番外編4 クリスティーヌと王家のお風呂
本編での約束が果たされました。
クリスティーヌは、レイが「収穫祭に着よう」と思っていた王都で買った服に着替えていた。
「あんまりお洒落したことないからなんだか落ち着かないわ」
「そうか? 似合ってると思うぞ」
「どう似合ってるのよ」
「......どうっていわれても」
煮え切らないレイの態度に痺れをきらしたクリスティーヌは、壁に触れて何やら呪文を唱えた。
すると壁が鏡に変化してクリスティーヌの姿を映し出す。
「あら。まあ。こんなにお洒落してるところ見慣れてないからちょっと恥ずかしいけど、たまにはいいものね、レイ?」
「......俺が選んだんだ」
そっぽを向いたレイの頬がほんのりと赤い。
クリスティーヌは満足してそれ以上追及するのをやめた。
「じゃあ、王城のお風呂に入れてもらいにいってくるわね」
「ごゆっくり。気をつけてな。マーガレットにもよろしく」
王城の修復も終わり、約束通りサイラス王から招待されたものの、一人で入るのはつまらなかったので、マーガレットと王都で合流することにしたのだった。
王城の入り口でマーガレットと無事に合流できたクリスティーヌは、王城に行って取り次いでもらえるよう頼んでみた。
「サイラス国王は今席を外せませんが、クリスティーヌ様とマーガレット様がいらしたら湯殿に案内するように言われております」
湯殿に着くと二人はそれぞれ複数の女官に囲まれた。
「お待ちしておりました。お二人の体調に合わせての薬湯にしますね」
「え?」
「体に塗る香油の割合も体調に合わせて決めさせていただきますから」
「全身洗わせていただきますね。どの香りがお好みですか」
「は?」
「......あの。自分でやりますけど?」
「私共の仕事ですので、どうぞお気遣いなく」
矢継ぎ早に質問されて頭が真っ白になりながら、何とか薬湯と香油の配合を決めた。
王家の湯殿は思ってたよりずっと豪華で広かった。
「マーガレット様、二人で入るには広すぎて心細いですね」
マーガレットもクリスティーヌもかつては王宮に努めており、大浴場の方には入ったことがあったが、こちらの方は比べ物にならなかった。
しかも、お風呂のお手伝をしてくれるという女官が何人もいて落ち着かないことこの上ない。
「......香油の香りよりもイチゴ畑の方がいい香りかも。思いっきり呼吸できる気がしないわ」
とりあえず温まる間だけでも、二人にしてもらえるように何とか頼んで、やっと一息つくことができた。
「マーガレット様、皆さんお元気ですか?」
「元気ですよ。今は数人づつ黒い根の伐採に連れ出しつつ行儀作法の練習もさせてますわ」
「......お風呂の作法も必要かしら」
「それにしても。薬草のせいかお風呂がなんかいい香りですね」
「いい香りっていえばね。昔、香油をたっぷり塗り込んできたお嬢さんがいる前で、レイが『なんか、変な匂いがしますよ。体調の悪い人がいるんじゃないでしょうか』って言い出して、周りの人が、慌てて黙らせたことがあるわ」
「変って......」
「目立とうと思ったのかちょっと個性的な匂いだったのよね。確かに」
二人は、慣れないながら女官たちに香油を塗り込んでもらい、王城の湯殿を後にした。
「気持ちよかったけど、正直に言ってあんなに大勢に囲まれていたら、落ち着いて入ってられないわね」
クリスティーヌとマーガレットは顔を見合わせて苦笑した。
「王族や上級の貴族たちも本当に大変ね」
それから二人は、買い物をしたり甘いものを楽しんだり、普段村ではなかなかできないことを楽しんだ。
「レイは今でも一日の、何時にこれやる、みたいな自分の決まりがあるの?」
「割とあるほうかもしれませんね」
「昔はね。夜の舞踏会に招待されて、そこのお嬢さんが『ちょっとお散歩に出ませんか』って誘ってきても『門限がありますから、明日に響きます』なんて無神経に断ってたのをよく見たわ」
あまりにもその場面が想像でき過ぎて、マーガレットとクリスティーヌは大笑いした。
「あんまり変わってないわね」
*
その頃、レイはナギ村に残って、大急ぎで家の庭になにやらつくっていた。
(そんなに楽しみにしてるんだもんな)
レイの作業は速かった。普通の人の何倍もの速さで木を切り出していく。材料の木材は本来なら一年ほど自然乾燥させる必要があるが、クリスティーヌが王都に行っている間に建物を完成させたいのでレイは魔力を使って乾燥させることにした。
切り出したばかりの材木を並べ、けして焦がさないように、火魔法を制御して材木を徐々に乾かしていく。初日のうちに材木の乾燥は終わってしまった。
それからは「午前中に畑に出たかと思うと午後は何やら作っている」を繰り返し、明日クリスティーヌが帰ってくるという日に建物を完成させた。
建物中にヒノキの香りが満ちていた。
「ただいまぁ」
「お帰り。久しぶりの王都はどうだった?」
「とっても豪華なお風呂だったわ。何人もの女官がついて、何から何までやってくれるのよ。素敵だったけど、あれは中々慣れないわね」
「そうか」
「でも、何事も経験よ」
そして王都で買って来たお土産を机に並べる。
「マーガレット様とのお買い物も楽しかったわ」
「マーガレットは元気にしてたか?」
「ええとても。ところで、裏に何か作ったの?」
「一休みしたら見に行ってみよう」
レイは何を作ったのか言わなかった。
「一休みなんて言ってないで見せてよ」
「こちらでございます、奥様」
家の裏側にレイが新しく作った建物を見に行った。
大きさから言って納屋か何かかと思っていたクリスティーヌだったが、その内部を見て絶句する。
「......これ、お風呂?」
「その通り。クリスティーヌはお風呂をとても楽しみにしていたじゃないか」
「もったいないわ」
「王城のように豪華なというわけには行かないけれど、いつも助けてくれるクリスティーヌにお礼の意味を込めて」
「レイ......ありがとう。泣いちゃいそうよ」
「お湯は、教えてもらった火魔法と水魔法を駆使してためているよ」
「それに、火魔法と水魔法を『よい加減』で、制御し続けるっていう修業も兼ねてるんだよ」
「ねえ、入りたい入りたい!」
「どうぞ」
暫くしてクリスティーヌが出てきて言う。
「ヒノキのいい香りだったー。香油よりいい香りね。それに、誰のお世話にもならずに入る家のお風呂に勝るものはないわ」
「嬉しそうだな」
「そりゃあね。ね、レイ。このお風呂。週一くらいで、順番に村の人に開放したらどうかしら?みんな喜ぶんじゃないかしら?」
「妙案だな。たくさん世話になってるしな。この村にはお風呂は一つもないしな」
「じゃ、決まりね。この幸せをおすそ分けしましょ。火魔法と水魔法は私も協力するわ。最初はやっぱり村長さん一家かしら」
「すっかりもう村の人間だな」
「そうよ、村の暮らしをどんどん良くしましょう」
お風呂の後には温かい蒸し野菜が待っていた。
村人たちも、大喜びでお風呂に魅了されてしまい、結局週1回では足りなくなり、週2回ほど解放することになりました。




