番外編6 サイラスとナサニエルのお忍び珍道中
ナサニエル待望のナギ村です
「王様、身代わりの件なんですけどね」
魔導士派遣の順番を考えていたウルスラは思い出したように言った。
「まだ、決まっていないのです」
なかなか引き受けてくれる人もなく、影武者選びは難航していた。
「とはいえ、代理を立てないでナギ村に行くわけには行きませんし」
サイラスは困ったように言った。
「それならちょっと提案なんですがね」
ウルスラはほっとしたように続けた。
「あの筆頭文官のバルタザールにしましょう」
「しましょうって、彼には一度断られましたよ」
「王様が出掛ける5日間、幻惑魔法の出力を一定にして王様の影武者を務めあげたら、図書室を整備すると約束してください。そうすればきっとやります」
「なんと......図書室は遅かれ早かれ整備しないといけないと思っていましたから」
ウルスラと、すっかり彼女になついたサイラスは二人で目を見合わせて笑った。
*
「ナギ村の大規模宿泊施設の建設の下見の一行に、王族とばれないように紛れ込んでレイのところに行きますよ」
サイラスは、すっかり元気になったナサニエルにこっそり耳打ちした。
聞いたナサニエルの目が見開かれ、期待に満ちた様子でサイラスを見た。
「護衛の人達にも変装してもらいますよ」
一見、ただの旅人のように、と護衛騎士には伝えた。
サイラスとナサニエルも一見ただの旅人に見えるような服を用意してもらう。
「なんで、お忍び? なんかワクワクするからいいですけど」
「楽しそうだからです。村人も大騒ぎしてしまうといけませんし」
「でもよく、影武者が決まりましたね」
「バルタザールが幻惑魔法で、影武者をしてくれることになりました」
実際には半分有無を言わせない感じで押し付けたのだが、それは伏せておく。
で、そのすきにナギ村に行くという。
「楽しみですね、兄上」
当日の朝、サイラスの元に緊張した面持ちのバルタザールがやってくる。
「へ、陛下、お気をつけて。図書室の改修のために、頑張ります」
ただの旅人に見えるような服を着たサイラスが
「じゃ、行ってくるよ。頑張って」
と言いながら出ていく。
「王様、デザインはただの旅人風だけど、仕立ても素材も最高級なのバレバレですよ......」
バルタザールが独り言を言ったが、サイラスには聞こえていなかった。
ナギ村に向かう馬車の中で、サイラスはナサニエルにいった。
「身分を隠して旅行するなんて、なんて贅沢なんだ」
その馬車には王家の紋章も何もない。確かに何もないのだが、宿泊施設の建設に関わる技師の一行に紛れるにしては、その馬車は少々立派すぎたし、普通の旅人のような恰好をした護衛の乗る馬に囲まれているのは変だった。
馬車に揺られること二日間。急いだせいもあってナギ村に到着する。
「いらっしゃい」
レイたちにはお忍びなので、くれぐれも陛下と呼ばないように言ってある。
「狭い所ですがこちらへ」
レイに、家の中へ案内される。
サイラスとナサニエルは、期待の籠った目でレイを見詰める。
家の中に入ったサイラスとナサニエルは食卓の上にある火魔法のコンロを見て、驚きを隠せない。
「これ、王城の料理人にも教えたいな」
「お疲れになったでしょう。王城のようなわけには行きませんが、この村で採れた新鮮な野菜を蒸してあります。私が毒見をしますね」
サイラスとナサニエルはレイに毒見をしてもらい普段王城にいては味わえない素朴な料理に舌鼓を打った。
「採れたての野菜というのは美味しいものだな」
「ここでは、毒見など必要ないのではないか?」
「毒見をしてもらうせいでいつも冷めた料理しか口に入れられないからな」
サイラスとナサニエルは普段とのあまりの違いに興奮している。
暫くすると外の方から何やら音が聞こえる。
「ちょっと見てきますね」
レイが不思議そうに外へ出て行った。
「なにやってるんですか!」
レイの家の周りにはぐるっと野営のテントが張り巡らされていた。
「護衛達のテントですよ」
「こんな狭いところにぐるっとテントなんか立てられたら畑にも行けないじゃないですか」
「ここしか隙間がないので、お許しください」
「お許しできるわけないですよ、全く」
レイは呆れかえって言う。
「護衛も毒見も私がしますから、外の護衛だけ数名残して皆さんは村の集会所の方にお引きとりくださいっ!」
「は、はい」
「全くこれじゃ全然お忍びになってませんよ。バレバレですっ!」
部屋に戻ってくるとレイはクリスティーヌに目配せをして話し出した。
「サイラス陛下、実はこの間家に風呂を作りまして。火魔法と水魔法の訓練のために作ったのですが、王城のように世話をしてくれるものもおりませんが、入ってみますか? 馬車でお疲れでしょう」
「おお。是非!」
それから、クリスティーヌがお風呂を沸かし、サイラスとナサニエルは子供に返ったように二人きりのお風呂を楽しんだ。
「レイ、明日は宿泊施設の現地調査をしてもう一泊頼むな」
「わかりました。おやすみなさいませ」
サイラスとナサニエルが寝てしまうとレイはクリスティーヌに言った。
「あの二人はお忍びのつもりなんだろうけど全然忍んでないな」
「まぁまぁ。確かにバレバレだけど、騙されてあげるのも臣下の務めよね」
翌日は大規模宿泊施設の建設予定地に行き、必要な打ち合わせ等をした後、ナギ村を見て回ることになった。
途中で、ぬかるみにはまった重機を騎士たちが救い上げたり、この間の雨で壊れかけていた橋を直すのに、建設技師たちの意見をもらったり、一行と村人の交流もあり、この下見は中々の成果を上げていた。
帰る日、サイラスはレイに言った。
「大変充実した時間でした。今度は宿泊施設ができたらまた来ます」
サイラスとナサニエルはとても満足して馬車に乗って帰っていった。
「今度はお忍びじゃなくて、堂々と来てほしいわね」
「そうだな、周りが気が付いてない振りをするのも大変だ」
そしてナギ村の人達にもこう言った。
「皆さん、お疲れさまでした。大変満足して帰られました」
その後程なくして図書室の改修が始まった。バルタザールは頑張ったらしい。
サイラスとナサニエルはお忍びのつもりでしたが、周りは全員気がついていました。二人にとっては一生の思い出になったことでしょう。
バルタザールも図書室のために頑張りました。




