12 「天女天生寵愛乱下」
ラー王国にて催された祭りから、一夜明けた。
城下町は日常に静寂し、溢れ出ていた熱狂はいつも通りの原動力として機能している。
明ヶ鳥の鳴き声と共に朝は訪れた。
「・・・・頭いってぇ・・・」
しかし、昨日の衝撃を消化しきれないものもいる。
のぼせに飲まれ、打ち負かされてしまったものたちが。
「うぅぅ・・・今なん時だぁ・・?」
「朝だぜ騎士様方。仕込みがあんだから、とっとと退店してくれや」
このオヤジは・・・店主だ、覚えてる。
自分のお気に入りの酒を、次々と俺たちに飲ませてきてた。それで自分も一緒に飲んで、若い従業員の女の子に怒られてたな。仕事しろよ、おやっさん。
「仕事しろよ、おやっさん」
「飲み潰れた客を追い出すのも、仕事の内だバカヤロー」
はぁ と店主は呆れ気味に,水の注がれたコップを机に置いた。
4杯分
「・・・んぁ?・・・あぁ・・・」
そうだ、4人で来たんだった。
副騎士長・・・は誘っても来なかったから、むさ苦しい男3人+タダ酒が飲めるからとついてきた一輪の後輩花。
「んぎゃっ・・・ぎゃぁぁ・・・ふへっ、ふへへ・・・」
覚醒してるのかと思ったが、まだ夢の中にいた。
「ミスターク、副騎士長様がお尻を叩きに来たぞー」
「ぶはっ!?はいっ、よろこんで!」
変態の目覚めを促すのに、効果的な方法を選んだつもりだったのだが・・・想像以上の効果を発揮したらしい。
鼻息を淫らに吹き鳴らして、変態騎士”ミスターク”はおはようござった。
「・・・・・・・レウ、おはようございます。副騎士長”グレイス”の姿が見えないのですが」
「夢から覚める時だよ。ミスターク」
脛を蹴られた。痛い。心が。
「午後の護衛任務までに、肩慣らししておくよーに」
「チッ。了解しました」
毒をまぶして退店していった。仕事には忠実だが、趣味の領域については扱いに困ってしまう。
「さて・・・起きろおっさんども!!」
後のおっさん二人を雑に蹴り起こした。
それなりに力を入れないと微動だにしないほどの大体躯なのだ。
「うぃ〜っ。酒の泉から酒豪の精が・・・・ぬあっ!?目の前に存在しているぞぉい!?」
店主を見て驚愕しているおっさん。騎士務め15年の大ベテラン”ドボッタ”さんだ
「朝だよ、ドボッタさん。後、あれは店主の酒好きおやっさんだよ」
「・・・おおぉ・・・ああぁ。いい夢を見とったようだの」
老白の長髭を撫でながら、ドボッタは良い酔いに区切りをつける。
「ぶわっはっはっ!昨晩は愉快な酒盛りだったなぁドボッタ!」
「うむ。浴びるほどの酒は体には良いが・・・懐が切なくなるのが難点よな」
「へいへい毎度。がっぽり稼がせてもらったぜ」
「すすめてきた酒は、おやっさんの奢りだったけどね」
起きざまでも騒がしいもう一人のおじさん”ボルドフ”は、コップ2杯を片手に持ち、喉の奥へと水を流し込んだ。
「さぁ、いったいった。勘定はすんでんだ。仕事してこい、騎士様方」
爽やかとはいかないが、上気分で3人は退店した。
任務は午後から。
事と次第によっては、否が応でも酒は引く。
血の気もまたーーーー。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
凍てついた空気間は、その皇光にて晴解する。
「城下の新作、”ルクティゼイレのレッドフルミルク”を所望します」
ラー王国女王”ライトニング”は目の前の騎士に命を授けた。
○ーーー「ラー王国 巫女の謁見室」ーーー○
「え やなんすけど」
3秒にも満たない間で、スモー王国の女騎士は返命した。左の小指で、黒穴1つをほじほじ探索しながら。極めて不服そうに。
「お使いは御免っす。部屋の前の護衛に任せるか、女王ご自身で買いに行かれればどーっすかね?警護なら引き受けるっすよ」
「 ”城上より化身が出づる事能わず” ・・・などという慣習が根付いていなければ、とうの昔に裸足で駆けておりますよ」
「裸足の女王様は見てみたいっすけどね」
僅かな興味よりも気だるさが勝り気味に、女騎士”ナレータ”は女王との会話を続ける
「存分に振いたいのは、足じゃなくて腕なんすよねぇ〜」
「ふふっ。スモーの騎士は豪胆でいらっしゃる」
「あっしを舐めてかかってきた輩は、王様だろうと転ばせてきた人生っすよ」
「まぁ。そちらの王も例外ではないのですか?」
「・・・シャドウ王には転ばされったっす。あれは敵に回すとやべー王っす」
あの時の身震いは、今でも鮮明に思い出せる。いや・・・やっぱ思い起こしたくねーっすね・・・。
「ってか、あっしの舌には合わなかったっす。ミルクはどうしようがミルクっす」
城下で流行りの新作ミルク”ルクティゼイレのレッドフルミルク”。
見た目をそのまま説明すると、ただの赤いミルクだ。
大牙獣ルクティゼイレの新鮮な血に、一般的な甘味料のパクティラ (パクティラ花の蜜)。
それと多分・・・隠し味に剣蛇の炙り汁を数滴たらし、それらをミルクにぶち込んでいる。
あの蛇は炙ると甘い液を垂らし、それが肉に滴って”甘肉”なんて呼ばれている。その液で甘味を増幅させているんだろう。再度言うっすけど、あっしの舌には合わねーっす。
「生き血とは・・・なんと斬新な事でしょう。昔代と今代における、価値観の移ろいを感じます」
「昔の蛮族さんは、生き血もがぶ飲みしてそーっすけどね」
「返り血を浴びることはあっても、喉に通せるものではありませんでしたよ。・・・だからこそ・・・私は嬉しいのです」
女王ライトニングは巫座を立ち、透き通る壁の外を見やった。
「このひと時が。過去の私では成すことのできなかった・・・平和が」
平和を一望し、ひたすらに安堵するように。
「平和を感じたくて、庶民の味わいに触れたいってことっすか?」
「ふふっ。そうとも言えますね」
「・・・・・・・仕方ねぇっすね〜っ。お使いを頼まれてやるっすよぉ」
「命じた立場ですが・・・よろしいのですか?」
「ここにいっぱなしじゃ、腕どころか足まで鈍っちまいますからね。足慣らし・・・っす」
「それは頼もしい。・・・では、お願いいたします」
「へ〜い・・っす」
気乗りはしていないが、ナレータは女王の命を受けて謁見室を後にした。
本当に気分は乗らないのだが、それ以上に・・・お願いを断ることへの罪悪感が彼女の心に重くのしかかっていた。
真面目が故にーーー。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
「あなたの騎士様はとても優秀ですね」
一人になった謁見室にて、女はぽつりと呟いた。
外を見やり、その先にいる”あなた”を想いながら
「早く・・・あなたに会いたい」
400前ーーー味わったことのない胸の高鳴りを
「あなたに、触れたい」
味わいつくしたい
「もう少しで・・・叶いますね」
障害を取り除き
「平和なこの世界で・・・」
あなたと生ていくためにーーーー
「・・・・シャドウ」
ーーーーー世界の悪を、取り除きましょう。




