10.猫はなんちゃらで丸くなる
少年がケモノ系のグループに加わると、それに気づいた英也が少年に声をかける。
「あれ、君も今日はこっちに参加かい?」
「あぁ、佳奈の練習の付き合いでな」
「ふーん、そうかい、まぁ、別に構わないけれど、くれぐれも佳奈様の邪魔だけはするなよ?」
「はいはい、肝にめーじときますよ」
少年は以前から、定期的に佳奈の練習の手伝いとして、ケモノ系のグループに参加することがあり、そのため、少年自身はケモノ耳、尻尾がないものの、誰も少年の参加に異を唱える者はいなかった。
それどころか、少年の他にも何名かケモノ耳、尻尾なしの生徒も混ざっており、彼らも少年と同じく、ケモノ系能力者の手伝いという理由で参加していた。だからこそ、英也も少年をそこまで敵視することなく、小言だけで済ませていた。
やがて、担当講師がやってきて、本日の練習メニューを伝達した。
といっても、ケモノ系のメニューは大体決まっており、本日講師が指示した内容も。例に漏れず、最初、全体で準備運動や制御の基礎練習を行い、その後、各自の課題に取り組むという流れだった。
前半部分は一人でできる内容の為、少年たちの手伝いは不要。その間、手伝いの生徒たちは、後半部分の各自課題に向けて、準備をする。
少年も佳奈に課題に向けて、必要なものを伺い、準備しなければならないのだが、
「しかしですね、佳奈さん」
「……なぁーに、ゆーくん」
「これは一体どういう訓練なんだ、」
「……さっきも説明したよぉー、猫の性質を抑えるための訓練だよー」
「いや、だからって、何で、、、何で膝枕しながら頭を撫でなきゃいけないんだ!?」
なぜか佳奈が要望したのは少年の膝枕。
前半開始前に各自課題で必要なものを佳奈に聞いた少年だったが、準備せずにまっててー、と佳奈に言われ、後半の各自課題の時間が始まると、佳奈は人目を避けるように少年を校舎裏まで連れていき、膝枕を要求したのだった。
そんな訳で、校舎裏に置かれたベンチに少年が座り、その少年の膝を枕にして、佳奈はベンチに寝そべっていた。
少年の膝に、佳奈とフワフワとした髪や、ぷにぷにと柔らかい頬の感触が伝わってくる。更に、シャンプーの匂いなのか、はてまて佳奈自身の香りなのか、なぜかいい匂いが少年の鼻孔を刺激した。
それだけでも少年的には、かなり限界に近かったのに、あろうことか佳奈は頭も撫でるように追加で要求してきた。
膝枕の件と併せて何度も、少年が何故と尋ねるのだが、細かいことは気にしないでよー、と佳奈は、はぐらかしてしまう。そんな押し問答に近いやり取りが続き、最終的に少年が根負けした。
そのため、先ほどから定期的に、少年の右手が佳奈の頭と耳をゆっくりと撫でていた。
撫でられるのが気持ちいのか、佳奈は何度もくすぐったそうに体を揺らす。その猫っぽい仕草、動くたびに伝わる感触が、少年の理性を削り落としに来ていた。
なんか、もう、佳奈の制御の訓練ではなくて、自分の理性の制御がメインなのではないかとすら、少年は思った。
しかし、そんな少年の気持ちなど露知らず、佳奈はしばらく少年の膝の上でごろごろしていたが、先ほどの少年の疑問に対して、ピタッと動きを止め、不満そうに口をとがらせる。
「もー、ゆーくんは気にしすぎだよー」
「流石に気にするだろ、これは、、一応、これ訓練の名目はあるんだろうな?」
「も、もちろんあるよ?」
「何で疑問形なんだよ」
「そ、そんなことないよー?」
「その返しすら、じゃないか」
授業開始当初の立場とは打って変わって、今度は少年の方が佳奈を胡乱な目で見る。
動揺した佳奈は数秒視線が泳いだ後、思いついたように口を開いた。
「私が、猫だからかなー」
「というと?」
「ほら、猫って本来夜行性でしょ?だからお昼はどうしても眠くなっちゃうの」
「確かに聞いたことあるな、それで、それと今回のがどういう関係が?」
「ゆーくんに膝枕と頭なでなでしてもらうと、気持ちよくてどうしても眠くなってきちゃうから、、それを我慢することで、訓練、になる、みたいなー?」
「もう最後の方自分でも自信なくなっちゃってるじゃないか」
「あぅ、やっぱり厳しいかなー?」
上目使いで、ダメ?、言外に問いかけてくる佳奈に、ぐっ、っと少年は声が詰まる。
庇護欲と得体のしれない罪悪感が少年を襲い、やがてそれに屈するように大きなため息を吐いた。
「まぁ、確かに授業中とか寝るのはいけないからな、確かに、鍛えなきゃいけないことだな」
「じゃぁ」
「続けるか、訓練」
「うん!ありがとー、ゆーくん、、、えへへ」
ぱぁっと毎回の花が開いたような笑顔になった佳奈は、時おり頭の位置も変えながら、少年の膝の上を謳歌する。
少年はそんな佳奈の頭をしばらくの間、撫で続けた。




