……会ってみたかった」

「私も、ですわ」


 悲しげにうさぎを見つめるシェリーとアリスに、アーサーも鎮痛な面持ちで目を伏せる。

 この時、アーサーも心から「母にこの子たちをあわせたい」と思っていた。


 さて、ここでもう一度ここにいるメンバーを考えてみよう。


 ひとり、魔王として君臨できるラスボススペックをもつーーアーサー。

 ふたり、アーサーの妹として悪役令嬢スペックをもつーーシェリー。

 さんにん、主人公かつヒロインのスペックをもつーーアリス。

 よんにん、アーサーの執事として随一のスキルを持つーークロエ。

 最後に、この世界の黒幕のスペックをもつーールーツ。


 そして、アーサーが取り出したあの瑠璃色のうさぎの置き物は、ルーシーの旧友、魔法彫刻家として、そして呪いやお祈りと言った補助魔法のスペシャリストとして有名な人物であった。もちろん、友人に渡す予定であったうさぎに、幸せになるタイプおまじないをしていないわけがない。ちょっと運が良くなる、そんなおまじないのつもりであったのだ。問題は、それが魔力量によって効果が変わると言うことである。


 もう一度、ここにいる5人のスペックを考えほしい。全員、一般よりはるかに上の規格外なスペックを持つ存在しかいないのだ。

 そして、奇しくも「死んだ母に会いたい、会わせたい」という共通した願いを想っていた。


 ーーご都合展開(キセキ)が起こらないわけがない。もはや予定調和のようなものであった。


 青く光出したうさぎの置物を見た瞬間、アーサー、ルーツ、クロエは、全員に防御魔法、結界魔法、反射魔法、隠蔽魔法を展開させた。アイギスも妹たちのそばで臨戦体制。僅か、瞬きの一回の間に、どんな特上魔法であっても破ることできない要塞かつ対応できる準備は出来上がった。アーサーは、妹たちを背に庇い、うさぎの置き物に厳しい視線を向ける。

 このうさぎが自分達に危害を加えるとはとても思えないのだ。破壊することは容易だが、それはしてはいけないと、アーサーの勘が訴えている。

 より一層、大きな光に包まれた瞬間、それは弾けた。

 アーサーたちが目を開けると、映し出された光景に、驚きの声がこぼれ落ちる。


「か、あさん?」

『大きくなったわね、アーサー。お久しぶり』


 そこには、あの麗しい生前の母の姿ではなく、瑠璃色のうさぎが、思いっきりデフォルメされたマスコットというか、ぬいぐるみのような風貌の水色のうさぎがいた。イメージは、前世の週末朝に、放映されていた女の子向けアニメのマスコットのような形である。

 決して、アーサーの目が狂ったとか、慕っていた母であるため気がついたとか、そんなことではない。うさぎが発光したときから、アーサーが発動させていた鑑定魔法が、『ぬいぐるみにみえる存在は、ルーシー・ホワイトの魔力に満ち溢れている』と答えを出したのだ。いや、なんだこの展開。原作でもなかった展開に、アーサーは一瞬呆けてしまう。


『ふふ、シェリー。貴女もこんなに大きくなっていたなんて、母はとても嬉しいです。それに、アリス。貴女も例外なく私の娘ですわ!3人とも、仲良し兄妹で母は、胸がいっぱいです!クロエも、アーサーを支えてくれてありがとう!これからもうちの子たちをよろしくね!そこの、真っ白な可愛い子も、可愛い聖霊さんも、うちの子たちをどうぞよろしくね!』

「母さん、ちょっと落ち着いてください」


 こちらの混乱を物とせずに、ふわふわと飛んで、それぞれの頭を撫でていくうさぎのぬいぐるみを、アーサーはそっと抱き止める。このマイペースで、こちらの毒気が抜かれていくのは、間違いなく母であるルーシーだと、アーサーは確信した。


「母さん、今、ご自身の状況わかってますか?」

『んー?まあ、死んだのにここにいるわ。私の状態は恐らく、精霊に近いものかしら?』


 死者が受肉する、それは死霊魔法と呼ばれるものがあることはアーサーも知っている。ただ、この母は、生前のうちに、自身がその対象にならないように、また、死者蘇生という禁忌魔法の対象にもならないように、まったくの隙がなく、魔法を施して死に絶えたのだ。だからこそ、父親が悲しみに狂ってしまうことになったのだが。それでも、この状況がアーサーは全く理解できない。


『ふふふ、アーサー。相変わらず、貴方は真面目ねぇ。こんなの、奇跡とでも思っておきなさい。ラッキーくらいでいいのよ』


 いや、軽すぎんだろ!?母さん!?とアーサーは心の中で叫んだ。


「……では、いまの母さんは、何ができて、どこまで知ってるんですか?」

『生前の治癒魔法レベルは難しいかしら?加護を与えられるかなって力ね。正直、記憶は死んだ時で止まってるわ。ふふ、もう見ることは叶わない成長した我が子たちがいたんだから、ラッキー以外ないでしよう?』


 屈託のない笑顔を浮かべるうさぎのぬいぐるみに、アーサーは、少し申し訳ない気持ちになる。それは、己が純粋なアーサーだけじゃないから、と。


『ふふ、アーサー。貴方は気にしなくていいのよ。貴方も、私の可愛い子ども。アーサーです』

「……ありがとう、母さん」

『で、アーサー。今、貴方の記憶をちょっとみさせていただきましたが、あの人は一体何をやってらっしゃるのかしら?』

「!!?」


 真っ黒なオーラを纏い始めた母に、アーサーは、慌てて自分にかけている魔法を確認するが、確かに魔法を使われてた形跡がある。さっき加護を与える程度って言ってじゃないか、という文句はグッと堪える。なにせ、この母は、今怒りに満ち溢れている。触らぬ母に、祟なし。正直、アーサーも、この母が怒るときはめちゃくちゃ怖いのである。


「見ての通りです」


 つまり、素直に自白するのが最も賢い選択である。


『そうよね。あの人対する制裁については、良くやったわ!!流石、私の子!全くもって素晴らしい手腕よ!


 本当に、あの人ってどうしようもないわね』


 ルーシーはしっかりとアーサーを褒めながらも、どこか「愛する人」を見ている瞳になっていた。

 ルーシーとしても、アーサーの記憶を盗み見をするつもりはなかったのだ。

 そもそも、うちの長男はどうも人を頼らずに解決させるから過程を教えてくれないことがままある。

 そして、ルーシー自身も、心残りというか、愛する夫の今が気になったのは仕方ない。アーサーから、ローリの記憶だけを覗けたらいいなあ、と思ってたら、思った以上のものが流れ込んできた。ルーシーは、今自分の体が生前じゃなくてよかったと、そして徹底して死んでいってよかった、と心から思った。生前であれば、うっかり魔力が暴発していたところである。


「それは母さんが1番わかってるでしよう。俺は、あの人が気がつくまで許す気はないですよ」

『そうよねえ。ねぇ、アーサー。この私があの人のところに行ったらどうなるかしら?』


 ルーシーの言葉に、アーサーは考える。正直、予想はつかない。そもそも、前世のアーサーも、ローリのルートは詳しく知らないのだ。だって前世の妹は、ローリルートもやっていたがそこまで話してもらっていない。

 ただ、アーサーとしてこれまでのローリの行動か予測すると。


「泣くでしょうね」


 子どものアーサーの思い出としては、母のドッキリで泣かされる父というのが日常風景であった。ローリが暴挙にでる可能性も十分あるが、まずは泣くだろう。


(父さん、母さんになるとポンコツだしなあ)


 ローリも、非常に優れた魔法使いである。

 宰相としてのローリであれば、この状態の母が自分が生きてるまだ維持できるように全力を尽くすか、母を連れて消えていくだろう。そんな事を考えるより先に、ローリ=ホワイトは、「ルーシーが生きている」という事実に涙することになると予測できる。そもそも、生前、何度も繰り返されたサプライズにより条件反射みたいなところがあるだろう。


『ふふ、そうよねえ。……それはそれとして!まだネタバラシはしないわ!アーサー、私に隠蔽魔法や認識阻害系の魔法かけれるかしら?』


 一気にワクワクといった雰囲気に切り替わったルーシーに、アーサーは悟る。これは、必ず父は泣かされる未来だな、と。


「ええ、問題なく」

『そう。なら、あの人にだけバレないようにかけてもらっていいかしら?』


 アーサーは、こくりと頷くと共に母に魔法をかけていく。防御系の魔法もついでにかけておくか、と幾千もの魔法陣が展開しては消えていく。


『あらあら、アーサーも随分と上達したのねえ。よく頑張りましたね』

「ええ、ありがとうございます。ところで、母さん」

『なあに?』

「そろそろ、うちの妹たちともお話させていただいても?」


 驚いた顔をして固まったままの妹たちが、そろそろ可哀相である。非現実的なのは仕方ないが、割とこう言うことはあり得るのだ。アーサーも、忘れていたわけではないが『ここにいる人物たち』の役割を思い出したところはある。


『もちろんよ!シェリー、アリス。いきなり、驚いたでしょう?ちょっと世話焼きな動くぬいぐるみと思ってくれたらいいのよ』

「いやそれはそれで怖いのでは?」

「あ、の、」


 シェリーが、声に出してアーサーの見上げる。アーサーは、そんな妹の頭をそっと撫でて、続きを促す。


「おかあ、さまですの?」

『ええ、貴女がそう呼んでくれるなら。シェリー』

「かあ、さま!!!」


 ぶわり、とシェリーの瞳に涙が溜まり、勢いよくルーシーへと抱きついた。ぎゅうぎゅうと抱きしめるシェリーに、ルーシーは短くなった手で、我が子をそっと撫でる。


「兄さま」

「どうした?アリス」

「……私も、ははさま、ってよんで、ほんとうにいいの?」

「いいに決まってる。初めに母さんも言ってただろ『私の娘です』って」


 アーサーは、便りなさげに聞いてきたアリスをそっと抱き上げる。それでも、まだ不安げなアリスに、アーサーは続ける。


「アリス、血のつながりとか身体的な特徴等にはこだわらなくていい。大事なのは、お互いが『家族』として大切にするのならそれはもう家族なんだ」


 ぎゅうとしがみついてくるアリスの背中をポンポンと撫でる。


「俺も母さんもシェリーにとって、アリスが妹で娘で家族であることに変わらない。誰がなんと言ってもこれは変わらないことだよ」


 無論、アーサーたちに対してそんなこと言う存在はアーサーが許すわけないのだが。


「……にいさま、わたしも、かあさまにあいさつしたいで、す」

「あぁ、いっておいで」


 アリスを下ろすと、シェリーとルーシーの元へ向かう。非常に不安そうな顔をしたアリスであったが、2人の元についたときに、満面の笑みで迎えられたことにより、アリスも一緒に抱きしめられている。


 ーーこの素晴らしすぎる光景は、本当に奇跡としかいえない。


 絶対に見ることはできないと思っていた光景だけに、アーサーもちょっとだけ涙腺が緩む。


ーーーこれは、あのお店の人にまたお礼をしなければ。


 今度はメッセージカードと共に、その瑠璃色のうさぎを供える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ