6 「流出」
「血の通った人間かどうかも疑わしい」
戦場の最前線にて、手傷を負わずに帰還する者は、単に臆病者か、強運の持ち主か、はたまた・・・人ならざる怪物かーーー。
並び立つならば、これほど心強い存在もないだろう。しかし相対しようものなら・・・その存在に対して自分にはーーー何ができるというのだろうか。
「優美であれば、夫妻の儀へとお誘いしますね」
○・・「スモー王国”城内訓練場”」・・○
「・・・・騎士長への恋心は、お捨てになられて・・はっ!!」
ガガッ カカッ ガッ ガガガッ・・・バチィン!
「恋などと・・・これは純粋なる”愛”そのものですよ」
木剣による立ち合い。軽口を叩きあっているが、その撃ち合いには研ぎ澄まされた攻防の色が見て取れる。
カラァン
ーーー1秒前に放り投げた木の板が、地面を鳴らした。
「恋するも、愛するも同じ・・・では?」
鍔迫り合いの最中ーーー
鍋を甲冑に見立てて被っている短髪の青年は、理解の及ばないその心身についての説明を求める。
彼は、女性との関係性を築けたことがーー一1度もなかった。
「恋の本質は愛です。ーーーしかし、恋している者たちはそのことに自覚的ではありません」
「意味がわかんねっす」
「愛に気づいてはいても、信じきれていない。軽んじていると言ってもいい」
長髪の女性は語り続ける。その妄信は、止まるところを知らず。
「ここが好き、あれが好き、ーーー果てには、”ここは好きじゃない”とまで言い出す始末・・・。なんと嘆かわしいことでしょう・・・。部分的にしか愛さないその行為を人はーーー”恋”と呼ぶのです。全てを愛する・・・それこそ、愛の真実」
・・・・さっぱらん。
女性経験に乏しい青年には、まるで理解できない話であった・・・が。
「はっはっはっ!。愛の形は人それぞれさ!。副騎士長の愛のエネルギーは他とは比較にならんからな!」
「そーするっす。・・・じゃないと頭が破裂しそうだ」
出入り口の奥から現れた大男の言葉に、青年は頭の置き所を諭された。そーだ、そーさ、人それぞれサー。
「ボルドフ、経過は?」
大男”ボルドフ”に副騎士長は、見上げ尋ねる。
側から見ずとも、かなりの身長差があることは一目瞭然なのだが、副騎士長の覇気が、大小を感じなくさせるほどの凄みを放っていた。
その気の上振れには、いつも決まって理由があるのだが・・・・
「騎士長の帰還は・・・いまだ確認されず。」
最強騎士”ミディ”
”最強”の名を冠する騎士長の存在である。
語る必要は全くないのだが・・・・。そこには副騎士長曰くーーー”愛”があるのだった。
「眠り姫・・・公害め」
紅白入り混じるその瞳に、敵への憎心を灯らせる。”眠り姫”は、副騎士長の”愛敵”・・・などではなく、スモー王国の脅威であり、危険な存在には違いない。それを制するために我らが騎士長は、単身で討伐に向かったのだ。そしてーーーー
「こんなに任務が長引くとは・・・前代未聞っすね」
そう言わせるほどの圧倒的な力。その他諸々・・・規格外であり、未知数でもある騎士長ミディの実態は、味方の自分達でさえその異例さに震え上がるほどである。・・・おそらく一人を除いて。
「やはり、私も出動をーーー
「それには及ばない」
その声は空から聞こえてきた
ドォゴォォン!!!!
「遅くなってすまない。急ぎ、王へ面会の取り次ぎを」
最強は青空より出た。しかし・・・一同は動かない。落下の衝撃が凄まじかったから・・・ではない。
一同の視線が重なった箇所は・・・・頬。
ーーー赤い液が、伝い落ちていたのだ。
「見ての通りだ。・・・血が戻らない」
それは、自身に対する不可解。
頬の擦り傷が証明する、常人たる証であった。




