静かな違和感
今回から、舞台はアルトリア王国へ。
表向きは平和に見える王国ですが、
その裏では確実に“何か”が動き始めています。
そして登場するのは、例の二人——
どうぞ、お楽しみください。
――アルトリア王国。
東では、軍の訓練が行われていた。
掛け声が響き、兵たちが規律正しく動く。
西では、商人たちの活気が満ちている。
人の声、笑い声、交渉の音。
平和だった。
何事もなかったかのように、この国は日常を取り戻している。
その中心。
公爵家の庭園で、二人の令嬢が向かい合っていた。
「カグラ」
穏やかな声で、エレノアが口を開く。
「しかし、あの王子……島流しに遭って、生きていけるのでしょうか」
カグラは肩をすくめる。
「考えすぎやろ」
あっけらかんとした声。
「もうなんの力もないで。あいつは終わりや」
一拍。
「どうしようもないやろ?」
だが――
エレノアは、静かに首を振る。
「……いいえ」
その瞳は、どこか遠くを見ていた。
「気になるのです」
あの時。
謁見の間を去る直前。
レオナルドが見せた、あの目。
「まだ終わっていない、と……そう言っているようでした」
空気が、わずかに変わる。
カグラは眉をひそめる。
「……ただの負け惜しみやろ」
「そうであれば、よいのですが」
エレノアは静かに微笑む。
だがその奥には、計算があった。
「彼は、プライドの高い方でした」
「それゆえに――諦めが悪い」
風が、庭を抜ける。
花弁が一枚、舞い落ちた。
「……対策しておいて、損はありませんね」
その一言。
それだけで、空気が一段沈む。
カグラは肩をすくめた。
「ほんま、考えすぎやて」
軽く笑う。
だが――その笑いは、完全には届いていなかった。
エレノアは、既に次の一手を見据えている。
まだ起きていない“何か”に対して。
――静かに、備えていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回から本格的に「二人の悪役令嬢」が動き出しました。
とはいえ、まだ“日常”の中の違和感レベルです。
ただし——
彼女たちは、“何も起きていない状態”ですら先を見ています。
次回から、状況は一気に動き始めます。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
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