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食い逃げ妖精、指名手配中

食い逃げ妖精、七人の小人のおやつを八等分する。

作者: 堀吉 蔵人
掲載日:2026/07/22

 森の奥に、七つの煙突が並んだ家があった。


 赤い煙突。


 青い煙突。


 黄色い煙突。


 緑の煙突。


 紫の煙突。


 白い煙突。


 一番端には、煤で黒くなった煙突。


 煙は七本とも、同じ屋根から立ち上っている。


 家の中には、七つの椅子があった。


 七つの木の皿。


 七つの小さな匙。


 壁には七つの帽子掛けが並び、暖炉の前には七足の靴が置かれている。


 その家には、七人の小人が暮らしていた。


 小人たちは朝早くから森の下にある鉱山へ入り、夕方まで光る石を掘っている。


 仕事から戻ると、必ずお茶を飲む。


 その日のおやつは、七つ実のタルトだった。


 丸い焼き型いっぱいに、薄い生地が敷かれている。


 赤苺。


 青葡萄。


 黄色い蜜杏。


 緑の森林檎。


 紫の木苺。


 白い雪梨。


 黒い夜桑。


 七種類の実が、渦を巻くように並んでいた。


 朝、七人の小人たちはタルトを焼き上げると、食卓の真ん中へ置いた。


「帰ったら七等分だ」


 赤い帽子の小人が言った。


「今度こそ、同じ大きさに切れよ」


 青い帽子の小人が言った。


「前は赤苺のところが大きかった」


 黄色い帽子の小人が言った。


「その前は夜桑が少なかった」


 緑の帽子の小人が言った。


「丸いものを七つに切るのが悪い」


 紫の帽子の小人が言った。


「六つか八つなら簡単なのに」


 白い帽子の小人が言った。


 黒い帽子の小人は、何も言わなかった。


 一番小さいので、いつも最後に残った切れ端を渡されるからである。


 七人は扉へ鍵をかけ、鉱山へ向かった。


 けれど、台所の窓を閉め忘れていた。


 昼過ぎ。


 リリィが窓から入ってきた。


 甘い匂いがしたからである。


 タルムは森の入口にいた。


 七つの煙突を一本ずつ数えているうちに、リリィを見失っていた。


 リリィは食卓へ降りた。


 目の前に、七つ実のタルトがある。


 焼けた生地の縁は狐色。


 果実の蜜がつやつや光り、真ん中には砂糖で作られた小さな花が載っている。


 リリィは椅子を見た。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 四つ。


 五つ。


 六つ。


 七つ。


 それから、自分を指差した。


「八人だ」


 食卓には、細長いケーキナイフが置いてあった。


 リリィには大きすぎる。


 両手で柄を持っても、刃の先は持ち上がらない。


 リリィは羽を動かし、空中から柄へ飛び乗った。


 体重をかける。


 刃が、タルトへ沈んだ。


 さくり。


 一つ目の切れ目。


 リリィはケーキナイフを引きずって回った。


 さくり。


 二つ目。


 さくり。


 三つ目。


 タルトの上を何度も飛び越え、向きを変える。


 砂糖の花を倒しそうになり、慌てて抱える。


 蜜杏の上で足を滑らせる。


 木苺を一粒つまみ食いする。


 しばらくして、タルトには八本の切れ目が入った。


 大きさは、だいたい同じだった。


 一つだけ少し細い。


 リリィは少し考えた。


 細い一切れを持ち上げる。


「これはリリィの」


 皿へ載せる前に、先端をかじった。


 さくっ。


 薄い生地が崩れる。


 赤苺の甘酸っぱさ。


 青葡萄の香り。


 蜜杏の濃い甘さ。


 森林檎の歯ごたえ。


 木苺の酸味。


 雪梨のみずみずしさ。


 最後に夜桑の深い甘さが残った。


「おいしー!」


 金色の粉が、タルトの上へぱらぱら落ちた。


 七色の果実が、かすかに光った。


 リリィは一口ずつ食べ進めた。


 赤苺のところ。


 青葡萄のところ。


 黄色い蜜杏のところ。


 食べるたびに味が変わる。


「忙しいお菓子だ」


 けれど、おいしい。


 リリィは一切れを食べ終えた。


 皿には、七切れ残っていた。


 リリィは満足して、砂糖の花を抱えた。


 そのとき。


 家の外から、足音が聞こえた。


 ざっ。


 ざっ。


 ざっ。


 七人分の足音だった。


「今日はたくさん掘れた」


「腹が減った」


「お茶を沸かせ」


 扉の鍵が回る。


 リリィは砂糖の花を抱えたまま、天井へ飛んだ。


 梁の上へ隠れる。


 扉が開いた。


 七人の小人が帰ってきた。


 赤い帽子。


 青い帽子。


 黄色い帽子。


 緑の帽子。


 紫の帽子。


 白い帽子。


 黒い帽子。


 七人は靴を脱ぎ、手を洗い、食卓を囲んだ。


 赤い帽子の小人が、タルトを見た。


 動きが止まる。


 青い帽子の小人も見た。


 黄色い帽子の小人も見た。


 七人全員が、八本の切れ目を見つめた。


「八等分されている」


 赤い帽子の小人が言った。


「一切れない」


 青い帽子の小人が言った。


「七切れ残っている」


 黄色い帽子の小人が数えた。


「なら、一人一切れだ」


 緑の帽子の小人が言った。


「だが、一切れ食べられている」


 紫の帽子の小人が言った。


「誰かが先に帰ったのか」


 白い帽子の小人が言った。


 七人は互いの顔を見た。


 全員、揃っている。


 黒い帽子の小人が、食卓の上を指差した。


 金色の粉が残っている。


 小さな足跡もついている。


 七人は揃って天井を見上げた。


 梁の上で、リリィが砂糖の花をかじっていた。


「おいしー!」


 金色の粉が落ちた。


 七人の帽子が、きらきら光った。


「妖精だ!」


「リリィだよ!」


「なぜ、われわれのタルトを八等分した!」


 リリィは七人を見下ろした。


「八人いたから」


「七人だ!」


「リリィもいるよ」


「勝手に人数へ入るな!」


「もう食べたよ」


 赤い帽子の小人が、椅子の上へ立った。


 青い帽子の小人が、その肩へ乗った。


 黄色い帽子の小人が、さらに上へ登る。


 七人は順番に肩車をした。


 一番上の黒い帽子の小人が、リリィへ手を伸ばす。


「代金を払いなさい!」


「ないよ!」


 リリィは梁の上を走った。


 黒い帽子の小人の指が、羽の先へ触れる。


 リリィは砂糖の花を放り投げた。


 黒い帽子の小人が受け取る。


 その拍子に、七人の肩車が揺れた。


 右へ傾く。


 左へ傾く。


 最後には、七人まとめて絨毯の上へ倒れた。


 リリィは窓へ向かって飛んだ。


「ごちそうさま!」


「待て!」


「一切れ分、働いていけ!」


 リリィは窓から外へ飛び出した。


 七人の小人は追いかけようとした。


 けれど、食卓に残ったタルトから、甘い香りが立ち上った。


 七人は足を止めた。


「冷める」


 赤い帽子の小人が言った。


「追いかけるのは食べてからだ」


 青い帽子の小人が言った。


 七人は席へ戻った。


 一人一切れずつ、皿へ取る。


 今度は余りも切れ端もない。


 黒い帽子の小人にも、他の六人と同じ大きさの一切れが渡された。


 七人は一緒にフォークを入れた。


 赤い帽子の小人の一切れには、赤苺だけが多く入っていた。


 青い帽子の小人には、青葡萄。


 黄色い帽子の小人には、蜜杏。


 緑の帽子の小人には、森林檎。


 紫の帽子の小人には、木苺。


 白い帽子の小人には、雪梨。


 黒い帽子の小人の一切れには、夜桑がたっぷり入っている。


 けれど、それ以外の六つの実も、一つずつ入っていた。


 どの一切れにも、七種類すべての味がある。


 七人は黙って食べた。


 さくり。


 甘い。


 酸っぱい。


 香ばしい。


 最後に、七人そろって言った。


「おいしい」


 窓の外で、金色の粉が少しだけ光った。


 それから毎日、七人の小人はおやつを八等分するようになった。


 八切れ目は、窓辺の小さな皿へ置かれる。


 翌朝には、いつもなくなっていた。


 代金が置かれていたことは、一度もなかった。


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